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男爵令嬢、恋心を自覚する

 目の前の景色が掻き消えたと思ったら、もうそこは王太子宮の入り口前だった。


「エリーゼ、大丈夫か?」

「――――ふぅぉぉぉっ……、て、て、転移魔ぉっっ! 初めてですっ」


 エリーゼは、一度はやって見たかった魔法第一位の転移魔法の初体験に、テンションはブチ上がっていた。


「お……、おう……」

「すごい、すごい、すごーいっ!」

「……」

「え? ラルフ様、引いてます?」

「――――若干……」


(引いてるラルフ様、意外と良い)


「ふふふっ、珍しいものを見ました! ありがとうございます」

「……礼を言われると、反応に困る」

「萌えたら、感謝するのは当たり前です! それに……、私のピンチに助けに来てくれて、ありがとうございました」


「当然のことだ」

「ふふっ、その当然を実行できるあなたはすごい人ですね!」


 エリーゼが、褒めまくるとラルフの耳の上辺りが赤く染まった。どうやら、盛大に照れているらしく、ラルフの年齢らしい控えめな可愛い反応が堪らないとエリーゼは悶えた。


「エリ――――」

「エリーゼ!!」


 カミラが二人の姿を見つけて、大声で叫んだ。

 駆け寄ってきて、エリーゼの体をしっかりと抱きしめた。


「もう、心配したのよ! 無事で良かった……」

「カミラ様、ご心配おかけして、申し訳ありませんでした」

「本当に! あなたが知らない男に捕まったと、子どもたちから聞いた時は、生きた心地がしなかったわよぉ……」


「姉上……、そのくらいで……」

「あら? ラフィ、いたの」

「いますよ、エリーゼは疲れています。早く、休ませてやりたい」

「分かっているわよぉ、エリーゼと違って可愛くない弟ね」

「そうですね、その類の知識は養って来ていませんから」


(可愛いの知識を養ってないって……、真面目にうまいこと言うな!)


 エリーゼは、脳内でラルフに座布団を進呈したら、一気に笑いがこみ上げてきた。ラルフが真面目な顔で「可愛いとは」という本を真面目に読む妄想までしてしまった。


「ふはははははっ、おもしろっ……、可愛いの知識ってなんだよ!」


 エリーゼは、一人ツッコミを決めて大爆笑した。

 カミラも、つられて笑い、ラルフも苦笑いした。


「エリーゼ、笑えて良かった。色々考えてしまうだろうが、今はとにかく休め。疲れていると、碌なことをしか考えつかんからな」

「はい、ラルフ様。お世話になりました」

「部屋に食事を持っていくように言うわ。エリーゼ、食事は食べれそうかしら?」

「それでは、パン一つと野菜スープ一杯をお願いできますか?」

「分かったわ」

「カミラ様、ありがとうございます」

「こちらこそ、今日は子供たちを守ってくれてありがとう」


 カミラとラルフに一礼して、エリーゼは王太子宮内のあてがわれている部屋へ戻った。ベッドに誘われる様に横になると、急に疲労感が襲ってきて抗えずに目を閉じた。そして、そのまま眠りについてしまい、食事を届けに来たハンナやカミラが起こそうとしても起きず、医者を急遽呼んだりと大騒ぎしたらしい。翌日、ようやくエリーゼが目覚めた時に、寝不足で傍らに控えていたハンナとカミラに事情を聞いて、エリーゼは二人に心配かけてしまったことを平謝りした。


「エリーゼ、あなたはしばらく休みとします」

「ええ~~~~!?」

「ええ~、じゃありません! そもそも、『妖精の愛し子』の候補者を使用人として働かせることは、王族の一員として認められないことなのよ」

「わ、私、クビですかぁ……?」

「う、そんな弱々しい声でショックな顔をしないで。いじめているのではないのよ。王族の専属医師の判断でもあるのよ」


「お医者さまが?」

「急激な体質変化が、あなたの体の中で起こっていて、あなたはその変化についていけてないようなの。眠りが深いのも、食事を取りたくなくなるのも、そのせいらしいのよ。アンドレアス様の奥様のデボラ様を診察していたことがある医師が言うのだから、信用していいわ。とにかく、休養することが、必要ならしい」


