番外編29 魔石(その4)
ここは、どこだ?
真っ暗で見えないぞ?
というかさ?俺、動けないんだが?
どういうことだ?
「うーん。この魔石は火を起こすだけか」
ん?誰かが俺を拾いながら、何やら素敵なことを言ったぞ?
俺、火を起こすだけの魔石らしい。
だからって何なんだ?
ガッカリっぽい発言は?
火だって有り難いモノだろ?
ん?魔石?どういうことだ?
俺のいた世界には、魔石ってのは無かった筈だ。
いや、ないな。俺の辞書には、魔石=ファンタジーしか結び付かない。
ってことは、俺。
無意識に異世界に転生しちゃってたってオチなのか?
だからって…何たって…魔石?
う、うーん。
心当たりを探ってみよう。
確かな記憶のあの日。
「何、まだちんたら掛かってんだ?石原」
俺に向かって上司の横溝が言って来た。
いつものようにこなしてるだけで、まだって何だって言うんだ?
つーか…今日の量は2000万だよな。
しかも、2000万ジャストという量だ。
っていうかさ?今、この場にいる人数で2000万、捌けるかっての!
それをまだって何?
今、この場にいるのは、俺を含めて5名。
5名で2万という量をこなす、カレーパン作りって時間が掛かるに決まってんだろ。
物理的に考えろよと…って言った所で、横溝は聞かんよな。
カレーを仕込むだけでも5時間は軽く掛かるわ、パン生地を作るだけでもそれ以上に掛かるわ、オマケに設備は過去最悪だわという、最悪だらけなんだが?
それだというのに、まだって何様のつもりなんだか。
指示するだけで、おめぇーは何もしてねぇじゃないかよ!
クソ…マジで殺したい。
という記憶しかないまま、俺の意識は途切れてしまった。
まさか、あの後。
意識が途切れたってことは、俺は死んだってことなのか。
うーん。
だからって魔石?
魔石に転生する意味、あったのか?
とりあえず、第二の人生もろくな目に遭わないんだなと、改めて異世界に転生は夢見るモノではないなと、俺は思ったのである。