第21話 戦いの準備完了
「お、来たな!」タヅナは起き上がった。ワダチも立ち上がり、ため息をついていた。
「ハァーやっときたよ」
一人は全身黒ずくめに身を包んだ長髪の男。もう一人は120センチほどの背たけの小柄な女の子。
「久しぶりだな。タヅナ、ワダチ」タヅナは男が挨拶をする間もなく剣を抜き襲い掛かった。男は刀を指でつかんだ。
「相変わらず凄まじい反射速度だなあ!」タヅナはそう言って狂ったように笑った。
男は青黒いオーラを放った。タヅナは吹き飛ばされた。
「やはり、お前と遊ぶのが一番楽しそうだ。ここでお前を殺す!」
「えっ、ちょ……タヅナさん何やってんの?……いくら遅刻したからってさ……マジで修羅場?……これマジ? 楽しそうじゃん!!」ワダチは持っていた刃物を体中にめった刺しにして、そのまま男の下へ襲い掛かった。
男は襲い掛かるタヅナとワダチをみてニヤリと笑った。女の子は3人から50メートルほど下がり、正座して見学した。
タヅナの鋭い攻撃と共にワダチの狂ったような動きが男を襲った。
男はワダチには触れてはいけないことを知っていたのでそのまま距離を取った。
躱すことを読んでいたワダチは同時に体を中に刺さった刃物を全方向に飛ばした。ナイフは男だけでなく、タヅナと女の子の方向へも向かっていた。
「全員死んじまいなぁ!」ワダチは高らかに叫んだ。その時だった。
男の剣がワダチの飛ばした刃物を全て叩き落した。
「早すぎぃ……」ワダチは力の差を感じ、動きを止め、両手を上げた。
タヅナはそれでも止まらず男めがけていくつもの攻撃を繰り出したが、男はすべてそれをあしらい、やがてタヅナの剣を飛ばした。
「やるな! 流石だ! 本気を出すぞ!! ガイン!!」タヅナは大きく彼の名を叫ぶと全身から炎を出し、自身を燃え盛らせた。着火した炎は体全体に広がり、タヅナは炎に包まれた存在となった。だが
「そろそろいい加減にしなさい」と彼らから50メートル離れていた女の子はオーラを出した。タヅナの炎は見る見るうちに消えていった。
「なぜ俺の炎が消えた!?」タヅナは訳も分からぬ状態で茫然と自分の体から消える炎を眺めていた。
「コウエンちゃんの能力っすよ」ワダチはタヅナに解説した。
「彼女はすべての能力を帳消しにし、無かったことにできます」
「それは萎えるな。全力が出せないではないか! 戦いとは全力対全力が楽しいというのに!」
「そろそろ頭も冷えたことだし、やめましょうよタヅナさん」そういうとワダチはその場に座り込んだ。
タヅナは能力を消されてもまだ勝てる気でおり、戦いを続けたかったが、渋々中断し、剣を収めた。
「ガイン! 久しぶりだな」タヅナはここではじめて挨拶をした。ガインと呼ばれた男は無視をした。
「コウエン、場が整った。始めよう」
「ハーイ」コウエンはそういうとその小さい体で司会を務めた。
「じゃあギルド『ギルティロード』の会議を始めますよ~」「わー」とワダチだけが拍手した。
「まず、今回一番の報告はタヅナ、ワダチのおかげで今回魔王エドガのスウィート&ティアーズ城を攻め込んだことですね。お二人さん、なにか我々に伝えるべきことはありますか?」
「はい!」ワダチが手をあげた。「どうぞ、ワダチさん」
「2時間も遅刻しといて上から目線で司会するのはおかしいと思います!」とワダチは言いたかったが、きっと殺されてしまうのでなんとか寸前で止めた。
「自分とタヅナさんが城に侵入し、自分は魔王の配下3人と交戦。そのうち一人は呪いをかけることに成功しましたがもう一人のワープ魔法で飛ばされちまいました。タヅナさんは魔王と交戦してましたよね? タヅナさんも敵のワープ魔法で飛ばされ、魔王と二人きりになったとかなんとか敵が言ってましたね」
「ワダチさん、ありがとうございます。タヅナさんも何か報告はありますか?」
「俺も敵のワープ魔法で飛ばされて、魔王と一対一で戦った! 魔王は正直そんなに強くなかったな! これまで倒してきたのよりはマシだったが」
「はい、タヅナさんも貴重なご意見ありがとうございます。」
