第90話
休載迄残り10話です!
「サンクトゥス・ヴァルキュルスト」
俺は、ゲームの中に登場する神聖魔法を唱えてみた。
この魔法は、吸血鬼に最も効果ある魔法として良くゲーム内で使用したモノだ。
最もこの世界で、コレが使えるとは到底思えないが、召喚魔法や精霊魔法がゲームの中で登場する魔法そのものが使える時点で、コレも使えるだろうと俺は思ったのである。
で、やっぱりかと俺には神聖魔法は、使えないようだ。
「じゃあ…おチビちゃん。さっき言った言葉を魔人形に向かって言ってごらん」
「う、うん。わかっちゃの…。サンクトゥシュ・ヴァルキュシュト」
案の定、フリックは舌足らずだからなのか、上手く魔法は発動しなかったことから、泣き出しそうになってしまったのである。
「ううぅ………ヒック……ヒック……」
「おチビちゃん。大丈夫だから。シュの所をスと言えば大丈夫だから」
「ううー…シュはいえないのー」
「ゆっくり発音してみよっか?神聖魔法に才能あるよ」
それ以外はちゃんと発音が出来ていることから、少しでも今は励ますために言った。
「わかっちゃの。もういっかいやってみりゅの…」
≪サンクトゥシュ・ヴァルキュシュト≫
だが、アレから何度やってみても、スの発音が上手くいかず、とうとうフリックは、泣き出してしまったのである。
「うわああああああああああああん…!!!!!」
「おチビちゃん…。ごめん。今日はここまでにしよう。明日にしようか」
「ボク……ボク……もう…イヤなの…にーさまたちのところにいきちゃいの」
そろそろ部屋に戻って来る時間帯かとシリウスは、ふと時計に目をやると泣き崩れるフリックを抱き上げると優しげに髪を撫でたのである。
「ごめん。無理させてごめん…」
「ヒック……ヒック……シリウシュおにいちゃま………ボク……ボク……にーさまたちのやくにたてないの…?」
「そんなことはないと思うよ。おチビちゃんはちゃんとゆっくりだけど、魔法は使えるようになっていると聞いているぞ」
まだ、召喚魔法の初歩留まりと聞いていることから、少しずつ魔法が使えるようになっているのだ。
「ホント…?ボク…あした、がんばりゅの…」
スの発音さえ出来たら、兄たちの名前もちゃんと言えるようになるのかなと思いながら、幼いながらもフリックは心に決めると、少し落ち着いたからなのか、眠ってしまったのである。
「何だか娘が出来たような感じだな…」
とはいえ、俺よりも一応は年上なんだよな。
この子って…一応さ。
まあ、俺は転生したばかりの0歳とはいえ、中身と外見は成人男性と変わらないんだけど。
そうそう、魔人形の生成材料と生成方法は、以下の通りでざっくりだったよ。
<魔人形-生成材料->
・その辺のモノなら何でも可
・マナ(適量)
<魔人形-生成方法->
その辺のモノにマナを適量だけ注入するだけ。
という余りにもざっくりだった。
なので、その辺に生えている草を原料にして作っただけなんだよな。
分析すると、吸血鬼系統の魔法に弱いらしい。
とりあえず、暫くはフリックの魔法に付き合うしかないかな。
この世界のエルフが手遅れになる前に…だけど。
一方、南へと向かったカミラは、人間の姿で、デイルス一行を目撃したのである。
「ふふふ…ここにいるエルフを置いて逃げなさい。妾は人間を襲う気はありませんわ」
カミラは、南の大陸にある、サースの街の船から西の大陸へと向かおうとしていた、大型馬車にハイエルフがいることに気付いたことから、デイルスに向かって言った。
「だ、誰が何と言おうとも渡せるか」
「そう。だったら………」
そう静かにカミラは呟くと、少しだけ本来の姿になると彼らを襲い掛かったのである。




