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転生聖女の本心

「何を……、言っているんだ……そんな、こと……」


 アンドレアスは、戸惑いの色を濃くして呟いた。


「この目で見たのよ! 魔法研究所にエリーゼが来た時、私、コッソリ見ていたの!! ブルーノは気が付いていたみたいだけれど、お前はエリーゼに夢中で気が付かなかったようね。仕事もせずに、エリーゼの姿を目で追って、鼻の下を伸ばしていたくせに、自覚ないって……、まさに、恋する男そのままだったわよ」

「……」


「デボラと同じギフト持ちである、美しいあの子が欲しいと、あの時のお前は全身で語っていたわ!」

「馬鹿言うな、彼女は親と子くらいの年の差がある」

「関係ないわ! いくつ差があろうが、男と女よ」

「……」


(はい、傍観者エリーゼです。拘束されて繋がれたままですが、ちゃんとここにいますよ! 私をダシにして、真由理様とアンドレアス様が言い合っているのを、じっと聞いていました。私の意志を無視して進められる話は、ちょっと真実とズレていていたたまれない気分になりますねー)


「真由理様は、私に嫉妬していますか?」


 エリーゼは、思わず口にしてしまっていた。

 すぐに反応したのは、真由理だった。


「何だって……? そこの小娘」


 真由理が、エリーゼをギロリと睨みつけた。

 しかし、以前のような得体の知れぬ恐怖を与えるものでは無くなっていた。

 真由理が吐露した言葉を聞いた後だからこそ、彼女の内に隠された心を、エリーゼは確かにとらえた気がしていた。


「真由理様、変な小細工しても、アンドレアス様には逆効果ですよ。真由理様も引っ込みがつかなくなって、どうしていいか分からなくなっているの、いい加減自覚しましょうよ?」


「知った風に言わないで! 何も知らないくせに! この小娘!」

「私の中身が、小娘でないことは真由理様もご存じですよね? 何も知らないからこそ、正確に分析できるというところもあります」

「……」


 エリーゼが、平坦な口調で感情を込めずにいうと、真由理は黙ってしまった。エリーゼの予想が、間違っていないとその反応は示していた。


「真由理様、あなたはアンドレアス様のことを一途に想われているのだと、私は感じています。国王陛下の側妃を願い出たことは、アンドレアス様の愛を確かめたくてやったのでしょう? しかし、アンドレアス様は、真由理様の愛を全く信じないで、一方的に会うことを止め、一切の関係を絶ってしまった。そこで、あなたはアンドレアス様を再び振り向かせるために必死で、手段を選ばなくなっていった。そして、ブルーノの誘いに乗って、妊娠できる体になって、アンドレアス様の子を産めば、必ず自分の元へ戻って来てくれると、そう考えたのでしょう?」


「――――真由理が……私と……? 陛下の子どもが欲しいと言っていたではないか……」


 アンドレアスは、まだエリーゼの話が受け入れられないようだった。

 真由理が否定する声を上げていないのだから、真実に違いないのに、この男は本当に頑固でまどろっこしい性格の様だと、エリーゼは嘆息した。


「アンドレアス様は、女心をまるで解っていないようですね。真由理様と陛下は、その、いわゆる白い結婚の関係であることはご存じですよね?」


 白い結婚とは、男女の肉体関係を持たない婚姻を表現する言葉だ。


「知って、いる……」


「陛下とは白い結婚の関係なのに、先程真由理様は、あなたとの男女の交わりがあったとおっしゃっていました。真由理様は、アンドレアス様だけしか体を許していないのです。まさに、真由理様がアンドレアス様を一途に想いを寄せている証拠であると思います。陛下の子が欲しいというのは、アンドレアス様を嫉妬させるためだけの言葉です。真由理様は、本当に陛下の子が欲しいとは思っていないのですよ」


