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第4話 休息するミカミとたまごサンド

登場人物


館長 エドガ 冷静


司書 ミカミ 主人公 基本いい人


司書 ラナ よくしゃべるギャル


司書 ジーノ 世話焼きで若者にうざがられるおじさん

今日は月曜日。スウィート&ティアーズ図書館は、他の図書館と同じく月曜日が休館日だ。


何もしないで過ごすのはもったいないので、私は朝から出かける準備をする。


こき使ってくる意地悪な上司エドガさんがいない日くらい、のびのび過ごそう!

私は読みかけの本をポシェットに入れて外に出た。



行きつけの喫茶店のドアを開けた。


「おお! ミカミちゃん久しぶりだね。いらっしゃい!」


「おじさん、お久しぶりです」


私はお気に入りの、窓際の奥のテーブルに座った。ここのマスターは私のおじさん。お母さんの弟だ。


ここの喫茶店は木の香りがして落ち着く雰囲気だ。最近繁盛しているらしい。


何より食べ物が美味しい!

私はコーヒーの味はいまいちわからないけれど、おじさんの煎れるブレンドコーヒーはこの町でも有名になるくらい美味しいらしい。


この間ジーノさんにしこたま奢ってもっらった時に食べた、名物のフレンチトースト!

みんなぜひ一度食べてもらいたい。甘くてふわふわに焼かれたフレントトーストはもちろん絶品だ。


それを引き立たせている、付け合わせのイチゴとブルーベリーが、甘いフレンチトーストに本当に合うのだ!


とはいえ今日は別のものを食べることにする。


「ミカミちゃん、この間来てくれた時は忙しくて挨拶もできなくてごめんね~! あの人たちは仕事場の人?」


「うん! あの時の2人はとってもいい人たちだよ! ジーノさんとラナさん!」


「そっかそっか! 仲がよさそうに話してたからおじさんも安心したよ」


「うん! ありがとう!」


そう。おじさんはとてもいい人だから大好きだ。

それに私が一人で食べに来るとこっそりお代を安くしてくれる。


「おじさん、日替わりモーニング。ホットココアで!」


「はい。お待ちください」


おじさんはにっこり笑って厨房へ去っていった。


私はポシェットの中から本を取り出す。


今読んでいる本は『ミケランドール神話体系』。

今も生きていると言われているモジャラの神様のことをきっかけに、この大陸の神話を読んでみようと思い立った。


・・・やっぱりどの本にも、ミケランドール、サンニャチコ、ハナマチ、モジャラには神様が存在していると書いている。


建国の際に祀られた人だろうか?


それとも、あおの地方に以前からいたヌシのような動物だろうか。




・・・残念ながらこの本にはそこまで詳しく書かれていないみたいだ。


「まだまだ本を選ぶのが下手くそなのかな私って」


「お待ちどう様! 読書もいいけど、そろそろ一息いれたら?」


「わ~美味しそう!」


今日の日替わりモーニングは、たまごサンドとコールスローだ。朝早くきたのもあってか、たまごサンドがまだほかほか温かい。


「いただきます!」

「はーい。ごゆっくり」


私はモーニングをむしゃむしゃ食べた。


そういえば皆は休みの日って何して過ごしているんだろう。

仕事を始めてしばらく経つけれど、あまりそういう世間話はしたことがない気がする。



ドアが開く音がした。

新しいお客さんだ。

私はたまごサンドをほおばりながら、チラとそちらを見た。


「ゲッ!」


ドアを開けて入店したのは、なんとエドガさんだった。


私は思わず持っていたたまごサンドで顔を隠した。


「いらっしゃい!」


と、おじさんが声をかけて、エドガさんはつかつかと奥へ進んでくる。


どんどん私との距離が近づいてくる。


(気づきませんように~!)


