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本気の生け花 1

本日更新一話目です。

 いつも通り朝早い時刻に目を覚ましたエリーゼは、花生けした水盤が置ける場所を探すため、メイド服姿で玄関に下りた。

 玄関入り口を入って正面に、良い感じの飾り棚を見つけ、水盤が置ける幅があるか手定規で測って確かめる。

 ちなみに手定規とは、花生けの際、定規のない状況で、長さを確認するためのものである。親指と人差し指でLの形を作った時、10㎝の長さになる指の曲げ方を普段から訓練しておく。すると、大体の長さ見当が定規なしで出来るというものだ。


「朝から、何をしている」

「ひゃぇいっ!!」


 不意に近くで声がして、エリーゼは飛び上がって驚いた。


「ホフマン、驚かさないでよ!」

「何をしている、余計なことはするなと言ったはずだが」


 ホフマンは、仕事取られたくないバージョン対応してきた。

 このメイド服を見ると、彼の被害妄想スイッチが入るのか、攻撃的な態度だ。


「ホフマン、まずはおはよう」


 怯んでは負けだと、エリーゼは挨拶した。


「おはよう……ございます」


 丁寧語で返したホフマンの挨拶に、エリーゼは少し気を良くした。

 やはり、エリーゼがつっかからなければ、ホフマンは暴言を吐かない。


「ホフマン、ここに生け花を置きたいのだけれど、いいかしら?」

「生け花……?」

「そう、昨日摘んできた花を、ここに生けて飾りたいの」

「あんたが? ……いや、あなたが花生けをするのか?」

「そうよ、駄目かしら?」


 ホフマンの仕事を横取りするわけではないので、彼の態度は明らかに軟化しているように思えた。


「そんなの、別に構わないが……」

「やったぁ! ありがとう! 朝食食べてから取りかかるからよろしくね!」


 エリーゼはひと息で言って、自室へ戻った。

 一人残されたホフマンは、首をかしげて言った。


「変な奴」


 ホフマンが呟いたが、エリーゼの耳には届かなかった。


 ラルフの父であるハンスに作り出してもらった、水盤や花留めを用意する。花ばさみ、水差し、タオルも合わせて用意した。花生けに必要な道具は持参してきたのだ。


 この世界は、花器といえば、いわゆる花瓶と呼ばれる、背が高く細長いものしかない。水盤のような平べったい花器に、花を生ける文化はないのだ。


 だが、錬金術師のハンスのおかげで、前世の花器や花留めの再現に成功したのだ。


 そして、異世界に来て初めて、前世の華道スタイルで、花を生けることが出来るのだ。


「あぁ……、テンション、上がるわーー」




 テンション高いまま朝食を済ませ、エリーゼは生け花に取りかかった。

 飾り棚に水盤を置き、花留めの七宝を並べ、七宝ひたひたまで水を張る。

 そこまで用意したところで、飾り棚に花を仮置きする場所がないことに気づいた。今回は、机の上で色々作業するので、ないと不便なのだ。


「テーブルが、欲しいわね」


 エリーゼが呟きながら見回すと、ちょうど良さげな広さのテーブルを見つけた。早速、持ち上げて、移動を試みる。


「重っ!! 意外としっかりした作りなのかなぁ……、よっ!」


 テーブルを抱え、気合を入れて一歩を踏み出しす。

 エリーゼがよろけたところで、後ろから大きな手がテーブルを持っていた。


「ちょっ……危ない! 何をしている」


 どこで見ていたのか、ホフマンがやってきて、重いテーブルを支えてくれていた。急にエリーゼの手から重さがなくなり、手の痛みが引いていった。


「このテーブルを仮置台に使いたくて、運ぼうかと……」

「落として怪我したら、どうするんだ! 運んでやるから、一旦置け」

「……」


 妙に親切なホフマンの態度に、エリーゼは引いていた。


(この人は、ずっと物陰で私を見ていたのだろうか……)


