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第23話 ジーノVSタヅナ 決着

勇者達が再び襲撃にくる前のこと。

ジーノは閉架書庫で一冊の伝説の本を探していた。

その本は料理のレシピ本であり、魔法の指南書でもある。かと思えば薬学書でもあり、人体解明の本でもある。

どこに分類するべきかあやふやな妖しい本であり、もはやその存在しかわからなくなっていた。


「やっと見つけた……」


勇者再来の二日前。やっとのことでジーノはその本を見つけた。

ページをめくって目当ての項目を探す。ジーノが探していたのは、“若返りの薬”の作り方だった。


ジーノは調合した液体を小瓶に入れ、コルク栓をしてジャケットのポケットに入れた。

「できればこれは使わないでおきたい。あの力は使うべきものではないのだ」





薄桃色の煙が消え、そこに現れたのは20年ほど若返ったジーノだった。

ジャケットの合わせ目と髪を整えるジーノにタヅナは大剣で切りかかる。


「若返ったからなんだあ!! 体が全盛期に戻ったくらいで俺に勝てると思うなよ!!」

タヅナの纏う炎はどんどん勢いを増していく。


ジーノはタヅナの大剣をナイフで受け止め、軽々と振り払う。


「やはり若い体は何もかもが違うな。一つ訂正しておくが、若い体に戻った理由は腕っぷしじゃないぞ。……さっそく来たようだな」

ジーノは上空を指さした。

タヅナも上を見る。

晴れ渡っていた空はみるみるうちの黒い雲に覆われていった。

豪雨が降り始めた。


「バケツをひっくり返したような雨とはまさにこのことだな」

ジーノは前方を見るが、雨の勢いが強すぎて、タヅナのぼんやりとした影しかわからないほどだった。


タヅナの纏っていた炎はジュウウウウウと音を立てて消火され続けているが、炎が完全に消える気配はない。


「天候を操る能力だとでも言うのか? 小賢しい真似しやがって……!!」

炎の色だけを残した大剣を、タヅナは構え直す。マグマは確実に弱まってはいるが、タヅナの表情は変わらない。


「残念。それもハズレだ」


豪雨の中、ジーノはタヅナに向かってナイフを勢いよく投げた。

そのナイフを払いのけようと振り上げたタヅナの大剣に、一筋の青い雷が落ちた。雷が落ちる轟音とともに、タヅナの体は崩れ落ちる。


「か、雷を操るっていうのか……!?」


タヅナはすぐに立ち上がる。タヅナは常に炎を纏っていた。雷の熱はタヅナの炎によって放電させられていた。


「それもハズレ。ちょっと短絡的すぎるなあ。この戦い、読みが悪いとすぐに君は負けてしまうぞ」


タヅナが大きく水しぶきを上げながらジーノに切りかかる。

よけようとしたジーノは足を滑らせてタヅナの方へつんのめった。大剣を振り上げていたタヅナの懐に、骨を響かせるほどの音を立ててジーノの頭突きが入った。


「グッハア!!」

タヅナはみぞおちを抑えて退いた。ジーノはそのままの勢いで、バシャン! と派手にこけてしまった。


「くっ! せっかく格好つけていたのに……!」


「なんなんだお前! 強いのか弱いのかハッキリしろ!」


「私は弱いが強いんだ。……若い頃の私は、とにかく運がいいんだよ」


運よく闘技場に豪雨が降り、タヅナのマグマを弱体化させた。

運よくタヅナの振り上げた大剣に雷がおちた。

運よく足を滑らせてタヅナの攻撃をよけつつ、みぞおちに頭突きをいれた。


「この図書館の力で強すぎる運は眠りについた。年を取った私はもの凄く運が悪いんだ。……しかし、若い頃のクセで、たまにカジノに行ってしまうんだがな」


「……ふざけたおっさんだ」


雨は降り続いている。


「おじさんのふざけた話を聞いてくれんか? 未来ある青年よ」


「……」

タヅナはなかなか動けずにいた。相手が強運であるという理由で、タヅナの動きはすべて裏目に出ていた。

こんな相手と戦うのは初めてだった。初心に返って、相手の出方を窺おうとしていたら、ジーノは豪雨に負けない大声で話し始めた。


「若い頃の私は運がいいことだけで何もかも上手くいっていた。それを自分の力だと信じていた。鼻持ちならないやつだ。世の中を舐めていたのだ」


ヒュウウウウウ……

と何かが落ちてくる音がする。

隕石だ。石つぶてのように大量の隕石がタヅナの上に降り注ぐ。


「ウオオオオオオオオ!!!」

ひとつひとつは握りこぶしほどの大きさだが、宇宙からの落下速度は凄まじい。タヅナはやっとの思いで隕石を打ち落としていく。大剣が折れた端からマグマを固めて再生させる。