と念じていたのもむなしく、すぐに見つかってしまった。


「おい」


「は、はい」


私は観念してエドガさんの方を見た。


今日は休みのはずなのに、いつもの仕事中と同じ格好をしていた。


「今日のモーニングはたまごサンドか。お前、たまごサンドで顔を隠して、隠れられるとでも思っているのか? 自分は小顔だとでも思っているのか?」


「うう・・・」


私が反論できないでいると、エドガさんは私の向かい側の椅子に座り始めた。


「ちょっとちょっと!」


私は慌てて阻止しようとする。


「なんで同じ席に座ろうとしてるんですか! 別の席に行ってください!」


「お前なあ・・・周りをよく見てみろ」


キョロキョロと周りを見ると、こじんまりとした店内はもうほぼ満席になっていた。


「俺が好き好んでお前と同じテーブルに座るとでも思っているのか? ましてや休みにだぞ。顔見知り同士は同じテーブルに座ったほうが店にとって都合がいいだろう」


エドガさんはそう言いながら席に座ってしまった。


「お前は一人のくせになぜこんな広いテーブルに座っているんだ。気の利かないやつだな」


「はあ。すみません」


なぜ休みの日まで上司に嫌味を言われなきゃいけないんだろう。


私はバレないように小さくため息をついた。


おじさんがエドガさんの注文をとりにきた。


「お待たせしました・・・。あれ? ミカミちゃんのお知り合いでしたか!」


「えーと、おじさん、紹介します。私の働いてる図書館の館長、エドガさんです。エドガさん、この喫茶店のマスターは私の親戚のおじさんなんです」


なんだかややこしくなってきたぞ?


「どうもどうも! 姪っ子がいつもお世話になってます。どうぞ厳しくしてやってください!」


「おじさん、余計なことを言わないで!」


流石のエドガさんも驚いたのか、少し驚いた顔をした。


「ええ。お言葉に甘えてもっと厳しく指導していこうと思います。モーニングとブレンドをお願いします」


おじさんは笑いながら去っていった。冗談だと思ったかもしれないけど、たぶんこの人は本気だ!



また何か言われるのだろうかと身構えていた。


しかしエドガさんは何事も無かったかのように、カバンから取り出した本を読み始めた。


私はホッと胸をなでおろす。


そうだよね。ただの相席。エドガさんだって休みの日にまでわざわざ私に嫌味を言いたいわけないよね。


私も読書の続きを始めた。


しばらくしておじさんが、エドガさんの分のたまごサンドを運んできた。


私はホットココアを少しずつ飲み、エドガさんはたまごサンドを食べている。


「・・・」


「・・・」


なんか気まずい!


「おい」


「は、はいはい!?」


「美味いな」


おお! 珍しい!

エドガさんの口からこんなに普通の言葉が出てくるなんて。

私はなんだか嬉しくなってしまった。


「そうですよね! ほんとに美味しかったです。おじさんは各地をまわって料理の修行をしていたんですよ」


「なるほどな。美味いわけだ」


「私の母はあまり料理が得意じゃなかったから、小さいころはおじさんが作ってくれるご飯がご馳走だったんですよ~!」


「ほお。お前がマスターを誇らしく思っているのはよく分かった。しかし、なぜお前がそんなにも自慢げに話すんだ。親族のことを褒められたら謙遜するくらいの慎みを持て」


「だって・・・」


うぐぐ・・・と私は言いよどんだ。

ぐうの音も出ないけど・・・いいじゃないか別に!


「・・・まあ、お前がマスターの料理を褒められて、よほど嬉しかったということだな」


ふん、と言いながらエドガさんはブレンドコーヒーを飲んだ。





「じゃあな」


「もう帰られるんですか?」


せっかくの休みだから、ゆっくりすればいいのに。


「せっかくの休みなのに、仕事仲間と顔を突き合わせているのもつまらんからな」


「そうですね・・・。では、また」


確かにその通りだから何も言えない。


エドガさんはさっさと帰ってしまった。


「ふう。やれやれ」


昼に近くなると本も読み終わってしまった。そろそろ帰ろう。


「おじさん、ごちそうさまー!」


レジで声をかけると、厨房からおじさんが出てきた。


「あ、お代はさっきのエドガさんから貰ってるから。ミカミちゃんまた来てね! おじさんもここで応援してるから、お仕事頑張るんだよ!」


おじさんは嬉しそうに私を送りだしてくれた。



・・・


・・・・・・


・・・まさかエドガさんが奢ってくれるとは思わなかった・・・。


どういうこと? 上司が部下に奢るのは当たり前ってこと?

でもエドガさんに限ってそんなこと・・・


これが不良に子犬効果ってやつね・・・。


いつもはオラついている不良が、雨に打たれる子犬に傘を差してあげるところを目撃すると、途端にときめいてしまうという。



・・・不覚にも突然知らない間に優しくされて、ときめいてしまった自分が悔しい。


・・・とりあえず明日はお礼を言おう。

たぶん返事は「ん」だろうな。



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