王都で実演販売 3
投稿の間があいて申し訳ありません
よろしくお願いいたします
ヴァローズ出張販売二日目――――。
開店してすぐ、エリーゼ達の実演販売ブース前に、数人だが行列ができたのだ。驚きながらエリーゼは、先頭の見覚えのある客に声をかける。
「いらっしゃいませ! あなた、昨日、コロッケとトンカツをお買い上げいただきましたよね?」
「そうさ! 家で少しづつ分けて食べたら、美味いのに物足りないって家族に文句言われてな。今日はちゃんと人数分買いに来たんだ」
「まぁ、それはそれは……。再びお越しくださり、ありがとうございます」
リピート客がいるとは、幸先良いスタートの予感がする。
「今日はいくつご用意しましょうか?」
「えっと、コロッケとトンカツ五個ずつ、揚げたものを」
「かしこまりました! 今から揚げますので、お待ちください」
注文を聞いていたホフマンが、冷凍庫から出してきたコロッケとトンカツを、適温に熱された油の中に放り込んだ。
今日は、ホフマンに油調理を任せる。
エリーゼは、客の注文を順番に聞き、メモに控えながらホフマンに伝え会計する。
役割を変えたのは、冷凍のままの商品を買う人が少ないからだ。
作業効率を考えて、ホフマンには揚げる調理に専念してもらうことにした。
今日は、昼食にあわせて持ち帰る人が意外に多く、昼迄はずっとフル稼働してコロッケとトンカツを揚げ続けていた。客足のピークを過ぎ、時計を確認すると、実演販売に最適な時間になっていた。
「ルート、次、揚げ始めるタイミングで『アル・マハト』の実演やるわよ!」
「はい」
エリーゼは揚げる調理を交代して、ホフマンは実演販売の準備に入った。
ピークと比べて短くなった行列で待つ人に、ついでに包丁の実演販売も見て行ってもらう。
ただ並んでいるだけで暇を持て余している客は、注目して実演を見てくれる。
しかし、実演販売後も包丁は全く売れなかった。
その一方で、トンカツとコロッケは飛ぶように売れていく。
極めつけは……。
「凍らせたコロッケとトンカツを20個づつ」
昨日包丁を買ってくれた王太子宮の料理長の部下である若い料理人が、コロッケとトンカツを大量購入してくれたのだ。
「ありがとうございます! 料理長によろしくお伝えください!!」
エリーゼもプロの料理人が買いに来ていると、声高にアピールする様に礼を言った。
(文字通りの太客!!!)
「よろしかったら、包丁の購入もご検討くださいね」
にこりと素敵な笑顔を添えて、商品を入れた保冷バッグを手渡す。
若いおつかい料理人は、苦笑いを返して、それを受け取った。
(まぁ、料理長クラスでないと、高額万能包丁の衝動買いは無理か……)
いつでも厳しい現実しか見えないなと思いながら、エリーゼは客を見送った。
そして、閉店間際……。
「今日は、コロッケとトンカツは良く売れたなーーー」
ホフマンがやりきった感を露わにしている。
「そうね、あと3日、冷凍庫の在庫で足りるかしら……。今日くらいの売れ行きなら、いけそうな気がするけど、最終日までに売り切れちゃうかもしれないわね」
「ルーカス様に追加の商品が用意できないか相談しようか?」
「うーーーーん……。冷凍するのに時間がかかるから、追加で作るのは難しいと思う。冷凍が不十分だと、早く溶けてうま味が逃げてしまうと、品質保証できないからね。それより、最後の2日は、残りの在庫を半分こして出して、あえて完売させて、次回への購買意欲を煽るほうが良いと思うわ」
「購買意欲を煽るって……、怖っ!」
「買いたくて買えなかった欲はね、簡単に消えないから。煽ったもん勝ちよ?」
「……」
「引かないでよ、ルート。がめついのは、商売の基本でしょう?」
「――――まあ……、あんたが色々と突き抜けているのは、いつものことだしな……」
ホフマンはげっそりとした顔で、遠くを見ていた。
淑女っぽくなくて、悪かったわね。
苦笑いするホフマンが、調理器具を洗いにバックヤードに行くのを、エリーゼは了解した。コロッケとトンカツの販売は、すでに終了しており、今は包丁の販売だけなので、店番はエリーゼ一人でも問題ない。
「あのーー、すみません……
「! あなたは、確か料理長のおつかいで昼間いらした――――」
「包丁の在庫はありますか?」
まさかの包丁を買ってくれるらしい。
「えぇ……、即納分は19丁ございます」
「そうですか! まだ、あって良かった……」
「大丈夫ですよ」
(まだ、1丁しか売れていなくて、崖っぷちですから!!!)
