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男爵令嬢、侍女デビュー

 ガッチガチに結界を張り直したカミラは、話をつけてくると言って部屋を出て行った。そして、一時間くらいたった頃、再びエリーゼの元へ戻ってきた。


「エリーゼ、この部屋は王城の客室だから、男女問わず使用できるし、出入りも自由にもできる。ここは、聖女様があなたに刺客を送ってくる危険があるの。だから、一旦、私の住む離宮にあなたを連れて行こうと思っているの」

「離宮……ですか?」


「えぇ、今は王太子宮として使用されていて、王太子関係者しか立ち入る出来ないようになっているの。ここより、あなたを守りやすいし、私もいる。これからのことは、王太子宮に移ってから考えましょう」


 カミラは、この短時間でここまでの対応してくれたのだ。

 初対面のエリーゼに、破格の対応をしてくれていると感じた。


「――カミラ様と、ご一緒できるなら、心強いです」

「信用してもらえて、嬉しいわ」


(カミラ様は今のところ敵ではないから、信じるしかないわ。王城の味方は、一人でも多い方が良いもの……)


 エリーゼは、カミラに心を許したわけではない。人は容易く裏切るものだ。出会ったばかりの人を信じるほど、エリーゼはおめでたい性格ではない。

 今エリーゼが信じているのは、ラルフに施された保護魔法だけだった。命綱のような保護魔法だけが、エリーゼを冷静に保つ手助けになっていた。


「カミラ様、聖女様は、私に何を仕掛けてくるとお考えですか?」


「私が、聖女様の願いを叶えるなら、まず、あなたを陛下の後宮に閉じ込めるわね。そして、あなたの姿を別の女に変えて、陛下とあなたに媚薬を盛ってことに及ばせるってところかしら。陛下も、新たな転生者のあなたが、未成年だとご存じだから、そのままの姿では無体は働かないわ。そのための変身工作を、絶対してくるでしょうね」


「うう……、生々しい……」

「自分で訊いておいて、それはないわ。エリーゼ」


 カミラが、窘めるような声で呟いた。


「申し訳ありません、カミラ様」

「あなたも、こんなことになるとは露ほどにも思わなかったのだろうから、受け入れがたいだろうけど、最悪の事態を考えることは大切なの。あなたの立場は、厳しいものだという自覚を持ちなさい」


「だからね、誰に何と言われても、後宮に行くのはもっての外だし、王太子宮以外へ行くことは危険だってことは覚えておいて。ここに、長居させたくないから、行く用意をしましょう」


 カミラはそう言って、エリーゼに魔法をかけた。エリーゼの皮膚が細かい光で覆われて、全身が包まれた。


「これは……?」


「髪と瞳の色を変えるだけでも、侍女服を着れば、別人になるわ。変装して、今から王太子宮に行くわよ」


 壁にあった鏡を覗き込むと、髪はブルネットに、瞳は茶色になっていて驚いた。顔の作りは同じなのに、エリーゼが普段しない、髪をおだんごにして一つにまとめると別人のような印象がした。


 王城に勤める侍女の制服を、カミラは魔法でどこかから取り出した。

 その光景を見た時、テッテレー!と、脳内で聞き慣れた道具を紹介する時の音楽が流れた。


(魔法って、本当に素晴らしい。まるで、四次元○ケットみたいね! 中世の格好をしているのに、カミラ様が未来人に見えるとは、視界がバグっているわね……)


 エリーゼが服を着替えて、カミラの後について部屋を出た。


「遅れずに、ついてきなさい」

「はい」


 王城の廊下を抜け、棟と棟とを結ぶ王太子宮へ続く中庭へ出た。中庭は、他の建物とも中継路になっているせいか、人通りが多く、カミラの姿を見た文官や騎士たちがみんな立ち止まり頭を下げていく。エリーゼもそのたびに立ち止まり、一礼した後、カミラの後を追うを繰り返した。


