第15話 蔵書点検
異世界にある図書館でお仕事をする女の子の物語
登場人物
館長 エドガ 冷静
司書 ミカミ 主人公 基本いい人
司書 ラナ よくしゃべるギャル
司書 ジーノ 世話焼きで若者にうざがられるおじさん
スウィート&ティアーズ図書館では半年に一度、蔵書点検が行われる。
(説明しよう。蔵書点検とは図書館の本がきちんと館内にあるか、正しい配列が成されているか、破損している本が無いかなどを確認する作業だ!)
半年に一度のビッグイベント。あれだけの量の本を整理するだなんて、大変だなあと思う読者の方も多いだろう。
だが、なんといってもここは異世界。魔法の力で本の整理など一瞬で終わらせられる。
図書館の中にあらかじめ設備されている魔法システムによって図書館内の本は自分たちで元の位置に戻ることが出来る。その為整理についてはラクチンである。
主人公である私、ミカミはこのスウィート&ティアーズ図書館で働く新米の司書だ。新米なのもあって必ず朝は一番に出社するのが私のこだわりであり意地だ。
朝図書館の鍵を開けると、一面に数百冊の本が空を舞っていた。
「なに、これえ!」本達は元々あった棚へひとりでに戻っていく。蔵書点検日にしか見られないレアな光景だ。
「ミカミちゃん、おはよう。なんだか嬉しそうだねえ」
私に話しかけてくれたのはラナさん。いっつも優しくて私のことを気にかけてくれる先輩だ。
「なんだか、魔法って感じがして面白いんですよ」私はぐるぐる回る本達を眺めながらそう言った。
「まぁ魔法なんだけどね~」ラナさんは私の顔を見てはにかんだ。
「でも、こうして魔法がすべてやってくれるなら、私たちの仕事って何も無いんじゃないんですか~?」
「甘いね、ミカミちゃん。本当にやばいのはここからだよ」ラナさんはフッフッフと不敵な笑みを見せながらそう言った。
「やめてくださいよラナさん。だんだん怖くなってきたじゃないですか」私が怯えるそぶりを見せるとともに、エドガさんがエレベーターから降りてきた。エドガさんは本を開いたまま手に持ち、何かぶつぶつと唱えていた。
「エドガさんおはようございまーす」「おはようエドガ~」私たち二人の挨拶をエドガさんは綺麗に"しかと"した。
「相変わらず感じ悪いよね~エドガってさ」
「本当ですよ。挨拶を怠るなんて館長失格です」
「ぶつぶつぶつ……」エドガさんはずっと何かを呟き続けていた。
「おはよう、ミカミさん、ラナ、エドガ」一番最後に出社したのはジーノさんだった。
「おはようございますジーノさん」「おはよジーノ」私とラナさんは挨拶をした。エドガさんは相変わらずなにかぶつぶつと唱え続けており、ジーノさんを"しかと"した。
「エドガは忙しそうですね」ジーノさんは持っていたカバンをおろし、ウォーミングアップしていた。
「さあ、いよいよですね」
「ジーノさん、これから私達は何をするんでしょうか?」
「図書館に無くなった本を探すんですよ」そういうとジーノさんは閉架書庫の中に入り、
「お先行ってきます。お昼ご飯には戻りますから」
そういって中に入っていった。
「じゃあ私は敵襲に備えて図書館の入り口辺りを掃除してるね。」
「ラナさん、ちょっと待ってください。説明してくださいよ」私はおろおろしながらそう言った。
「ミカミちゃんは閉架書庫を掃除していた時があったよね? その時どこまで奥に行ってみた?」
「けっこう行ったんですけど、結局暗くて辺りが見回せないのと、ほこりがとてもすごかったから一番奥まではいけなかったんですよね」
「なるほどなるほど。じゃあさミカミちゃん。今回は何か考え事をしながら閉架書庫の奥の奥まで勇気を出して進んでごらん。そうしたら、おもしろいことが起きるよ」
「考え事……ですか」
「うん。行ってみたら分かるから」
「わかりました」私は支度をして、ラナさんに手を振って閉架書庫へと入っていった。エドガさんはまだブツブツなにかを唱えていた。
「前はこのあたりの本をほぼすべて手に取ってレファレンスをしたんだよなぁ」まだ1カ月も経ってないのに随分昔のことのように思われる。
進んでいくうちに、だんだんと明かりが減って、虚ろげな暗闇が侵食していった。
「いくらなんでも暗すぎません!? こんなところで本を探せって言われても無理ですよ」お客様がお願いする本を閉架書庫に取りに行くことがよくあるが、ここまで奥に入ったことはない。ふと本棚にある本を一冊手に取る。もはやどこの国の言葉で書いているかもわからない本だった。私はすっと本を書棚に戻して、進んだ。
それから10分以上は歩き続けたと思う。書棚はどこまでもどこまでも続いていた。明かりはもうほとんどついておらず、ほとんど前も見えないような状態だ。しかし私はまっすぐそのまま進み続けた。
やがて声が聞こえた。
「ミカミ」
「だっ誰?」私はドキッとしながら前方を確認したが、何も見えない。
「私は図書館の主だ」
「図書館の主?」
「そう。図書館の主だ。君のことはいつもここから見ている。今日はね、君にある本を探してもらいたいのだ。その本はこのスウィート&ティアーズ図書館の閉架書庫に何十年も存在し続けた本なのだが、ある日どこかへ出かけて行ってしまった。魔法で元の場所へ帰るように促してもなかなか帰ってこない。もしかしたら帰る場所を失っているのかもしれない」
「どうやって探せばいいんですか?」私は虚ろ気な暗闇の中で一人ぽつんと話した。
「このまま君の歩幅で500歩ほど歩くと、3つの部屋の扉が出てくる。その真ん中を君が通るんだ。ちなみに右側はジーノ、左側はエドガが行ったよ」
「わかりました」私がそういったと同時に静寂が訪れた。図書館の主は帰っていったのだろう。
そのまま500歩ほど歩いていくと確かに扉が3つ存在していた。扉にはまるでスポットライトのように明かりが照らされている。左側から赤、黄、青の順番で並んでいる。私は図書館の主が言っていた通り、真ん中の黄色い扉を開け、中に入った。
中に入ると、そこには驚きの光景があった。草原が果てしなく広がっていて、太陽の光がある。まぶしい。そして気温が高い。暑い。ここは、この図書館とは隔絶された別の世界だった。
この中で何を探すの?
