第16話 幻の剣を手に入れろ
異世界にある図書館でお仕事をする女の子の物語
登場人物
館長 エドガ 冷静
司書 ミカミ 主人公 基本いい人
司書 ラナ よくしゃべるギャル
司書 ジーノ 世話焼きで若者にうざがられるおじさん
「私もかっこいい武器が欲しい」
「ミカミちゃん急になんの話?」
ラナさんはあやしげに私を見た。
私ミカミとラナさんは、二人でカウンター業務中。私は以前から抱いていた疑問をラナさんにぶつけてみた。
「ラナさんは小さくて可愛い感じの杖をたまに持って戦うでしょ? ジーノさんはナイフで、エドガさんは魔術書。私だけ武器が無いの、なんか悔しい感じがするの」
「そうかなあ?」
ラナさんは腕を組んでう~んと首をひねる。
「ミカミちゃんは白魔導士じゃん? 本来魔術師は何も持たなくてもいいんだよ。コントロール悪い人は射程を測るのに持ったり、魔術の力が弱い人は、力の底上げに持ったりするけど。……ミカミちゃんは持たなくても大丈夫でしょ? 私も飾りみたいなもんだしさあ。魔術師は前衛に立つこと少ないんだし防御力とかどうでもいいんだしさあ、身軽なほうがよくない?」
「でもお……」
私は一冊の本を思い出した。私が本を好きになるきっかけになった思い出の作品。
「『クロエの乱世物語』の中で、クロエは伝説の剣、シュライデン・クライシスを使ってかっこよく戦うんですよ! 私もあんなかっこいい武器が欲しい!」
「話は聞かせてもらったぞ」
「うわっ!」
後ろを振り向くとエドガさんが立っていた。急に後ろにいるのやめてほしい。びっくりするから。
「ちょっと~盗み聞きはセクハラじゃないんですか~エドガさ~ん」
ラナさんがエドガさんに喧嘩を売っている。エドガさんはそれを無視して話はじめた。
「最近噂が広まっているんだが、どうやら名のある剣が洞窟の中に置き去りにされているらしい」
エドガさんは私の手にコピー用紙を押し付けた。よく見るとそれは地図だった。
「あまり遠くない。今日の業務はもういいから、二人でその名のある剣とやらを拾ってこい」
「え! 今からですか?」
「そうだ。残業代は出してやる」
ラナさんが私の持っている地図を覗き込んでいる。
「ほんとにわりと近いじゃん! もし時間内に終わっても早上がりしていいんだよね?」
「いいだろう」
……ラナさんも乗り気みたいだし、ちょっと行ってみてもいいかな。私はふと一つの疑問がわいてきた。
「……もしその剣が手に入ったとしても、スウィート&ティアーズ図書館に展示するわけじゃないですよね。なんで私たちが行くんですか? 休みの日にでもエドガさんが行ってくればいいのに」
「面白そうだからだ。いいから早く行ってこい」
「は、はい」
「問答無用ってことじゃん」
ラナさんはケラケラ笑っていた。
「地図だとこのあたりみたいだけど……」
「ミカミちゃーん! これだよこれー!」
うっそうとしたつる植物に包まれた岩壁。ラナさんがつるをかき分けた場所に大きな穴が開いていた。
「「わかりにく~い」」
私とラナさんの声が被った。
「ラナさんよく分かったねこんなの! すごい!」
「はっはっはー! なんかもうすでに、誰かがかき分けた跡があったからね!」
私たちは意気揚々と洞窟の中に入っていった。
「めんどいから魔物とかでないといいな~」
ラナさんは周りをキョロキョロ見ながら言った。
「ほんとだね~」
入り口からの光が届かなくなり、辺りは暗闇になった。私は手のひらに小さな炎を出した。落ちている木切れに火をつけて、ラナさんにも渡した。
たいまつを二人分作ったところで、私の手のひらの炎は消えてしまった。
「白魔法だけじゃなくてそんなこともできるんだねえ」
「うん……でもすぐ消えちゃうから、攻撃魔法にはできないんだ」
「謙遜しなくていいじゃん! めっちゃすごいよ。今すっごく役に立ってるしね」
松明の炎に照らされたラナさんの顔は、いつにも増してとっても綺麗に見える。
「ありがとう……」
褒められると嬉しいな。私もラナさんみたいに優しくて明るい人になろう!
