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11話 過去の魔王討伐

 

「ところでウルフさん、レイニー王子ってどうして魔王討伐に参加しなくなったのですか?」


 ウルフさんがコーヒーを吹き出した。……コーヒー高級品なのに勿体無い。

 レイニーが現役を引退したからウルフさんが魔王討伐について代わりに話してくれているわけだから、引退理由を尋ねるのは自然な流れだろう。

 たとえば魔王に近づくと呪いが発動して戦えなくなってしまったとか。

 他にも相性の相性で【スキル:水】の使い手であるレイニーの攻撃がイマイチ効かないとか。

 魔王がスライムで水を吸収してしまうとかで、水属性スキルの転生者は全員引退せざるを得なかったのかもしれない。



「お、お前はどう思う?」

「え」

「異世界転生者がレイニーの魔王討伐に不参加な事実をどう考えているのかと気になって」

「フツーに怪我とかでは?」

「え?」

「実はスキルカードを暴発させた時にレイニーもずぶ濡れになって服を脱いでいたんですけど、背中に傷があったのを思い出しまして」


 背中に大きな傷があったので、激しい動きに身体が耐えられなくとも不思議じゃない。

 傷跡もかなり大きかったし、外でのランニングも参加していないから病気かも。

 苦しそうな様子こそ見せないがもう運動はできない身体なのではないかと無理に誘わなかった。


「ああ、確かに最後に魔王を討伐した時に串刺しになっていたな」

「グロい!!」

「怪我は回復したが奴は戦えなくなり王子として国を支えているんだ」


 思ってたよりも100倍立派。

 国民からの支持が厚いのもレイニーが魔王と戦ってきた功績なのかも。

 実は平気なフリしているだけで古傷が痛むならもうちょっと優しくしてやったほうがいいかもしれない。

 王子が実は病気なんて知れたら国民たちが不安になるので無理して元気そうにふるまうのはよく聞く話だ。


「何かあっても国民に心配かけないように皆には黙って医者呼びますから」

「……たしかに病気かもしれんが、心の病というやつだろうな」

「え?」

「生きていれば王妃になったはずの女性を、俺は見殺しにしてしまった」

「見殺し?」

「続きは城で話させてくれ、この飯屋じゃ筒抜けだ。国民に聞かせるような話じゃない。」


 城に移動して二人きりになれる部屋を用意してもらい、俺は改めてウルフさんの話を聞いた。

 昔、ノアという名の女性がいたのだそうだ。

 所持スキルは【スキル:服従】。レイニーの傍にいた彼女は魔物を従えるスキルの持ち主だった。

 魔王討伐に向かう転生者たちは複数の部隊に分かれ行動していた。ウルフの部隊に配属されていたノアは腹痛を訴えていたが、対魔王作戦の重要な戦力であった彼女をパーティーから外すことはなかった。

 ノアの腹に新しい命が宿っていることにも、誰も気づいていなかった。

 魔王には魔物を大量に召喚する力があった。だからこそノアは魔王討伐部隊に欠かせない存在だった。魔王に召喚され飛び出てきた魔物たちをノアはいつものようにスキルで従えた。

 本来は〈スキルカード〉を使い自力で戦いから脱出する筈だった。しかしノアの異常事態に気づいたのは俺ではなく別のやつでノアを助けようとしてくれたが間に合わず上半身が完全に踏みつぶされてしまった。

 ノアの胎内からは赤ん坊が飛び出していた。あまりにも小さくて生きているとは思わなかった。


「魔王は倒せたが、医療系の転生者から責められた。もし俺がノアの腹には子供がいると伝えていれば赤ん坊だけは助けられたらしい」

「まだ小さな赤ん坊をですか?」

「だからだ」

「え?」

「……ノアは死んでも小さかった腹の子は潰されるのを避け心臓は動き出していた。すぐに仲間が駆け付けて赤ん坊に……治療のスキルさえ使えれば死なさずに済んだ。つまり俺は赤ん坊を見殺しにしたんだ」


 俺がいた医療技術の進んだ日本ですら赤ん坊は流産することがある。

 昭和からやってきたウルフさんには赤ん坊に対する知識がなく出てきた瞬間に死んだと思ったのは無理もない。

 ウルフさんの後悔を知って、魔王との戦いがどういう意味を持つのか少しだけ分かったような気がした。


「俺ちょっとトイレ」


 入れ替わりで扉が開いた。


「ウルフさん」


 カドマツがトイレに行っている間にレイニーが個室へと入ってきた。

 ソファーに座っていたウルフは立ち上がって伸びをする。


「余計なことを話したって罰なら受ける」

「あなたが私を裏切らないと分かっているからこそ、理由をお聞きしたい」

「誰よりも人を信じやすくてチョロい、けど優しい匂いだった」

「匂いだけで?」

「あの男はどういうわけか――ノアの匂いがした」

「え?」

「カドマツが何者かは分からない。だがお前を救ってくれる気がするんだ」


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