男爵家侍女の逆心
本日更新、二話目です。
一話目がまだの方は、ご注意下さい。
R15 残虐な表現あります。
苦手な方、ご注意下さい。
誤字報告、ありがとうございます。
訂正いたしました。
「王弟殿下様が、我が家にお越しになられるとは、光栄の極みでございます。私、エリーゼの母のベルタ・シュピーゲルでございます」
「突然の訪問で、戸惑わせてしまったね。エリーゼは『妖精の愛し子』の候補者であるので、王族として特別の計らいをする意思を知らせておきたくて、やってきた次第なのだ」
「まぁ、にわかに信じられなことで、手紙でお知らせいただいても実感が湧いてこず、お恥ずかしい限りです」
「お母様……、まず、応接室へ参りましょう」
「そうね、こちらへどうぞ」
ベルタが先導して歩いて行く。
意外にも、ベルタは弁えていて、アンドレアスにベルタが絡んでいくこともなく応接室の席に着いた。
アンドレアスは、応接室の一番奥の上座に座り、その後ろにラルフとマルコが並んで控えた。迫力のある騎士二人を従える王弟は、予想外に凄かった。
(うわっ、ゴッ○ファザーみたい。マフィアな雰囲気漂う王族ってありなの!?)
変なフィルタースイッチが入ってしまったエリーゼは、ただその場にいることを楽しんでいた。
ブラウン医師とケリーは、応接室近くで控えている。
その二人の表情を、エリーゼが目を向けることはなかった。
エリーゼは、ベルタの動向が気になり過ぎて、余裕がなかったからだ。
ベルタは、ラルフと初見の時、かなりの悪意を持ってエリーゼを貶めながら、自分自身を良く見せる言動を吐き続けていた。
アンドレアスに同じことをしないかと、エリーゼは内心びくびくしていたのだ。しかし、ベルタは毒を吐くことなく、アンドレアスから話の主導権を奪うこともせず、大人しく相槌を打って座っていた。
「エリーゼ嬢のことは、我々王族に安心して任せて欲しい。お母上の希望に合う待遇を、エリーゼ嬢に用意することを約束しよう」
「それは、もう、ありがたい事でございます。王弟殿下のおっしゃる通りで、異存ございません」
母は、王城で働いていた侍女らしい堂々とした態度で、アンドレアスに微笑みかけた。
「王弟殿下のために、ささやかながら晩餐の用意をしております」
「気苦労をかけてしまったようで、申し訳ないな。今日は、エリーゼを休養させる意味の訪問であるから、お母上は娘のことを中心に考えていただいて良い」
「ありがとうございます、お言葉に甘えて、晩餐の時間まで娘を自室で休ませていただきますわ」
「そうしてくれ」
ケリーがやってきて、エリーゼに退室を促した。
「アンドレアス様、失礼いたします」
「あぁ、また後で」
「はい」
アンドレアスにカーテシーして、ケリーを伴いエリーゼは応接室を退室した。ラルフが、一定の距離を保ち付いてきていた。
エリーゼは、ラルフが気になっていたが、一旦スルーし、自室へ向かった。
自室の入り口に来て入室する時、ラルフがやっと声をかけてきた。
「エリーゼ、私は扉の外にいるから、ゆっくり休んで」
「はい、ありがとうございます。ラルフ様」
完全に仕事モードなラルフは、愛想がない。少しくらい緩んでもいいのにと思うくらい、ピリピリとした緊張感が漂っている。
真面目なラルフが、仕事を完璧に遂行しようと頑張っていると思うと、微笑ましく思う。無表情に立つラルフに、エリーゼは微笑んでから自室の扉を閉めた。
久しぶりに帰ってきた自室の匂いに包まれ、懐かしいと思った。
「おかえりなさい、エリーゼ様」
「ただいま、ケリー」
「見違えましたね、すごく綺麗になられて、驚きました」
「そんな……、恥ずかしいわ。王太子妃殿下の侍女様の腕が素晴らしいだけよ」
「王太子妃殿下! それは、すごい」
「ケリーは知っていると思うけど、王太子妃殿下は、ラルフ様の実のお姉さまだから、とても親身になって接してくださるの……」
それから、ケリーとしばらく近況報告をし合った。どうやら、母の心の病はずいぶんよい方向になっているらしく、エリーゼの重荷が少し軽くなったような気がした。