「真由理が……私を……、まだ愛している……のか……?」


 アンドレアス様の往生際の悪い態度に、エリーゼは怒りすら覚えた。


「真由理様! これだけ言ってまだ信じない朴念仁に、あなたからはっきり言ってやった方が良いですよ。真由理様の心の内を全部ぶちまけてやって下さい!」

「エリーゼ、あなたって子は……」


 エリーゼの的確な言葉に、真由理はやっと理解してくれた人に出会った喜びを露わにしていた。これまでの酷い行いを忘れて欲しくなくて、エリーゼは真由理に厳しい顔で言った。


「私は、あなたの全てを許した訳ではありません。でも、アンドレアス様があまりにも鈍くていらっしゃるので、真由理様を少し不憫に思っただけです。自らの失策とはいえ、好きな人に離れていかれるのは辛いですね。私も経験あるので、解ります」


 真由理を真っ直ぐ見ると、彼女も真剣な眼差しを返してくれた。

 そして、真由理はアンドレアスと再び向き合った。


「アンドレアス……」

「真由理……、エリーゼの言ったことは、まことか?」

「そうよ、この世界で好きになった人は、アンドレアス、あなただけよ」


「そう、……か」と、アンドレアスが真由理の想いを受け止めた。


「そうよ」と、真由理も険の取れた顔をして、柔らかに微笑んだ。


「君のそんな顔、久しぶりに見たよ」

「!」


 照れる真由理の顔は、美しかった。王国が誇る能力を持つ聖女が、戻ってきた瞬間だった。



 その時、タイミングを見計らっていたかのように、レオポルト率いる魔法騎士たちが、扉を開けてなだれ込んできた。


「ブルーノを連れていけ」


 レオポルトが騎士たちに指示し、ラルフによって失神させられているブルーノは、部屋から運び出されて行った。


「聖女様、あなたもこれからは王国の法に則って、裁かれることになります。これから、我々の指示に従っていただきます」

「好きにするといいわ」


 真由理は、全く興味がない素振りで言い捨てた。


「魔力抑制する魔道具をつけさせていただきます。これから、王族用の拘束塔へ行っていただきます。その後のことは、そのつどお知らせします」

「……」


 真由理は、もう何も言わなかった。ただ、騎士たちにされるがまま、魔道具を首に装着されて、沢山の騎士に囲まれて、連れていかれた。


「ラフィ、シュピーゲル嬢を王太子宮まで送ってやってくれ」

「はい、了解しました」


「叔父上、私と共に、聴取に協力いただけますか?」

「あぁ、同行しよう」


 レオポルトとアンドレアスは、転移魔法を発動させ、一瞬で何処かへと消えて行った。


「エリーゼ、手首の拘束を取ろう。すぐに外してやれなくて、すまなかった」

「いいえ、ブルーノ拘束が優先任務ですもの。仕方のないことです」


 ラルフが拘束具の錠前に触れ、魔力を流すと,カチャと乾いた音がして鍵が外れた。革の拘束具を外すと、エリーゼの手首が赤く擦り切れていた。


「すまない、痛かったな」


 ラルフはそう言って、両手でエリーゼの手首を優しく包みこみ、治癒魔法をかけた。

 出会った時、頬の傷を治してくれた時と同じ、じわっとした温かさを感じた。

 あっという間に傷はなくなり、白い細い手首に治っていた。


「ありがとうございます、ラルフ様」

「いや……」

「……」

「――――王太子宮へ送るよ。転移するから、手を繋いでいいか?」

「へっ! は、はひぃっ……、どうぞ」


 エリーゼが照れながら手を差し出すと、ラルフはふわっと笑った。

 そして、しっかりと指を絡めるようにして握られ、エリーゼの心臓が跳ねあがった。


(これって……、恋人つなぎじゃない!? 離れない様にしっかりつながるためなの? それとも、他に意味があったりするの!?)


 エリーゼが、ぐるぐると考えを巡らせていると知らないラルフは、サクッと転移魔法を発動させて、二人は王太子宮へ転移した。


痴話げんかを見事に治めたエリーゼを、密かに尊敬するラルフ。


ブックマーク登録、評価等いただき誠にありがとうございます。

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次回も、よろしくお願いいたします。

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