第1話スウィート&ティアーズ図書館に面接に来たら館長がめっちゃ辛辣!? 図書館では勇者が何組も襲撃してくるのだが!?
登場人物
館長 エドガ 冷静
司書 ミカミ 主人公 基本いい人
司書 ラナ よくしゃべるギャル
司書 ジーノ 世話焼きで若者にうざがられるおじさん
ここはスウィート&ティアーズ図書館。この異世界に唯一存在する図書館である。
見た目はとてもおごそかでお金がとてもかかっていそうな図書館。中に入ると見渡す限りの本の山。
ここで働くのが幼いころからの私の夢だった。
「あの、すみません」
わたしはドキドキしながらお仕事をしている司書のおじさんに話しかけた。
「はい? なんでしょうか? 本をお探しでしょうか?」
おじさんはとても感じがよくて、優しい温和な表情をしていた。その顔を見ているだけで、こちらもうれしい気持ちになる。
「今日面接で伺いました、"ミカミ"というものですが・・・・」
「面接?」おじさんはきょとんとした表情をしていた。
「そうです」
「ちょっと上に確認をとりますので少々お待ちくださいね。」おじさんはそのまま持っていた無線のようなものでぼそぼそと話していた。もしかして、日にちを間違えちゃったのかな? 不安な気持ちが強くなる。
「面接の予定など特に入ってないという上からの返答なのですが」おじさんは申し訳なさそうに私に話しかけた。
「そんな……」私は自前のスケジュール帳を見たが、確かに今日で間違いない。面接日程の詳しい書類だって持っている。今日が面接でないはずがない。それなのにどうして面接の予定がないなんてことになっているのだろう?
そんな私の表情を見て、おじさんはすごく哀れに思ったのか、「もしかしたら、こちらの不手際かもしれません。もう一度確認しますね」と言ってくれた。
「よろしければ一緒に来ていただけませんか」おじさんはそういうと私に手を差し伸べた。
紳士だ。うっとりとしながら私はおじさんの手を握り、エスコートされていった。
こうして私は普通のお客さんが立ち入ることの許されない図書館の内部に入った。そこは表のエリアとは比べられないほどの大量の本がまるで滝からこぼれた水しぶきのごとく乱雑に溢れかえっていた。
「すごい数の本ですね……」
「私も初めてここに入ったとき、ビックリしたな」おじさんはそういって私を見てほほ笑んだ。
「ほら、あそこにエレベーターがあって、8階に館長がいるから、案内してあげるね」おじさんは急に優しい口調になった。
「ありがとうございます」
もし、面接に落ちたとしてもこんな素敵な場所に入ることができた時点で幸福だと思った。
エレベーターに私とおじさんは乗った。エレベーター内ではお互い一言も話さず、静寂な時が流れた。
やがて、エレベーターが8階に到着し、扉を開ける。
そこに広がるのは、これまで見てきたものとはまた違うおしゃれな空間だった。
人工の草木がいくつも生い茂っており、川の流れる音と、わずかなピアノの旋律が聞こえてきた。
「ここはオアシスですか!?」
なんで図書館にこんなところがあるんだろう? 不思議で不思議でたまらなかった。
「それは・・・」おじさんが言いかけようとした時
「なんだ! ジーノ! その小娘は!」きりっとした目に長髪の男がこちらを見ていた。
「エドガ、この子は面接を希望されている子だ」
「うるさい! そんなことは聞いておらん!」
「聞いたじゃん…」ジーノおじさんは呆れてため息を漏らし、
「彼がここの館長、"エドガ"だ。おじょうちゃん、おじさんはここまでだ。あとは頑張りな。私には仕事がある」と言ってエレベーターに乗って降りていった。
一瞬、静寂な時が流れた。
「おい、小娘!」エドガは静寂を破り、話しかけた。
「へ、へぁい」私は緊張を隠せないへろへろした声で返事をした。
「今貴様はここは何だと言った?」
「え? えっと……、オアシス?」
「センスがないな、出ていけ」そういうとエドガは向こうへ歩いて行った。
「え、ちょっと待ってください! そんなのってないでしょ」私はあわてて走っていき、エドガの腕をつかんだ。
「この神聖な場所をオアシスなんていう誰でも思いつきそうな表現で例えた輩にこの図書館で働く資格などない」
「そんな……」私はあまりにも態度の悪いこの男をとてつもなく憎んだ。どうしてこんな傲慢な男が館長をやっているの? でもちゃんと話をしなければならない。私はここで働きたいんだ。
「じゃあここはなんなんですか? なんのためにこんな自然豊かなんですか?」なぜ分からないんだ? という目でエドガは私を見た。そしてこう言った。
「ここは私の趣味だ。趣味でこのように草木を生やしている。この美しい場所の良さがなぜわからん?」
「確かにここは素敵です。だけどあなたは性格が意地悪で意地汚い。この場にふさわしくないのはあなただ」
「なんだと!」私たちは睨みあった。
「結局面接はやるんですか! やらないんですか!」
「面接などやるもんか! 貴様は不合格だ!」
「なんでよっ!」私はバッグから履歴書を取り出した。
「ほら、ちゃんと司書の資格も取得してるし、ここは子供の頃からずっと通ってた思い出の場所なんです。本のことならだれにも負けません!」
