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転生令嬢、行方判明 (ラルフside)

前話のサブタイトル修正しました。

前話と同じタイトルを今話でつかうはずが、ふさわしくないと分かったので、数字だけ消しました。

 ラルフが面会室のある部屋に近づくと、「面会室1」のプレートが取り付けてある扉が開いており、入り口近くでマルコが立っているのが見えた。


 未婚の女性と同席する場合は、必ず扉を開けておく。男女トラブルのリスク回避するための決まりだ。


「マルコ、案内ご苦労」

「はい」


 ラルフは、マルコに礼を言い、面接室に足を踏み入れた。

 面接室は、小さな四角形のテーブルを囲むように椅子が置いてある。

 地方からやってきた家族や友人と、個室で気軽に話ができるように部屋が設けてあるのだ。機密事項を多く扱う騎士団は、そういった来客者の動線を考えた場所に面接室はある。


 クラウディア=イーゼンブルク伯爵令嬢は、扉から見て、奥の席に座っていた。侍女らしい女性が、彼女の後ろに立って控えていた。


 クラウディアは、ラルフの姿を見つけると立ち上がり、カーテシーをして、優雅に挨拶した。


 彼女の姿を見た瞬間、ラルフは凍り付いた。

 次に、激しい怒りが沸々と湧き上がってきた。


「その服を、なぜ着ている」


 怒りに震えるラルフは、冷たい目で令嬢に訊いた。

 クラウディアは、ラルフがエリーゼに贈った水色のワンピースを着ていたのだ。


「なかなか、似合っているでしょう? さすが、あなたが選んだものは素晴らしいですね」

「……」


 悪びれもせず、ラルフに贈ってもらったかのように振舞うクラウディアは、奇行に走る、頭のおかしい女性にしか見えない。


 さらに周りの空気の温度を下げ、ラルフは警戒心を露わにした。


「副長!」


 マルコの声で、怒りが暴走していたラルフははっとした。


「副長、座ってから、話しましょうか。そのほうが、落ち着いて話せますから……ね! 副長、落ち着いて座りましょう」


 落ち着いてのフレーズをわざとらしく連呼するマルコに、ラルフは冷静さを欠いていたと思い知った。


「イーゼンブルク伯爵令嬢も、おかけください」


 マルコが、ラルフの代わりに令嬢を促した。

 その姿を見て、ラルフは冷静をさらに取り戻していった。


 テーブルの奥が、クラウディア。その後ろに、クラウディアの侍女。クラウディアの向かい、扉に一番近い席に、ラルフが座った。マルコは開いた入り口扉の前で立っている。


「本日は、どのようなご用件でしょうか」

「手紙で、何度も申し上げましたが、ご返事がないので」


 あぁ、やはりかとラルフは、己の過失を悔いた。

 クラウディア=イーゼンブルク、処理対象としていた手紙の差出人の一人だった。彼女の手紙を、ラルフは読まずに捨てているので、内容など分かるはずがなかった。


 エリーゼは、ラルフのせいで、誘拐されてしまったのだ。


「すまないが、用件を――」

「読まれていなのですね。本当に酷い方ですね」

「……」


 その通りなので、黙るしかなかった。


「私、あなたに興味がありますの。だから、あなたの大切にしているものを調べましたの。それで、あなたが最近、とてもきれいで美しくて愛らしい()を見つけたと知りました。()は、私も一目で気に入りまして、ぜひあなたと共に(・・・・・・・)扱いたいと、今は(・・・)思っておりますの」