「ん?」
洞窟の先に小さな光が見える。
「あれ!? もう出口!?」
ラナさんが光に向かって走り出した。
「待って~!」
慌ててラナさんを追いかけた。私たちは二人で洞窟を抜けた。
洞窟を抜けると、そこには美しい森が広がっていた。聞いたことの無いような鳥の鳴き声が聞こえてくる。歌を歌っているみたいだった。
「すごい……! こんな鳥の歌、聞いたことある? 寝る前に聞くわ~」
ラナさんはうっとりしていた。
「こんなに素敵に歌う鳥、見たことも聞いたこともないですよ……」
森の中を歩いてくと、森が開けて狭い草原のようになっている場所が現れた。
真ん中に台座があり、細身の剣が刺さっていた。
「「あれだー!!」」
ラナさんと私は台座に駆け寄った。
「これ絶対選ばれし者しか抜けないやつじゃん!」
「ほんおそんな感じ! 絶対そうだよ!」
私たちは大興奮ではしゃぐ。
「ミカミちゃん早く抜いてみて!」
「う、うん! よおし!」
私は台座に上って、細身の剣の柄を握った。
「……ん?」
何かおかしい。この剣。
「どうしたのミカミちゃーん! やっぱ抜けない?」
洞窟の入り口にも人が入った跡があった。エドガさんは噂が広がってると言っていた。もうすでに何人もの人がこの剣を抜こうとしたに違いない。
……でもこの剣を抜ける人はなかなかいなかったに違いない。
「触ってわかったけどこの剣、ダメージが激しい。重たい」
「え? 刃こぼれとかそういうこと?」
「いや、そういう損傷じゃなくて、体力というか……」
私が使える最大限の白魔法でこの剣を回復しないと追いつかない。久しぶりに全力をだそう!
剣を握ったまま、思い切り魔道を開放した。
私の周りで風が起こり、円を描いて森がゴウゴウとざわめきだした。
「ラナさん離れてて!」
「はあい!」
ラナさんが遠くまで離れたのを確認して、私は詠唱を始めた。
「風雲のティアラ カササギのルイボス 汝の歌は今ここに翻らん!
目覚めの雲母は雪の如し! 疾風のグローリア シラサギのワンダ
行け! 12時の鐘は過ぎ去った!」
目もくらむような閃光が私の手に集約される。嵐のようだった風は少しずつ止んでいく。
「ホーリーヒラー」
光と風は完全に収まった。
私はグッと力を入れて剣を抜いた。剣はなんの抵抗もなく抜けた。
「ミカミちゃあああん!!」
ラナさんが駆け寄ってきた。
「説明して説明して! なんで回復したの? なんで抜けたの!?」
「うん。説明するね」
私は剣の刃をハンカチで拭いながら話した。
「私にもなんでかは分からないけど、この剣は長い間でどんどん傷ついていたみたい。……体力というか、心が消耗してたの。でも誰も剣を回復しようとはなかなか思わないよね。置いて行かれたこの剣は、ずっとボロボロに傷ついたままここにいたの。
「そうだったんだ……」
「私、この剣大事にする!」
合う鞘を作って、剣をきちんと扱えるようにジーノさんにでも相談してみよう。
「その剣もきっとミカミちゃんに会えて嬉しいはずだよ。心が傷ついてたんなら、きっと感情だってそのうち伝わってくるかもね」
「うん! ありがとう!」
私はラナさんと笑い合った。
「じゃ! ミカミちゃん! スウィーツ食べ歩き行くか!」
「行く行く行く~!!」
後日、私はスウィート&ティアーズ図書館に出勤した。エドガさんを見つけて声をかけた。
「エドガさん、じゃ~ん! 見てくださいこれ!」
「ああ、それか」
ふうん。と言いながら、鞘から出した剣をしげしげ眺めるエドガさん。
「よかったじゃないか」
「はい! “極限赤太郎”、と名付けました!」
「やめろ。ラナにでも付けてもらえ」




