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男爵令嬢、家に帰る

本日更新、一話目です。

 エリーゼが王太子宮に戻って、数日が過ぎた。

 ブルーノの別荘から救い出された時から襲われていた体調不良も、王族の専属医師による、適切な食事方法などを取り入れたことにより改善され、王太子の子どもたちと遊ぶくらいなら、問題なく立ち回れるようになるまで回復していた。


 そんな時、カミラと共にエリーゼは王太子の執務室に呼び出された。

 応接用のソファに、カミラと並んで座り、向かいに王太子が座っていた。


「シュピーゲル嬢、体調が良くなったようで安心したよ。大丈夫かい?」


 王太子が、少し表情を緩ませて訊いてきた。


「はい、良いお医者様を手配くださり、ありがとうございました」

「当然のことだよ、君はもっと人に頼ることを覚えた方が良い」

「はい……」


「さて、本題だが、先日の誘拐事件について、王国の判断が固まったので知らせておく。まず、ブルーノ・クライスト子爵令息だが、禁術使用と殺人、反逆罪、細かく言うとまだ罪状が尽きないのだが割愛する。それらの罪に関する証拠が確認されたため、死刑が確定し、速やかに執行された。聖女の真由理様は、ブルーノとの犯行の関りがなかったことが証明されたが、『妖精の愛し子』に禁術を施すことを黙認しようとした罪があるとされた。よって、彼女は王城内の塔に永久幽閉すると決定した」


「ブルーノ、もう、亡くなったのですか?」

「あぁ、先日、大罪人として、公開処刑した」

「……」


 あまりにも王太子があっさり公開処刑と口にしたことに、エリーゼはショックを受けた。エリーゼの動揺を、王太子は一蹴して話し続けた。


「ブルーノの罪は、それほど罪深かった。王国の秩序を乱した点で、過去に類を見ないほど、酷いものだったから、当然の報いなのだよ」

「……」

「それと、もう一つ、王国の都合で君を長い間王太子宮に留め置いてきたが、一度、シュピーゲル家に戻り、君の家族に元気な姿を見せてはどうかと思うのだが……」


「私、家に帰れるのですか?」

「期待させて悪いが、ずっとというわけではない。妖精王との顔合わせもまだだしな。王太子宮に戻ってくる前提で、一時的に帰るということだ。そうだな、二日ほど、警備をつけるから、帰ってみるかい?」


「はい、帰りたいです」


 エリーゼに迷いはなかった。ここの所寝不足で、帰って自室のベッドでなら、眠れる気がした。数日でも、しっかり眠れる環境になるなら帰ってみたかった。


「そう言うだろうと思って、すでに手配してある。今日の午後に迎えを遣るから、準備しておくように」

「かしこまりました」


「エリーゼ、真っ直ぐ私の居室に来てね」


 カミラが、エリーゼに言った。


「なぜですか?」

「思いっきり綺麗に磨き上げて、送り出してあげる。家族の方を驚かせてあげましょう!」

「カミラ、頼んだよ」

「はい! 旦那様、お任せください!」

「……」


 そして、問答無用でカミラ様の居室へ、エリーゼは連行されていき、彼女付きの侍女たちに念入りに手入れされて、着飾られた。


(前回同様に、本気エステ、気持ちよかったです!)


「家に帰るだけなのに、このように美しくする必要あるのですか?」

「ある、ある! 王族の権威を示して、あなたを貶める気を削ぐのよ。家族は一番厄介な人間だからね。牽制とかしとかないと……ね」


 カミラの言葉に、彼女はシュピーゲル家の現状を知っていると、エリーゼは察した。カミラはエリーゼの家についてはいけないが、エリーゼを守る力になろうとしてくれている。カミラを始め、みんなエリーゼを思い、このように力を貸してくれた。