あまりにも包丁が売れないので、脳内でついつい自虐コメントをしてしまう。
「それでは、10丁下さい」
「ふぉっ!? 10丁……でございますか?!」
「はい、主より、言付かってまいりました」
若い料理人は、カバンから取り出した言い切目の革袋から、じゃらりとコインがこすれる音が聞こえた。どうやら冗談じゃないらしい。
「……主って……、もしかして、王太子殿下からですかっ」
思わず小声で、若い料理人に確かめた。
若い料理人もエリーゼにつられて、声を潜めて返事してくれる。
「王太子宮で5丁、王宮で5丁厨房に常備せよとのご命令で――――」
「!」
「殿下も陛下も、大変気に入られたご様子で」
(陛下キターーーーーー!!!)
まさかの国王本人のご所望に、エリーゼは恐れ多くて凍り付いた。
「ハイ、スグニゴヨウイイタシマス……」
緊張から片言チックになるのは許してほしい。
ギギギと軋みそうな体を、必死に動かした。
「リズ、大丈夫か?」
震える手で、包丁と紙袋を用意していると、調理器具を洗い終えたルートが戻ってきた。
「ルート、包丁10丁お買い上げよ。手伝って」
「じゅっ……!? はいっ」
「袋は5丁づつ分けて入れてください」
「はい、かしこまりました。私はお客様カード記入してもらうから。ルートは、商品準備をお願いね」
「はい」
「お待ちいただいている間に、こちらの書類にご記入いただきたいのですが」
「なんですか? これ」
「商品管理の一環で、いつどのような方が使われているのか、製造番号と組み合わせて、把握できるようにしています。アフターサービスの案内や無料名入れサービスをさせていただきますので、ご協力ください」
「分かりました」
若い料理人は、すらすらと達筆な字でお客様カードを記入してくれた。
流石、宮廷料理人だ。スペック高し。
「これで、いいですか?」
「はい、ありがとうございます」
「先にお会計をさせていただきます。10丁で35万ヨーロでございます」
「これを、確認ください」
「お預かりします。少々お待ちください」
両手で差し出された革袋を受け取り、エリーゼは金額を確かめる。1万ヨーロが金貨1枚なのだが、中身は確かに金貨35枚あった。
大量の金貨の迫力に、指が震えた。
「確かに! 丁度35万ヨーロ頂戴します。購入証を、ご用意しますね」
「お願いします」
「あて名は、ヴァルデック王宮と王太子宮、どちらも必要ですよね?」
「はい、5丁づつ、金額を分けて書いてください」
「かしこまりました!」
購入証とは、前世で言う領収証の事だ。
国費から購入されるものはすべて、どこでいくら使ったのか証明するため購入証が必要になる。
王太子宮で働いていた時、教えてもらっていて良かった。
おかげで迷わず売ることが出来た。
「こちら購入証です。ご確認お願い申し上げます」
「はい、確かに……。こちらで結構です」
「料理長にもお伝えしていますが、この包丁『アル・マハト』と言うのですが、お買い上げの1カ月以内で、ご希望の方に無料で名入れのサービスをしています」
「名入れ……、無料なんですか?」
「はい、無料になるのは10文字です。ただ、名入れをした包丁の返品はお断りしていますので、ご注意ください。一度使っていただいて、気に入っていただけたら、是非名入れを利用ください」
「はい、その旨、主に伝えます」
「どうぞよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました」
料理人の姿が見えなくなるまで、エリーゼとホフマンは目礼して見送った。
「売れた……ね、ルート」
じわじわとした実感が、喜びに変わる。
「あぁ、良かったな。リズ」
しかも、王太子宮と王宮の宮廷料理人に使ってもらえるなんて……。
プロの職人に良いものだと太鼓判を押してもらえるなんて、嬉しすぎることだ。
「あのーー、すみません」
「はい! いらっしゃいませ……。あれ? あなたは……朝一番に並んで、コロッケとトンカツをお買い上げくださった方ですよね?」
「はい、あれから持って帰って、家族と昼食にして食べました。とても、美味しかったです」
「そうでしたか。お口に合ったのなら、良かったです。しかし、申し訳ありませんが、今日のコロッケとトンカツの販売受付は終了しておりまして……」
まさかの昼夜食連チャンで、コロッケとトンカツ!?とエリーゼが思ったところで、青年は神妙な顔でエリーゼを見ていた。
「じつは、あなたらに訊きたいことがあって……」
ただおかずを求めてやってきたわけではない様子に、じっとエリーゼは耳を傾けた。
王都で、プチブレイク寸前のコロッケとトンカツ。
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