第25話 ラナVSワダチ
『第3試合 ラナVSワダチ』
「げ、あの女とっすか~。一番めんどいのに当たっちまいましたね~」ワダチはそういうと腕を引きちぎった。引きちぎった腕はもう一人のワダチになった。
「影分身~」本体と比べると高さは30センチほど違ったが、ワダチはひたすら体のありとあらゆる部位を引きちぎり、7人にまで分裂した。
「げ、あいつか~。一番キモイのに当たっちゃった~」ラナはそういうと持っていた杖を振り回し、目をつぶった。
「試合開始!」図書館の主は宣言した。と同時に7人のワダチはラナを囲み、四方から襲い掛かった。その体にはそれぞれ言葉が記されているようだった。
「ラナ、気をつけるんだ! あの体に触れると俺みたいに悲惨なことになるぞ!」ジーノはいまだ顔についていた”不慮事故”の文字を見せながらラナにアドバイスした。ラナは目をつぶりながら、ブツブツと何かを唱えていた。
「甘さ」「極み」「清羅」「団子」ラナがそう唱えているのがミカミの耳にわずかに聞こえた。すると7人のワダチは一人一人フッとどこかに消えていき、3人になった。
「連呼」「木霊」「大聖」7つ目の呪文を唱えると同時にワダチは一人残らずどこかに飛ばされてしまっていた。
「ラナさん、すごい……」ミカミはラナの驚異的な能力の高さに脱帽していた。
「これで……終わりか?」ジーノもあまりのあっさりとした決着に驚きを隠せずにいた。
「そんなわけねーじゃん!」すると同時、地面から人間の手が伸び、ラナの足をつかんだ。ラナはそのまま重心をぐらつかせながら、呪文を唱えようと試みた。だがその時、地面から4人のワダチが起き上がった。
「いったい何人いるんですか、アナタは!」ミカミはワダチに向かって吠えた。
「最初に7人いるように見せたのはパフォーマンスに決まってるっしょ。最初からいた俺は元々分身。今の俺は分身かな?それとも本体かな? まだまだ沢山いますよー」その時ラナの頬に文字が浮かんだ。
『絶』
「あー! かわいいラナさんの顔に汚い文字がー! うー許せないあの男!!」ミカミは怒りを頂点に達しながら激昂していた。
ラナは焦らなかった。足をつかんでいるワダチを瞬時に遠くに飛ばした。すると、闘技場のありとあらゆる地面の中から大量のワダチが出てきた。
「1,10、100・・・・・これ300人くらいはいるんじゃねーか?」ジーノはあっけらかんとした。
「1対1が原則なのに卑怯です!」ミカミはずっと怒っていた。
「ワダチ、本気だね」コーエンはマジマジと様子を眺めていた。
「あのワープ娘は強い。あの魔王軍の中で最も厄介な存在だろう。どんなに強くても飛ばされてしまえば元も子も無いのだからな。ワダチはずっと対策を練っていたようだからな」タヅナはふんふんと解説していた。
「だからってこそこそ私が試合している間に穴掘ってこそこそ闘技場の下に潜んじゃったりして、なんか用意周到すぎだなーって」
「それほどの相手なのだ。あの女は」タヅナが締めると同時に300体のワダチは襲い掛かった。ラナは自分をワープさせ、闘技場の観客席に逃げた。
「え?自分もできるんすか? セッコ・・・・」300のワダチはそのまま100人ずつに分かれ、100人はさらに自分たちを分身させるべく体中を引きちぎり、分身を増やした。残りの200人は二手に分かれ、ラナに襲い掛かった。
「マジキモすぎ」ラナは一人一人分身を綺麗に遠くに飛ばしていった。MP節約の為、飛ばす場所はここから1キロ先の海の中にした。ラナは魔法を使うとき、ふと思いついた言葉を口に出す癖がある。その言葉もなるべく短い言葉にしなければならなかった。こんなに極限の状態で思いつく言葉もたかがしれたものだった。
「そい」そういうと一体のワダチが消えた。だがワダチはまだまだ沢山いる。もっと早く効率のいい言葉を使わねば。
「そい」「そい」もう同じ言葉でやるしかない。もうこだわっている場合ではない。
「そいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそーーーーい!!」そういうと凄まじき速さでワダチの数は減っていった。ラナはひたすら叫び続けた。だが、やがて
『絶』『体』『絶』の言葉がラナの頬に浮かび上がった。
「あれはおそらく『絶体絶命!』言葉が完成したらラナは死んでしまう!」ジーノは叫びをあげた。
「もう我慢できません!」ミカミは白魔法をラナに思わず使った。だがラナはミカミの白魔法すら飛ばしてしまったようだ。ラナは襲い掛かるワダチの群れを決死の思いで遠くに飛ばし続けていた。
「そいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそい!」
「いやあ凄いペースで分身が遠くに飛ばされていくっすねーすげえすげえ」ワダチは一方余裕綽々だった。一瞬で10体ほど飛ばされてなかなかラナに近づけなくなった為、増えた分身500体を更にラナに向かわせた。残りの200体でさらに分身した。
「どこまで持ちこたえられるっすかねー?」本体のワダチはへらへらと笑い続けていた。
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ラナは自分を移動させることでワダチに触れることをなんとか回避しつつ、ワダチの人形を速やかに消していった。
だがそれよりもワダチの人形を生み出すペースの方が断然早く、このまま続けて行っても自身のMPが尽きるのを待つのみだった。
「どうする? どうする?」考える間もなく、ワダチの群れはラナを襲ってくる。
「そいそいそいそいそいそいそいそいそいそい」だんだんそいそい言うのも飽きてきた。次は何にしよう?
