妖精の愛し子、認定
王太子夫妻が国王の謁見についてきてくれたので、エリーゼは心強いと思った。彼らが歩いて行く後ろを、遅れないように歩いて行った。
王族専用の控室でしばらく待って、ようやく、謁見の部屋へ通された。アンドレアス王弟の姿を見つけ、エリーゼは会釈した。
威光を示すような煌びやかな謁見室に圧倒されながら、エリーゼは黙って跪き顔を伏せ国王が口を開くのを待った。
「エリーゼ・シュピーゲル男爵令嬢だったな」
「はい、左様でございます。陛下……」
ヴァルデック国王、ジルヴェスター・フォン・ヴァルデックは、金色の装飾が施された玉座に座ったままで話し始めた。
王族の、特に国王の公式な場面では、許可なく目を合わせたり、話したりすることは不敬なこととされており、エリーゼは跪き顔を伏せたまま答えた。
「我が弟、アンドレアスより、そなたが『妖精の愛し子』として覚醒したと報告を受けている。その件で確認したいことがあり、来てもらったのだ」
「……」
質問されていないので、エリーゼは勝手に話すことは出来ない。
じっと、国王の言葉に耳を傾けていた。
「シュピーゲル邸で、そなたは、一時仮死状態になり、その後自ら息を吹き返した。間違いないか?」
「はい」
「その仮死状態の時、何か特別な体験をしなかったか? 例えば、誰かに出会ったとか、どのような言葉を交わしたか、出来るだけ詳しく話してほしい」
エリーゼは、王族の秘密の花園で妖精王に出会ったことを、順を追って話した。国王陛下は、エリーゼから視線を一度も外さず、じっと耳を傾けていた。
ラルフとずっと一緒に行動していたというと、国王は慌てて話の腰を折って訊いてきた。
「ちょっと、待て。秘密の花園には、そなただけでなく、ラルフも行ったのか?」
「そうです」
「ラルフも妖精王と話をしたというのか?」
「はい、妖精王はラルフ様の名前をお呼びになり、質問をされました」
エリーゼが国王の質問を肯定すると、その場にいた全員がどよめいた。
皆が驚く意味が分からなくて、エリーゼはきょとんとしていたら、彼女の心の内を察した国王が口を開いた。
「ここにいるもの、決してこの場で話したことを口外してはならない。皆、心して控えよ」
口々に承諾する言葉が聞こえ、再び静寂に包まれた。
「シュピーゲル嬢、あの場所は、王族の秘中の秘とされるところで、王族の一員であるカミラの実弟だからといっても、王族でないラルフが行ける場所ではないのだ。王族以外の者で、あの場所に行くには王族が同行するか、妖精王が自ら呼び寄せることを願わなければ、決してたどり着けないのだ。シュピーゲル嬢、そなたは『妖精の愛し子』であるから、妖精王に呼ばれても不思議はない。しかし、ラルフも呼ばれ、妖精王と話をしたのなら、ラルフも『妖精の愛し子』と認められた人間ということになる。一時代に二人も『妖精の愛し子』が在ることは、今までの歴史になかったことなのだ。それを知っているからこそ、その事実を聞き私も驚いている」
「ラルフ様が、『妖精の愛し子』?」
エリーゼは思わず驚きを口にしてしまった。
「王族以外で、妖精王に会って話をしたのだから、そういうことになる。私が、妖精王に顔合わせを頼む前に、直接そなたらに会うと妖精王自身が決めたことにも驚いている」
「……」
予想外のことを言われて、エリーゼは言葉を失った。
(王族の秘密の花園に行く資格が、『妖精の愛し子』でないといけないなんて……! めちゃムズのシークレットステージって感じ!?)
もはや、ゲーム設定のようなファンタジーな存在になりつつある自分を受け入れるには、多少不謹慎な例えになるが許してほしいと、エリーゼは思った。
正直、完全にキャパオーバーを起こしているのだ。
この世界の恐らくかなり頭の良い国王が、驚き困惑しているのだから、自分も戸惑って当然だとエリーゼは自分を慰めた。
「ゴットフリート、ラルフは療養中だったな。どれくらいで動けるようになる?」
「今はまだ、起き上がることもできませんので、もうしばらくは動けません。謁見は、来月、治りが遅れれば再来月になるかと……」
「そうか、まぁ、仕方ないな。シュピーゲル嬢に状況確認できたから、良しとするか……、こちらも、仕切り直さないといけないことが出来たし……」
「陛下、用件が済んだようですから、シュピーゲル嬢を連れて帰ります」
「ええ~、晩餐など共にせんか?」
息子相手に気が緩んだのか、国王は王太子に訊いた。
王太子は、表情を変えず淡々とした口調で返事した。
「恐れながら、彼女も療養が必要な身ですので、カミラと帰らせます。私と叔父上が残りますので、晩餐でも執務でも何でも、お好きになさってください」
「えええええ~~~~、男ばっかじゃん!」
「その言葉、王妃陛下に伝えましょうか?」
「……」
国王が、微妙な顔をして王太子を睨んだ。
王太子は、大人げない文句を引っ込めた国王に、満足そうな笑みを浮かべた。
「よろしいですね、シュピーゲル嬢を退室させます」
「――――許す」
王太子の的確な誘導話術で、国王の退室許可を引き出した。
そして、妻に向ける柔らかな表情に切り替わり、王太子が言う。
「カミラ、シュピーゲル嬢を頼む」
「かしこまりました」
何だか、最後はグダグダな感じがしたが、国王の人間臭い部分があると分かり親しみを感じた。
カミラが美しいカーテシーをしたので、エリーゼも緊張しながら今の自分ができる最良のカーテシーを披露した。
ゴットフリートとアンドレアスとは、その場で別れ、カミラとエリーゼは来た時と同じ馬車に乗り込み、王太子宮へ帰った。
謁見の内容は、口外無用のかん口令が出されているので、カミラともその話題を話してはならないと、帰りの道中ずっと口を酸っぱくして言われた。
(何だか、とんでもなく面倒な展開になってしまったわね……)
エリーゼはその後、割り当てられていた部屋に戻り、身を清めてすぐに休んだ。何も考えずに眠りたかったのだが、色々と考えてしまい、中々寝付けなかった。
男だらけの晩餐にうんざりする国王。
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