 しばらく進んだところで、カミラが舌打ちをして、立ち止まった。


「カミラ様、今から王太子宮へお帰りですか?」

「……ええ、そうよ。――侍女長……」


「――――その者は? 見かけない顔ですが……」


 侍女長がエリーゼの方へ近づこうとしたとき、カミラが前に立ちはだかった。


「ええ、遠縁の子で、行儀見習いで呼んでみたの。身元は私が保証するわ、何か問題が?」

「いえ……、ですが、できれば事前に一言いただきたかったですわ」


 侍女長は、食い下がる様にカミラに意見した。

 彼女は、身分がある程度高い貴族出身なのか、カミラを前にしても怯む様子はない。


「ごく短期で帰す予定の子よ。侍女長、察してもらえないかしら?」


 カミラが一切の説明を拒否した。

 王太子妃の権力を見せつけるように、毅然とした態度をカミラは崩さない。


「――――出過ぎたことを申し上げました。お許しください」


 侍女長は、これ以上の追及はカミラを怒らせると思ったのかあっさり引いた。


「そうね、二度目はないわ。肝に命じておきなさい」


 カミラは、牽制することを忘れない。

 侍女長が女官を束ねる役職だとしても、王太子妃であるカミラに対して女官のしきたりを説くのは、不敬なことだ。


「はい、申し訳ございませんでした」


 侍女長は、不満を押し殺した顔で一礼し、道を譲った。


「行くわよ」 カミラが、こちらを見ずに強く言った。


「はい」 エリーゼも返事をして、カミラを追う。


 侍女長とすれ違う時、睨むような視線で見られたが、エリーゼは見なかった振りをして通り過ぎた。


(あああ……、カミラ様は私をかばって下さったのだけれど、あんなしつこそうな人に喧嘩売っちゃって、怖かったです~~。それにしても、カミラ様は堂々とされていて、颯爽と歩く姿は本当に美しいです。勇ましいとことも素敵です!)


 それから、誰にも声をかけられることなく、無事にエリーゼ達は、王太子宮へたどり着いたのであった。


 王太子宮のサロンの通され、エリーゼはカミラの向かいの位置に座る様に促されてソファに腰を下ろした。


「エリーゼ、あなたは私の侍女として、常に、王太子宮内では一緒にいてもらうわ」

「はい、かしこまりました」


 カミラと話をしていると、開いたままにしてあるドアの外で、小さな子どもが二人、こちらを覗いていた。

 二人とも金髪で瞳の色は青だった。顔立ちは似ているが、男らしいキリッとした雰囲気の子と、優し気な甘い瞳が印象的な子という対称的なイメージの二人であった。


「私の子どもたちで、アーデルベルトとアルマというの。双子よ」


 カミラが手招きすると、双子はぱあぁっと輝くような笑顔になって、カミラの元へ走りこんできた。


「こちらが、アーデルベルトで、男の子。こちらが、アルマ、女の子よ」


(優し気で甘めの顔立ちの子が、男の子のアーデルベルト様で、凛々しい感じの方が女の子のアルマ様なんだ……。性別逆転の見た目のギャップが、超ツボにはまります!!! どちらもお顔は整っていて、カミラ様にどことなく似ている、美男美女のお子さんたちですね!)


「アーデルベルト、でしゅ」


(恥ずかしそうに、顔を赤らめながら名乗る姿が、とても可愛らしい! 舌っ足らずな言葉遣いも、たまらんです!)


「アルマよ! はじめまして」


(こちらは、カミラ様直伝の堂々とした姿ね。はきはきしているけど、粗野じゃない振る舞いも流石です! 同性にも好かれるタイプのお嬢様です!)


「エリーゼです。よろしくお願い申し上げます」


 エリーゼが微笑むと、二人は笑顔を返してくれた。


(はあぁっ……、さすが王子と王女。笑顔に神々しさがにじみ出ています!)


「良かった、相性は良さそうね……」


 様子を見守っていたカミラが、満足そうに言った。


「この二人、人見知り激しいのよ。なかなか任せられる人がいなくて困っていたの」

「そうなんですか?」


 愛想はすごくいい印象だったので、二人が人見知りだと聞いて、エリーゼは驚いた。


「えぇ、乳母一人では、二人の面倒は大変で……。エリーゼ、この子たちの遊び相手をしてもらってもいいかしら?」

「はい! 私でよければ」


「ありがとう、エリーゼ」


 こうして、王太子宮で、エリーゼの侍女生活が始まったのであった。




 





初めての侍女服に、テンション上がるエリーゼ。


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