「私、『妖精の愛し子』になってきているんですね」

「自覚があるの?」

「お子様たちとクローバー探しに行った時、「ここだよ」ってクローバーの声を聞いたのです……」

「本当!? すごいわね……」

「……」


「エリーゼ、そのギフトは素晴らしいものよ。急に全てを理解するのは無理だと思うけど、少しづつ受け入れていって……」

「……はい……」


「食欲は、ある? 医師監修の料理をいくつか教えてもらったから、食べやすいものを用意できるわよ?」


 昨日の朝食べたきりで、エリーゼは何も口にしていなかった。けれど、飢えるような気分にはなっていない。食べたいという欲求が湧いてこないのだ。


「あまり、お腹がすいたって思っていないのですが、食べたほうがいいのでしょうか?」

「医師は、一日一食は食べたほうが良いと言っていたわ。人の体の生命維持に必要な分は取る必要があるとも言われてた」

「それでは、少しだけ、用意してもらってもいいですか? 一日、一食なら、朝ごはんの時間に摂りたいです。


「分かったわ、用意させるわ」

「……カミラ様、迷惑かけてすみません」

「迷惑ですって!? それは違うわよ、エリーゼ。あなたは『妖精の愛し子』の覚醒を、私がまじかでみることができる喜びを感じているのよ。とてもとても光栄なことで、誰にも代わってあげないんだから。あなたは、どーーーんと構えてお世話されてていいのよ!」


「ぅえっ……、良いのですか?」

「良いのよ! むしろ、現実でも妹になってくれていいわよ!」


「えっと……、妹、とは?」

「ラルフの嫁になれば、私は義姉よ!」

「……」


 カミラのいきなり飛躍した妄想披露に、エリーゼは思考停止した。


「あら、反応悪いわね……、あなたたち、自然に笑い合ってお似合いだなって、昨日思ったのに……」

「……」


「じゃ、レオポルト殿下とアンドレアス殿下との結婚とかって考えられる?」

「いや、ありえません。二人とも、性格が合わないと思います」


 レオポルト殿下は人を平気で騙そうとするところが無理だし、アンドレアス殿下は頑固過ぎてついて行けないと思う。


「ほら~~、答えはもう出てるわよね?」

「……」


 だから、なぜその三択なのだろうかと訊きたかったが、藪蛇になりそうなので踏みとどまった。


「エリーゼ、これからあなたを嫁にしたいって男が、沢山、そりゃぁもう沢山湧いてくるから、本当に好きな人がいるなら、早く決断した方がいいのよ」


「私が、ラルフ様と……結婚!?」


 想像しただけで、顔が赤くなった。

 そして想像してみて、そうなったら嬉しいと思う自分がいることに気づき、エリーゼは戸惑った。


(私、ラルフ様が好きなんだ……)


 芽生えた気持ちが、とても大切なものに思えた。


「カミラ様、私、ラルフ様と会いたいです」

「分かったわ! ラルフが即落ちするくらい、可愛く仕上げて送り出してあげる」

「ふふ、お願いします」


「でも、まずは体調を整えてからね。しっかり食べて、休むこと」

「はい、カミラ様」


 エリーゼは恋心の再来に、胸をときめかせていた。



エリーゼのお眼鏡にかなわず、レオポルトとアンドレアス撃沈、残念!


ブックマーク登録、評価等いただき誠にありがとうございます。

励みにしております!

かの感染症が我が家にも初上陸しまして、数日、更新できませんでした。

やっと、本日から通常通りの生活が戻ってきました。


次回も、よろしくお願いいたします。


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