第18話 戦いの末、そして
異世界にある図書館『スウィート&ティアーズ図書館』で図書館の司書として働くことになった少女ミカミは、突如現れた勇者達との闘いを強いられる。勇者が本を狙う理由は? エドガが勇者を倒す理由は? ミカミは立派な司書になれるのか?
登場人物
エドガ 館長 能力【不明】 毒舌。
ミカミ 主人公 能力(白魔法】 いい子
ラナ 司書 能力【赤魔法】よくしゃべるギャル
ジーノ 司書 能力【ナイフ投げ】おじさん。
タヅナは手のひらの上で炎のマグマを創り出す。マグマはタヅナの意のままに形を成して、大きな槍になった。槍はメラメラと燃える炎を纏っている。
「そろそろ息の根止めてやるよ!!」
タヅナは楽しそうに笑いながら槍を構えた。
エドガは禍々しい姿をしてはいるが、何度も大きなダメージをくらい、息も絶え絶えになっている。必死でもう一度バリアを張る。
「こんな小細工もう俺に通用するわけがねええええ!!」
タヅナの槍はバリアを砕き、身をかわそうとしたエドガの右腕に突き刺さる。
「グアアアアアア……」
苦しそうに呻くエドガ。槍はエドガごと持ち上げられ、壁にそのまま突き刺された。エドガはかつてオアシスのように綺麗だった黒焦げの部屋に貼り付けにされる。
「がっかりだぜ。お前は倒しがいのある魔王だと思ったのによお。とんだ勘違いだったな。……お前、その魔王の力、全然使いこなせてねえじゃねえか」
タヅナの中のマグマがそのまま手のひらから現れているようだ。グラグラと煮えたぎるマグマは、どんどん大きくなる。
「ったくよお。俺を楽しませてくれる魔王はどこにいんだろうなあ。……お前もあんまり楽しくなかったぜ! あばよ!!」
エドガは抵抗する力も残っていない。
タヅナの炎のマグマが、エドガの体を貫こうとした。
「やめてえええええ!!」
足がすくんで動けなかったミカミが渾身の力で走り出した。少しでも気を抜くと、恐怖で体が動かなくなりそうだった。必死でエドガの下へ走る。
ミカミがエドガが白魔法をかけようと手を伸ばした。
しかし、ミカミよりも早く、エドガとタヅナの間に割って入った者がいた。
ズドオオオオオオン!!
タヅナは予期せぬ乱入者に驚き、跳びはねて距離をとる。
そこに現れたのは、15メートルほどもあるであろう黒い動物だった。霧のような黒い煙を体中に纏っている。
「……猫?」
ミカミは目を凝らして煙の中を見た。その生き物は巨大な黒猫だった。
「なんだこのでっけえ猫ちゃんはよお! 邪魔すんじゃねえ!」
タヅナが黒猫に気を取られたいる間に、ミカミはエドガに白魔法をかけた。貼り付けにされていた壁からドサリとエドガは落ちた。傷は治ったが、意識を失ってしまったようだ。
禍々しい鬼のような姿も戻り、いつものエドガの姿に戻っていく。ミカミはほっと胸をなでおろした。
「てめえそこの女あ!! 魔王治しやがったなあ! いいところだったのによお邪魔ばっかしやがって! このでっけえ猫もろともぶっ殺してやるぜえええ!!」
「ひええ……!」
『我は図書館の主なり』
「うおお! 急に自己紹介し始めたぞ!!」
タヅナは巨大な黒猫に気を取られっぱなしだ。
『我が旧友エドガの危機により召喚せり。貴殿に問う』
巨大な黒猫はやけに低い声でタヅナに語りかける。
『貴殿が所望するように、戦いの場を設けよう。一週間後、この場で行う。仲間を連れてくるがよい。一対一だ。楽しい戦いとやらができるであろう』
タヅナは手のひらに創った炎のマグマを鎮火させた。
ボシュウウウ……と派手な音がした。
「チッ!! 興が冷めたぜ」
タヅナは大きくため息をついた。
「はああああ。いいぜ。今日はここまでにしてやる。ここでお前らを殺してもつまんねえしよお。……確かにその提案は面白そうだ」
タヅナはニヤリと笑った。
「顔を洗って待ってな!!!」
タヅナは派手な音をさせて床を蹴り上げた。大きく跳躍して、窓を突き破って出ていった。
バリイイイイン!!