「ほう、じゃあいくつか質問するぞ。『ピッターニャの祖父』は読んでいるか?」
「う、勿論」本当は名前を知っているだけで読んだことはなかった。
「じゃあお前はピッターニャの祖父でどのシーンが好きか、答えてみろ」
「う……。ええと」読んだことのない私はタイトルからどんな話が繰り広げられるのか妄想を膨らませた。
「主人公とヒロインの関係性がいいです」私は無難に答えた。
「なんだその薄い答えは、さては貴様読んでないな!」エドガは怒鳴った。
「いや、ちゃんと読んでますよー」私はしらをきりつづけようと決めた。
「ちなみに私は、主人公の”ゾフィー”が恋人とピッターニャからサンニャーチコまで空を駆けながら雲を蹴飛ばし、笑い合うシーンが好きだぞ」
「へ、へぇー」
「お前、やっぱり読んでないだろ!」エドガはもう付き合ってられんという表情で
「不合格だ」と言いかけた。私はそんなーと涙を流しかけた。
その時、警報が鳴った。
「侵入者。侵入者発生。場所は図書館裏門から」
突然ただならぬ雰囲気が場を襲った。私は何が何だか分からなくそこに立ち尽くしていた。
「ラナ! 移動させろ!」エドガは無線にめがけて大きく指示していた。
「りょうかーい」可愛らしい女の子の声が聞こえてくると同時に突然、まるで最初からそこにいたのかのように、マントを羽織り、大剣をかついだ男が現れた。
「お? なんだいまの」男は何が起こったか現状を把握することに必死という様子だった。
「お、お前がリーダーって感じだな。なんか知らんけど強そうじゃん」男はそういうと突然わき目もふらずにエドガにとびかかった。
大剣はすさまじい勢いでエドガに降りかかっていたがエドガはそのまま立ち尽くし続けていた。
大きな衝撃が走った。
「うおおおおおお」男は衝撃の強さに耐え切れず、大剣を放してしまった。エドガは何の変哲もない様子でその場にい続けた。
「なぜだあああ、なぜ俺の攻撃で死なねえんだあ」男はよほど自分の実力に自信があるという感じだった。「いままでどんな怪物ですらこの攻撃で一撃だったのによおお」
「貴様、転生者だな」エドガはそういうと私の腕をつかみ、後ろに追いやった。
「離れていろ」
「ちきしょお。だったら魔法だああ。喰らええええ」
男の両手から太陽のごとき業火がエドガに吹き荒れた。エドガは私の前に立ち、手を横に広げた。
何かに吸収されたかのごとく火の勢いは消えた。逆に火は男に点火し、ごおごお燃え盛った。
「ぐあああああ。でも熱くねえぞおお。ちょっと痛い程度だああ」
「無茶苦茶すぎるな」エドガはいつのまに手に本を持っており、そこにある言葉を唱えていた。
「山田健太」
すると男は急に何かを思い出したようにうなり、雄たけびをあげだした。
「うあああ炎が強く! うああああ」男の体は黒く炭のようになっていった。
「じゃあな」男が死にかけようとしていた時
「ヒーラ!」私は持ち前の白魔法を発動した。みるみる男の炎は消え、その姿も焼かれる前の姿に戻っていった。
「何をする? 貴様」
「いや、殺人はダメでしょ」私は遮ろうとするエドガを更に遮って男を治療した。
「転生者は始末するルールだ」
「ここは図書館です! 人を殺していい場所ではありません」
男はやがて完全に治療され、私を見た。
「もしかして、俺に惚れたのか?」
「はあ? キモいんですけど」
「おい、山田健太」エドガは男に話しかけた。
「違う、俺は勇者ゼットだ!」
「違う、お前は山田健太だ」
「なんだと、見せてやる! 本気をな!」男は地面に刺さったままになった大剣を拾おうとした! が、重くて持ち上がらない。
「なぜだ……」
「山田健太という本当の名前を取り戻したからだ」
「そんな……」男はそのまましりすぼみし、砕けるようにその場にうなだれた。
「転生者ってそもそもなんなんですかー?」
「別の世界から文字通り転生した人間はこの世界の常識が通用しない驚異的な力を得ている者が多い」
「意味がよくわからないんですけど……」
「この図書館はどんなことでも知ることができるからな。強力な怪物の倒し方とか未知の財宝の在処とかその他ありとあらゆる謎の答えがここにはある。だからたまにそれを奪おうとする者が現れるのだ」
「おい、山田健太。おとなしく元の世界に帰れ」
そういうと男の体はだんだんと透けて消えていき、やがて何も起こらなかったかのように場面は元の静けさのある自然に戻った。
「元の世界で本来の人生を歩むのだ。山田健太」
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「あのーところで、エドガさん」
「なんだ」
「お願いします! なんでもするのでここで働かせてください!」私はそういって頭を下げた。
「ダメだ。貴様みたいな文学性のなんたるもわからんような女にこの図書館で働く価値はない!」
「そんな……」
「とは言いたいが、人が少なくて募集をしていたのを忘れていた。それにお前の先ほどの白魔法は役に立ちそうだ。それを踏まえて……」
「それを踏まえて……?」
「アルバイト入社を許可しよう!」
「なんですとおおお!」
こうして私のスウィート&ティアーズ図書館での司書生活は始まった。
〈続〉