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第19話 エドガの過去

これまでのあらすじ


「ねえエドガ、一つ聞いてもいい?」


ラナがエドガに問いかける。エドガは無言でラナを見た。


「エドガが魔王ってどういうこと?」


「……俺にも何が何だか分からなかった。しかし、あの姿になって思い出した。俺は自分で記憶を封じ込めていたんだ」


エドガはゆっくり起き上がった。皆の顔を見渡して言った。


「俺は昔、勇者だった」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


俺は、目的のない人間だった。

誰かに「やれ」と言われたことを何も考えずに淡々ととこなす。なぜそれをやるのか? それをやって何がどうなるのか? そんなこと一切考えたことなかった。思想が無かったのだ。

ある時、どこからか俺はこのミケランドールに飛ばされ、自分が転生者であることを自覚した。様々な人々から俺は勇者と呼ばれだした。「魔王を倒してください」と名前も知らない村人の誰かに言われた。そうか。俺は勇者として魔王を倒せばいいのか。俺は魔王を殺しに出かけた。

冒険は想像よりも単純だった。この世界に俺より強い生き物はいない。どんな敵の攻撃もかすり傷すら受けない。氷を司る能力を使って俺は幾多の魔物化け物を退治し続けた。やがて、村人から神と崇められ始めた俺はあくびを殺しながらこの世界のあちこちを探し続けた。だがなかなか魔王のところには辿り着けない。

この世界に本当に魔王は存在するのだろうか。そんなことばかり考えながら、魔王の居る場所を町の一人一人に尋ねまわった。

「スウィート&ティアーズ図書館に何か魔王の居場所が分かるものがあるかもしれません」誰かが俺にそう言った。

俺はスウィート&ティアーズ図書館まで足を運んだ。スウィート&ティアーズ図書館は当時、女が一人で趣味で運営していた。現在ほど沢山の数の本は所蔵されていなかった。その代わり、町のどんな人が書いた本でさえも図書館の本として受け入れるので、珍しい本が多かった。

「おい、聞きたいことがある」俺は図書館に入ると同時、女に尋ねた。

「あら、"初めまして"ですかね。私はこのスウィート&ティアーズ図書館の館長を務めているガーネットと申します。その見た目は勇者様かな? なにかお調べ者ですか?」

「ああ。魔王の居場所を探している。どんなわずかな情報でもいい。限りなく探してほしい」

「わかりました。5時間ほど経ったらまた来てもらってもいいですか?」

「ああ」俺はそのまま図書館の中で時を過ごした。図書館の中はこれまでのどの場所よりも居心地が良かった。

「この流れている音楽、心が落ち着く。ゆったりとした気持ちになる。この曲の名前はなんだろう」

そこに座ってただ目を閉じているだけで、これまで追ってきたすべての悩みや痛みが消えていくような感覚。初めての経験だった。そこで適当に本を取って開いた。本のタイトルは『ピッターニャの祖父』。

最初は読むというよりもただ眺めるという感じだった。文章を流れるように目を追っていった。内容は頭に全く入っていなかった。だが恐ろしかったのはそうしていたらあっという間に数時間が経過していたことだ。どこにでもあるなんでもない恋愛小説だと思っていたこの『ピッターニャの祖父』は知らない間に心の奥底に響く音楽のような響きを奏でていた。

「お待たせしました」ガーネットは20冊ほどの本を台車の上に重ねてこちらへ持ってきた。

「この本の310ページに魔王の住処についての情報が載っていました。他にもわずかですが乗っているものがあったので合わせてご確認ください」

「お前まさか、ここにある本、全て読んだのか?」

「まさか」ガーネットはそう言った。




『魔王は始まりの街の森の奥に隠れ潜んでいます。基本は人間を装っていますが、特定の状況下で本来の姿に覚醒し、最強の力を発揮します。倒し方はいろいろありますが、その中で最も簡単な倒し方があります。ただしこれを使うとあなた自身に災いが降りかかります。しかし自分が呪われていると自覚することはありませんのでご安心を。その倒し方は……』ガーネットから渡された約20冊ほどの魔王の倒し方の参考書の中にあった文章だった。俺はこれを何度も何度も読んで暗記した。

『その倒し方は……魔王の"本当の名前"を相手の前で叫ぶことです』

その一文を読んだ俺はそのまま何も考えずに『本当の名前を調べる』魔導書を作るためにまた図書館に籠もり、3カ月ほどの旅のあと、本の合成に成功した。本の精度を試すために俺はガーネットの本当の名前を調べてみた。

