謎手紙の交換
本日、更新の二話目です。
一話目をまだお読みになられていない方は、一話目からお読みください。
読み飛ばしにご注意ください。
よろしくお願いいたします。
ラルフ様は、色々な魔法を操る、王立魔法騎士団で働く魔道騎士らしい。普段は王都で働いているが、有事の際は戦場へも赴くらしい。
年は22歳で、私より7歳年上だ。以上は、ケリーが調べてくれた数少ない情報だ。
彼が騎乗する馬の前に私が飛び出して、怒鳴られながら助けられて、驚くほどの速さで親しくなっていた。
ラルフ様は、魔法を使って連絡をしてくるようになった。
白い鳩が飛んできて、エリーゼの自室の窓ガラスをつつく。
「ラルフ様だわ」
エリーゼが窓を開けると、鳩が部屋に入ってきて、しばらくしたら、手紙に戻る。魔法で、手紙を鳥に変身させるらしいが、便利すぎる。
前世で、ドローンに荷物を運ばせる運送方法が開発されていたけど、魔法はすでに実現させている。しかも、送った先で鳥は跡形もなく消滅するとは、すごい、技術だ。
花好きのエリーゼのために、花の茎に細長く折った手紙がくくりつけられて届く。
「ふふ、かわいい色」
今日は、ピンクのカーネーションに薄紙の白い手紙がくくられていた。
ケリーに花の名前を確認してみたら、なんと前世と同じ名前で呼ばれていることが分かった。バラやカーネーションなど、カタカナで呼ばれる外国産の植物は、大抵同じ名前であるようだ。
異世界は、意外に共通する物事が多い。
パラレルワールドであると考えると、ありうることなのかもしれない。
「彼の御方は、マメな方ですね。毎日、こうして手紙を送って」
ケリーが感心して言ってきた。
ケリーの言う彼の御方とは、ラルフ様の事である。
「本当に、毎回花の種類も変えて、手紙の内容は……まぁ、簡潔でそっけないけど」
ラルフ様の手紙の内容は、本当に謎だ。
初めて届いたのは「今日は、晴れたな」
二通目は「今日は、雲が多い」
三通目は「雨が降りそうだ」
そして、今日届いた四通目は「今日は、一日雨らしい」だった。
ちなみに驚くべきことに、文字は読めるし、書ける。日本語で話して、この世界に来た時から、普通に意思疎通できているのだから当然予想できたことで、もっと早く気付くべきであった。だから、ラルフ様の手紙も、普通に読めるのだ。
「なぜ、天気の内容なのか……。どういう意味なのかしら……?」
外は確かに朝から雨が降っている。天気の一言以外は、名前が明記してあるだけだ。
もしかして、あぶり出しかと思って、手紙をはランプの熱で温めてみたけど、文字は浮かび上がらなかった。
「ケリーは、どう思う? この天気の意味」
「私に訊かないでください。それより、私が手紙の内容を知っていると彼の御方に知られると、非常に不味い気がします。ご自分だけで、どうかお考え下さい」
ケリーは、ラルフ様に脅されてから、彼と出来るだけ遠く距離を置くようにしている。
「天気は、その日の通りだから、暗号とかではないとは思うけど……」
「真意をお知りになりたいのなら、エリーゼ様も返事を書かれてはいかがですか?」
ケリーの言葉は最もだ。分からないなら、直接問えばいい。
「でも、どういう意味ですか?って訊くのは、すっごい失礼な気がするのよね……」
「無粋だと、私も思います」
「うぅ、そうよね……」
「まぁ、深く考えなくてもいいと思いますよ。多分、メーンは一輪の花の方だと思いますから。ただ、お花だけだと、誰からのものか分からないし、送り主が分かる様にするためだけの手紙かと。エリーゼ様、そのお花もらって、絶対喜んでいるでしょ?」
「あぁ! そうね! 手紙の方が添え物ってことね! それなら、しっくりくるわ」
「彼の御方に手紙が添え物などとおっしゃらないでくださいね。ヒヤヒヤします」
「――すみません、気をつけます……」
素直に反省する。
「お嬢様は、お花のお礼を述べる手紙を返されたらよろしいかと思います」
「すごいわ! ケリー。ケリーもお手紙を誰かと交わしたことがあるの?」
エリーゼの質問に、ケリーは視線を泳がせた。
明らかに動揺が、隠せていない。
「……私のことはどうでも……」
「あるのね、無理に聞かないわよ」
ケリーは、思い出して照れている。
耳が、真っ赤になって可愛い。きっと、素敵な思い出なのだろう。
「ただ、花の感想を書くのは、おもしろくないわね……」
「ラルフ様と同じように、謎な内容を書いて出すとか」
ケリーがポロリといったが、エリーゼの心をしっかりととらえた。
「それっ、いいわね! 私も謎手紙で、返事するわ」
私は、ラルフ様を驚かす手紙を考えることにした。
――――そして、数時間後。
「ねぇ! ケリー。ラルフ様の返事! こんなの作ってみたの」
「これは……、本の栞ですか?」
「そう! もらった花のスケッチを描いたの。お礼にもなるし、実用的に使えるし、良いと思わない?」
前のエリーゼが持っていたレターセットの中に、水色の厚手のカードがあったので、それに花のスケッチを描いた。描いた花は、一通目で初めて届いたチューリップだ。
そして、スケッチの横に小さくサインを添え、頭文字のEだけ書いた。カードの上部に丸穴を一つ明け、青いリボンをつけた。
絵は、子供のころから得意だった。なかなかの出来だと思う。
「栞以外、何も入れないで出すの! 謎でしょう?」
「確かに! 彼の御方が送った花が書いてあるので、誰からかも分かるというわけですか!」
「そうそう、サプライズ感あるよね」
「これは、彼の御方がどう反応されるか、楽しみですね!」
ケリーは珍しく少女のように楽しんでいた。
二人で盛り上がり、早速ケリーはラルフ様に届ける手配をしてくれた。
ちなみに、私たちは魔法が使えないので、手紙の配送をしてくれる専門業者に頼んだ。明日、手紙は魔法騎士団に配達されるらしい。
明日のラルフ様の反応を妄想しながら、エリーゼは笑いが止まらなかった。
アナログ連絡が、主流な異世界。
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