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第6話 ラナと思い出の姫

登場人物


館長 エドガ 冷静


司書 ミカミ 主人公 基本いい人


司書 ラナ よくしゃべるギャル


司書 ジーノ 世話焼きで若者にうざがられるおじさん

そろそろ掃除も飽きてきたなーと思っていた束の間、エドガさんに

「そろそろ窓口をやれ」と言われてカウンターの業務をやることになった。


「ここここちらをお貸出しですね?」はじめてのお客様対応に私は緊張を隠せなかった。


「はい」優しそうな顔をしたおばあちゃん。


「はい、えっと・・・・・・ここをピッとして・・・・・・これで貸出できました。期限2週間後です!」


「ありがとうね」


上品な身なりのおばあさんが去っていった。


若い男性が本を差し出してきた。


「ご返却ですか?」


「はい」


私はバーコードを読み取って、返却の手続きを済ませた。


「こちらの本ですべてご返却済みです。ありがとうございます!」


男性が去って行ったあと、ふと返却された本を手に取り、めくってみた。ミケランドールの歴史と、王族ランドール家との関わりについての本だった。


スウィート&ティアーズ図書館がある国、ここミケランドールでは、かつて王族が国を統治していた。


時代が流れて、今では政府が国を動かしているが、今でも王族はたしかに存在している。


かつてミケランドールが建国された時から、王族には代々守らなければいけないものがあると言われている。それが財宝なのか、守られるべき文化なのか、神木だとか書物だとか。はたまた不老不死の法であるとか。いろんな噂が飛び交っている。


王族が何を守っているのかは王族にしか分からない。


しかし、一年に一度の国の祭りの際には王族が集まって神楽を舞うことになっている。


国民はその舞をみることで王族の存在を確認することができる。


それにしてもあの舞は本当に綺麗でおごそかで・・・いつ思い出してもため息が出てくる。


王族が代々守っているものは、あの舞のことだと思っている人も多いだろう。


ミケランドールの王族は謎が多いのだ。



一緒にカウンター業務をしているラナさんが、お手洗いから戻ってきた。


「おまたせ~。まだ慣れてないのに一人にしてマジごめんね? 困らなかった?」


「うん! 大丈夫だったよ。ありがとう」


私の持っている本を見てラナさんは言った。


「お! ミケランドールの王族の話ね? 私こう見えてちょっと詳しいんだよ。ミカミちゃんは~、なんで王族が今みたいに目立たない存在になったか知ってる?」


今日はラナさんと二人でカウンター業務だ。でも平日なのもあって、利用者の数はポツポツだ。

ラナさんはよく一緒におしゃべりしてくれるからとても楽しい!


ラナさんは可愛くて優しい人だ。

ラナさんの揺れるピアスがキラリと光っている。


「私が小さいころからもう今の感じだったからなあ。詳しくは知らないの」


「ふふ~ん・・・」


ラナさんはニヤリと笑って、両手を腰にあてた。


「えっへん! ラナ先輩が教えてあげよう!」





ランドール王家がこの国ミケランドールを統治していた時代。


一人のお姫様がいた。名前はラーニャ。


ラーニャは王家に珍しく、好奇心旺盛で縛られるのが嫌いな自由人だった。


その日もラーニャはいつものようにお城を抜け出して、町娘のふりをして散歩をしていた。




「どう? ここまではどっかで聞いたことある感じでしょ?」


「う、うん・・・。どうなるの? 焦らさないでよ~」


「ふふ~ん! それでね・・・」





ラーニャは広場で一人の絵描きをみつけた。その男はパレットと筆を持ってイーゼルと向かい合ってはいるが、ボーッと立っているだけのように見える。


少しも筆が動いていない。


ラーニャはその絵描きの近くにあったベンチに座り、ちらちらと絵描きを観察する。


・・・しばらく経っても絵を描いている様子がないので、ラーニャはしびれを切らして絵描きに近寄った。


おもむろに絵をのぞき込む。


絵はすでに完成していた。


ラーニャは驚いて息を飲んだ。


「あなた・・・なんでこの絵を描いてるの?」


絵描きが描いていたのは、お城の中に作られている湖の風景だった。湖のそばにはラーニャのお気に入りのブランコがある。驚いたことには、ラーニャの小さいころからの飼い犬であるダンデもいる。


