第3話 モジャの伝説
登場人物
館長 エドガ 冷静
司書 ミカミ 主人公 基本いい人
司書 ラナ よくしゃべるギャル
司書 ジーノ 世話焼きで若者にうざがられるおじさん
私ミカミがこのスウィート&ティアーズ図書館で働きだしてから、はや1カ月が経過した。
今日も私はせっせと閉架書庫のお掃除をしている。
「うーん……」
あれから道に迷うことも無くなったし、なんとなくどこに何があるのか把握できるようにもなってきた。
でも奥に行けば行くほど、二度と戻ってこれないような不安な気持ちを私が襲う。
あれからたまに警報が鳴り、3日に1度くらいのペースで侵入者が現れ、エドガさん達に撃退されている。
侵入者はみな「転生者」と呼ばれるもので、エドガさんはこの転生者の撃退を担当としているようだ。
図書館っていつからこんな危なっかしい場所になったんだろう。
私がイメージしていた図書館司書というのは、もっといろんな人が本を読むためのお手伝いをする仕事というイメージだったんだけどな……。
あれからずっと掃除しかしてないし……はぁ。
そんな気持ちで本棚に溜まったほこりを落としていた。
その時だった。
「ミカミさん、聞こえますか?」
この声はジーノさんだ。私の面接の時、エドガさんのところへ案内してくれたジェントルマンおじさん。
「はーい聞こえますよ。なにか御用でしょうか?」
「いまお手すきですか? 良かったらお手伝いいただけないかなと思ってるのですが」そういってジーノさんは私に本を手渡した。
「大丈夫ですよ。この本は?」
「これは、"モジャの伝説"という本で、お客様からのレファレンスですね」
「え? レファレンスですか!?」私は飛び上がった。
説明しよう! レファレンスとは、調べたいことや探している資料などのご質問について、必要な資料・情報をご案内するという仕事なのだ!
図書館にはいろんな本を探しに色々なお客様が訪れる。そのお手伝いをするのが司書の務めなのだ。
「ずっとレファレンスがやってみたかったの! 本当にいいのですか?」
「お、すっごく元気になりましたね。期待していますよ」ジーノさんは優しく微笑みを浮かべた。
「じゃあ、さっそく要件をお伝えしましょうか」
この世界は大きく分けて
『ミケランドール』(スウィート&ティアーズ図書館があるところ)
『サンニャーチコ』
『ハナマチ』
『モジャラ』
『ピッターニャ』(一般人は立ち入りできず、文化が無いと言われている)
の5つの国が支配している。
お客様はこのモジャラという国の「モジャ」という言葉の意味を探し求めているそうだ。
「ちなみに"モジャラ"の"ラ"はどういう意味なんですか?」
「それはね、ここを見てごらん」ジーノさんは『モジャの伝説』の68頁を開いた。
そこにはこう記されていた。
「国王は生まれた時、偉大なるモジャの名前をいただき、"モジャラ"という名前をいただいた。そしてその名のもとに国を制し"モジャラ"国が誕生したのである」
「うーん、この文章だけじゃいまいちわからないけれど、モジャという名前をもじってモジャラにしたってことですかね?」
「そうみたいだよ。そして今回お客様はこの"偉大なるモジャ"とはなんなのかお調べになっている」
私はワクワクが止まらなかった。この終わらない閉架書庫のどこかにきっとこの言葉の答えが眠っているのだ。
「では今からそれを調べるということですね!」
「まあそうなんだけど」ジーノさんは腕時計を見やった。
「私今日は早番でもう上がることになっていてね。ちょっと外せない用事があるのだ」
「え? 私一人でやるんですか?」
「君は司書の資格を持っていると聞いている。きっと君ならこのモジャの謎を調べることができるだろう」
「そんなあ。習ったことがあるだけで今まで一度もやったことないんですよー?」
「期待しているよ」そういうとジーノさんは私のおでこにデコピンをして姿を消した。
「痛いよぉジーノさん……」私は途方に暮れた。
もう一度『モジャの伝説』を手に取った。そこにはメモが挟まっていた。
「〇〇様(利用者の個人情報は公開しないのが図書館のきまりだからここでも伏せておく)来週までに"モジャ"について書いてある本を用意。急ぎではない」
「なんだ、急ぎじゃないのか」私はほっとしつつも、そこまで大きな仕事を任されていなかったという事実に複雑な気持ちを覚えた。
「まあでも、絶対に見つけなきゃいけないという訳じゃないしね! 気楽に探していこー」私は閉架書庫の本を一冊ずつ取り出し、"モジャ"という言葉を探り当てていった。
それから約6時間ほど経過した。
「まもなくスウィート&ティアーズ図書館は閉館いたします」ラナさんの美しい声が図書館内に響き渡る。
「結局"モジャ"は見つからなかったな……」もう仕事も終わりか。帰らないと……。いや待てよ? 私は閉架書庫の奥深くに潜んだ。
「おい、ミカミ!」エドガさんの声がした。ラナさんの声もすこし聞こえている。
