番外編76 スライム
ぼくの名は、ただのスライム。
魔王様によって生成されたばかりのスライムなんだけど、人をとにかくと殺せと指示されたんだ。
でも、ぼくはね?
そんなことをしたくないんだ。
だってさ?人は色んなことをしているんだ。
武器や防具は勿論、骨董品を造っている。
そんな素晴らしい世界は、ぼくたちにはないのにさ?
魔王様は前世で相当酷いことが遭ったからと、この世界の人たちには何も罪もないというのに、がらむしゃになって人を殺すよう、指示されてしまったんだ。
いくら魔王様の命令だからって言われても、ぼくは逆らうよ。
どこかバレない所にひっそりと潜んで暮らしていくんだ。
でも、そんなことなんてどこにも出来るはずがないよね。
この世界は、モンスター=倒すべき魔物だから。
魔王=勇者ご一行が倒す者
という認識しかないのだから。
「ぼ、ぼくは悪いスライムじゃない…!」
人語を操りながらも人々に向かって思い切って言ったんだ。
「す、スライムが人語を話す=魔物だ!」
「やっちまえ!」
人は、一斉になってぼくに襲い掛かったのである。
ああ…当然。
今のぼくは、ただのスライム。
所詮、人と戦えるほどの能力は無かったんだ。
いつの日か…魔物と人が普通に暮らせる時代が来るといいなぁ。
そんな密かな願いを込めながら、ぼくのスライム生はあっという間に幕を閉じてしまったのであった。