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第10話 甘いものにご用心!?

登場人物

館長 エドガ 冷静

司書 ミカミ 主人公 基本いい人

司書 ラナ よくしゃべるギャル

司書 ジーノ 世話焼きで若者にうざがられるおじさん

お客さん ピヨネッタ(ピヨちゃん)音楽家。

お客さん オディバさん 常連

ある日のスウィート&ティアーズ図書館での出来事。


図書館は原則的に、館内飲食禁止である。館内とはいっても、図書館内で経営されている喫茶店内のカフェスペースは、もちろん飲食可だ。


勉強スペースでは、蓋のできるペットボトルなどの飲み物は持ち込みオッケーだ。

こぼさないように配慮されていれば、長時間の勉強中に喉を潤してもらって全然かまわない。

頑張れ受験生!


ただし、本は水濡れや汚れは厳禁なので、基本的に図書館内は飲食禁止と書いてある。


そんな中、とんでもないおばさんが現れた!



そのおばさんは明らかにマダムといった風貌だ。紫のメッシュを入れた黒髪パーマ。黒地に赤い花模様のヒラヒラワンピース。髪型と服装はシックなマダムといった感じだが、ハンドバッグとアクセサリーがこれでもかというほど派手だ!

特に手元の指輪が豪華に光り輝いている。


「お願いします」


「ありがとうございます。貸し出しですね」


私はマダムの貸し出しの手続きをした。マダムはイリバという名前の方だった。

借りた本は『世界のお菓子図鑑 サンニャーチコ編』。わあ、美味しそうな本だなあ。


「返却期限は二週間後です。ありがとうございました」


「ええ。ありがとう」


マダムは本をテーブルに置いたまま、私の目の前でハンドバッグの中から何かを取り出した。


「そ、それは…!!」


それはなんと先週発売されたばかりのオディバの新作チョコレート!!しかも期間限定!!

ハナマチに本店を構える“オディバ”は高級チョコレート専門店だ。ここミケランドールでも有名なお店。

ハナマチの専属ショコラティエが20年間温めてきたアイディアが詰め込まれたといわれているあの新作が今目の前に…!?


マダムは私の驚愕の表情を読み取ってか、ニヤリと笑って一粒食べた。


「ああっ!」

羨ましい!!思わず声に出てしまった。

マダムは美味しそうにオディバのチョコレートを頬張る。

二つ目のチョコレートを何とも言えない表情で味わっている。


「ああ…図書館…図書館なので…」


私は羨ましさで言葉につまる。すぐ目の前にあるオディバのチョコレートから目が離せない。


途中から見ていたラナさんが後ろから小声で応援してくれている。


「頑張れー! 負けるなー!」


「と、図書館なので…飲食はお控えください!」


言えた…。チョコレートに目が釘付けだったけど。


「おひとつどうぞ?」


「え…」


マダムはニコニコしながら私にチョコレートの小箱を差し出してきた。


くそー! 負けるもんかー!


「仕事中ですので! ご遠慮します!」


「あら残念」


か、勝った…!

私はつらい戦いにはあはあ息切れを起こして額の汗を拭った。

マダムは小箱をハンドバッグにしまって、本を持って立ち去ろうとした。


「待ってえ!! 一粒くださいいい!!」


マダムは嬉しそうに戻ってきた。

ま、負けた…。

後ろでラナさんがため息をついた。

一粒分けてもらったオディバのチョコレート。口の中で幸せに溶けていき、目の前のマダムが天使に見えた。


飲食禁止の館内で利用者さんから食べ物をもらって食べるなんて、なんたる不覚…!

もしエドガさんに知られたら殺されちゃうよ。

もう今後何ももらって食べたりしないし、ちゃんと注意するぞ!


この日から私とオディバさんの戦いは始まった。



またある日。


あ! あの人はオディバさん! そして手に持っているのは湖仙堂の紙袋じゃないのお!?

私はにわかに大興奮してしまう。

…自分でもオディバさんに餌付けされていると思う。


湖仙堂といえば有名なのはやっぱりあの最中だ。数量限定。一日100個しか作られない最中は開店と同時に売り切れるという伝説の最中だ。

幾多の苦難を乗り越えた熟練の職人が、ひとつひとつ丁寧につくっているという噂だ。


パリパリのうす~い皮。それに挟まれたあんこは、明け方からその日の分だけ作られる。水晶みたいな砂糖の粒。朝焼けに透かして金色に輝く水あめ。職人が夢と根性を背負って作ったあんこ。

最後の仕上げに愛情と一緒にあんこは皮に挟まれる…。


オディバさんが紙袋の中から木箱を取り出した

私の目の前のカウンターの上でそお~っと木箱の蓋を外す。

私は期待で目が離せない。




箱の中から現れたのは、あの最中だった!!


