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多忙な第一魔法騎士団の面々

久々のラルフsideです!

よろしくお願いいたします。

 エリーゼが実家の領地へ帰ってしばらくしてから、ラルフは多忙を極めていた。

 現場捜査や注意喚起などで、ヴァルデック王国中を毎日駆け巡り、久々に王都の第一魔法騎士団の団長執務室に戻って来ていた。

 久々の再会だというのに笑顔はなく、執務室の空気は重い。ラルフの目の前にいる団長こと第三王子のレオポルトは渋面を作っている。


「詐欺の注意喚起を、港を所有する主だった領主にしたというのに、被害者が後を絶たないとは……、何とも歯がゆい事だな」


 ラルフ達が追っている事件の捜査は難航していた。

 その事件とは、架空の注文をして、武器を大量発注し、分割支払いの一回目だけ支払い信頼させ、指定の港の倉庫に全注文分の武器を納品後、支払することなく持ち去るという詐欺だ。納品した武器は、倉庫から速やかに消えて無くなっており、今まで一度も追跡できていない。犯人と接触した被害者は、揃って記憶を消されて契約した人物の顔を、誰一人覚えていないのだった。そのせいで、大量の荷物を素早く運ぶ力を持つ犯人の目星は、まだ全くついていない。そもそも荷物を運び出す目撃者もなく、魔法を使って荷物を転送しているとしか考えられなくて、魔法使いが関わっている事件だとされ、第一魔法騎士団が主導して捜査をしているのだ。


「えぇ……、領主から領民への情報が上手く伝わっていないのが原因と思われたので、より領民に近い、該当地域の騎士団にも注意喚起する様に手配しました。しかし、詐欺師たちは巧みに情報を受け取っていない者を見つけ出して詐欺を働き、被害者本人が騙されたと気づくまで表に出てこないこともあって……。後手後手に回ってしまうという繰り返しで……」


 ラルフが歯がゆさを露わにしながら、レオポルトに報告する。

 レオポルトは、与えられる情報から解決法を導き出す。


「納品した倉庫の魔力残滓から、人物特定できなかったのか?」


 ラルフは、現地捜査で何も掴めなかったと結果を言ってから、レオポルトの質問に答えるように続けた。


「それが、魔力残滓がなくて。どうやら、足跡を消すのに長けた魔法使いが関与していると思われますが……、人物特定に至っていません」


 レオポルトは巧妙に逃げる犯人を、「相当の手練れだな」と称した。


「被害者の記憶を消し、その上魔力残滓を消せるとは……。その点から該当人物を探す方が、犯人を捕まえる近道かもしれんな」


「はい、その線からも調べるよう手配します」


 レオポルトの視線の先にいたマルコが、部下に指示すると言った。


「とにかく、犯人より先回りして行かないと、被害は止められない」


 レオポルトは最適解を導き出し、指示を出す。


「まだ被害に遭っていない地域で、武器製造をしている領地を洗い出そう。すでに被害が出た地域で、同じ手口の犯罪は出来ないだろうからな。魔力残滓を消すくらい用心深いやつなら猶更だ」