「ガーネット、君の本当の名は"山口ミツキ"というらしい」そう言った瞬間、ガーネットは鬼の形相になり、もだえ苦しみ、果てた。そう。魔王はガーネットだったのだ。ガーネットはなぜ自分が魔王でありながら、俺の為に本を探してくれたのだろうか。答えは今でも分からない。


俺は訳も分からずガーネットを殺してしまい、気が狂いそうになった。そして謎の巨大な猫の生き物が現れ、こう言った。

「魔王が死んだので、この世界はまもなく終了します。別の世界に移動しますか?」

「どういうことだ! 魔王を倒してようやく世界が平和になるということではないのか!」俺は激昂しながらそう言ったが、巨大生物からの返事は無かった。

「魔王がいなければ、世界は消滅してしまう……」そこからの記憶は曖昧だが、俺はガーネットが残していった図書館を守りたいと考えた為、自分自身が魔王になることで世界の崩壊を止めた。ということだけはなんとなく覚えている。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「そう……だったんだ……」ラナは何とも言えない寂しそうな表情をした。

「だから……ここにやたら勇者が襲ってきてたんですね……」ミカミは納得したような表情をしていた。

「エドガさん、昔少しお話ししましたよね? 『魔王は勇者だった』って。覚えてますか?」ミカミは言った。

「ああ。『強大な力を持つ勇者が世界を征服した後、王となり世界を統べる。だが自分一人の都合の良い世界が世界全体の平和につながる訳が無い。魔王と呼ばれている生き物はほとんどが強大な権力を持った勇者であるというのが実情である』という一説だな」

「はい、あの話をしていた時、エドガさんは自分がまだ魔王だって気づいていなかったんですか?」

「まったく、自分のことだとは思っていなかった。ハハハ、変な話だな」エドガは呆れてため息を吐いた。

「とにかく、エドガ。これからどうする? 私はこの先何があっても絶対エドガの味方だよ」ラナはエドガの腕を握りながらそう言った。

「もちろん私も!」「僕だってそうさ」ミカミとジーノも一緒に手を握った。エドガは皆の手のぬくもりを感じていた。とても暖かった。

「ありがとう。とにかく、この荒れ果てた図書館の整理だ。下の階の様子はどんな感じだ?」

「下は窓ガラスが割れまくってるけど本自体の損害はなんとか少量に抑え込んだよ」

「そうか、流石は司書。助かった。」

「この部屋は……もうどうしようもないことになっているよね……」ラナはそういって辺りを見回した。見渡す限り草原が広がっていたあの景色は面影を残しておらず、黒く灰になった部屋の焦げた匂いが充満していた。

「エドガさんは戦いながら他の階に敵の魔法が及ばないようにシールドを張ってくれていたんです!」ミカミは涙をこらえながら言った。

(あんな化け物と戦って、この図書館を守り切ったなんて、やっぱりみんな凄い)ミカミは唯一何もできなかった自分に腹が立っていた。

「今度は私が、皆と図書館を守ります!」ミカミは宣言した。

「いや僕だ」ジーノも宣言した。

「私も!」ラナも、

「俺も」エドガも。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「タヅナさ~ん、ねぇタヅナさ~ん。聞こえますか~い?」ワダチは瞑想しているタヅナに尋ねた。

「なんだ?」

「なんか1週間後に試合をするみたいな感じになったとかさっき言ってましたよね~」

「あぁ、でっかい猫が現れてな。そう指示された! あの魔王。これまで倒してきた魔王の中で一番骨がある奴だった。楽しみだ。」

「そんなの無視して猫ごとぶっ殺しちまえばいいのに~」

「確かに! そう言われたらそうだな!」そのままタヅナは目をつぶった。どうして自分はとどめをささなかったのだろうか。これまで倒してきた幾多の魔王達。あの男はそのどれとも違ったからか? いや……

ゴゴゴゴゴゴゴ……

「あれ~、タヅナさ~ん、なんか前よりもっと強くなってませんか~?」

「ああ、先ほど受けた氷の攻撃が俺の炎の何かを変えているのだ」タヅナはそういうと全身に力を込めた。炎がタヅナの周りを駆け抜け、そして一瞬青色に光った。

「一週間後が楽しみですね~」その時、着信音が鳴った。ワダチは携帯電話を取り出した。

「はい! はい! わかりました! じゃあ一週間後に現地集合で! シクヨロっす~」ワダチは電話を切った。

「リーダーか?」

「はい。久しぶりに4人そろいますね」

「あぁ。ますます楽しみだ」そういってタヅナは再び全身に力を込めた。炎がタヅナの周りから勢いよく飛び出し空中で弾けた。

「まるで花火じゃん」ワダチはつぶやいた。


(『サンニャーチコの戦い』まであと1週間)


続く


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