「エリーゼ様は、本当にお幸せそうですね。お顔が違います」
エリーゼは良く分からなかったが、ケリーが言うのなら確かなのだろう。
「すこし、横になられますか? ドレスだけでも、楽なものに着替えたほうが良いかと」
「ありがとう、そうするわ……、ケリー」
ケリーがエリーゼの服の用意をするため、クローゼットに入っていった。
エリーゼは、髪飾りも外そうと思い、ドレッサーの前に座った。
カミラの侍女たちが用意した髪飾りは、キラキラした美しい石があしらってあって、ため息が出るほど綺麗で思わず見入ってしまう品だった。
紫はアメジストか、青はブルートパーズか、そしてひと際輝くのはダイヤモンドか、髪飾りにこんな石を惜しげもなく用意する王太子妃は、スケールの大きい人だと思った。
「エリーゼ様……」
ケリーに呼ばれて、鏡越しに背後にいる彼女を見た瞬間、エリーゼは戦慄した。
ケリーは、短剣を振りかざし、エリーゼのすぐ後ろに立っていた。
あっと思った瞬間、エリーゼの肩口に短剣が振り下ろされていた。
「いっ……!」
声になったか、なっていないか分からない位、あっという間にエリーゼは刺されていた。肩に引きつるような痛みが走り、エリーゼは呻いた。
「うぅ……、け、けり……」
「幸福の頂点にいるまま、終わらせてあげます。少しずつ切り刻んで、ブルーノ様の痛みを、無念を、思い知りなさい」
「ぶ……ぶる……の?」
「エリーゼ様が余計なことをしなければ、あの方と私は幸福になれるはずだったのに……」
「しょ、召喚の、こと……、しって……?」
「えぇ……、彼のために私がエリーゼ様に口添えしました。エリーゼ様の体に転生者の魂が定着して、とてもとても彼は喜んで、私のことも妻に迎えると約束してくれていたというのに!」
「……」
「なぜ、彼が殺されなければいけなかったのでしょう? 誰もやったことのない召喚術を見事にやってのけた、すごい方だったのに……」
「ケリ……、あなた、ブルーノに、騙されて……」
「騙されてなんていない!!! 私は、あの方に愛されていたし! 愛していたわ!!!」
コン、コン。
扉がノックされた。
「エリーゼ、どうした?」
ケリーの叫び声に、ラルフが反応して呼び掛けてきた。
「ら、るふ……、ぅう……さま……」
エリーゼは絞り出すように、声を出した。
ドン、ドンっと、扉に体当りする様な音がして、バァンと扉開き、ラルフが飛びこんできた。
エリーゼの肩に突き立てられた短剣を見て、ラルフが怒り殺気を放った。
「ケリー!! 貴様、何を!!!」
ケリーにラルフが手をかけようとした時、ラルフの体が不自然に弾かれ、すごい勢いで部屋の壁に打ち付けられた。
「かはぁっ……」
ラルフが血を吐いた。
ケリーは、その様子を見て満足そうに笑った。
「自分がかけた保護魔法に攻撃された気分はどう? 本当に、間抜けなことね。あなたのおかげで、私はあらゆる悪意から守られている。強いはずのあなたでさえ、私を傷つけることはできない」
ラルフは、もう一度血を吐き、弱々しく呼吸して、倒れてしまう。
「ら、るふ……」
エリーゼは、涙を流しながら、必死にラルフの名を呼んだ。
「ケリー、こんな、こと、何にも……なら、ない……」
「大いに意味はあるわ。私は、あの方が殺されるのを見たわ。同じことを、あなたにも味わってもらうのよ」
このまま、ラルフを放っておくと死んでしまうという恐怖に、エリーゼは包まれた。
「ケリー、ケリ……、らるふ、さまを、た……すけ、て」
「嫌よ、彼が死ぬの、ここで見届けて」
「いやっ……いや……、らるふっ……」
「エリーゼ様、私も同じように苦しんだの。ブルーノがいない今、彼のためにも、私はあなたを幸福にさせない!」
ケリーはそう言って、エリーゼの肩に挿した短剣に再び力を入れた。
痛みに泣き叫ぶエリーゼの声が、邸中に響いた。
自らの保護魔法の威力を体感したラルフ。
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