番外編15 森本華絵
私は、花が好きだ。
故郷に咲き誇る花畑を守るために剣を取る道を選んだのだ。
いや、誰もが今は剣を取る道しか無かったのだ。
何万年も続く魔王との戦いに私たちは、いつになったら終わるのか分からない。
だけど、平穏の時代がきっと訪れると信じながら、私は剣を振るい続けていた。
私の名は、シェリア。
故郷であるクアルト共和国を守るために剣を取ったのだ。
得意技は、一閃斬り。
その技のお蔭で、スライムの大群を何とか一閃で切り裂くことが出来るが、消耗が激しいのが難点の技だ。
「ヒュー!相変わらずと敵に回したくないモノだな」
一閃だけでスライムを切り裂く私の姿を見ながら、大剣を振るうことしか能のないジェイドは言ったのだ。
「そう言うぐらいならば、少しは剣の技を身に付けたらどうなんだい?」
「剣の技って縦に斬る以外にねぇだろ。それとも何だ?横斬りあるのか?」
「当たり前だろう。筋肉バカは縦しか知らないのか。私の技を見ている余裕があるならば、技をこの機会に振るうべきだ」
全くこの国の男共は、剣といえば縦に斬るしか知らない能無しだ。
同じように故郷を守るために剣を取る道を選んだとは思えない。
だが、それは仕方ないことだ。
「それにマナだっけ?そーいう魔力は男にねぇよ」
「そうそう。俺らは男だぜ?女みてぇにマナを力に変える程に器用じゃねぇし」
男たちは口々に言いながらも、押し寄せてくる魔物の大群を縦で切り裂いていく。
「…もういい。話をしているだけ無意味だと分かった」
私は別の所に行くしかなかった。
ここは、花畑から一番近いから離れたく無かったのだけど、仕方ないのだ。
ここにいたら、バカ男と共に共倒れになるから。
それだけは避けたいからというのもある。
やはり、どこに行ってもクアルト共和国は、戦場だった。
剣と魔を融合した、一閃斬りはマナの消費が激しい。
どうにかしたい処だが、今は考えている余裕は無かった。
「クッ…!」
ほんの一瞬。一瞬だけ私は油断してしまった。
まさか、スライムの中に毒のスライムがいるとは思いもしなかったから。
スライムの毒は、私の体の中に入って来たのだ。
もはや、治療魔法が効かない。
誰かが私に気が付いたものの、私の意識はもう殆ど無かった。
それでも、気が付いた誰かは必死に治療魔法を施していた。
「キュアルが効かないなんて…」
「も、もう…いい………」
私は殆ど呂律が回らない状態で、その誰かの腕を必死に掴んだ。
「き、きっと…助かる…から…」
そう言う誰かも毒にやられていたのだ。
道理で効かない筈だ。
毒状態のまま、治療魔法なんてものは、効き目が薄いのだから。
オマケに治療魔法は、僧侶専門の魔法だ。
薄れていく意識の中、私は故郷に咲き誇る花畑を思い浮かべていた。
いつの日か、花一杯の平和の中で過ごしたい。
そう願いながら、私は幕を閉じたのである。
そして、今。
私は第二の人生で、森本華絵という名で新たに生を受けていた。
この世界は、私の知っている世界では無かった。
何という世界なのだ。
私の知らない世界があったとは、驚きだ。
だが、この世界は前世に比べると息苦しいが、確かに平和は存在していた。
序に第二の人生で、私は花の大図鑑と共に花魔法を授かった。
この世界で新たに生きていくと決めた以上、私は花屋としてこの世界で花売りを始めたのである。