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第2話 永遠の閉架書庫と始まりの本

登場人物


館長 エドガ 冷静


司書 ミカミ 主人公 基本いい人


司書 ラナ よくしゃべるギャル


司書 ジーノ 世話焼きで若者にうざがられるおじさん

憧れの図書館、スウィート&ティアーズ図書館で私ミカミは働くことができる!

・・・アルバイトだけど。


私は気を取り直した。


「よーし! がんばろー!」



「遅い」


「は、はいすみません」


朝からエドガさんは機嫌が悪い。ちゃんと五分前に着いたのに。


「五分前に着いたのになんで怒られるんだと思っているな?」


「いいえ、そんな」


エドガさんはペンで机をトントンたたきながら私をにらむ。


「顔を見ればわかる。勤務初日なら30分前には職場に着いて軽い掃除でもするのが常識だろ」


「すみません・・・」


「もういい」


やれやれと立ち上がったエドガさんは、オアシスのような私室を横切った

奥にある大きな扉を開けて私に振り返る。


「お前はまだカウンターに座る資格はない。今日のお前の仕事は・・・」


大きな扉が開け放たれて、今までにみたことの無い、膨大な量の本が並ぶ書庫が現れた。


「閉架図書の掃除だ」


「閉架書庫!!」


私はその素敵なワードに心をときめかせた!


説明しよう!閉架書庫とは!


私たちが図書館で見ることができるたくさんの本棚は”開架(かいか)書庫(しょこ)”。


その裏にはふだん書庫にはない本がたくさんつまった”閉架(へいか)書庫(しょこ)“が隠されているのだ。開架書庫に入りきらない本であったり、古くなって汚れや傷が増えた本、ほかのどんなところにも存在していないような歴史的に貴重な本が閉架書庫に並んでいる。


ちょっとやそっとじゃ読むこともできない本がたくさんあるんだ・・・!


「はいはーい! 私、ミカミは気合いを入れて閉架書庫をお掃除してきます!」


「ん?・・・まあいい。任せた」


掃除道具一式を受け取って、私はスキップしながら閉架書庫に乗り込んだ。


「おい」


「なんですか?」


「昼に一度戻ってこい。くれぐれも道に迷うなよ。迷うと・・・」


「二度と戻ってこれんぞ」




「迷った・・・」


どこまでも続く大きな本棚に興奮して、歩き続けていた。


奥に行くにつれて少しずつ通路は狭く、薄暗くなってきた。曲がり角にある本のタイトルを目印にしていたけれど


「わからなくなっちゃった・・・」


はあ・・・とため息をついて床に座って休憩する。


歩きすぎて足がパンパンになってしまった。


「お腹すいてきたなあ」


薄暗くて少しホコリのにおいがする。目の前にある本棚には読んだことも聞いたこともない著者の全集がずらりと並んでいる。


「本棚に囲まれてると落ち着くなあ」




小さな子どもの頃、寝る前にお母さんが絵本を読んでくれたという人はたくさんいるだろう。


私は一度もそんなことをしてもらったことはなかった。


7歳の時、私は友達と近所の公園にいた。小石を蹴って遊んでいたような記憶がある。


ベンチに男性が座っていた。手に持っているものを熱心にみていた。


「なにしてるの? なにそれ?」


「え?」


読書に集中していた男性は私の存在に気づいて顔を上げた。


「バルトロメオって人が書いた、『クロエの乱世物語』だよ」


男性は私に挿絵をいくつか見せてくれた。綺麗な黒髪の女性が、発展途上の国を支えて強くたくましく戦っている。


「わあ~」


私は絵を見ただけでその女性に強く惹かれていた。


「この人がクロエっていうの? どんな人? 何と戦ってるの?」


ねえねえねえ!

と質問責めにする私。


「そんなに気に入ったなら君にあげるよ。もう読むの4回目なんだ」


はい。と差し出された本を私は受け取った。初めて持った本はズシリと重かった。


「君が読むにはちょっと内容が難しいかもしれないけど、たぶん面白く読めると思うよ」


じゃあね。と男性は去っていった。



その本との出会いで私の人生は変わった!


