番外編34 杉山香那
平和な世界は、瞬く間に魔王によって壊されてしまった。
あたしの名前は、ロゼッタ・エルスタード。
コレでも剣と魔法の使い手の戦士だ。
それ故に魔王討伐の勇者ご一行のパーティーには選ばれることもないまま、あたしは、各地を転々としながら、モンスター狩りを続けていた。
「1万年という年月は一時の平和しか過ぎないのか…」
短い生しか持たない人間は、数こそは他の種族を上回る程にいるものの、生命の長さは極めて短い種族なのだ。
1万年置きに魔王は、この世界に降臨すると同時に勇者もまた、この世界を救うために転生を繰り返す。
その度、魔王は各地にモンスターを放ち、人々の住む街・国を襲うのだ。
自分自身の欲望を解放するかの如くに殺戮を繰り返すのである。
「昔は…魔王は人のために尽くしたと聞くが、そんなのは偽りだったのか…」
何しろ、1万年の年月は風化していく。
誰もが、その当時を知らないのだから、当然だ。
この世界が生まれてから、何年なのかどうかもハッキリしていないのだから。
「とにかくとこの世界を守るために今は…この時代を生きるあたしたちは、未来のために…」
そう願いながら、あたしは魔物の大群を相手に死を恐れずに立ち向かっていった。
そして、魔王が討たれたと話をあたしは、仰向けになりながら聞いていた。
魔物との戦いで、立つことも間々ならず、傷も癒やすことが出来ない状況なのだった。
「このまま…死ぬのか…。悔いは………ないか…」
やっと、魔王が討たれたのだから。
ただ、今のあたしは知らなかった。
魔王は、また新たに1万年後に降臨するということを。
今、あたしは、新たに生を受けていた。
待ち望んでいた、平和な世界。
ただ、この世界は、あたしの知っている世界と異なる世界だった。
前世で使えた魔法は、そのまま、使えた。
だが、周りから怪訝そうな目で見られてしまった。
どうやら、魔法なんかの類いは、存在していない世界のようだ。
何しろ、ここは『ニホン』という世界で、あたしは、杉山香那という名で、新たに人生を歩んでいるのだ。
今のあたしは、何をしたいのかどうか分からないけど、前世の知識と魔法を活かすことが出来る仕事があればと思っているけれど、冒険者の道は周りから良く分からないが、厨二病扱いで、キチンと進路を決めなさいと言われるまま、退屈な人生を歩むことになったのであった。
今世の知識に追いつけないまま、前世の知識が偏るとは、あたしの人生もロクなことじゃないんだなと思ったのである。せっかくの平和な世界だというのに、何をしたいのかどうか、今年で45歳になっても、決められなかったのだった。