 エリーゼの疑いの目を気にしていないホフマンが、訊いてきた。


「どこに置く? 位置を言え」

「あ……、こっち……。ここへ置いて欲しい」

「分かった」


 さすが力持ち、ひょいと持ち上げ、ホフマンは重いテーブルを運んでくれた。


「これで、いいか」

「いいわ、ありがとう」

「他に必要なものがあれば、声をかけてくれ。無茶して、独りでやろうとするな」


 ホフマンの本当に行き届いた心遣いに、エリーゼは戸惑ってしまう。


「わ……分かったわ。今のところは、大丈夫です」

「俺は、これから洗濯場にいるから、用事があれば裏庭の方へ来てくれ」

「――――ご丁寧に、どうも……」

「あぁ、じゃぁな」


 ぶっきらぼうに言うと、ホフマンは歩いて行ってしまった。


「何、あれ……」


 ホフマンは、なぜわざわざ見に来たのだろうと、エリーゼは首をひねった。

 記憶を少し遡ると、自分がホフマンに言った台詞に理由を見つけた。


「そうか、私が朝食後に取りかかるって言ったから、様子を見に来てくれたのか……」


 何と律儀な人だろうと感心した。

 やはり、彼の印象を改めないといけない様だ。

 しかし、一方でメイド服のエリーゼは警戒されているらしい。


(メイド姿は、視覚が刺激されて、対抗心が生まれちゃうのかしら)


 エリーゼは、ホフマンと家事仕事を取り合う気は全くない。

 関係改善のために、少しづつ誤解を解くように、行動していくべきだなと思った。


 ホフマンが行ってしまい、エリーゼは独りになった。今回は、いつもより気合を入れないと上手くいかない花材なので、深呼吸して集中力を高めていく。


 そして、バケツの燕子花を、仮置き用のテーブルに広げた。

 真っ直ぐな株を一番左に置き、右に置くに従いくせのある株になっていくように並べていく。


 一番左に置いたものと、その次に置いた素直に伸びた真っ直ぐな株を見比べて、一番美しい株を、一番高く扱うものとして決める。そして、二番目に美しいものは、二番目の高さの部分に使うように大体決めておく。


「さて、まずは一番高い株を整えていくわよ」


 先ほど選んだ一番良いと決めた株を持ち、外側の葉からちぎらないように気を付け、一枚、一枚はがしていく。このときに、花茎に接する面が表面になるので、逐一表面を確認しながらばらしていく。はがした葉は、表面を上にして幅が広い葉を左側に置き、右に行くほど細い幅になる様並べていく。

 この要領で、全ての葉をはがし、花茎と葉に分ける。


 まず、花茎の後ろに配置する、一番背の高い葉を三枚選ぶ。葉の表面が手前で、まず二枚の葉先が向かい合わせになるものを選び、高低差を付け決められた形を作る。その二枚の真ん中に背の高い方の葉と同じ方向に刃先が向いている葉を、一番低く後ろから添わせる。

 選び終わったら、次は花茎の前に添える二枚組の葉を選ぶ。これは、手前が裏面になるもので、葉先が向かい合うものを選ぶ。決まったら、先程の三枚組と同様に、他の葉と混ざらない様に、仮に置いておく。


 長々と説明したけれど、ここまでで察しのつく方もおられると思うが、燕子花は花より葉の方が、生ける心配りが重要になる。葉を最小限の枚数を使い、最も美しく見える姿を再現する。

 柔らかい葉を扱うので、触り過ぎて痛めないように配慮が必要だから、手で形を整える際も、時間をかけず、手早くしないといけない。手の体温が葉へ伝わるだけで、痛むのだから、扱い慣れない初心者には向かない花材と言える。


 次に、先程一番高い葉の三分の二の高さで、手前が裏面の三枚組の葉を先程と同じ要領で選ぶ。決められた形になる様整え、少し長めに真っ直ぐ切る。まず生け始めるのはこの三枚組からで、『水合わせ法』を施す。

 葉と葉が触れ合う部分の微毛を寝かせてから、葉を組み直し、それを水の中にくぐらせると、葉同士がぴったりとくっついて、ばらけることなく美しい形を作ることが出来る。

 エリーゼは、指先に水を付け、葉先に向かってごく弱い力で軽く擦る。擦る方向も同じにしないと、微毛の倒れる向きが揃わず、葉同士が上手くくっつかない。そして、微毛を指で強くこすり取ってしまうと、葉が痛んでしまうので、その葉は使えなくなる。とにかく、一番注意して扱う必要があるポイントと言える。


 この工程を、全ての葉組に施さなければいけない。

 失敗したら、また葉を選ぶところからやり直しなので、自然と気合が入る。

 毎回、燕子花を生ける時は、類を見ない緊張感に包まれる。


 エリーゼは、無心になって、燕子花と向き合った。

 そして、気の長くなるような時間をかけて、工程を繰り返し、ようやく燕子花の生け花が完成した。


「できた……。あぁ……、良い感じ……」


 エリーゼは、一歩引いて眺め、自画自賛した。

 ランナーズハイならぬ、華道家ハイというべき高揚感が、全身を包んでいた。


 










エリーゼのモノローグは、燕子花。アロイスは、イリスと呼んでますが同じ花のことです。

ややこしくて、すみません。

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