「カミラ様、侍女のみなさま。本当にありがとうございました」


 エリーゼは感激して、胸が熱くなった。

 優しく笑いかけてくれる人たちに囲まれているなんて、幸福なことだと、エリーゼの心に深く深く刻まれた。


 シュピーゲル家についてきてくれたのは、ラルフと初めて会う魔法騎士と、何と王弟のアンドレアスであった。


 先触れでシュピーゲル家に知らされているだろうが、まさか王族を伴って帰って来るとは、大騒ぎで迎える準備をしているだろうと思った。


「アンドレアス様、ラルフ様、それと――――」


 エリーゼがラルフと共にいる騎士に目を遣ると、騎士は胸に手を遣り、礼をした。


「マルコ・バーダーです。ラルフ副長の部下です」

「バーダー様、宜しくお願いします」


 ラルフが、間髪入れず言う。


「エリーゼ、バーダーではなくマルコで、呼びやすいからそれでいいだろ?」

「はい、マルコ様ですね」

「エリーゼ様、宜しくお願いします」

「はい」


「エリーゼ、今日はまた一段と麗しいな」

「そんな、ありがとうございます。アンドレアス様、宜しくお願い申し上げます」


「この中で君をエスコートするのは、私かな?」

「そ……そうですね」


 エリーゼはラルフをちらりと見たが、彼は王弟の言葉に反応することなく、じっと控えていた。

 ここでラルフが王弟を押しのけてエスコートすることはないとは、頭では理解しているが、無表情でスルーされるのは地味に傷ついた。ラルフへの想いを自覚しているエリーゼの心境は複雑だった。

 しかし、ここでラルフが良いと言えるはずもなく、エリーゼはアンドレアスにエスコートされ、馬車に乗り込んだ。客車内は、エリーゼとアンドレアス二人だけが座り、ラルフとマルコは馬に乗って馬車の周りを警戒していた。


 ふと窓の外を見ると、ラルフが黒毛の馬に乗っている。初めて出会った時に乗っていた馬と同じなような気がした。


(やっぱり、専用軍馬ってとこなのかしら……、サラッと乗りこなしてちょっと格好いいじゃない)


 ラルフは周りを警戒しているからか、エリーゼとちっとも目が合わない。

 彼のそういう仕事熱心なところも、恋心が加われば堪らない魅力に見えてしまうのだから、厄介なことだとエリーゼは思う。


「ラルフが気になる? エリーゼ」

「ふぇっ!? いいえっ、全くっ」

「君たちは、私の所に来た時もべったり一緒だったから、今日は微妙な距離があって寂しいのかな?」


「――アンドレアス様は、あの時の猫がラルフ様だとご存じだったのですか?」

「毛色と瞳の色で、そうかなと思っただけで確信してなかったよ。後日、王太子から色々話を聞いて、君とラルフのことも聞いたよ」

「そうだったのですね」


(王太子殿下! アンドレアス様にどんな話を!? 詳しく聞きたいけど、怖くて訊けなーーーーい!!!)


「ラルフもレオポルトも、子どものころから色々な動物に変身するのに夢中でね。たまに悪戯がすぎて、二人を怒ったこともあるんだよ」

「レオポルト殿下は、確かにすぐハムスターになりがちですよね。そして、すぐ証拠を押さえてくるという。不法侵入で、そのうちしょっ引かれそうなとこ心配ですよね。言って聞いてくれる人ではないですから」


「そうだね、だから、ラルフがレオポルトの傍にいることは大事なことなんだよ」

「そういや、今日はレオポルト殿下はラルフ様と別行動なんですね」

「えっ、そうだね。今日、彼は別任務らしいな」

「やらかさないことを、祈っておきます」

「……エリーゼは、レオポルトに辛辣だねぇ……」

「私は、何度もあの方に騙されていますので、私は敵に認定しているのです」

「……」

「すみません、不敬ですよね。お忘れください」

「いや、私も昔、悪戯でひどい目に遭わされている。だから、君の気持が少しわかる」


「「……」」


 レオポルトの破天荒ぶりに、振り回されたという、奇妙な連帯感に包まれたとき、シュピーゲル家に馬車が着いた。


 馬車を降りると、びっくりするほど、美しく着飾ったベルタが立っていた。

 その後ろには、ケリーとブラウン医師が控えていた。

 ベルタの表情は生き生きとしており、心なしか若く見えた。


レオポルトのやらかしネタの引き出しが多いアンドレアス。


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