明らかにお城の内部に入ったことのある人物でしか描けない絵だ。


突然声をかけられて、驚きつつも絵描きは答えた。


「これは・・・。僕の父は絵描きなんだけど、父に連れられて行った・・・思い出の場所の・・・風景なんだ・・・なんだけど・・・」


絵描きは歯切れの悪いしゃべり方をする男だった。


「子どもの頃の思い出・・・だからかな・・・一緒に遊んでくれた女の子がいて・・・その子を描きたいん・・・だけど・・・」


ラーニャは絵描きの話をそこまで聞いてやっと思い出した。


以前、宮廷お抱えの絵描きが肖像画を描きに何度もお城を訪れていた。


その時にいつも絵秋の息子がついてきて、ラーニャと一緒に遊んでいた。


ラーニャは目の前の絵描きをいつも湖に落として遊んで、最終的には自分も湖に飛び込んで泳いで遊んだことを思い出した。


その時から、この男はこんなしゃべり方をしていたんだった。


「いつも一緒に・・・遊んでて・・・遊んでいたんだけどな。顔がお・・・思い出せないんだ」


ラーニャは振り向いた男と目が合った。


今度は、ラーニャの顔を見た男が驚いて息を飲む番だった。




「ひゃあ~! それでどうなっちゃうの!?」


思いがけないラブコメ展開にミカミのテンションがあがる。


「まあまあ。ミカミちゃん図書館ではお静かにだよ!」


そう言いながらも、ラナもテンションが高い。




その後、思い出話をするうちに、ラーニャと絵描きは惹かれ合った。


しかし、お察しの通り二人が結ばれるには壁が多かった。


結論からいこう!


破天荒なラーニャは王政の時代遅れを説いた。王族と庶民が結婚してはいけない理由を論理的に説明しろ!できないのなら文句は無いはずだと言い張った。


そしてラーニャはやってのけた!


王家は政治から退いて、本来の目的にのみ存在することになった。王族と庶民の垣根は取り払われて、現在の関係が築かれた。


そしてラーニャと絵描きは結ばれた・・・




「・・・全然知らなかった・・・そんな感動的なお話があったんだ」


ミカミはうっとりして余韻に浸っている。


「で、そのラーニャ姫が私のおばあ様ってわけ」


「え?」


「え? ・・・いや、だからあ、そのラーニャ姫が私のおばあ様ってわけ」


「・・・」


「ミカミちゃん聞いてた?」


「え、え、ラナさんは・・・王族・・・ってこと?」


そうだよ。ちなみにこれはおばあ様がくれたブレスレットなんだ。超キラキラしてて可愛いっしょ? おきになんだ~!」


「ひょえ~」


ラナさん、由緒正しいギャルだったのか・・・



冒頭で私が貸し出し手続きをしたおばあさんが戻ってきた。何か不備でもあったかな?

私は慌てておばあさんに尋ねた。


「どうかされましたか?」


「あ、おばあ様! おひさ~! 元気してた?」


「ラナちゃん、やっぱりここにいたのね~。戻ってきてよかったわ」


「ラナさんのおばあ様っということは・・・もしやあなたは・・・」


「そうだよ! ミカミちゃん、さっき話してた私のおばあ様。おばあ様、ミカミちゃんは私の可愛い後輩だよ!」


よろしくね。今度お茶でもどうかしら。美味しいバターサンドのお店を見つけたからラナに教えようと思って来たのよ。あなたも今度行きましょうね」


「やだ~おばあ様それ最高のやつじゃ~ん」


「ぜひお願いします・・・!」


王族の方とお出かけの約束をしてしまった。


でもいい人そうだ・・・


楽しい女子会になりそうな予感。今度はご本人からご主人との馴れ初めを聞いてみよう。


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