「はあ~」


私は感嘆の声を上げた。5個並んだ最中はとても慎ましく見える。まるで紳士淑女だ。


オディバさんはおもむろに1つ取って齧った。パリパリッといい音がして、甘い匂いがしてきた。


「おいし~い」


「く、くそ~」


私はハッとした。だめだだめだ! 注意しないと!


「と、としょ、とと」


オディバさんは美味しそうに二つ目に手を伸ばしてパリパリッ!っといい音をさせる。


「わあ~ん!! 図書館だからあ! 図書館だからお控えくださいい!!」


私がテーブルにわあっ!と突っ伏してしまうと、オディバさんは慌てて声をかけてくる。


「あらら、ごめんなさいね。お一つどうぞ」


「え…」


私は目を輝かせて最中を見た。

でも…でも仕事中だし…図書館だし…


私はお言葉に甘えて一つもらった。小さめの最中の甘さが口いっぱいに広がる。


「しあわせ~」


オディバさんはニコニコしている。

私もニコニコだ。






…こ、今度という今度は負けないぞ!

オディバさんは私をからかっているんだ。美味しいものを見せびらかせて、私を困らせて楽しんでいるんだ。

くそ~!

私は考えを巡らせる。

オディバさんは私がカウンターに一人で座っている時に限って現れる。つまり人を見てからかってるんだ。私が新人で、注意をしようにもたどたどしいからそこを狙われているに違いない。

だってエドガさんがいたら絶対に食べないもん。くそ~! 私は舐められているんだ。


今日もまたオディバさんが現れた。カウンターには私一人。こ、これはまずい。


オディバさんは私を見るとニコニコしてやってきた。

私は先手を打つ!


「と、図書館では飲食は控えてくださいね。いつももらっちゃいますけど、今日はそうはいきませんからね」


「あら、そう? 残念だわ。いつも可愛い反応してくれて嬉しかったんだけど…」


オディバさんは残念そうに帰っていこうとした。


「ちょ、ちょっと待ってください」

オディバさんは振り向いた。


「その、今日も何かご用意があったんですか…?」

私はドキドキしながら聞いた。べ、別に期待しているから聞いたわけではないし…。


オディバさんは何だか嬉しそうだ。

「よくぞ聞いてくれました。今日はこれよ」


オディバさんは手に持っていたカバンから小さな紙袋を取り出した。


「そ、それは…!!」


「「トウィンクルのプチシュー!」」


私とオディバさんはうふふ、あははと笑い合った。

私の休憩時間が近かったので、お昼休みに公園で一緒に食べさせてもらった。

舐められないようにするぞと誓ったのも束の間、とっても仲良しになってしまった。





今日はエドガさんと私でカウンター業務だ。エドガさんはいつも通り静かなものだ。

私はエドガさんの横顔を窺って、今日の機嫌の良さを確かめる。…今日はあまり機嫌が良くない気がする。


オディバさんが現れた。

ああ~!! 手にはナイトオーバーの紺色の紙袋を持っている! 中はきっと有名なあのフィナンシェに違いない! よりにもよってエドガさんの機嫌のよくなさそうな日と被るなんて…。


オディバさんもエドガさんに気づいて、どうしようかという顔をしている。


オディバさんに念を送る。

(逃げて~!)


私の念は通じなかったようで、オディバさんはのしのしこちらへ歩いてくる。

エドガさんに笑顔でこう言った。


「あなた館長さんでしたわよね? いつもこの図書館にはお世話になっているので、これ差し入れですわ。皆さんで召し上がってくださいな」


オディバさんはナイトオーバーの紙袋を差し出した。な、なんていい人なんだ…。


「お気持ちはありがたいですが、差し入れは受け取らないようにしています。何かトラブルになるとお互い不本意ですし」


「エドガさああああん!!」


「うわっなんだお前」


私はたまらず口を挟む。


「この差し入れはきっとナイトオーバーのフィナンシェですよ。エドガさんはご存じないかもしれませんが、とっっっても美味しいと有名なお菓子で、最近雑誌で特集されたこともあってか、なかなか手に入らない貴重なものなんです。せっかく用意していただいたのに申し訳ないですよ!」


オディバさんは嬉しそうにうんうん、とうなずいている。


「お前紙袋を見ただけでそこまで分かるのか?」


「好きなんです」


「そうか。しかしだな…」


「いいんですのよ。突然のことで申し訳なかったわ。持って帰るのもなんですし、好きならあなたに差し上げるわ」


私は差し出された紙袋を受け取った。

「オディバさん…」

ここまでスマートに贈り物をされるとときめいてしまう。


「あ? 知り合いだったのか?」


「いえ、別に…」


「では、また参りますわ」

オディバさんはおほほと笑いながら去っていった。強い…。オディバさんはエドガさんにも勝ちうる存在だ…。


私は紙袋からフィナンシェを1つ取り出して、はむっと食べた。

バターの優しい香りが口に広がる。


「おい! 館内で食うな!」


「あ、すみません」


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