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1話 最初に目にしたスキル

 

 幼い頃から頭が悪くて、高校も当然底辺。

 大学に不合格になったあとに親と喧嘩して家を出て、田舎でバイトを始めた。

 チェーン店でひたすら同じ作業を繰り返しながら細々と暮らす日々は俺には驚くほどに合っていた。

 というより家を出て初めて『親から受けていた虐待』に気付いたが正しいかもしれない。

 お前なんかが―――と投げつけられてきた言葉の数々。

 あんな親の言葉を鵜呑みにし続けてきた俺は本当に頭が悪かったのだろう。

 飲食店の厨房でバイトしている今は俺にとって幸せな日々だ。


「この日、シフト入ってくれる?」

「いいですよ」

「助かるわー」


 仕事は単調な作業だったので一度覚えれば簡単にこなせた。

 チェーン店を選んだのはもしアパートを追い出されたなどの理由で引っ越すことになってしまってもまた同じチェーン店で採用されるためだ。

 仕事ができてすぐに戦力になってくれる人材は企業側も手放したくない。

 しかし今のところは追い出されもせずに社会の歯車として細々と回っている。

 現状に大きな不満があるわけではないが、俺だってもっとアニメやゲームの中にいる主人公たちみたいに目標に向かって一直線に生きたかった。


 そんなある夜、バイト上がりのことだった。


「えっ!?」


 夜のシフトを終えて俺はバイト先を出た。もう真夜中と言っていい時刻だというのに幼い女の子が店の駐車場をうろついているのが見える。

 大人として不審に思い#ごく普通に__・__#声をかけようと近づいた。

 でも、声をかけるどころの事態ではなくなった。暗闇の中、少女はフラフラと駐車場から歩道を超えて車道に飛び出してしまった。普段はこの時間帯なら車が来る事はあまりない。

 しかし、少女がいる場所に歩道はないうえに珍しく車が迫ってきている。

 俺は少女を助けたい一心で、気が付けば車道に向かって猛ダッシュしていた。最後の記憶はブレーキの音と、運転手の()()()()()()()()()()。全身に鈍い痛みが走った気がした。



「初めまして」

「あ、はじめまして」

「私は女神と申します」


 全体的に背景が真っ暗だが地面はある。自分の身体も認識できるし女神だと名乗る謎の女性もしっかりと認識可能。こういう出だしのアニメを見たことはあっても俺が巻き込まれることまでは想像していない。


「これって異世界転生、てきなやつですか?」

「そうですね」

「俺は死んだんですね?」

「そうなりますね」


 まだ見たいアニメもクリアまで頑張っていたゲームもあるし未練がすごい。

 親の元にいた時の俺なら喜んで異世界転生したかもしれないがやっと解放されて自由の身になれた時に何故……いや原因は俺か。

 咄嗟のこととはいえ車の前に飛び出してしまった俺が悪い。


「あの女の子がどうなったか分かりますか?」

「無事に両親の元へ帰りましたよ」


 ()()と聞いてモヤモヤするのは真夜中だというのに幼い彼女が1人で出歩いていた様子だったから。

 あんな時間帯に外を歩くなんて、普通ではないはずである。

 恰好も―――あれ? 少女の服装が、なんというかパジャマに見えた気がする。


「彼女がどうして店の駐車場にいたのかって分かりますか?」

「お答えできますよ。彼女は近所に住む子供で、夢遊病のため普段は鍵のかかった家で眠っていましたが、今夜に限って彼女のお婆さんが鍵を閉め忘れてしまい、ご両親に捜索されている最中でした」


 そう聞くとほっとした。彼女は夜中にいなくなったことに気付いてもらえて捜索だってしてもらえるほど愛されていたのだ。

 心配する友達とかもいるかもしれない。

 好きな食べ物をもっと食べられるし好きな音楽だって生きていれば聞ける。


「そうだ俺はこれからいったいどうなるのでしょうか!?」

「スキルを持って異世界に転生します」


 これはまさかチートスキルで無双する流れなのでは? くすぶっていた俺が炎を操り、異世界で暴れていたモンスターをなぎ倒し、魔王を倒し世界に平和をもたらしてしまうかもしれない。ポジティブに考えれば楽しいが、世の中にそう美味い話はなかなかないものだ。


「どんな裏が」

「私は今まで何人も日本で亡くなった方々を異世界に転生させてきました」

「ふむ?」

「あなたは今まで選ばれなかったスキルが全て使えます」


 選ばれなかったと俺の耳には聞こえた。

 そういえば昔からよく人の声を聞き間違えて苦労してきたし選ばれなかったスキルではなく何か違うスキルと聞き違えたかもしれない。


「選ばれなかったスキルと聞こえてしまったのでもう一度お願いします」

「今まで誰も欲しいと思わなかったスキル全部です」


 いや待てよ? 誰も欲しいと思わなかっただけで、実は有用なスキルかもしれない。たとえば人の心が分かるなんて気持ち悪いスキルを避けたりする人は普通にいただろう。


「たとえばどういうスキルですか?」

「人差し指を立てて【スキルブック】と呪文を唱えてください」

「【スキルブック】」


 人差し指の先から辞書ほど分厚い本が出てきた。子供の頃に見た国語辞典ぐらい分厚いし中は文字でビッシリと埋まっている。


【スキル:はじける服 身に付けている物が全てはじけ飛ぶ】


 1行目にからこれか。最初に目に舌スキルがこんなもんじゃ、もう既に嫌な予感しかしないんだが。


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