私はあてもなくまっすぐ歩いていると、一本の木があった。
木の方へ向かって歩いていくと、そこに一人の子供が立っている。子どもはのっぺらぼうのように顔のない人形だった。
子どもの顔を見て、私はおもわず声をあげそうになりながら、どうしてこの子供に顔が無いのか、思いにふけった。
「きっと、このこどもは何か悩みがあるんだ」私は自分が物語の登場人物だったらここでどんな行動を取るか考えてみた。
「ペンを取り出して顔を作ってあげるかな。それとも怖くて逃げだしてしまうかな。それとも無くなった顔を一緒に探してあげるかな」
答えは出なかった。多分私だったらこの状況でこの子のことを何も見ていないふりをして通り過ぎるだろうと思ったからだ。
「私は、探している。本当の自分を」のっぺらぼうの子どもは突然そう言った(ように聞こえた? 口が無いのだから話ができる訳が無い)。
「……」私は何も答えなかった。このまま無視して本を探しに行こうと思った。この子に対して私に出来ることなど何もないという気がした。激しい罪悪感を感じながら。
そのまま子どもがいた木を通り過ぎて歩いていくと、"ゴール"と書かれた旗があったのでそこへ向かって歩いて行った。ゴールに着くと、
「ブッブー」という不正解の音が鳴った。
真っ白な空間が辺りを照らした。空間がすべてを司り、部屋は姿を変えていった。
「こんにちは。ミカミさん」そこには男性の姿があった。眼鏡をかけ、ステッキを持っていた。
「こんにちは。あなたが図書館の主ですね」
「いかにも。本日は探し物を手伝ってくれてありがとうございました」
「私はなにもせず歩いていただけでしたが」
「あなたが辿り着いた世界はいわば失われた世界。本来ならば存在したはずの伝説の名著『ミケ』の世界に入ってもらいました」『ミケ』。私たちの住む町、そしてこの図書館のある町ミケランドールと関連がありそうだと思った。
「あなたが出会った顔のない男の子。あの子は何かを探し求めている。『ミケ』という本は抗争に巻き込まれ、焼かれてしまい、復元された部分で分かっているのがこの話だったのです。それからその後の話の展開がいまだに分からないままでした。」
「なるほど、さっきゴールのところで不正解の音が鳴ったので、私は間違えたってことですね」
「はい、そうなります。正しい答えを知っているのはただ一人。その生き物はまだこの世界に存在していると言われています」
「そうなんですか」私はだんだん話に興味が無くなっていった。お話や物語を楽しむのは好きだが、小難しい話を読んで、中身のことをあれやこれや考察したり、批評し合ったりするのは私の好みではない。そんなことするのはエドガさんだけで十分だ。
「とにかく不正解ではありましたが、あなたは顔のない子供に対して「何もせず、無視する」というこれまでにない新しい答えを提供いたしました。その御礼を差し上げます」そういうと図書館の主はステッキをくるくる回転させ、私に向けてなにか呪文を唱えた。
「帰りの道、様々な方向を向きながら考え事をしてごらんなさい。一度だけ、答えを提供いたします」そういうと図書館の主は
「ごきげんよう」と言い、消えていった。
私が閉架書庫を出ると、時刻は18時半を回っていた。19時に閉館だ。
「お腹すいた~」私はもうへとへとだった。なんだかよく分からなかった。
「あ、ミカミちゃん遅かったね~。お帰り~」ラナさんが優しく迎えてくれた。
「おい!ミカミ! どうだった?」エドガさんは大慌てで私に駆け寄ってきた。
「え? えっと、なんだかよくわからなかったです」
「違う、顔のない子供がいただろう? どう行動した?!」
「えっと、なんとなく無視しましたーへへ」
「なにぃ! 貴様! 意味が分からんぞ! くっそ~、分からん。俺もジーノも同じ問題だったのだが、ミカミが一番正解に近かったらしい。」
「え? そうなんですか? やったー」
「今回はミカミさんにやられましたね」ジーノさんは帰る支度を整えながら言った。
「くっそ―、ミカミごときに報酬を取られるとは~」エドガさんは昨日から寝ずにずっと出題されそうな本を予習して読みふけっていたらしい。だから朝もブツブツ言っていたのか。
「さ、もう今日は早めに閉めよ~」ラナさんは言った。
帰りの道。私は一人でとぼとぼと家に帰っていた。
(今日のご飯なにかなー)
「ハンバーグ!」と突然、図書館の主の声がした。




