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最終話 スウィート&ティアーズ図書館

「うおおおおお!!」


エドガはガインに向かって走り出す。エドガは勢いをつけてガインの顔に思い切り右ストレートを入れた。鈍い音がする。




ガードの姿勢をとる力も残っていないガインだったが、地面を踏みしめてエドガにアッパーを入れた。脳を揺らす激しいパンチだった。




もう武器も思考力も残っていない二人の激しい殴り合いが始まった。




「なんて泥臭い試合だ……! ガインらしくもねえ。だが血が滾るぜえ……!!」


タヅナが興奮して拳を振り上げる。




エドガはガインの渾身の殴打を受けながらも、どこか懐かしさを感じていた。




「(なぜだ、初めてじゃない。この感覚は前にもどこかで知っている……)」




エドガはハッと思い出した。




「ガイン……いやお前は……。お前、……ギルバートか? ギルバート・グラジオか?」




ガインの動きが止まった。目を見開いてエドガを見据えた。



エドガがこの世界に転生する前の出来事。エドガは転生する前、ジャン・キルシュタインという名で図書館の館長をしていた。


ジャン・キルシュタインは図書館の館長だった。いつものように事務所で事務仕事をしていると、司書の女の子が扉をノックして入ってきた。


「館長失礼します。お客様です。アポイントはないそうなんですが、面接をしてほしいから館長を出せとしつこいんです」


「面接?」

ジャンは仕事の手を止めて少し笑った。面接をしてくれと押しかけてくるなんて変なやつだ。よっぽどこの図書館が好きに違いない。


「わかった。会議室に通してくれ」


「わかりました」




会議室へ行くと、若い青年がジャンを待っていた。ジャンの姿を見て、威勢よく立ち上がる。


「初めまして。ギルバート・グスタフです。突然で申し訳ないですが、俺はこの図書館が好きです。ここで働かせてください。これ履歴書です」


ジャンは差し出された封筒を受け取った。この身勝手さと強引さと、芯の強そうな目が気に入った。面接を簡単に済ませて、すぐにギルバートを採用することに決めた。


「好きな本はなに?」


「『ピッコリーノの祖母』です。あらゆるジャンルを読んではいなすが、この本は特に気に入っています」

ギルバートは真面目な好青年だった。


「(若い頃を思い出すなあ)」

ジャンは書類にサインをして、結果の欄に“採用”と書いた。





ギルバートは本を読むのが好きだった。面接の際、図書館で本に囲まれて仕事をするのが夢だと言っていた。

それが叶ったからか、毎日一生懸命働いている。


ジャンも本を読むのが好きだった。ギルバートよりも年上なため、ギルバートよりもたくさんの本を読んでいた。

ギルバートはジャンと話していて気付いた。ジャンはギルバートよりもたくさんの本を知っていた。ギルバートはそれを悔しくも思っていたが、素直にジャンを尊敬した。


二人は本の貸し借りをする仲になった。

いつも本の話をしていても、話が尽きることはなかった。


「貸してくれる本、いつも面白いです」


「君の選ぶ本も面白いよ。ありがとうね」


ただの上司と部下ではなく、二人は趣味の合う友達になった。






ガインは自分の本当の名前を知り、元の世界へ戻るべくだんだんと体が薄く消えていく。


「あんた、ジャンだったんだな。生きても死んでも生まれ変わっても図書館館長なんだな」

ガインは呆れたようにエドガを見た。ガインはエドガに手を差し出した。


「そういう運命なのかもしれんな」

エドガは差し出された手を取り、立ち上がった。


「転生してから本のことなんて忘れていた……。またあんたに会えて思い出せてよかったよ。俺の名前を呼んでくれてありがとう」

そっぽを向いて、ガインは礼を言った。


「……ギルバート、今度また会えたらまた一緒に図書館で働こう。またお前の知らない本を山ほど教えてやるよ」


ガインはエドガを見て少し笑った。ガインの体は消えてしまった。



『第四試合 勝者 エドガ』


ミカミはすぐにエドガに駆け寄った。切り傷だらけの体や、打撲で腫れあがっている顔を白魔法で治した。


「すまんな」

エドガは自分の服をはたく。獣の姿になったせいか、もう服は着ていないようなものだった。


「お疲れ様です。エドガさん。勝ってくれてありがとうございます」


「ん」


「エドガーーーー!!」

ステージの上にラナとジーノが走ってきた。


「もう~!! ヒヤヒヤしたじゃん!! 勝ってくれてよかった~!!」

ラナはエドガの背中をバシバシ叩いている。


「そうだぞ! どうなることかと思ったが、いい戦いだった」

ジーノはエドガの健闘を称えて、エドガの肩を力強く叩いた。



「リーダー、消えっちゃったっすね……。ギルティロードは解散スか?」

ワダチは不安そうにタヅナを見る。


「……そうだなあ」

タヅナは立ち上がって胸を張る。

「俺は強さを求める旅を続ける! お前らも来いよ!!」


タヅナはニカッと笑って二人を見た。


「……なんか、タヅナ、雰囲気変わった」

コウエンは小さく呟いた。


「そんなに変わってねえよ! 俺はずっと頼れる兄貴だったろ? それに、ここの魔王はもういなくなっちまうしな」

タヅナはエドガの方をチラと横目で見て歩き出した。

「さっ! 行くぜお前ら! もうここに用はねえ。俺はまだこれからもっと強くなる。……俺は最強の勇者だからな!」


一人でズンズンと歩いていくタヅナ。

コウエンとワダチは顔を見合わせて笑った。

二人はタヅナの後ろをついていく。


「タヅナ~! 待ってくださいよお。魔王が消えるってどういうことッスか~?」





