イーゼンブルクの子どもたち
イーゼンブルク伯爵邸のある昼下がりの時のこと。
エリーゼは、眼福の光景をうっとりと眺めていた。
「ディア、ハチミツ入れる?」
「お願い、ありがとう。ルーク」
目の前の姉弟は、ため息が出るほど美しい。
クラウディアの弟、ルークは姉と同じ黒髪と黒い目で、顔立ちは姉と比べて甘い顔をしている。しかし、クラウディアがルークの年齢のころは同じ雰囲気の顔立ちだったに違いないと、エリーゼは独りで確信する。
「エリーゼ様も、ハチミツをお入れしましょうか?」
「はっ……、はひぃっ」
ふわんと可憐に笑うルークにエリーゼの萌えスイッチは、激しく連打される。
何これ、何これ、何これ、何これ~~~~!!!
ルークの前では、クラウディア様がデレっ放しではないかぁっ!!!
尊いっ、尊いですっ!!!!!
「はい、エリーゼ様。どうぞ」
「ありがとうございます……、ルーク様……」
エリーゼは、心の中で悶絶しながら、震えるながら一口、紅茶を飲む。
「甘さは、大丈夫?」
「ひゃいっ、だ、だだだ、だいじょうぶですぅ……」
「ディアは?」
「美味しいわ、ありがとう。ルーク」
あまっ……、甘すぎるっ。味はもはや分からんけど、色々な意味でおいしいですぅ~~~~。
美少年が、笑顔で給仕してくれた紅茶は格別です!
お茶会とまではいかないけれど、それに似た雰囲気は充分味わえる。
ああ~~~~、幸せ~~~~。贅沢だわぁ……。
ルーク様は、大体、12、3歳って感じで、子供でも大人でもない微妙な年ごろの男の子が、姉と仲良くするって、可愛いしかないわ!!
こんな弟、私も欲しかった。
もう、もう、もう、瞳孔開いてしまっている自信がありますよ!!!
「あっ――……」
突然、クラウディア様が声をあげた。エリーゼは反射的に彼女の方を見て、その顔に驚いた。
彼女の鼻から、真っ赤な血が流れ落ちていたからだ。
止血をするため、エリーゼがクラウディアの鼻に触れようとすると、ルークに制止された。
「私が、やります」
ルークは手慣れたように、クラウディアの鼻にハンカチを優しく当てた。
そして、鼻頭を指でつまみ、圧迫止血している。
クラウディアも、黙ってルークの手当てを受けていた。
「ディア、ここ自分で押さえて。すぐ止まるよ、大丈夫」
ルークは、クラウディアを元気づける言葉も忘れない。
パーフェクトな弟だと、エリーゼは見守った。
「エリーゼ様、驚かせてすみません。少しすれば、落ち着きますので」
「私のことは、お気遣いなく。クラウディア様をお願いします」
「うん、あなたは優しいね」
「……」
はうあっ!!! 何かに射抜かれました。
クラウディア様のツンデレも刺さりまくりでしたが、ルーク様はスパダリの片鱗がもうありまして、末恐ろしくなります。
私まで鼻血が出そうなほど、興奮してしまいますっ!!!
ルーク様の言う通り、しばらくすると、クラウディアの鼻血は止まった。
彼女が手にしたハンカチが、痛々しい。
「エリーゼ、嫌なものを見せたわね」
「そんな……、気にしないでください」
強がっているが、流石にクラウディアの顔色は悪い。青白い肌が、余計に弱々しくみえた。
その時、クラウディアの侍女がクラウディアのところにやってきた。
「お客様がいらしたそうです。旦那様が、サロンに来るようにと仰せです」
「どなたかしら?」
「ラルフ・フォン・アーレンベルク侯爵令息様です」
「「「!!!」」」
私も含めて、クラウディアとルークも驚いた顔をしていた。
クラウディアは、すぐに平静の無表情に戻り、侍女に言った。
「――すぐに、行くわ」
そして、エリーゼとルークに向き直って、平坦な声で言う。
「ルーク、エリーゼ、失礼するわね。ルーク、エリーゼをよろしくお願いします」
それを聞いたルークが、一瞬微妙な顔をしたのをエリーゼは見てしまった。ルークと二人きりで残され、何となく訊いてしまった。
「ルーク様は、クラウディア様の結婚は賛成ですか?」
「そうだね……、彼女がこの家を出て行けるという点では、賛成しているよ」
「それは、反対している点もあると?」
「……私には、彼女をここにとどめ幸せにする力がない。だから、反対する資格はないのだよ」
「それは、あなたが子供だからですか?」
「それは、違うよ。私は、この家から逃れることはできない。その時点で、これからのディアに関わるべきではないと思っている。だから子供だからとかは、全く関係ないんだ」
「ルーク様……」
「ディアが幸せになるなら、私はそれでいいんだ。ここでは、ディアは幸せじゃないからね」
「そんな……そんなこと、ないと思います」
「エリーゼ様?」
「私がこんなこと言うのは違うと分かっっていますが、でも、クラウディア様がここで幸せじゃないっていうのは間違っています。ルーク様といるクラウディア様は、沢山笑っていて幸せに見えましたよ」
「……」
「ルーク様は、クラウディア様を癒しておられます。気が付いていらっしゃいませんか?」
「――そうだとしても、私は駄目なんだ」
「……」
ルークの仄暗い笑顔は、エリーゼの言葉を受け取らないと強い拒絶の意志が見えた。
「ルーク様は、駄目じゃありませんよ」
届かなくても伝えなければと、エリーゼは義務感に似た気持ちで繰り返した。
「エリーゼ様は、やっぱり、優しいね。ありがとう」
上滑りするような表面だけの謝意を、ルークはエリーゼに伝えた。
エリーゼは、イーゼンブルク姉弟にメロメロ
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