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第8話 波乱の歓迎会

登場人物

館長 エドガ 冷静

司書 ミカミ 主人公 基本いい人

司書 ラナ よくしゃべるギャル

司書 ジーノ 世話焼きで若者にうざがられるおじさん

カッチカッチ、とウィンカーの音が車内に響く。


車内に流れている曲は、私が初めて聞く曲だった。エドガさんに聞いてみると、有名な曲をジャズでカバーしているものらしい。

軽快なトランペットがとても心地よかった。


「今どきの若いやつは『ズーネイチャー』も知らんのか」


エドガさんは運転席で、あからさまにハア~とため息をついた。


「すみません…。でも…」


私はエドガさんの横顔を見ながら言った。


「エドガさんは、私の知らない事をたくさん知っていて凄いです。…尊敬してます」


横目で私を見たエドガさんと目が合った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



スウィート&ティアーズ図書館で働き始めて二カ月ほど。まだまだ知らないことだらけだけど、少しずつ業務に慣れてきた。


休憩時間、エドガさんはオアシスに私たち三人を呼び出した。ラナさんとジーノさんは、やっほーと私に声をかけてくれる。


エドガさんが話し始めた。


「えー次の休館日にミカミの歓迎会を行う。場所はいつものバーでいいな。遅くなったがそろそろ打ち解けて話もできる頃だろう」


集合時間が告げられて解散となった。


ラナさんとジーノさんに聞いてみた。


「歓迎会嬉しいです! いつものバーってきっと美味しいんでしょうね」


「うん。美味しいよ。そこは期待してていいと思う。でもタイミングがね~」


「ああ、そうだな。私はミカミさんが来た初日に言ったんだけどなあ」


「エドガ絶対…」


「忘れてたわね」

「忘れてたな」


「なるほど!」


私の歓迎会はエドガさんがやっと思い出して急遽開かれたようだ。

・・・なんか複雑。



バスで集合場所の駅前についた。

夕方ということもあって、人通りは少し多い。


今日は少しだけおしゃれをしてきた。皆いつも通りの服装だとちょっと恥ずかしいかなと思ったけど、お休みだからいいよね。

綺麗目のワンピースに、少し高めのヒール。いつもはアクセサリーはつけないけれど、今日はさり気ないネックレスとピンキーリングをつけてみた。


ラナさんなら褒めてくれるかな~。ジーノさんも意外と気の付く人だからな。エドガさんは…無いな。

楽しみになってきて、うふふと笑った。



全員集合すると、ラナさんとジーノさんはやっぱり褒めてくれた。嬉しい。いい人たち。


「ミカミちゃん今日雰囲気違うじゃ~ん!めっちゃかわいいよ~!」


「えへへ。ありがとう」


「うん。よく似合っているぞ。まさに今日の主役という感じだ」


「えへへ」


「メイクもいつもと違うじゃ~ん! このネックレスかわいい~どこで買った? おそろで買おうかな~!」


「えへへへ…」


ラナさんとキャッキャしていたらだんだん照れ臭くなってきた。


「行きましょうか。近くなんですか?」


ちょっと離れたところにいるエドガさんに聞いてみた。


「ん。行くぞ」


エドガさんとジーノさんが歩き出した。その後ろを私とラナさんがついていく。


「今度一緒にショッピングしよ~!」


「うん!」




“いつものバー”はちょっと変な場所にあった。少し歩くから見つけにくいけど、隠れ家って感じで素敵だ。


「ここはカクテルが美味い」


エドガさんの言葉を補足するように、ジーノさんがおすすめのカクテルを説明してくれる。

あまり経験が無いので、ジュースみたいで飲みやすいという、カシスオレンジを頼んでみる。


エドガさんは車なのでウーロン茶。

ジーノさんは赤ワイン。

ラナさんはトマトハイ。


エドガさんが乾杯の音頭をとる。


「こうして図書館のメンバーで集まるのも初めてのことになるが…」


「エドガのいない時に三人で集まったことあるよ?」


「なに!?」


「あの喫茶店のフレンチトーストは絶品だったな」


「ねー」


いつの間にお前ら…と言いたげだったが、エドガさんは気を取り直して続ける。


「二カ月経ってミカミも慣れてきたころだ。今日は酒でも飲みながら親睦を深めよう。…では乾杯」


「「「かんぱ~い!」」」


「ミカミちゃん来てくれてありがと~!」

「こちらこそだよ~!」

ラナさんと乾杯する。


「ミカミさんようこそ。これからもよろしく」

「はい! よろしくお願いします」

ジーノさんと乾杯する。


「…」

「…」

エドガさんと乾杯した。


「ちょっと! なんで無言なのよ? エドガも歓迎の気持ちを表現してくださーい!」


「むむ…」


「大丈夫ですよラナさん。エドガさんがちゃんと私のこと歓迎してくれてるって分かりますよ。じゃないと歓迎会なんて開いてくれませんよ」


「でもエドガは歓迎会のことを今まで忘れてたぞ?」


「わ、忘れてたわけじゃない!」


「そ、そうですよ! きっとタイミングを見計らってくれたんですよ…たぶん」


