表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/103

鍛冶師が大事にするもの

 クルトの工房を出て、エリーゼは自らを張り詰めていた緊張から解放した。


「仕事、受けてもらえて良かった」

「そうだな……」


「エリーゼ、よくやった」と、アロイスが微笑んで、エリーゼの頭をポンポンと触った。

 突然訪れた光景と、優しい触り具合に、エリーゼは言葉を失った。

 

(お兄様……、その技は反則です!!! 無自覚で、頭ポンポンはぁ!!!)


 にやける顔を隠しながら、思わず、脳内で抗議してしまった。

 アロイスは、単に妹を労ったつもりだろうが、エリーゼは予想外の萌え爆撃に脳内で悶えまくってしまう。


 前世で現実にお目にかかったことのない鉄板ファンタジーシチュエーションを、異世界で身に受けてしまった。良い、じわじわと喜びがこみ上げてくる。


「意見を取り入れてくれて、ありがとう、お兄様……」


 違う意味の謝意も込めて、アロイスに言う。

 エリーゼの心中を知るはずないアロイスは、尊い笑顔を向けてくれる。

 流石、エリーゼの兄、眼福です。


「ずっと領地の事、考えて勉強してたんだな。こちらこそ、ありがとう」

「……」


 アロイスは、驚くほど素直に感情を見せる。

 表裏のない性格に、エリーゼは救われているなと思う。


「アロイスさま?」


 不意に呼びかけられ振り返ると、10歳前後くらいの少女が立っていた。


「イルメラ……」


 少女とアロイスとは顔見知りの様だが、アロイスはイルメラを見つけ驚いているようだった。


「やぁ……、今日は顔色が良いね……」

「はい、父にごようじですか?」

「そうだよ、もう終わったけど。エリーゼ、こちらクルトの娘さんだ」


(クルトさんの子ども! 似てない!)


 イルメラは、武骨で日に焼けた丈夫な印象の容姿のクルトと真逆で、透き通るような白い肌に、薄い茶色の髪で青い目をした、線の細い少女だった。


「イルメラちゃん、アロイスの妹のエリーゼです。よろしくね」

「いもうと……! エリーゼさま、ホントだ! アロイスさまにそっくりね」


 無邪気にいうイルメラは、とても可愛い。


「ふふ、お兄様に似てるって。嬉しいわ」


 エリーゼが親愛を示すように手を差し出すと、イルメラが握り返してくれる。

 小さい手は、なんとなしに骨ばっていてどきりとした。

 力を入れれば、簡単に折れてしまいそうに弱々しかった。


「イルメラ! どうした!? 寝てなきゃ、だめじゃないか!」


 娘を見つけたクルトが、慌てて駆け寄ってきた。


「!」

「イルメラちゃん!?」


 イルメラは、クルトに怒られるのを回避しようと、エリーゼの後ろに隠れた。

 いきなり防壁にされてしまったエリーゼは、迫るクルトに戦慄した。


「クルト、私たちは帰るから、娘の相手をしてやれ」


 アロイスが、呆れたように言う。

 心配しているだけだろうが、クルトは無駄に圧があって怖い。

 部外者のエリーゼも、身体が強張ってしまう。


「すみません、アロイス様。イルメラ、行くぞ! ベッドで寝るんだ」

「え~、散歩したい。外、晴れているし……」


 イルメラは、エリーゼの腰に絡まり、必死にクルトに散歩をねだる。

 困った顔をするエリーゼを見たクルトは、はぁと大きくため息を吐いた。


「……少しだけだぞ」

「うん!」


 結局、最後はクルトが折れた。

 散歩に行けると分ると、イルメラはエリーゼから離れ、クルトの足にしがみついた。娘に弱い父親であるクルトは、少し可愛いなと思ってしまう。


「アロイス様、エリーゼ様。失礼します」


 イルメラに手を引かれ、アロイス達から離れながら、クルトが言った。


「あぁ……、また寄る」


 アロイスが返事すると、クルトが会釈で応えた。

 クルトとイルメラは手を繋ぎ、ゆっくりと歩いて行く。

 角を曲がって姿が見えなくなるまで見送って、エリーゼはアロイスに訊いた。


「クルトが、この領地に留まる理由は、あの子がいるからですか?」


「――――うん。クルトは一度、他の若い鍛冶師の連中と移住したが、イルメラは移住したとたん、酷く体調を崩してしまったんだ。それで、ここへ帰って来て何とか持ち直すことが出来た。それから、何があってもここに住むと決めたらしい」


 イルメラは、この領地でないと生きていけないから、クルトは鍛冶師をやめて他の仕事をしてでも、この地に留まっている。

 クルトは、娘を一番に考える父だからだ。


「病が完治したわけじゃなさそうですが……」

「イルメラの母親も同じような病持ちだったらしい。イルメラを産んで、しばらくして亡くなってしまっている。医者に見せても、症状を軽くする方法しかないらしい」

「そうなんですね………」


 この異世界は、魔法が存在するが、それ以外の科学技術水準はかなり低い。


「治癒魔法とかで、何とかなればいいのに――――」

「魔法治療を受けるのは、王都に行かなきゃいけない。今のイルメラには命がけで行くことになるから難しいだろうな。それに、高額だからな。簡単に受けに行けるものじゃない」

「……」


 治癒魔法を使えるラルフを思い出す。

 彼なら、ここまで来て、治療してくれるかもしれない。


 でも、今、彼は連絡が取れない位、仕事が忙しくなると言っていた。

 ひと段落付いたら、お願いしてみようと思う。


「領主として、クルトを鍛冶師として、働く環境を整えてやることができなかったから……、エリーゼが来てくれて希望が見えてきたよ」


「まだまだこれからですよ。上手くいくといいんですけど」


 納得いく商品が出来上がらなければ、何ともならない。

 そして、クルトを信じて待つしかない。


「いくような予感がするな」

「えーー、本当に?」

「結構、当たるよ。俺の勘」


 アロイスが自身満々にいうので、信じてみたくなる。

 これからが、楽しみになってきたエリーゼだった。





頭ポンポンに悶える妹に、ちょっと引いだが、笑顔で乗り切ったアロイス。


ブックマーク登録、評価等いただけると幸いです。

いつも読んでくださる方、励みにしております!

ありがとうございます。

次回も、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