番外編30 ラルフ・L・エスティーリア
「ホントに裕真はアニメ好きだな。それに絵もメッチャ上手いし」
幼馴染みの卓也に勧められるまま、アニメにハマった上に絵も同様に上達してしまった、このオレ、志乃原裕真は、夏コミに向けてマンガを製作していた。
「まあな。で、お前は準備しなくていいのかよ?一週間後には夏コミだぜ?」
「オレは大丈夫。既に同人ソフトは制作済だ」
「いつの間に作ったんだよ」
「いつって?期末試験の最中に決まってんだろ」
「試験の最中って…良くそれで試験も満点採れたもんだな」
オマケに期末は中間よりも副教科が増えることから、10科目という量だというのにと勉強もこなす卓也に羨ましく感じながら、裕真は返したのである。
「まあな。というよりもオレ、殆どカンニングシート用意してるからな」
「っておい!ま、まあ…バレ無ければ問題はないからな。俺も実の所と人のことは言えないし」
「だろ?とりあえず、来週な」
「ああ」
そう互いに約束を交わしながら、俺はマンガの同人誌の仕上げへと取り掛かったのである。
何とか一週間後の夏コミに間に合った俺は、卓也と共に販売を開始していた。
飛ぶようにしながら本やソフトは売れる中、妙な音が聞こえ出した。
「何だ?音…?」
更に音が激しくなった途端、俺の意識はどこかへと消えてしまったのである。
「何だ…?ここ…?」
気が付くと俺は、耳が尖った種族を目にしていた。
「良かった。気が付いたのね」
可憐な容姿のした、少女が俺に声を掛けて来たのである。
「アンタ…誰?」
「私?私はシェルファ。この森の長よ」
「シェルファ…?」
「あなた…転生者ね。まあ、無理もないわね」
「転生者…?何だか厨二病みたいな言い方だな」
「そうよ。私も転生者だから。あなたみたいな人が良くこの森で転生するから。ほら…幼馴染みの方も来たわ」
シェルファはそう言うと、同じように耳の尖ったエルフがやって来たのである。
「おっ!気が付いたんだな。裕真」
「えっ!?お、お前…もしかして?た、卓也!?」
「そう。最もここでのオレは、ダイナって名前だけど」
「な、なんで…?」
「何でってさっき地震みたいなことが遭ったじゃん。で、オレたちは意識的にここへと転生しちゃった訳。アレ?お前、転生するとき、抽選しなかったっけ?」
「抽選?何のことだよ?」
「そっか。誰もが抽選する訳じゃないんだな。最もオレもそうだったけど」
その割には、何かこう何でも出来ちゃう気がするんだよなぁと脳天気の気分のままで、ダイナとして生まれ変わった、卓也は言った。
「何でも?」
「ここは、思ったことがイメージするままに出来る所なのよ。最も何をしたいのかどうかは、あなたたちにお任せするわ。前世みたいにアニメとかゲームとか楽しんでもいいし。ただ、人間の国には色々とあるから余り行かない方がいいわ」
「な、何だか気前が良いような…?」
「そう?前世みたいに縛られたくないでしょ。とりあえず、あなたは今日からラルフ・L・エスティーリアと名乗りなさい。前世の名前は危険だから」
いつ、誰かに知られるか分かった物ではないのだからとシェルファはそう言い残すと、医者として患者を診るため、どこかへと行ってしまったのである。
「で、どうする?裕真。じゃなかった…ラルフ」
「うーん。どうしよっかなぁ」
「まあ、エルフとして色々と今は魔法を楽しもうぜ?」
「ま、魔法…!?」
何が何やらとオレは、まずは頭の整理ぐらいはさせろと思いつつも何だかんだと、幼馴染みの卓也…じゃなかった。ダイナと共に当時、ハマっていたアニメを思い出しながら、絵を描き始めたのだった。