「もうダメ! 思いつかない~!」ラナの頭の中に一瞬とある考えがよぎった。ワダチが襲ってこない遠くの場所に
自分をワープさせればこんな思いをすることはない……。
でもそうしたらこの戦いで私は負けになってしまう。私が負けたら勝敗は1勝2敗。良くても引き分けになってしまう。
「てゆーか引き分けになったらどうなるんだろ……」
関係ないことばかり考えてしまっている。やばい……。
気が付くとワダチの群れがラナの体に触れ、ラナは覆いかぶさられた。
「勝ちぃ!」ワダチはにやついた。ラナの体に”絶体絶命”の文字が浮かび上がった。大量のワダチが付着したラナは"絶体絶命"だけではない。"死屍累々","自縄自縛"の言葉が浮かび上がった。
「死屍累々だって!オマエの仲間ごと全員くたばって死ねぇえええ!!」
ラナは倒れた。大量にいたワダチは全員がケラケラと笑い出した。その笑い声は反響し、闘技場すべてをこだました。
「ラナさん……」ミカミはラナを白魔法で回復させようと走り出した。だが、大量にいたワダチの分裂体がそれを止めた。
「回復はさせなぁい」
「もう勝負は終わったじゃないですか! そこをどいてください」
「いゃーだよー。この女は確実に殺す。お前らもなぁ、ヒャッハッハッ」
ミカミは絶望した。このままラナさんは死んでしまうの? 私は何もできないの? ラナさんだけでなく、エドガさんもみんな死んで、図書館は無くなってしまうの?
「嫌だよ……そんなの」ミカミは泣き出した。
「泣くしかできない腰抜けちゃあん。情けないねー、仲間が死にかけているのに涙を出すことしかできないなんてねー泣いても何も始まらないよー死ぬのを覚悟でこっちに向かってくるべきじゃないのかなぁ? そんなんだから誰も守れないんだよー?」
「許さない……、許さない……」ミカミはワダチに向かっていこうとした。その時、
「ミカミ、大丈夫だ。」エドガはミカミを抑えた。
「エドガさん、離してください!」
「ラナは死んでない。安心しろ」エドガはラナの方向を指さした。
「え?」ミカミはラナを見た。ラナはニコニコした姿でこちらにピースしている。ミカミはワダチの方を振り向いた。
「グッハァ!」ワダチの群れが皆まるで突然心臓病にでもなったかのごとくうめき声をあげバタバタと倒れていった。
「なっ! なぜだぁ! なぜ……」ワダチの本体も影響を受け、急にむせ、苦しみだした。
「自分の顔をよぉく見てごらん!」ラナはとびっきりの得意顔でワダチを指さした。
ワダチの分身全てに"死屍累々”、"絶体絶命"、”自縄自縛"の文字がくっついていた。
「なっなぜだぁああああ!」
「私の赤魔法で私に受けた呪文を全部君の下に移動させたの。ついでにジーノのも」そういってラナはもう呪文を唱えた。
「我が栄光よ永遠なれ 黄金の時を指し示せ 開け!」するとジーノの顔についていた”不慮事故”の文字がワダチの下へ移動した。
「うわアアアア!!!」ワダチは集まった分身を一人に集結させ逃げまどった。だが、なにかにつまづきズッコケた。
「自分の呪文でしょー? 解除させればいいんじゃないのー?」
「解除できるようになんてしてねぇよおおお終わりだぁああああうわああああ」ワダチは発狂した。
図書館の主は叫んだ「勝者 ラナ!」
ミカミはラナの下へ走った。
「大丈夫ですか!」白魔法を唱えた。
「あぁ気持ちいー、疲れがとれていくよー。まあダメージよりもMPの方が問題だけど、そういってラナは座り込んだ」
「本当に良かったです!ラナさんが勝って。」
「わったしにまかせりゃ楽勝よー!」ラナはにししと笑った。
「ちなみに、前々から思ってたんですけど、ラナさんの呪文ってカッコいいですよね。でも覚えるの大変そう」
「カッコいいでしょー、あれはその時の気分で思ったことを口にしてるだけだから別に覚えてなんかないよ~」
「へぇ。」ミカミは感心した。
「詩人なんですねぇラナさんって」
第4試合 エドガVSガイン
おまけ
ワダチ「頼むぅぅ俺のこの呪いを解いてくれええええ」
ミカミ「えー敵である私に言うんですかー?」
ワダチ「頼むぅぅ死にたくなーい!!」
ミカミ「ちゃんとラナさんに謝ったらいいですよー」
ワダチ「分かったぁぁああラナちゃんごめんねー」
ラナ「ミカミちゃん、許してあげて」
ミカミ「ラナさんがそういうなら」
ワダチの呪いは解けましたが、ワダチの顔には"屍累々","自縄自””絶体絶"の言葉が残ることになりました。
ワダチ「ラナちゃん今度は俺のこの残った文字を他のやつに移してくれぇぇぇ」
ラナ「反省しなさーい」




