モブ令嬢は余計なことはしたくない~ただしメインヒーローの攻略は阻止します~
「助けてください、ツェフィーラ様!せっかく王子の婚約者にならないようにしてバッドエンド回避したっていうのに、へっぽこ悪役令嬢らしくちゃんと仕事しろ、ってヒロインにいちゃもんつけられるんです!!王子の婚約者でもないのに、わたしがヒロインに嫌がらせする理由なんてありませんよね!?どう思われます?わたし、そんなことしなくていいですよね!?」
説明乙です、トリニータ・タンデムロフ公爵令嬢。またの名を『テンプレートへっぽこ悪役令嬢w』。
わざわざ言葉に出して公にする気はございませんが、私の目の前におられる方は、乙女ゲーム『逆奏2』───何の略称だったかは思い出せませんが、確かこんなタイトルでしたわ───のあまり恋の障害にはならないライバル令嬢なのです。
『逆奏無印(パート1のことですわ)』のライバル令嬢があまりにも浸け込む余地の無い完璧な淑女であった為、反動なのか正反対のキャラクターに仕上げられた、謂わば被害者とも言える御方……心中お察し致しますわ。
燃えるような鮮やかな赤髪と、きつめの目元ながらハッとするような美貌の持ち主です。しかしながら自慢できるのはその美貌と家の威光のみ。ワガママ三昧の弊害か、淑女としての品位、教養、コミュニケーション能力、全てが身に付かず、ボキャブラリーの貧困さにより解りやすい幼稚な嫌がらせしかしない、そんな設定の方でした。
現実ではそのような方ではなく、ワガママどころかご自身の意見を言うのも躊躇われるような、大変奥ゆかしいご令嬢におなりです。寧ろ滅多に人前に姿を現しませんし、なんならほぼ引きこもって夜会やお茶会も欠席されることが多いので、ゲームのような存在感は全く発揮されておりませんの。公爵令嬢にも関わらず招待状にろくに返事もなさらず、ひたすら外界との接触を遮断し続け、社交に一切興味をお示しになられません。
学園にもあまり来たがらないようで、父親のタンデムロフ公爵閣下が大変に手を焼いていらっしゃるとか……。
ですが乙女ゲームの知識がおありのようですし、きっとバッドエンドフラグを徹底的に回避したいが為に、学園に近寄らないようにされているのですわね。
なんにせよ、いくら私が侯爵令嬢とはいえ、初対面の出会い頭にお互いの名乗りもなく、ご自分の意見だけを勢い込んで捲し立ててこられるのはマナー違反というものでしてよ、トリニータ様。思わず出そうになった溜め息を、そっと飲み込まなければならなかったではありませんか。
申し遅れましたわ。
私、ツェフィーラ・アルデリテと申しまして、アルデリテ侯爵の次女にして、畏れ多くも我がソルトリオー国第3王子殿下の婚約者候補、の1人に数えられている身ですの。
乙女ゲームには名前も姿もチラリとも過ることのなかった、身軽なモブというやつですわ。もしよろしければお見知りおきくださいませ。
「ツェフィーラ様、お願いいたします!わたしを貴女の取り巻きの1人に加えてください!!そして貴女様の御威光でヒロインを追い払ってください!!最初で最後のお願いです!これ以上は望みません!引き受けてくれたら、何でもします!だから助けてください、ヒロイン怖い!もう関わりたくない!ガクブルなんです、あと一歩でトラウマです!」
ツッコミ所が大変多くて困りますわ。
その台詞、理解出来る方が限られてしまいますわよ、トリニータ様。
私は前世の記憶がなんとなくあるので理解出来ますが、私の後ろに控えたお友達の皆様が引いていらっしゃいますわよ?
何を意味の解らないことを言っているのか、とか。
公爵令嬢にも関わらず常識のないことを言うなんて、とか。
呆れられておりますわ。
下手をすると本人の貴族としての資質だけでなく、公爵家の教育方法まで疑われてしまいます。
大変由々しき事態だと思われるのですが、どうお考えなのでしょう。
「ちょっと待ちなさいよ、へっぽこ令嬢!ちゃんと役目を全うしなさいっての!モブなんかに助けを求めたって無駄なのよ!あんたはアタシをハッピーエンドにするために居るんだから、仕事しなさいよ!」
「ヒイィィィ!来ました!お願いします、ツェフィーラ様!」
猛ダッシュと表現するに相応しい姿を、今世において初めて目に致しました。
制服の裾をはためかせながら、タダダダダダーっと漫画のような足音を鳴り響かせて急接近してきた美少女が、キキーッと擬音を発てながら目前で止まったのです。そこから両手を腰に当てて仁王立ちをきめるのは、ピンクブロンドの髪と翠の目を持つ、『逆奏2』におけるヒロインです。
デフォルト名はアマリア・デフォルト男爵令嬢。
名前が酷いですわね。
因みに、私が視聴していた実況動画では『カルボナーラ男爵家の令嬢、オイシー・カルボナーラ』とお名前を変更しておられた為、私の中でのヒロイン名はオイシーでした。
デフォルト名を知った当初は違和感がありましたが、今はそんなこと全く関係ありませんわね。
私達の前に立ちはだかり進行方向を完全に塞がれたせいもありますが、令嬢らしくない立ち居振舞いを目の当たりにして、私のお友達が全員言葉を失ってしまいました。
きっと驚かれたのでしょう、わかります。
皆様の常識の中では、スカートが捲れるのも構わず走る文化は存在しないのですよね。
そしてすかさず私の背後に回り、影に隠れてしまわれるトリニータ様。
目にも止まらぬ速さでしたわ。スピードに極振りでもなさいましたか?