「く、首を洗って待ってます……」
ミカミはどっと疲れた。
図書館の主と名乗った黒猫は、さっきは15メートルほどもある大きさだったが、タヅナがいなくなった今、普通の猫の大きさになっていた。
黒い霧は変わらず纏っている。
「あの、ありがとうございました」
ミカミは恐る恐る声をかけた。
『我は図書館の主なり』
「あ、それはさっき聞きました……」
『君たちのことはいつも見ておる。図書館の運営、大儀である』
トコトコ歩きながらミカミとエドガの方へ来た。
「(かわいい……)」
『今回の戦いは君たちの命だけでなく、図書館の今後の運営にも関わってくる。心してくれたまえ』
「はい……あ、あの、エドガさんが魔王っていうのはどういう……」
ミカミが言い終わる前に、図書館の主は霧に包まれて消えてしまった。
消える前にニャーンと聞こえた。
ミカミは床にエドガを寝かせて、自分の来ていた薄い上着をエドガにかけた。エドガは紫色の恐ろしい姿になった際に服が破れたのか、上半身に何も着ていない状態だった。
「(エドガさんが魔王だなんて信じられない)」
ミカミはラナとジーノの下へと急ごうとしたが、入り口の方を見ると、二人ともこちらへ来ているところだった。
「やあミカミさん、無事だったようだな! エドガは何があったんだ?」
ラナとジーノは倒れているエドガを見つけて駆け寄った。
「大丈夫。気絶してるだけで、傷はもう治したの。……でも意識が戻らないのが気になるの……」
ミカミは二人にタヅナのこと、図書館の主が現れたこと、エドガが恐ろしい姿に変貌したことを話した。そして一週間後にタヅナは仲間を連れて再び現れ、一対一の戦いが始まること。
「ちょっと情報量多すぎ~……」
ラナはやれやれと肩をすくめた。
「ちょっと私の額を見てくれんか」
ジーノはミカミに額を見せた。そこには“不慮の事故”と刺青のように書かれていた。
「敵の攻撃でな、このままでは私は不慮の事故で死んでしまうそうなのだ。できれば私は老衰で死にたいのだ。ミカミさんの白魔法でどうにかならんか?」
「うん。なんかおでこに書いてあるダサって思ってた。その魔法なら前に勉強したことがあるので治せるよ。ただ……」
「ただ!?」
「効果は無効化できるけど。額の文字は一文字しか消せないの。……どの文字を消す?」
「“慮の事故”、“不の事故”、“不慮事故”、“不慮の事”、“不慮の故”から選べということか……」
「やな選択肢……」
お気の毒にという風に哀れみの目でラナはジーノを見る。
「じゃあ、不慮事故で……」
「わかった」
ミカミはジーノに白魔法をかけた。額の文字は“不慮 事故“となった。
ミカミは慰めるように言う。
「不慮事故なんて言葉はないからもう大丈夫! そうだ! こうすると可愛いよ」
ミカミはジーノの額に星の記号をマジックで 書き加えた。
ジーノの額の文字は“不慮☆事故”となった。
ミカミはブーッ! と噴き出して笑った。ラナもこらえきれずに笑いだす。
「ジーノ、アニメのタイトルロゴみたいで可愛いよ……」
「君たち遊んでないよね?」
「でも一週間後ってのは困ったな~。私ちょっと無茶しちゃったから、一カ月は魔法使えないと思うんだよね」
「やはりそうか。 気絶してなかなか目を覚まさないから焦ったぞ」
ラナはジーノの額を見て、グフッと笑いをこらえた。
「ちゃんと戦えるかは分からないけど、できるだけのことはするから! 私の事よりエドガが心配だよ」
三人はまだ意識が戻らないエドガを見た。
「私、エドガが魔王だなんて信じられない、ミカミちゃんはどう思う? 変身したエドガは怖かった?」
「う~ん」
ミカミは答えに詰まってしまう。
「……見た目は怖かった。あんな姿は、魔王だって言われたらしっくりくるような恐ろしい感じだったし……。でもエドガさんは困ってるみたいだった。エドガさん自身、あんな力があるなんて知らないみたいだった」
「うう……」
エドガが意識を取り戻した。
「動かないで! まだ朦朧としてるでしょ?」
ミカミはエドガに言った。
ジーノはエドガの顔を覗き込みながら状況を説明した。
「敵さんは一度退いたが、一週間後また来るそうだ。今は体を休めろ」
「ああ……」
「ねえエドガ、一つ聞いてもいい?」
ラナがエドガに問いかける。エドガは無言でラナを見た。
「エドガが魔王ってどういうこと?」
ラナとミカミとジーノは、ごくりと息を飲んでエドガを見た。
「……俺にも何が何だか分からなかった。しかし、あの姿になって思い出した。俺は自分で記憶を封じ込めていたんだ」
エドガはゆっくり起き上がった。皆の顔を見渡して言った。
「俺は昔、勇者だった」