 レオポルトの意見に、ラルフとマルコも同意する。


「了解しました。マルコ、手伝ってくれ」

「はい、以前洗い出した全件データから、すでに被害に遭った箇所を除いた地域を抜き出します」


 レオポルトがさらに限定する要素を付け加えた。


「最新の被害地域から移動しやすい場所……、且つ、港までの街道も整備されている地域でさらに絞ってみてくれ」


「! はい! 了解です!」


 マルコが気を引き締めた表情で返事した後、地図を広げた。



 ――――コッ、コッ、コッ。


 その時、窓をつつく音がして目を遣ると、窓の外に手紙鳥が居るをを見つけた。

 マルコがいち早く窓へ歩み寄り窓を開けると、手紙鳥はラルフの机へふわりと飛び、静かに着地した。そして、薄い四角い箱と赤く完熟した艶やかなトマトに変化した。


「これは……、シュピーゲル嬢からか?」


 むき出しの野菜の届け物で、エリーゼからだと当たりを付けたレオポルトがラルフに訊いた。


 それにしても、このように突然野菜が届いても、ここに居る者は全然驚かない。

 慣れとは恐ろしいものだと、ラルフは苦笑いした。


「そのようですね」


 見覚えのある変化前の手紙鳥は、確かにラルフが魔力を込めて、エリーゼに渡したものだった。

 だから、贈り主はエリーゼで間違いない。


「トマトはともかく。その箱は何だ?」

「何でしょう、見当も付きませんが……」


 ラルフは言いながら、箱の包装を解いていく。

 そして、蓋を開けると、ラルフ達は思考停止に陥ってしまう。


 ごくりと喉を鳴らした、レオポルトが口を開く。


「これは……、ナイフか? いや、小さいがナイフより刃が大きめだな。見れば見るほど、武器らしくない形をしている」


 ラルフは箱に収まったままのものを見て、思わず呟く。


「これは……、『ラルフ』と刃に刻んでありますね」


 それを聞いたマルコが、「ひぃぃぃぃっ!」と情けなく怯えた声を上げた。

 ただならぬ反応に、レオポルトとラルフは驚いて見る。


「どうした? マルコ」

「ぅう……、刃に名を刻むなんて……、まるで一昔前に流行った魔力を込めた呪物の様で、恐ろしいですぅ~~~~……」


 マルコの呪物説に、ラルフとレオポルトも青ざめた。

 団長執務室の室温が、急激に冷えていく。


「マルコ、エリが呪物なんておぞましいもの贈ってくるはずないだろ!」

「ひぃぃぃっ、でもっ、これっ、武器にするには形がなんか変ですしっ……」


 マルコにエリーゼを侮辱されたといきり立つラルフに、レオポルトが冷静に窘める。


「ラルフ、私情を込め過ぎだ。マルコの言うことも一理ある。冷静にリスク判断しただけだから、マルコを責めるな」

「だ、だんちょー……」


 マルコは全力でラルフの殺気を受けて、今にも泣きそうだった。


「うん。だから、シュピーゲル嬢の名誉を守るため、このナイフに危険な魔力が込められているか、サーチしてみろ。マルコ」

「へ!?」

「サーチしろと言っている」

「私が、で、ございますか!?」

「サーチできる奴は、ここにお前しかいないのだから。やれ」


 レオポルトの命令に、マルコが震えあがる。

 いつもの悪戯が仕込まれた手紙をサーチするのと、今回の得体の知れない呪物の中身を正確に探るのは、段違いに難しいことだ。


「エリーゼから届いたのは間違いないとラルフは言っているのだから、危険性は低い。って言っても、万が一ということもないとは言い切れないから、念には念を入れて対応するだけだ。怖がらず、どんとやれ」


「――――団長、何の気休めにもなりませんが……」


 マルコのツッコミにいつものキレがない。


 マルコが団長付きの補佐官に任命されてから、団長執務室に届く手紙や荷物は、マルコの後任である新担当のサーチ係の隊員と、マルコがダブルチェックしてから、レオポルトたちが受け取る様になっている。

 そのおかげで、不審物は事前に破棄されるので、無駄な時間を取られることが無くなったので、非常に助かっている。


「マルコのサーチは早くて正確で、信頼している」

「団長……、笑ってごり押しするのは止めてください……」


 部下をを落ち着かせるために笑顔を絶やさないレオポルトに、マルコは恐怖しか感じられない。


「大丈夫だよ! ……多分」と、とどめを刺すように言う。


「軽ぅっ、そして、いい加減っっ……」と、マルコは小声で悪態をつく。


「できないのか?」

「やりますっ、やりますから。これ以上怖がらせないでくださいっ」


 恐る恐る届いたナイフを手に取り、マルコはサーチの魔法をかけた。

 調べ終えたマルコの顔が、少し緩むのが見えた。


「魔法が付与された形跡は、ありません」

「そうか、ご苦労。ラルフ、シュピーゲル嬢の疑いは晴れた。良かったな」


「そうですね」


 ラルフがようやく殺気を消した。

 そこで、レオポルトが思いついたと声を上げた。


「そうだ! トマトだ! ラルフ、トマトにエリーゼが伝言しているかもしれない。早く聞き出せ!」


 危険がない贈り物だと判明したが、まだ理解不能な届け物に違いない。

 だからと言って、トマトに縋るしかないとは、カオスな状況である。


「はい、集中するので静かに願います」


 ラルフはトマトを手に取り、残留思念に耳を傾ける。

 すると、小さな声がラルフの耳に届く。


『とっても、つかいやすい、ほうちょう、つくったから、おくるね。それと、おうとのヴァローズで、これ、うる。みにこれたら、きて。……ラルフ、あえるといいな』

「……」


 ラルフは、最後までエリーゼの伝言を聞き届けてから、レオポルトに報告した。


「これは、包丁で、シュピーゲル男爵の新事業の様です。王都のヴァローズでこれを売るから、見に来れたら来て欲しいとのことでした」

「これは、包丁、調理器具なのか!」

「そのようです」


 レオポルトは張り詰めていた緊張を解き、盛大に息を吐いた。


「相変わらず、シュピーゲル嬢のやることには、驚かされる」

「事業の詳細は、エリーゼが王都に来た時に、本人から訊くことにします」

「そうだな、彼女の動向は、一応把握しておきたいから、報告してくれ」

「了解しました」



 息つく暇もなく、今度は執務室のドアがノックされた。


「緊急の報告です! また、武器発注詐欺の被害者がっ!」


 ドアの外からする焦った隊員の声に、執務室内の三人は険しい顔になる。


「早馬で知らせが来て、直接話を聞かれますか?」

「あぁ……、私が行こう。案内してくれ」


 ラルフが、いち早く動いた。


「団長、行ってきます」

「頼む」


 ラルフが隊員と共に行ってしまい、残されたレオポルトとマルコはしばし沈黙していた。

 ラルフの気配が完全に消えてから、レオポルトがマルコに声をかける。


「マルコ、あいつの前では言えなかったが、勇気をもってサーチしてくれて、感謝する」

「……はい」

「お前が包丁を呪物扱いするから、ビビったわーー。でも、そういう攻撃方法もあると、頭の隅に置いておく必要あると反省した。用心深いお前が、傍に居てくれて良かったよ」


 ビビりで、石橋を渡る前に、何度も叩かずにはいられない様な性格であるマルコは、臆病者と揶揄いの対象になり続けてきた。そんな不名誉な過去があっても、レオポルトはマルコをきちんと評価して、傍に置いてくれている。


「団長付きの補佐官として、当然のことをしたまで。過分なお言葉をいただき、光栄に思います」


 マルコがうやうやしく礼をすると、レオポルトは静かに笑う。


 一生ついて行きたいと思える主に出会えた喜びに、マルコはしばらく浸っていた。










 

届いたトマトは、レオポルトによって国王陛下に献上され、美味しく食べられたらしい。


ブックマーク登録、評価等いただけると幸いです。

いつも読んでくださる方、誠にありがとうございます。

励みにしております!


次回も、よろしくお願いいたします。


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