「そうなのか? エドガ」


エドガさんは苦虫を嚙み潰したような顔で答える。


「そ、それはだな…。ここ最近忙しかったから…失念していただけだ」


「「ほら~」」


ラナさんとジーノさんの声がハモった。私は思わず笑ってしまう。エドガさんに睨まれている気がしたけど、気づかないふりをした。


エドガさんって意外といじられるタイプなんだろうか。


「私、みんながどんな本を読んでるのか知りたいです。おすすめ教えてください」


「あのね~私はやっぱり恋愛ものが好きだな。賞をとってて恋愛ものって聞いたらすぐ読んじゃうの! でもたまにミステリーとか冒険ものも読むよ!」


「私は探偵ものが好きだな。小さいころから読み漁っているから、大抵のものは冒頭で犯人が当てられるぞ。…しかし最近の探偵はかっこよすぎて驚くな。昔の探偵は身なりがボロボロだったり、傍若無人な性格だったりしてな。それで鮮やかに事件を解決して逆にかっこいいものだったんだが…。エドガは読むのも早ければ、ジャンルにこだわらないから面白いぞ」


エドガさんは話を振られて、飲んでいたカクテルをテーブルに置いた。

じっと私の目を見て真剣に話し始めた。


「お前には先日少し話したな。俺の本棚の中にある本をとりあえず読むといい。後悔はさせん。…お前の好きな本はなんだ。人に質問するならまず自分から話した方がいい」


「私は…」


突然背後から爆発音がした。


私たちはそちらを見た。

…魔物だ!!


「皆さん! 避難してください! 『ケイル』!」


私は爆発に巻き込まれた店員のお姉さんを回復した。腕の損傷が治っていく。


「あ、ありがとうございます」


突然のことにお姉さんはまだ驚いているようだ。


「いいえ。お店の奥へ避難するか、裏口から外へ避難してください」


お姉さんは慌てて店の奥へ去っていった。


皆はやれやれといった感じで立ち上がる。


「平日だし、お客さん少なくてよかったかもね」


ラナさんがカバンの中から杖を取り出す。


「せっかくの歓迎会なのに、なんか悪いね。ミカミちゃん」


ジーノさんはジャケットの中からナイフを数本取り出した。


「休日なのに戦わんといけんのか…」


エドガさんはすでに右手に本を持っていた。


魔物がこちらへ近づいてきた。魔物は二体。…魔物の後ろから人影が近づいてくる。


「この店に図書館のやつらはいるかあ!?」


「あれ~私たちもこと知ってるみたい」


グウオオオオオオ!!と魔物が叫ぶ中、その男は話し出す。


「二カ月前のことだ! 図書館を襲撃しに行くと突然相棒が消えた! それからずっと戻ってこないんだ! あいつの仇は俺がとる!」


「ああ、山田なんとかのことか」


私はエドガさんの言葉にうんうんとうなずく。私の面接の日、襲撃してきた勇者の話だろう。


「ここは私とジーノだけで大丈夫。ミカミちゃんとエドガはそこで見てていいよ。今日の主役なんだから」


「そのようだな」


「そうそう。じゃ、ジーノよろしくね」


ジーノさんはナイフで切りかかり、ラナさんが呪文を詠唱する時間を稼ぐ。

ダン!とジーノさんが床を蹴る音がした。

ジーノさんの修敏な動きが魔物を翻弄している。


「白の韋駄天 青天の霹靂 闇から光へと飛翔せよ!  地平を超えし水銀灯 彼の地を統べる羽音を聞け!」


ラナさんの足元から白い錬成陣が光り始めた。


「エレーアワープ!」


グオオオオオ…!!

と、ジーノさんに足止めされていた魔物と、男性が足元から透け始めた。

ふう~とジーノさんは手を止めた。


「面倒だから遠くにとばしちゃうね」


「クソッ! クソッ…」


男は動けなくなった体で悔しそうにしている。


「おい」


黙ってみていたエドガさんが口を開いた。


「山田とお前がどういう関係だったかは知らんが、あいつは今頃現実と立ち向かって、頑張って生きてるだろうよ」


「…そうだといいがな」


男はどこかへ消えていった。


「さーて」


私たちは顔を見合わせた。


「飲みなおしますか!」



お開きになった時、私の足取りがふらふらしていたので、エドガさんが車で送ってくれることになった。


「どうもすみません…」


「ん」


「じゃあエドガ、ミカミちゃんのことよろしくね~おやすみ~」


「また明日」


私とエドガさんは車に乗り込んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


カッチカッチ、とウィンカーの音が車内に響く。


私たちは言葉を交わさなかった。ジャズの曲が静かに流れていた。


「この曲、『ズーネイチャー』でしょうか」


「ほう、よく知っているな。どこで知った?」


あれ、どこで知ったんだっけ……


「忘れました…」


「そうか」


再び、車内はジャズの音楽だけが響き渡った。私はなんだか、よくわからない不思議な気持ちになった。


その時エドガさんは横目で私を見た。私と目が合った。


「こっち見んな」


「…ひどい」


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