「閉館だ! 聞こえなかったのか。また迷子か!」
「ミカミちんなにしてんのー」ラナさんは一瞬で私の前に移動していた。私は棚の奥に隠れて息を潜めていたのに。すぐ見つかるなんて……。
「おーい!」エドガさんの声は遠くから響き続けていた。
「な、なんで場所が分かったの?」
「私そういう魔法使えるって前言ったじゃーん♪ミカミちん帰り一緒パフェ食べよーよー。帰ろ?」
「う、ちょっと待ってラナさん」
「なにー?」
「実はね、今レファレンスしてたの。まだ本が見つかっていなくて……」
「凄いじゃんミカミちん! でももうすぐ図書館は誰も入れないように結界張るんだよー帰らないと結界の中で死んじゃうしー」
「そうなんだ」
「レファレンスはパフェ食べながら手伝ってやっからさー」
「ありがとうラナさん」
「おーーーーーーーい!!!!!!!」エドガさんの声はいまだに響いていた。
帰り道。ラナさんと夜の海を眺めていた。
「え? ミカミちんジーノからそんなこと頼まれたのー?」
「そーだけど…私全然見つけられなくて……」
「6時間パソコンも使わず棚の本全部調べてたの?」
「え、あ、パソコン?」
「そーよ。まだ新入りだから教えてもらってないだろーけど、検索とかして調べるのがフツーよ? しかもお昼も休憩してなかったのー?」
「うん、私白魔法で回復できるから、お腹も減らないし疲れも癒せるし……」
「べんりー」ラナさんは目を丸くして私を見ていた。
それからラナさんは私に見せたいものがある。と言って一緒に赤魔法でワープした。
そこはカジノだった。
「え? ラナさんギャンブル好きなのー?」
「違うよーどうせここにいると思ってさ」
ラナさんはずかずかと入っていった。後に続いた。
「しゃああああああああ! 俺の勝ちだああああ!」
そこには有り余るほどチップを持ったジーノさんがいた。
「え? ジーノさん?」
「ミ、ミカミさん?!」ジーノさんはチップを思わず床にこぼしそうになった。
「やっぱここか。ミカミちん覚えといて。こいつはこーゆーやつよー」
「ちち違うよ、ミカミさん、今日は仕方なくここにきていて……」
「いや、別にいいんですよ? 外せない用事だって言われていましたし……」
「こりゃ参った。お嬢さんたち、ごちそうするよ」
「ありがとージーノー」ラナはしてやったりと言った表情をした。
これが目的だったのかな。ラナさん。
私たち3人はそれから最寄りの喫茶店に寄った。エドガさんだけいないのがなんだか面白い。
「パソコン使わず一冊一冊調べていた? ホントに?」ジーノさんは口を大きく開けてこちらをみた。
「す、すいません。何も知らなくて私・・・・・・・。」
「ジーノがなにも教えなすぎー」
「こいつは本当に失礼したなあ。今日はいくらでも頼んでいいからね」
「わーい、やったねミカミちん」
「ありがとうございます」
私とラナさんはパフェをご馳走になった。
「ところで、モジャについてなんですけど」
「うん。目ぼしい情報は見つかったかい?」
「"モジャ"自体の情報は見つからなかったんですけど、『モジャの伝説』に書かれてある事項と似たような話が見つかったんですよ」
「え? それはすごいじゃないか。ミカミちゃん。それはどんなものだったんだい?」
「ミケランドール、ハナマチ、サンニャーチコにもモジャに似たような伝説が記されていて……」
「うん、私もそれらの秘密と関連性を模索していたんだ」
「え、ジーノなんで最初に教えてあげなかったのよー」
「あ、本当だ、忘れていたよごめんねー」
「いや、いいんです! 人から聞くよりもこの目でしっかりと確認する方が、勉強になりますし」
「ミケランドールは"ミケ"。ハナマチは"マチ"。サンニャーチコ、ピッターニャはわかっていないけど、そしてモジャラの"モジャ”これらの言葉だけが現代でも伝えられているらしい」
「はい。そしてタイトルは忘れたんですけど、とある本に『伝説は生きている』という言葉が書いてあったんです」
「伝説は生きている……?」
「はい、かつて『ミケランドール』、『ハナマチ』、『サンニャーチコ』、『モジャラ』、『ピッターニャ』の名前をもじった"なにか"がこの世界に存在してたら面白いなーとか思っちゃったりしたんです私」
「えっなんか話難しくなってきたなーミカミちん、つまりどういうこと?」
「ミケランドールの伝説『ミケ』、ハナマチの伝説『マチ』、モジャラの伝説『モジャ』
という生き物が今もこの世界に存在するってこと?」
「はい」
「面白いな」
また詳しく明日3人で調べてみようという話になってその日はお開きになった。
「ただいまーお母さん」
「ミカミちゃんお帰りなさい遅かったわね」
「うん、職場の先輩がご馳走してくれたの」
「あら、さすが私の娘。仲良しねー」
「そうかなーへへ」
寝る前に、部屋から夜の景色を眺めていた。
「『ミケ』『マチ』『モジャ』か……」
この世界のどこかに彼らはいるのかもしれない。