この間約30秒。
悪役令嬢と初対面、からのヒロイン登場までの間隔が最速なのではないでしょうか?
思わず遠い目をしかけましたが、美少女なお顔が視界にドアップで迫って来たので、焦点を戻さざるをえません。
「ちょっと退きなさいよモブ。あんたには用ないんだから」
せっかくの整ったお顔立ちを台無しにしてしまう程表情を険しくし、まるでゴミでも眺めるように目をすがめて私を見るアマリア様。
あら、どうして貴族の常識が身に付いていないのでしょうか?
それにどうやら、私を侯爵令嬢とご存知ないご様子。
おかしなことですね。
違和感に内心首を傾げます。
ゲームでのヒロインでさえ、元気印!というよりは、貴族の常識は弁えているものの、トリニータ様に目をつけられ一方的に嫌がらせを受けるが、健気さで耐え抜いていく、という。
優しさとお人好し成分過多の大人しいタイプだったように思います。
このような有り様でヒロインとは、とても信じられません。
それにこの先貴族社会で生きていく気はおありなのでしょうか?
私のお友達の皆様が、悪い意味でざわついておりますわよ?
ここで学友達との関係を良好に保つことができなければ、そのままの関係が社交界まで持ち上がってしまいます。
如何に高貴な方と縁付いたとしても、味方が少なければ足元を掬われる危険性も高いというもの。
貴族の家に生まれたのなら、そのことが頭にないはずはないのですが。
思わず片手を頬に当て、歯痛ポーズをとりながら首を傾げてしまいます。
あら、心の中の行動と現実の行動がリンクしてしまいましたわ。
いけません、まずは落ち着きましょう。
「トリニータ様、あいにくと私は今から皆様とサロンでお茶会ですの。込み入ったお話のようですから、また日を改めてゆっくりお話した方がよろしいのではないでしょうか?」
背後に向き直り、アマリア様を見なかったことに致しました。
なるべく柔らかい言葉がけになるよう気をつけながら、ふんわりと微笑みます。
「そ、そんなこと仰らないでください、ツェフィーラ様!今もうヒロインがそこに居るんです、置いてかないで下さい!その子、貴族の常識も通じないし、なんだか知らないけど自信満々で我が強いし、話し合いが上手くいかないんです!二人っきりには絶っっ対なりたくないんですー」
半べそをかきながら鼻水を垂らして哀願するトリニータ様。
がっちりと私の二の腕を掴み、イヤイヤと激しく頭を振っておいでです。
公爵令嬢としての威厳とは全く無縁のお姿に、うっかり心が打たれてしまいますわ。
不意にキュンと高鳴る胸の鼓動を抑えるべく、然り気無く両手を胸にあてて、笑顔を絶やさないまま深く息をつきます。
「トリニータ様、そういう時はマナーの講師にお伝えして、『淑女としての教養を身につけて頂けるよう、そのご令嬢にご指導賜りたい』と、お願い申し上げればよいだけですわ」
「うぅ、わたしはコミュ障だから、そんな難易度高いことは出来ないんですぅ。ツェフィーラ様に声をお掛けするのも、いっぱいいっぱいなんですよぉ」
情けない下がり眉と涙声に、自然と頬が高揚してしまいます。
あぁ、なんて無様でお可愛らしいのでしょう!
使える権力を全く行使せず、利用すべき環境や教師陣も活用せず、絶望にうちひしがれたお顔をなさるなんて、とても滑稽で素敵です。貴族社会ではなかなかお目にかかれない逸材ですわ!