 名案でしょう? と笑顔で言い切る姿は、悪魔に見えた。

 言葉の一つ一つに、強力な毒を仕込んでいるようで、耳に届くたびに胸が苦しくなった。「今は」を強調する言い方は、先で何をするか分からない狂気性を連想させた。


「わたしとクラウディア嬢の間の話をするなら、あれは関係ない。どうか、解放してもらえないだろうか」

あれ(・・)とか言って、興味のない振りしても無駄ですよ。あれ(・・)はあなたの弱み。そんな楽しそうなものを、私が簡単に手放すと思って?」


「何が、目的だ?」

「私と婚約してください」


 クラウディアは、紅茶を注文するようにさらりと言った。

 ラルフは、嫌悪感に顔を歪めた。


「相手を脅してすることじゃ、ない」


「まぁ! アーレンベルク様は意外とロマンチストな方なのね。貴族間で脅迫まがいのことをして縁を結ぶのは珍しいことじゃないわ。政略というものは、そういうものよ」

「貴族の大多数がそうであったとしても……、私は違う」


 ラルフが、全身全霊で拒絶した言葉をかけたのに、クラウディアは嬉しそうにうっとりとラルフを見つめた。


「えぇ! えぇ!! そうでしょうね……。やはり、私はあなたのそういうとことが良いのです。私があなたと婚約すれば、あなたの花(・・・・・)はあなたの元へ返してさしあげますわ!」

「……」


 ラルフは、拒絶さえも好ましいと喜ぶクラウディアに、かける言葉が分からなくなってきた。


「私は、伯爵令嬢で、殿方の社交にも寛容ですのよ。私を、正妻にしていただければ、卑しい花(・・・・)を愛でるくらいは、許しますわ」


「私が、否といえば、どうする?」


「あなたの大切な()は、へし折って美しさを奪いますわ。あなたに、地獄を味わっていただきますの」


 クラウディアが、にぃっと笑った。地獄に落ちたラルフを想像して頬を染める様子に戦慄が走る。


「あの花は、簡単に折れんぞ」


 ラルフは、負けじと反論した。

 ラルフの保護魔法が、エリーゼを守り続けている。服を奪われても、無事である確信を持っていた。

 だが、クラウディアは、不気味な笑顔のまま言った。


「手折る方法は、ありましてよ」

「まさか」

「慢心なさらないで。どんな魔法もきかぬ方法がございますのよ。魔法には必ず、穴があるのは常ですから」


 魔法使いの名家、クラウディアの言葉は、説得力があった。

 魔法は万能ではないという言葉は、魔法を究めた先人が口をそろえて言うものだ。


「偽りではありませんよ。現に、()は魔法で護られず、連れ去られておりましてよ? その事実は、あなたが一番ご存じのはず」


 その通りだ、認めたくなかったけど、ラルフの魔法で護れなくて、エリーゼは誘拐されてしまった。

 ラルフは、悔しさに、己の未熟さにギリリと爪がめり込むくらい手を強く握った。クラウディアの後ろに、優れた術者の存在を感じた。


「あなたは、なぜ私を選んだ?」

「私の婚約者になる方は、父が認める方でないといけないのです。父があげた候補の中で、あなたが一番ましだと思ったからよ。他の候補者は六十過ぎのジジイやら、暴力的で浪費家の家柄だけいい駄目次男とか、ろくなのがいなくて……」


「――少し、時間をくれ」


「花は、枯れない程度に世話します。多少しおれている(・・・・・・)方が都合が良いので、手を加えておりますが、生きています。徐々に弱るのは確かなので、早い決断をお願いします」


「傷つけないでくれ、頼む」

「あなたが、私の婚約者になってくれれば、すぐに止めますが、今は止められません」

「なぜ?」

「あなたへの仕置きの最中なのですから」


 クラウディアは、最後にラルフに言い捨て、用件は以上だとさっさと帰って行った。


 クラウディアがいなくなっても、ラルフは椅子に座ったまま動けなかった。


「副長、大丈夫ですか?」

「あぁ、お前がいてくれて、助かった」


 ラルフが素直に礼を言うと、マルコは照れくさそうに笑った。


「副長、頑張れ~って、念だけ送ってました」


 落ち込むラルフにマルコが冗談で慰める。

 問題は山積みだが、マルコを見ていると何とかなる気がしてきた。


「これからも、頼む」

「はい!」


 余計なことをいわない優秀な部下は、力強い返事を返した。










 







意外に打たれ弱いラルフ

またもや、地味に副長の秘密を知ってしまう、生贄マルコ


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[一言] エリーゼの周りにはどうしてこうもきみの悪い女ばかりいるのか?
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