番外編42 栗林絵莉
世界に名前を残したい。
私の名は、アシュネード・フォン・ディルク・マリアッド・エリュシアスである。
コレでも名のある貴族だ。
今、世界は、勇者と魔王との戦いは討たれ、各地へと人々を襲っていた魔物退治という冒険者を通して仕事が増えていた。
「まだ、魔王が討たれて間もないからなのか…魔物の数は一向に減る気配がありませんな」
私に仕える男、ラルフ・アスタードは、剣を振るう手を止めずに言った。
「そうだな。ただ、魔物は少しでも今は減らしておかなければ、せっかくと平和へと向かっている今、もっと大変なことになるだろう」
「そうですな…。完全に討たれた訳ではありませんからな…」
少しの間だけでも平和を掴んだ今。
新たなる魔王が生まれて来る前に平和をこの地に築きたいのだ。
だからこそ、私は貴族という身分に立つが、冒険者として身を投じているのである。
貴族として名前を残すために。
だが、油断がいけなかった。
話している間に毒を受けてしまったのだ。
「参りましたね…」
「そうだな…。迂闊だった…」
「この辺りには…毒のある魔物が潜んでいたとは…」
「別にラルフのせいではないさ…」
名前を残すために冒険者へと道を歩んだことに失敗してしまった。
何も冒険者にならなくても、他に何かあった筈なのだ。
ただ、私以外の貴族も冒険者として名を馳せていたからこそ、焦っていたかも知れない。
このままでは負け組だと思い込んでしまったのだから。
気が付けば、私とラルフは暗闇の中にいた。
そう、誰もいないのだ。
だが、ラルフに声を掛けても答えてくれなかった。
どうしたのだろうか?どんなに声を振っても答えないまま、ラルフは何かを断るみたいな感じで、スッと煙のように消えていった。
(な、何だったのだろうか…まあいい。私は私だ…)
ここは、どういった場所なのか分からないが、流されるままに抽選とやらをやってみた。
『転生名前は栗林絵莉(女)、転生種族は人間、転生日は2025年2月4日、転生先は日本にある兵庫県、転生特典は才能溢れるセンス、プレゼントは栗の木』
訳は分からぬまま、私はニホンという世界で新たに生を受けることになったのである。
それから20年余り過ぎた今。
私は、栗林絵莉という名前で、世界的に少し名前が知られた、栗を用いたパティシエへとなっていた。まぁ、名前の中に栗がある訳だし、コレはコレでいいかも知れないなと第二の人生を歩みつつ、私は、ひたすらに栗を用いたスイーツ作りに没頭する日々を送っているのである。