うっとり漏れそうになる溜め息を「ご同情申し上げますわ」という囁きに紛れこませ、私はやんわりとトリニータ様の両手を腕から引き剥がし、自分のそれで握りこみながら然り気無くハンカチをお渡しします。
「ちょっと、無視しないでくれる!?」
私達の間にわざわざ回り込んだ挙げ句、会話に割り込まれるなんて、無粋な真似をなさいますのね。
ゆっくりと首を傾げながら、今気付きましたという顔でピンクブロンドの少女をマジマジと眺めます。
「まぁ、私としたことが。面識のない方相手とはいえ、礼を欠いてしまいましたわ。どちら様でしょう?」
悠然と、無礼な態度で突っかかってくる方に対しても名乗りを許可する寛大さを示したつもりなのですが、何故か彼女の形相からは憤怒の色が読み取れます。
「アタシのこと知らないっていうの?あんたモブのくせにヒロインが判んないとか、バグなんじゃないの?登場人物になれないだけのことはあるわ。さっさと退場しなさい!お呼びじゃないのよ!」
「まぁ……、困りましたわ。私、彼女のおっしゃっていることがよく解りませんの。どなたか、思い当たることがある方はおりまして?」
後ろを振り向きお友達の令嬢方に助けを求めてみましたが、皆様表情を険しくされたり、困惑の色を濃くされ、口々に「解りません」「解りたくもありません」「お役に立てずすいません」等の言葉を返して下さいます。
トリニータ様は私から受け取ったハンカチを握りしめながら「ええと、どこから説明していいか」とおろおろしておいでです。仕草がとても小動物的ですわ、きっとSっ気のある貴公子にでも見初められそうです。
ますます不愉快を表情に滲ませる自称ヒロインの少女。トリニータ様と比べるとただただ醜悪で、残念ながら私の好みではありませんの。
「申し訳ありませんが不勉強なもので、貴女様の言葉の理解が難しいようですわ。もう少し生活圏の違う方々のことも、これから勉強させていただきますね。では、ごきげんよう」
「ちょっと、今アタシのことバカにしたでしょう?モブの分際で生意気!」
お望み通り退場してさしあげようというのに、またまた立ちはだかる自称ヒロイン様。
自身をハッピーエンドにするために、トリニータ様に悪役令嬢を強要するような痛々しい発言をされる方ですもの。きっと自分が世界の中心と思っておいででしょうから、モブに無視されたり下に見られたりされることは、大変プライドが傷つくのかもしれません。
しかし困りましたわ。
私、出来るだけ乙女ゲームの方々とは関わりあいになりたくありませんのに。
ましてや転生者感を全面に押し出してこられる方々なんて、仲良くしていける気が致しませんわ。
「そのようなことを仰られましても、私全く心当たりがありませんの。何か気にさわることかございましたか?」
「なんなのあんた、ほんとイラつく!はっ!もしかしてあんたが新しい悪役令嬢なわけ?取り巻きもいっぱい居るし……そっか、そうなのね!!」
「ぇえ!いやいや、ツェフィーラ様は確かに完璧令嬢って言われてて婚約者候補筆頭だけど、悪役令嬢なんて、そんなコスい嫌がらせとか痛々しい意地悪とかする方じゃないから!本当に令嬢の鑑みたいな、素晴らしい方なんだから!トリニータとは全然違うんだからね!」
たまらずといったように口を挟んでこられたトリニータ様。
ご自分の名前を口にしているのに、やけに他人事な口調です。
十中八九ゲームでのトリニータ・タンデムロフ公爵令嬢のことを言っているのでしょう。
「へぇ、じゃあ、無印のライバル令嬢と一緒かー。ちょっと、ただでさえディアゼル様が、メインヒーローのくせに攻略難易度超鬼畜設定なのに、ライバル令嬢まで難易度上げないでよ!最悪!どうせ変わるなら友情エンドがある、無印の方の令嬢が良かった!!あんたがちゃんと悪役令嬢しないからよ!」
「そ、そんなこと言われても!わたし『ニッコリ腹黒俺様ドS』なんて好みじゃないから、万が一攻略失敗されて結婚しちゃうのも困るし、かといって攻略されて国外追放とか実家没落させられても困るから、婚約者を辞退しただけなの!」
「ふんっ、攻略失敗とかないから!あり得ないから!アタシはディアゼル王子とハッピーエンドを迎えるわ!だって『生長の神子』なのよ?王家に取り込みたいに決まってるじゃない。周りの後押しだって得られるわ」
決して豊かとは言いがたい胸を反らして得意げな顔をされていますが、すっかり私とお友達の皆様はおいてけぼりです。
しかもゲームの設定を大々的に廊下の真ん中で語り合うなど、頭がおかしいと思われかねません。
あろうことか、王族であらせられるディアゼル殿下のご尊名を、殿下とは面識もない一般生徒が声高に呼んでいることも問題があります。
徐々に衆目を集め始め、立ち止まり私達を遠巻きにする生徒の姿も見受けられます。
ここに長居するのはどう考えても得策ではありませんわ。
離脱するなら今、ですわね。
「トリニータ様、お話が弾んでいらっしゃるようですし、私達はおいとまさせていただきますわね」
「うぇえぇぇ!ち、違うんですツェフィーラ様!置いてかないでください!弾んでなんかないんです!本当です!この子ちょっと頭おかしいんです!現実とゲームの区別がついてないっていうか、この世界をゲームって思い込んでるっていうか!ヒロインだから何しても許されるって思ってるっていうか!こんなのと一緒にしないでくださいぃ」
「ひ、酷い!頭がおかしいなんて!アタシのこと貶めようっていうんですね!」
自称ヒロインの美少女はすかさず、嬉しそうにうちひしがれたような芝居を始めます。
ぇえ!とますます困惑を深め挙動不審になるトリニータ様。
引き気味のご学友の皆様。
カオスですわ。
「じゃあ、ちゃんとこれから悪役令嬢やってよね!」
一通り茶番を繰り広げて気が済んだのでしょう。
ビシッと音を発てないのが不思議なほど勢いよくこちらを指差し、ヒロイン様は意気揚々と立ち去って行かれました。
困惑にオロオロするトリニータ様や、一部始終を遠巻きに傍観していたご学友の皆様は唖然として暫し取り残された形となったのでした。
それにしても、どうしてこのタイミングでわざわざ悪役令嬢とヒロインが私に絡んでこられたのでしょう?