「運よく隕石まで落ちてくるとは……。久しぶりで私の強運も大暴れしているらしいな」


ジーノは雨に濡れて落ちてくる前髪をかき上げた。


「運のいいやつは運の悪いやつを見下してしまうらしい。この力は呪いだよ」





運がよければ簡単に世渡りしていける。運が強ければ強いほど、世の中で成功するのは簡単だ。

若い頃のジーノは傲慢だった。特に何の努力もせずに、事が上手く運んでいくのだ。


小さい頃から親に言われて習っていたバイオリン。路上で一度演奏したところ、有名な音楽プロデューサーの目に留まり、ジーノはバイオリニストとして活動し始めた。


カジノに行けば行くだけ、どんどん金が手に入る。


地位も名誉も金も、ジーノが向かう先から転がり込んでくる。

運も実力のうち。

ジーノは自分で作り出した栄光の道を歩いて行っていると思い込んでいた。


運だけでのし上っている人物に人はついていかない。ジーノはいつも誰かから妬まれていた。

密かに思いを寄せていた女性が泣きながらジーノに言った。

「あんたなんか実力も無いくせに、運だけでバイオリニストになっただけじゃない。練習もほとんどしてないくせに。なんであんたは成功して、ずっと努力してる私が日の目を見ることがないのよ。……あんたの場合は、運も実力のうちじゃないわ! 実力の伴わない運だけの男。あんたから運が無くなったら何が残るっていうのよ!」


その言葉を聞いてジーノは気づいた

この強運は自分の味方ではない。これは呪いだと。

自分の周りに味方だといえる人間はいなかった。自分の名声や金に釣られて集まってきた人間ばかりだ。


ジーノは全てを捨てて旅に出た。強運は常にジーノに付きまとっていたが、年を取るたびに少しずつ運の強さが弱まっていくのを感じた。


そしてジーノはスウィート&ティアーズ図書館に辿り着く。






「この図書館に辿り着くと、運は人並みになった。私はこの図書館で知識を得ようと奮闘したよ。運ではなく、自分のために実力をつけようとね」


隕石は止み、タヅナはやっとのことで立っている。タヅナの荒い息が聞こえてくる。

「てめえ……運勝ちして嬉しいのかよ!! 化け物め!!」


「嬉しいわけがないさ。私だって実力で勝ちたい。……しかし今日はこの図書館を守るために戦わないとな。私の大切なもののために、運も味方にしてみせる!」


ジーノはタヅナに向かって走り出した。ナイフを投げずにタヅナに突き立てる。タヅナはそれを大剣で防いだ。


「この図書館には不思議な力がある。私はこの図書館のおかげで、努力のできる人間になったのだ。……その恩を返すために、私はこの図書館を守る!!」


ジーノの放ったナイフがタヅナに刺さろうとした時、ジーノを薄桃色の煙が包んだ。タヅナはナイフを左肩に受けながらも、身を捻って致命傷を避けた。


煙に包まれたジーノはタヅナの前に倒れこむ。雲は晴れて、元の青空に戻った。

煙は消えて、もとのジーノに戻っていた。


「もう少し長く戻っていられるはずなんだが……」

ジーノは立ち上がった。目の前でジーノを見据えているタヅナと目が合う。


「手こずらせてくれたじゃねえか」


「油断すると痛い目を見ると言っただろう」


タヅナは大剣をジーノに振り下ろした。もう燃え盛るマグマを出す力は残っていないようだ。

ジーノはジャケットのナイフを探ったが、もうナイフは残っていなかった。右腕で大剣を受け、ジーノの右腕は肩から吹き飛んだ。


倒れるジーノ。その横をタヅナは立ち去ろうとした。


「ま、まだだ。……右腕を落としたくらいで勝ったと思うなよ。……私はこの図書館を守る……」


「おっさん、もう死んどけ」


「タヅナよ。お前は何のために戦う? 何を守るために強さを求めている?」

そういうと、ジーノは気を失った。


『勝者、タヅナ!!』


図書館の主の声が響いた。

ミカミはすぐにジーノに駆け寄って白魔法をかけた。

「お疲れ様でした」

エドガは寝ているジーノをかついでステージからおろした。

「見事な戦いだった」


「うん! めっちゃかっこよかった! 見直したよ!」

ラナはジーノの頭をよしよしと撫でる。





「タヅナさん、勝ったのに機嫌悪くないっすか~?」


戻ってきて一言も口をきかないタヅナに、ワダチが声をかける。





「うるせえ! ……こんなモヤモヤする戦いは初めてだ」


何のために強さを求めるのか? 


ジーノの言葉はタヅナの心に重く響いていた。



ジーノVSタヅナ  勝者 タヅナ


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