「なぜ、とどめをさせなかった? タヅナ」ガインは質問した。
「急に猫の化け物が出てきてな! 一週間後に決まったルールで戦いを決めようと言うのだ! なんだか面白そうと思ってな。思わずとどめを刺すのをやめてしまったぞ」
「そうそう、それについては二人にも事前に話はしてましたよね? 一週間後、スウィート&ティアーズ城で我々4名と向こうの4名が各一人ずつだして戦っていきます。どうして5人じゃないのかは正直よく分からないですが、まあ先に3勝しちまえば勝ちってことですよね」
「タヅナさんもワダチさん、それで来週我々4人で向かうという話で間違いないですか?」
「そうっす~。なりゆきとはいえ、イベントみたいで面白いっすよね~」
「最近どの世界もヌルゲーばかりだったからな。少しは味のある敵が来ると俺は嬉しいぞ!」タヅナはそういうと再び全身を燃え盛りだした。
それを聞いてガインはまとめた。「話はあらかた理解した。一週間後スウィート&ティアーズ城で4人で集まり、魔王退治だ。そろそろこの世界でやることも無くなってきた。この世界は分からない謎というものは多いが肝心の敵と戦う要素がほとんど無い。どこもかしこも優しい人間と魔物ばかり。推理要素などそもそも必要ではない」ほかの3人はそれぞれその通りだとうなづいた。
「一週間後スウィート&ティアーズ城でそれぞれ集合だ。」それからガインは後ろを振り返り立ち去り消えた。コウエンも後に続いた。
タヅナはそれを見ながら、こうつぶやいた。
「今日は月がきれいだ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから決戦の日まで残り1日を切った。
エドガは自分の能力を約一週間弄ってみて、とりあえずある程度の氷の能力は把握することが出来た。だが魔王化がなかなかできない。自身の肌の色を青白くし、神の色を紫にしてかつての力を使うことが全くできなかった。それからどうして彼らが名前を聞いても成仏しないのかを確かめた。
「タヅナ。彼は只者ではない。彼の名はおそらく偽りの名ではないにも拘らず、名前を公開しても死ぬことはなかった。なぜだ? 転生者はこの世に未練を残したものが辿り着くのではなかったのか。彼は死人ではないということか?」結論は分からない。可能性は2つ。1つ目は彼の人生に未練という概念がないということ。転生者とは本来、死んだときに未練が残る者(前世で限りなくひどい扱いを受け死んでいったものが神の恩情でさらにもう一度人生をやり直す機会を与えられる)というのがこの世の常だ。それ故、前世に対して本当はこうしたかった。こういう風に生きたかった! という未練がある者だけが転生をすることができるとエドガは判断していた。だがタヅナは名を話しても死ぬことなく向かっていった。彼の前世はいったい何だったのだろう。なぜ未練も無いのに転生が出来たのだろうか。2つ目の可能性は彼は転生者では無いということだ。仮に転生者でないのにあれほどの強さを誇るということであるならばエドガが勇者であった時になぜ邂逅しなかったのか疑問は残るが。彼ほどの強さの人物がどうして今まで埋もれていたのだろうか。
「1も2も根拠として薄すぎる。まったくもって謎だな」エドガは途方に暮れていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
約束の日が来た。
エドガ、ミカミ、ラナ、ジーノはそれぞれ図書館の前で一堂に会し、彼らの来るのを待った。
「皆さん、体調はどうですか? 今から簡単に回復しますよ?」ミカミは最初に声を上げた。
「ミカミさん、ありがとう。特に体調に問題はないけど、一応、簡単に白魔法かけてくれないかな? ミカミちゃんの魔法はすっごく気持ちよくてリラックスできるんだ」ジーノはそういって肩を叩いた。
「私もおねが~い!」ラナも便乗した。
「俺も頼む」エドガも。
「はい、喜んで!」ミカミは全力で3人の疲れと体を癒した。
「ミカミ、お前は今回戦わせないつもりだ。俺とラナとジーノで先に3勝して終わりだ。」エドガはそう言った。
