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第26話 エドガVSガイン 赤い月が照らす闇

図書館の主は叫んだ「勝者 ラナ!」




ミカミはラナの下へ走った。


「大丈夫ですか!」白魔法を唱えた。


「あぁ気持ちいー、疲れがとれていくよー。まあダメージよりもMPの方が問題だけど、そういってラナは座り込んだ」


「本当に良かったです!ラナさんが勝って。」


「わったしにまかせりゃ楽勝よー!」ラナはにししと笑った。


「ちなみに、前々から思ってたんですけど、ラナさんの呪文ってカッコいいですよね。でも覚えるの大変そう」


「カッコいいでしょー、あれはその時の気分で思ったことを口にしてるだけだから別に覚えてなんかないよ~」


「へぇ。」ミカミは感心した。


「詩人なんですねぇラナさんって」




第4試合 エドガVSガイン

エドガとガインは闘技場のステージへと上がった。


「ついに来たね……! 私が勝って今は2勝1敗だから、エドガが勝ったらこっちの勝ちで、負けても引き分けじゃん! ちょっと安心~!」

ラナはホッと胸を撫でおろす。


『言ってなかったか? 第四試合は大将戦なので、勝った方が2勝したことになる』

図書館の主の声が響いてきた。


「マジかあ……!? じゃあエドガが負けたら負けじゃん!」

両手を口に当てて驚きを隠せないラナ。


「全部で四試合だから、まあ予想はしていたがな」

ジーノは腕を組んで渋い顔をしている。


「ジーノさん凄いですね……。こんな展開予想もしてませんでしたよ……」

ミカミは、ハアとため息をついた。



「まだ勝負は分からねえな」

タヅナは腕を組んで鼻息をならす。横に座っているワダチとコウエンの方を見る。


「こっち見んな~!」

負けてしまったワダチは特に言い返す言葉もない。


「言っとくけど、私は後悔してないから」

コウエンはタヅナを睨む。


「おう。面白い試合だったぜ。まだ勝負は決まってねえ。次は俺がまだ一回も勝てねえガインの試合だ。……魔王は俺が倒したかったが、これはこれで楽しみだなあ!」

タヅナはニヤリと笑った。





最初に動き出したのはエドガだった。

「出し惜しみするつもりはない。いくぞお!」


エドガの髪は紫に変わり、体中から黒いオーラがあふれ出していく。体の全体は大きくなり、手には黒く鋭い爪が鈍く光った。目は赤く血走り、獲物を見つけた獣のようにガインを見ている。エドガの姿はみるみるうちに、まがまがしい魔王の姿に変わった。


「あれが、エドガの魔王の姿……」

ラナが掠れた声でつぶやく。


「うん。……でも、先週タヅナと戦った時よりもずっと怖い感じがする。きっとあれがエドガさんの、魔王としての本当の姿なんだと思う」

ミカミは以前感じた恐怖を思い出していた。


「確かに恐ろしい姿だ。身も凍るような姿とはこのことだな。しかし、私には分かるぞ。エドガは魔王の姿になって、私たちを……私たちの図書館を守ってくれている。

ジーノは確信に満ちた表情で、じっとエドガを見つめている。


「私、信じてる。魔王の姿だって人間の姿だって、エドガさんはエドガさんだよ」

ミカミの言葉に、ラナとジーノはうなずいた。


「……魔王はそうでなくては倒しがいがない」

ガインはニヤリと笑って武器を構える。

黒ずくめの服の中から取り出したのは、どこにしまっていたのか分からないほどの、ガインの身長よりも刃渡りの長い大鎌だった。


「久方ぶりに本気を出せそうだな」

大鎌を両手で回して、ピタリと構えた。

「この大鎌『黒城緋月』は、一度決めたことは曲げない性分でな。……貴様の首を必ずこいつが落とすだろう」


ガインが大鎌を振り下ろす度に、三日月の形をした黒い衝撃波がエドガへと襲い掛かる。

「黒帝 闇飛月」


エドガは手のひらから氷塊を出してそれにぶつける。三日月の衝撃波はピタリと動きを止めて、砂のように崩れ落ちていった。




エドガが手のへらから出した結晶は、氷のようだが氷ではなかった。その氷塊をぶつけられたもの、氷塊に閉じ込められたものは、どんなものでも動きを止める。

そのものの流れる時間を奪い、止めてしまう能力だった。


それぞれが強くなるために動いていた期間。氷だと思っていた自分の能力が、時間を止める能力だと気づいたエドガは、まず自分を氷漬けにした。

氷の中で時間が止まり、身動きが取れなくなったとしても、思考することはできた。周りとは隔絶された時間軸の中でエドガは考えた。自分の能力について。自分の過去。魔王という存在と、その力について。

時間を忘れ、世を忘れ、自分自身を見つめなおす。それ即ち……。

氷塊が割れ、現実に戻ってきたエドガは自分の持つ本当の力を理解し、この世界へ転生する前の、前世の記憶さえも取り戻していた。




飛来する衝撃波が収まると、エドガは両の拳を地面に突き立てた。地面から拳へと、拳から肘、腕全体から肩、背中へ、ブルブルと身を震わせた。震えた先から濃い紫の体毛が生え、嚙み締めた歯は長い牙に変わった。エドガの姿は大きな獣のようになった。

