転生令嬢、行方知れず (ラルフside)
エリーゼが、自然公園で行方不明になった。エリーゼの気配を辿ったが、馬車の停車場でそれは消え、追跡不可能だった。
なぜ、あの時馬車に乗せるまで自分は付き合わなかったのか、ラルフは後悔しかなかった。
時は少し戻り――。
顔見知りの魔法騎士に、至急確認してほしい件があると、団長命令を伝えられ、ラルフは第一魔法騎士団棟に転移した。
「あれ? どうした? ラフィ」
団長のレオポルトが、ラルフの登場に驚いていた。
嫌な予感が、頭によぎる。
「急ぎの案件の確認をしてくれと……、ベンノが私の所まで来て」
「ベンノが!?」
レオポルトの反応に、ラルフは舌打ちした。
騙されたのだと、理解した。
「とにかく、ベンノを呼び出す。ラフィ、落ち着け」
「私は、エリーゼの元へ戻ります」
「ラルフ! 魔法騎士団内での不正な情報操作は、早急に解決すべき問題だ。すぐ、ベンノに確認するから、そのまま待て」
レオポルトが目配せすると、彼付きの護衛の一人が、ベンノを呼びに行った。
そして、数分後。
ベンノは、同僚と備品整理をしており、ラルフに接触してきた者は、別人であったことが判明した。
エリーゼの顔がよぎり、悪い予感は現実になった。
「レオ、一旦戻る。続きは、エリーゼを送り届けてからにしてくれ」
「分かった。相手が何をしかけてくるかわからん。気をつけろ」
「はい」
すぐに、ラルフは自然公園に転移して戻った。
そして、エリーゼが攫われた可能性が濃くなったことを知った。
停車場にあった全ての馬車を調べたが、エリーゼは見つからなかった。ラルフが魔法騎士団で足止めされていた間に、エリーゼを乗せ去ったのであろう。手詰まりだと判断し、待たせていたアーレンベルク家所有の馬車に乗り込んだ。
ラルフは、万が一を祈りながら、馬車の外の景色にエリーゼの姿を探し続けた。
希望も虚しくエリーゼ不在の馬車は、シュピーゲル家に着いた。
シュピーゲル家の使用人であるケリーは、ラルフの慌てぶりとは対称的に、エリーゼとラルフが共に帰ってきていなくても、疑問を持たなかった。
不自然な態度に思えて、ラルフは夫人との面会を願った。
「今日は、エリーゼがお世話になりまして――」
「エリーゼは、戻ってきていないですよね?」
ラルフは、シュピーゲル夫人の定型の挨拶にかぶせるように訊いた。
「えぇ、自然公園で偶然出会った方と意気投合して、光栄にも招かれて。しばらく、先方のご令嬢の話相手になると、あの子が連絡してきましたけれど。ラルフ様も、許可されたのではなくって?」
「――――いいえ、私は魔法騎士団の急な呼び出しで、少し、エリーゼとは離れておりまして……」
「まぁ、エリーゼを放っておいて、あの子に愛想つかされたのね。いい気味だこと」
「どちらのご令嬢に招かれたのか、お聞きしてもいいですか?」
「イーゼンブルク伯爵家のクラウディア様です。お疑いになるのなら、届いた手紙をご覧になります?」
「見せていただけますか?」
夫人から、手紙を受け取る。手紙の内容に、不審な点はない。しかし、エリーゼの気配の残滓はなかった。エリーゼ以外のものが用意した手紙であると分かった。
「これを、お貸しいただいても?」
「いいですけど……、くれぐれも伯爵様の機嫌を損ねないようにしてください。あなたと違って、私どもはしがない下級貴族ですので」
「……肝に命じます」
「あなたは、あの子に保護魔法を施したのだから、あなたが異変を察知していないのでしたら、無事だということでしょう? あんまり心配しなくていいのでは?」
「……」
「用件は以上ですか? 私も、暇ではないのよ。エリーゼに振られたからって、私はあなたを慰めたりしませんよ」
シュピーゲル夫人は、日ごろの鬱憤を晴らすように毒を吐く。
ラルフは、エリーゼの誘拐に夫人が関わってないと判断した。
「お話を聞いてくださり、ありがとうございました。また、伺います」
「ごきげんよう、アーレンベルク様」
ラルフは、仕組まれたエリーゼの連れ去りを確信した。
そして、シュピーゲル家を辞して、待たせていた馬車に乗らずに、先に帰る様言った。ラルフは、すぐに魔法騎士団棟に転移した。
「イーゼンブルク伯爵家か、手強い相手だな……」
「えぇ、わが国で五指に数えられる魔法使いの名家ですからね」
「娘のクラウディア嬢は調べたか?」
「彼女は、伯爵の庶子です。一年前、彼女の母親が死んだことをきっかけに、17歳で伯爵家に引き取られています。現在は、18歳。クラウディア嬢の母親は、街の宿屋で働くメイドだったらしく、伯爵の気まぐれで手付きになり身ごもったと言われています」
「イーゼンブルク伯爵家は、子供の不審死が相次いでいたよな。政略目的か、嫡男のスペア確保のため娘を引き取ったか」
レオポルトが、おぞましいものを見たように、顔を歪め言った。
「はい、嫡男のルーカス以外、長女と次女はすでに亡くなっています。クラウディア嬢は三女になります」
「以前から調べさせているが、何せ伯爵家は守りがかたい」
「そうですね、エリーゼが伯爵家の屋敷内に捕らわれているのなら厄介です。当主のハルトヴィヒ卿は結界張りのエキスパートですから。侵入するのは、難しいだろうと思います」
ラルフは、報告をするたび、胸が締め付けられて苦しかった。
「……その家に、君の花が囚われたというのか」
「……」
「ラフィ、落ち着けよ。幸い、エリーゼ嬢はお前が保護魔法をかけている。物理的な攻撃や服毒などからも守られているのだろう? エリーゼの家にも堂々と所在を知らせているのだから、誘拐罪での強制捜査はできない。相手の分からないうちに動くのは悪手だ。分かるよな?」
「……私のせいで、エリーゼは」
「心当たりが、あるのか?」
「それは――」
コンコン。
ラルフが言いかけた時に、執務室の扉がノックされた。
「入れ」
レオポルトが許可した。マルコが扉を開け、敬礼した。
「失礼します。副長に面会希望の方が来られていますが、お会いになられますか?」
「――誰だ?」
「クラウディア=イーゼンブルク伯爵令嬢です」
「「!!!!!」」
ラルフもレオポルトも、驚きを隠せなかった。
「どうされました?」とマルコが不安げに見ている。
レオポルトの方が先に冷静を取り戻し、マルコに声をかけた。
「マルコ、悪いがラルフに、副長に同席してくれ」
「はっ、はいっ」
「マルコ、悪いが先に令嬢を案内しておいてくれるか?」
「かしこまりましたっ! 『面会室1』に通しますね」
「頼む」
マルコが何度かつまずきながら、去ってくのを見守った。
レオポルトは、呆然とするラルフに喝を入れるように、背中を叩いた。
「立場上、団長の私が行くと、先方に警戒されてしまうので行ってやれない。ラルフ、相手から来てくれたんだ。決して、キレるんじゃないぞ。冷静でいることが、エリーゼの安全につながると、肝に命じろ」
レオポルトが、いつになく厳しい顔でラルフに言った。
「はい」
ラルフは、頭を下げ、執務室を出て、イーゼンブルク伯爵令嬢が待つ面会室へ向かった。
生贄マルコ、再び。
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