「エドガさん、お心遣いありがとうございます。実はゴワス様が助っ人を今回用意してくださってて……」
「助っ人だと?」
「はい、あ、きた。おーい!」ミカミは遠くにいる男に大きく手を振った。
男は民族衣装を着ており、顔の半分を布で隠していた。
「今回はよろしく頼む」
「あ、あぁ」エドガは返事をした。
「見慣れない男だな。誰なんだミカミ」
「誰かは分かりません」ミカミはそう言うと、男に自己紹介をお願いした。
「名乗るほどの名はない、だが今回の話はよく聞かせてもらった。俺がこの図書館を守る」男はそう言った。
「わぁッ! 嬉し~凄く頼りになる~」ラナはそういうと男の手を握った。
「あたしラナ! よろしくね~」
「あぁ」男はぷいっと手をすぐさま振り払い、4人から離れた。
「なんか冷たい?」ラナは涙目になっていた。
「おしゃべりができないピュアボーイなんだよきっと」ジーノさんはそういうとがっはっはと笑った。
(まったく、この状況でよくこんな吞気な会話ができるものだ)エドガはそう思いながら黙って敵の到着を待った。
やがて、4人がやってきた。彼らは正面から堂々とやってきた。
タヅナ、ワダチ、コウエン、そしてガイン。
「あの黒髪の男の人、めっちゃくちゃ強そう……」ミカミは震えた。
「おそらくリーダーって感じだね。あのタヅナ君よりも強かったらやばいね」ジーノはそういうと顔に着いた"不慮事故"の文字をポリポリ掻いた。
「あ、あのおっさんだ!」ワダチは最初にジーノを指さした。
「なんか文字一個消えてね? 笑えるわ」そういうとワダチは一人で腹を抱えて笑った。
「なかなか取れなくてね、取り方を教えてくれないかな?」ジーノはワダチに質問した。
「取る方法なんかあるわけねーじゃん! また"の"の文字をくっつけてやるからよ~覚悟しとけー。それにしても不慮事故ってぶはっやばい笑い殺される……マジでおっさんに殺されそう」ワダチはそう言いながら笑い続けた。ミカミはそれを聞いて底知れない怒りに震えた。
「許せない、あの人。自分が付けたくせに。そのことをまったく気にもしてない」ジーノはミカミの方を叩くと、
「まぁ、ミカミさん、ちゃんとあいつはやっつけるから。おちついて」とだけ言った。
こうしてスウィート&ティアーズ図書館側の4人(+1人)とガイン達4人(チーム『ギルティロード』)が一堂に会した。
「では組み合わせはどうする?」ガインはエドガに聞いた。
「組み合わせなどどうでもいい!」そういうとタヅナはいきなりエドガめがけて襲い掛かった。
すると、どこからか魔法がかかった。
スウィート&ティアーズ図書館だった場所はサンニャーチコの闘技場へと姿を変えた。
「全員がワープさせられている?」エドガは辺りを見回した。
「私はスウィート&ティアーズ図書館の主だ」上空から大きな巨大な猫がやってきた。
「ルールを改めて話す気はない。抽選はいらない。我々が決める」
「はぁ?それってそっちの都合のいい組み合わせにするってことっすか? きたねえ」ワダチはぶつくさ文句を言ったが、ガインは制止した。
「それくらいのハンデはあっていいだろう」
「我は公平な立場でジャッジを行う。買った方がスウィート&ティアーズ図書館を好きにできる。この戦いはスウィート&ティアーズ図書館の館長を決める戦いだ」
「あいにく我々は図書館にも館長にも興味はない。我々が勝った場合は図書館を燃やすつもりだが」
「それが館長の望むことであるならば問題はない」
「図書館を燃やすだと?!」エドガはこぶしを握った。
「この戦い何が何でも絶対に負けられない戦いだ」エドガは号令した。
「絶対に勝とうね~」ラナはいつも通りの雰囲気でそう言った。
「負けるわけにはいかんな」ジーノはかぶっていた帽子をくるくる手のひらで回した。
「回復は私に任せてください!」ミカミは両手のこぶしを握り締め、大きく叫んだ。
「絶対、勝つ」謎の男もそう言った。
図書館の主は号令した。
「この世紀の決戦を『サンニャーチコの戦い』として歴史に刻む。では最初の戦い
『ジーノ』VS『タヅナ』!!