ミカミはエドガの体が薄く透けていることに気づいた。

「え、エドガさん……。体が……」


「ああ」

エドガは悲しそうに自分の手のひらを見た。透明になりつつある手のひらは、向こう側は透き通ってみえる。

「転生する前の、俺の本当の名前は“ジャン・キルシュタイン”だ。ガインは、……ギルバートは俺の本当の名前を呼んだ。俺も元の世界に戻らなければならん」


「うそ……」

ラナは口を手で覆って息を飲んだ。

目に涙を溜めて、エドガを見る。


「お前は魔王だろう? 勇者はまだしも、魔王も元の世界に戻るのか?」

ジーノは焦ってそう尋ねる。


あまりにも突然の別れだった。

「館長がいなくなったら……スウィート&ティアーズ図書館は、どうなっちゃうんですか……? 行かないでください……! エドガさん……」

ミカミがボロボロと涙を流しながら言う。


エドガは泣きそうな顔を見られないように、三人に背を向ける。


ミカミは思わずエドガの背中に駆け寄る。離れたくなかった。エドガがいなくなるのが嫌だった。


エドガの背中を抱きしめようとした手は空を切り、もう透明に透けてしまったエドガに触れることはできなかった。


エドガは一筋涙を流した。


ミカミは触れられないエドガを抱きしめるように、そっと体を寄せて腕を回した。

体温はもう感じないけれど、まだあと少しだけ言葉を交わせる。

「……ありがとう」


エドガは振り向いてミカミを見つめた。至近距離で二人は見つめ合う。

エドガはニヤリと意地悪そうに笑った。


ミカミはハッとした。

「(いつものエドガさんだ……!)」


エドガはラナとジーノに向かって大声で言った。

「いままで、世話になった」


粉が舞い散るかのようにエドガは消えさった。


エドガの名前をミカミは叫び続けていた。


こうしてサンニャーチコの戦いは幕を下ろした



・・・・・・・・・・・・・・・・


ここはスウィート&ティアーズ図書館。この異世界に存在する図書館である。

見た目はとてもおごそかでお金がとてもかかっていそうな図書館。中に入ると見渡す限りの本の山。

ここで働くのが幼いころからの僕の夢だった。


「あの、すみません」

僕はドキドキしながらお仕事をしている司書のおじさんに話しかけた。


「はい? なんでしょうか? 本をお探しでしょうか?」


おじさんはとても感じがよくて、優しい温和な表情をしていた。その顔を見ているだけで、こちらもうれしい気持ちになる。

「今日面接で伺いました、"エドガ"というものですが・・・・」


「エドガ?」おじさんはきょとんとした表情をしていた。


「そうです」

「エドガァ!」おじさんは急に僕の事を抱きしめた。


「な、いきなりなんですか! 本当に」


「俺が分からないのか? ジーノだよジーノ」


「誰ですか! おじさんと親しくなるような人生経験はしていません!」


「本当に分からないんだな」ジーノと名乗ったおじさんは悲しそうな顔をしたが、すぐに

「おおい! みんな! 来いよー!」と図書館の中とは思えない程大きい声で騒ぎ出した。


「シーッ! ここは図書館ですよおじさん」ぼくはとっさにおじさんに注意した。


「え? 誰~? その子」やってきたのは明るい茶髪の縦ロールの活発そうな女の人だ。


「エドガだよ! ラナ」ジーノおじさんは上がったテンションを抑えきれずにいるようだった。ここは図書館なのに!


「え~!!!エドガ!!???」ラナと呼ばれた女性はそういうとすぐさま僕に抱き着いて

「逢いたかったよ~~」といって大げさに泣き出した。一体なんだっていうんだよ。僕はわけもわからずその場に立ち尽くしていた。


「あの~、面接はまだですか~?」


「面接にきたの~? もう採用だよ。はやくおいでおいで!」ラナさんは僕をだっこして運んだ。


「ちょっと、ラナさんでしたっけ?これでも僕はもう12歳なんです! 子ども扱いされては困る!」

嫌がる僕を無視してラナさんはエレベーターにのせ、上の階へと運んで行った。

ラナさんは扉を開けた。


「ここ……は……?」僕はその異常な光景を見て驚きを隠せなかった。

見渡す限り緑の平原が続いていた。しかもそこには聞き心地のいい音楽が聞こえてきて、鳥や川の流れが聞こえてくる。

「ここは本当に建物の中……なの?」僕は平原の中を歩いた。草はどれも本物のようだった。一体なんなんだ? ここは? 


「なんか感じることない? エドガくん」ラナさんはニヤニヤしながら私を見た。


「なんでこんな場所が図書館の中にあるんだろう? ていうかそれよりも、なんかはじめてじゃないような…懐かしい心地がする。なんか、夢で見たような……何故だろう…」僕は目からあふれ出す涙を拭きながらそう言った。涙の理由が分からなかった。


「エドガくんに合わせたい人がいるんだ~」ラナさんはそういって草原の向こうを指さした。そこには机と書棚があり、誰かが座っているようだった。


「あそこにいるのは今の館長だよ~」ラナさんはニヤニヤしながら言った。僕は彼女に言われるがまま草原の向こうへ歩いて行った。

僕が草原の向こう側に辿り着こうとする時、机に座ったまま一人の人間が私に声をかけた。


「そこのあなた!」


「は、はい!」僕は咄嗟に返事をした。


「この場所はなんだと思いますか?」謎の人はそういった。姿がよく見えなかった。


「え? ここ……ですか?」


「そうです。答えなさい」


「まるでオアシス…のようなところだと思いました」


「オアシス? ふふ…センスが無いですね」そういうと謎の人は席を立ち、こちらを見た。


「お帰りなさい、エドガさん」



〈終〉



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