地面に拳を突き立てて前かがみにガインを睨みつけている。その姿は獲物を狙う猛獣そのものだ。


猛進。

獣のエドガはガインの方へ走った。


ガインは迎え撃つために大鎌を構える。ガインンの振りかぶった大鎌がエドガの首を捉えた瞬間、エドガが前方に張っていたバリアがガインの大鎌をはじき返した。

エドガの張るバリアの性質は一撃必守。どんな攻撃でも一度だけ防いで粉々になるバリアだ。


ガインの大鎌の一撃を防いで、エドガはガインに迫る。

ガインの首を捉えようとした獣のエドガの牙を、ガインは間一髪で避けた。


「化け物め……!!」

ガインはすぐに大鎌を構え直す。


『化け物ではない。俺は魔王』

獣のようなくぐもった声だった。

『魔王、エドガだああああああ!!』

ウオオオオオオオ!!!

獣のエドガは咆哮を上げた。


四つ足の獣のようにガインに突進するエドガ。

ガインは大鎌を回転させて、風を切りながらエドガを迎え撃つ。


「黒牙 旋月!!」

回転の勢いをつけたガインの大鎌が、獣のエドガの牙とぶつかった。

ギイイン!!

金属のこすれ合う音をさせながら、二人の力は拮抗する。


「醜い魔王め!! この大鎌の力、解放してくれる!!」

ガインの大鎌が赤く、怪しげに光り始めた。


「夢破れて緋月あり 城黒にして草木赤し」

獣のエドガは本能的に危険を察知して大鎌から距離を取った。


ガインの大鎌から闇が溢れていく。その闇はステージを覆い、闘技場を覆い、あっという間に見える範囲が闇に包まれてしまった。

闘技場は闇に包まれ、夜になった。

夜空には赤い月が鈍く光り、辺りを赤く照らしている。


「夜になっちゃった……」

ミカミがポカンとした顔で言った。

そのあっという間に起きた出来事に、一堂はあっけにとられるばかりだった。


「この空間は今私のものだ。いくぞ!!」

ガインが強く地面を蹴り、エドガへと切りかかる。その勢いと動きのひとつひとつは、先ほどまでのガインとは別人のように力強くなっていた。


エドガは時折バリアを張りながら応戦した。バリアが粉々に砕ける音が断続的に響き渡りながら、ガインの大鎌と獣のエドガの牙と爪が交わる音が響く。


赤い月明かりに照らされて、ガインの大鎌が赤く光る。エドガの鋭い目と牙も、それに呼応するかのように赤く光っている。

ギラギラと赤い光が交差しながら、ガインと獣のエドガの打ち合いは妖しい雰囲気を出しながら続いている。


ガインの大鎌がエドガの体を何度も切り裂いたが致命傷には至らない。獣のエドガの牙や爪が何度もガインの体を切り裂くが、力を増しているガインは構わずに大鎌をエドガへと振るう。


闘技場のステージの上は、やがて二人の血でぬらぬらと濡れ、赤い月の光を反射して不気味に輝いている。


二人の限界は近い。


「見てられない……」

ミカミは目に涙を溜めている。今までこんな恐ろしい戦いは見たことが無かった。

「(早く傷を治させて……!)」

ミカミは自分の手を握り締めてエドガの無事を祈った。


獣のエドガは、ガインの大鎌に血濡れの鋭い牙で嚙みついた。その大きく頑丈な顎で、大鎌を嚙み砕いた。鉄が破裂するような派手な音を立てて、大鎌は粉々になる。


「くそっ……!!」

ガインは顔を歪ませる。


しかし、獣のエドガはその一撃に全ての力を振り絞っていた。濃い紫色の体毛はどんどん抜け落ちて、魔王の姿になる以前のもとのエドガの姿に戻った。

エドガは少しふらつきながらも、ガインを見据えて立っていた。


大鎌は無くなり、赤い夜は明けた。


ガインとエドガの体はもうボロボロだった。二人とも血に塗れて、立っているのもやっとな様子だ。


「うおおおおお!!」

エドガはガインに向かって走り出す。エドガは勢いをつけてガインの顔に思い切り右ストレートを入れた。鈍い音がする。


ガードの姿勢をとる力も残っていないガインだったが、地面を踏みしめてエドガにアッパーを入れた。脳を揺らす激しいパンチだった。


もう武器も思考力も残っていない二人の激しい殴り合いが始まった。


「なんて泥臭い試合だ……! ガインらしくもねえ。だが血が滾るぜえ……!!」

タヅナが興奮して拳を振り上げる。


エドガはガインの渾身の殴打を受けながらも、どこか懐かしさを感じていた。


「(なぜだ、初めてじゃない。この感覚は前にもどこかで知っている……)」


エドガはハッと思い出した。


「ガイン……いやお前は……。お前、……ギルバートか? ギルバート・グラジオか?」


ガインの動きが止まった。目を見開いてエドガを見据えた。


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