『クロエの乱世物語』はたしかに7歳で読むには難しかった。私は少しずつ少しずつその本を読んだ。


それからの時期は本の内容しか記憶にない。


お母さんが言うには、三日三晩飲まず食わずで部屋に引きこもり、命の危機を感じた頃にはあはあ出てきたそうだ。


水と食料を補給して、また自分の部屋に戻っていく。


お母さんは私が何かの呪いにでもかけられたのだと思って、呪いを解いてくれる呪術師を探していたらしい。


私は別に呪われたわけではない。とりつかれたように辞書を引きながら、『クロエの乱世物語』を読んでいた。


三日かけてやっと一冊を読み終えた私は驚きのあまり声を失った。


物語は一冊では完結しなかった。


よく読んでみると『クロエの乱世物語』は全15巻と書いてあった。


「おかあさああああああん!!」


突然部屋から飛び出してきた私に驚いて、お母さんは除霊グッズのみょうがをバラバラと落とした。


「つづきがよみたいいいい! どうしたらこの本の続きが読めるのお!??」


「本? 本が読みたいなら図書館に行けばいいんじゃないかしら?」


「図書館って何!? どこにあるの!?」


「お母さんは一度も行ったことないけれど、スウィート&ティアーズ図書館ってところが一番近いわよ」


えっと~、とお母さんが記憶を手繰り寄せている間ももどかしい。


「そうそう、ガラハードシティからピピバスに乗ったら着くって聞いたことがあるわよ?」


「わかった! じゃあ読み終わるまで帰らないから!」


私はなけなしのお小遣いを全て持ってガラハードシティまでの旅に出た。


「あら~行っちゃったわねえ。でも元気そうで安心したわ~」


私は予想よりも随分早く家に帰ることになった。


なんと図書館では本を借りて、家に持って帰ることができるのだった。


その日のうちに私は家に帰った。


「ただいま」


「ミカミちゃん! お帰りなさ~い。早かったわね。お腹すいて帰ってきたの?」


「いや、本を借りてきたの」


「え? お友達でもないのに貸してくれるの?」


お母さんはキョトンとした顔をした


「そうなんだよ。私もびっくりした」

私は自分の部屋に戻ってつづきを読み始めた。


私が本を読み始めたきっかけは、男性からもらった一冊の本だった。


あの出会いは運命だった。


あの出会いの日から、私は本を読むことが生きがいになった。


私とは違う人の人生。私とは違う物語。


私は本を読んでいる間は別の人間になれる。性別も、生まれも育ちも、言葉遣いや考え方も何もかも違うんだ。


私とは違うけれど、でも主人公になりきって本を読む。


そんな中で出会う仲間たちや、初めて訪れる町。現れる個性的なライバル。


そして冒険の末にお姫様を助けたり、敵を倒したりするのだ。


そして世界は平和になる・・・


こんなにワクワクすることってあるだろうか!!




「はあ~」


私は入り口に戻れなくなった閉架書庫で、一人寂しくため息をついた。


「昼には戻れって言われてたのに、お昼すぎちゃったなあ」


なんとか戻ろうとしてまた歩き出したけれど、歩いても歩いても戻っている感じがしない。


お腹がすいたし、なんだか寂しくなってきた」


「・・・」


「おおおおお~い」


声はどこまでも響いていく。山の頂上みたいだ。


・・・本当にこの閉架書庫は永遠に本棚が続いていて、終わりがないのだろうか。


・・・もしそうなら


・・・本当に二度と戻れないんだろうか


私は本棚の間を走り出した。


本棚は薄暗い闇に向かってずっとずっと続いている。


私は自分を奮い立たせようとして叫んだ。

この図書館で出会った人の名前を思い出す。


「ジーノさあああああん!!

ラナさああああああん!!

エドガあああああ!!」


私は力の限り走り続けたが、疲れて立ち止まって息を整える。


隣の本棚を見ると、そこには『クロエの乱世物語』が並んでいた。


ああ。私の思い出の本。


ここが私の死に場所なのかもしれない。

お母さん、先立つ不孝をお許しください。


こぼれそうになる涙を拭った。


私は座り込んで胸の前で手を組んだ。

目を閉じるとエドガさんの声が聞こえてくる。


「おい、なんでさっき叫んだ時、俺だけ呼び捨てだったんだ」


「え」


目を開けるとエドガさんが立っている。


「エドガさん・・・」



「あれほど言ったのに迷うとは・・・。どうしようもないやつだな」


私は安心したのと同時に気が抜けて、エドガさんに八つ当たりしてしまった。


「・・・もーー!!こんなに広くて迷わない方がどうかしてますよ! なんですかここは! 壁ないんですか!?」


「無い。ここは永遠に本棚が続いている」


「・・・エドガさんどうやって私を見つけたんですか」


「お前の声が聞こえたところに移動しただけだ」


「へ、へえ」


エドガさんは私に手を差し出してきた。


「え、なんですか?」


「昼めしを食いたいなら握れ」


私は戸惑いつつもエドガさんの手を握った。」



「エドガさん」


「なんだ」


「死ぬかと思いました。・・・ありがとうございました」


「・・・ん」




その後、私は無事にお昼ご飯のイチゴサンドを食べることができた。

エドガさんはばくだんおにぎりを食べている。


「エドガさん、意地悪クソ陰キャ上司と思っててすみませんでした。あらためますね!」


「そんなこと思ってたのかお前。やっぱりどうしようもないやつだな」




〈続〉


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