魔法騎士団、激震が走る 2 (ラルフside)
本日更新の、二話目です。
一話目がまだの方は、ご注意ください。
よろしくお願いいたします。
「おいおい~~、公私混同な態度は止めてくれよ」
レオポルトが笑いを堪えながら言う。
「マルコの奴、ヤバい案件だって誤解したぞ。絶対」
「ただ、手紙の扱いについて、連絡事項を伝えただけですが」
「あれだけ殺気を放ちながら、高圧的に言うのは、ただ伝えるとは言わない。まるで、拷問しているようだったぞ? 自覚ないのか?」
「……」
「ラフィは、そうやって知らないうちに敵を作る癖は、直した方がいいよ」
レオポルトは、昔からラルフが行き過ぎた言動をするたび窘めてきた。
無自覚のまま好き勝手振舞うことの危険性を、彼が指摘してくれたから、騎士団でも高いポストを得ることができた。レオポルトがいなかったら、ラルフは孤立して、騎士団になじむことすら出来なかっただろう。
「――――善処します」
ラルフは、レオポルトに頭を下げた。
「で、それは、ラフィの花からか?」
「……」
沈黙は、肯定と同じこと。
「返事を書いてくるとは、毎日花を送ってアピールしたかいがあったな」
実は、手紙をつけて、毎日違う花を贈ることを提案したのは、レオポルトだった。手紙の内容も、レオポルトの助言通り、天気のことを書いた。
「……殿下のおかげです」
「上手くいって良かったよ。毎日、一回は思い出すきっかけを与え続ければ、そのうち条件反射のように思い出すようになり、気づくとそれは好意に変わる。深層心理に作用する恋愛テクニックさ!」
レオポルトの優れた頭脳を、色恋の駆け引きで無駄遣いさせてしまった。
しかし、思ったより早い成果(エリーゼからの返事)が出て、感謝しかない。
「で、早く開けてみてよ」
「それは、帰って一人になってから――」
「手紙の内容によっては、今日、花を贈るの注意が必要だと思うよー」
「!! それは、どういう……」
「花を贈られるのは迷惑です。もう止めてくださいとか書いてあったら、他の手を考えた方がいいと思うし」
「そんな酷いことを、彼女は言わないと思いますが」
「ラフィの好意を受け入れない娘が、いないとは言い切れないだろう?」
確率では、0%は現実的ではないと理解できるが。
「さっさと開けて、見せろ。取り返しのつかない事態になる前に」
「はいっ」
ラルフはレオポルトの煽りにまんまと乗せられて、手紙を開封した。
そして、封筒の中から、カードを取り出す。
「――――それは、栞か?」
「栞ですね……」
「栞以外は?」
「何も入っていません」
「「……」」
栞を見ると、チューリップが描かれており、『E』とだけ書かれている。
「『E』って、これは、シュピーゲル令嬢の頭文字としたら、この絵は、彼女が描いたものか。何と、これは――」
「これは?」
「真意が分からないなぁ……、文章が一切ないのは、嫌っている意思表明ともとれるし、彼女の描いた栞を持っていて欲しいという好意ともとれる。何と言うか、彼女は高度過ぎる恋愛スキルの持ち主だなっっ!!」
レオポルトは、上気しながらエリーゼを称賛した。
ラルフは、ただ不安なまま呆然としていたが。
「でも、水色の紙で、青いリボンをつけているから、嫌っている線は考えなくてもいいかもしれん」
「本当か?」
「あぁ、だって青はラフィの瞳の色だろ? 君を想ってこの色を選んだはずだ」
レオポルトの指摘に、ラルフははっとした。
エリーゼが、ラルフの瞳を思い出して選ぶ姿を想像するだけで心が温かくなるような気がした。
「仕事場に長々とした文章の手紙を書いて送るのは、躊躇われたのであろう。仕事の邪魔にならないように配慮するとは、恐ろしく気の利く15歳だな……」
「嫌われてないようで、安心しました。今日も、花を贈ります」
「ラフィ、しかし、引っかかることがある」
「?」
「彼女は、お前の瞳の色を選んだと思ったが、本来好意を示すなら、彼女の色を選んで送るはずだ。彼女は、青い瞳の色をしているのか?」
「……紫です」
「そうか、ならば、残念なことが判明した」
「残念、とは」
ラルフは、同じ言葉を返すことしかできないオウムのように成り下がっていた。
「彼女は、ラフィを嫌っていないが、好いてもいない。お前の好意は、全く彼女に伝わっていないということだ」
「!!!」
ラルフは、激震に匹敵する衝撃に見舞われた。
「失礼を承知で訊くが、手紙は何て書いた?」
「えぇ!? 殿下が天気のことを適当に書いておけと言ったから、その通りに……」
「で? 天気の話題で書き始めて、それから何て書いた?」
「それからって、それだけですけど?」
「それだけって、好きだとか愛しているとか書くだろう、普通。ラブレター送るんだから」
「書いていません、天気の事しか。今日は晴れだとか、それだけしか」
「阿呆か! 好意をしたためずに、ラブレターといえるのか? いえないだろ!?」
「そんな恥ずかしい事、書けません」
「口で言えんから、書いて伝えるのがラブレターだろ? ラフィがそこまで恋愛オンチとは思わなかったよ」
「そうか、今日花には、愛していると書くべきか?」
「馬鹿、止めとけ」
レオポルトは、ラルフのポンコツ具合に頭が痛くなってきた。
「急にそんな事書くと、逆に怖がられて逃げられるぞ」
「じゃあ、どうすれば……」
「手紙はそのまま天気のことだけ書いておけ! むしろ、その方が洒落っ気があっていい。そして、好意はデートでもして、直接会って、いい雰囲気を作ってから伝えろ」
びっくりするほど長々としたやり取りの末、ラルフはこれまでと同じ形式の手紙をエリーゼに送った。
ラルフからの好意が一切書かれていない謎手紙を受け取ったエリーゼは、嬉々として、また新しい栞を作り、ラルフに謎手紙の返事として送った。
それから、ラルフはレオポルトを巻き込んで、届いた栞の色について考察し合い、頭を悩ませることになったことは、語るまでもない。
そして、手紙を届ける役目になってしまったマルコは、第一魔法騎士団のトップ二人が手紙が届くたび密談していると思い込み、口を堅く閉ざし、ラルフの秘密を守ったのであった。
エリーゼが、家にあるもので栞を適当に作ったという残念な理由は、ラルフ達に伝わることはなかった。
恋愛脳強化にいそしむ魔法騎士団トップ2
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次回も、読んでいただけると幸いです。