私、乙女ゲームになんか一切関わりあいになりたくありませんのに。
嫌な予感しか致しませんわ……。
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「やぁ、ツェリ。今日も麗しいね。ところで、僕に何か報告することがあるんじゃないかな?」
寮の個室に戻ると、備え付けのソファに当然のような顔をして座る客人の姿を見つけました。
艶やかな銀髪はすっきりと短めに切り揃えられ、紅を引かずとも健康的な色合いを保つ薄い唇と橙色の瞳は穏やかな微笑みを絶やしません。
連日、学園に通学する暇もない程の激務をこなしておいでのはずですが、令嬢達の羨望の的である白磁のような滑らかでキメ細やかな肌は今日もご健在です。
まるでこの部屋の主であるかのような自然さで堂々とソファに鎮座し、気品に溢れる仕草でティーカップを傾けるこの男性は、もちろん私のよく知るお方です。
不法侵入であることに変わりはありませんが。
やはり来ておられたのですね、殿下。
「あら殿下、ごきげんよう。今日は随分と直接的なのですね」
微笑みを持って相対し、本来の部屋の主である私は遠慮なく、テーブルを挟んで向かいのソファに腰を降ろします。
ディアゼル・サド・ソルトリオー様。
目の前のお方はソルトリオー国現国王陛下の第4子にして、第3王子殿下であらせられます。
サドとは王族特有のセカンドネームのようなもので、3番目の男児という意味合いでつけられています。
王太子殿下であらせられる第1王子殿下にはファト、第2王子殿下にはセド、第4王子殿下にはフォス、とついていますので、前世の知識を持つ者と致しましては至極単純な名付けだといった印象でしたわ。
ちなみに、先日お会いしたトリニータ・タンデムロフ公爵令嬢が仰っていた『ニッコリ腹黒俺様ドS』とはディアゼル様のことです。
そうなのです。困ったことに、私の婚約予定の方は乙女ゲーム『逆奏2』におけるメイン攻略対象だったのです。
私は実況動画で見たことがあるだけで、ゲーム自体をプレイしたことはないのですが。
まぁ、選択肢1つ間違うだけですぐバッドエンドになってしまう、プレイヤー泣かせのようではありました。
自分の目的の為ならヒロインも容赦なく利用するのです。しかも笑顔で言葉巧みに相手の行動を誘導して。
バッドエンド後に実況者が、「あー、あれが伏線だったのか!じゃああの会話出ちゃったらもうアカンやん!」と振り返ってwを生やしていたのを思い出します。
そんなわけで、私の知識には偏りがありまして、正直『逆奏2』の正式名称も思い出せない程の薄ーい記憶と、乙女ゲームに対するネタ意識しかありませんの。
そんな私がディアゼル様の婚約者候補だなんて、………………心苦しいを通り越して愉快でたまりませんわ!
本来縁付く予定だったかもしれないヒロインや、彼の正妃の座を狙って策を弄しているだろう方々には申し訳ないのですが、この婚約はほぼ内定しているのです。
未婚の淑女である私の部屋に、当たり前のように殿下がおられるのも、私の部屋付きの侍女がお茶を違和感なくお出ししているのも、そういった事情からなのです。
無駄になってしまうだろう努力を、それでも惜しまずなさっている皆様の大変お可愛らしいこと。
私、見ていてとっても癒されますわ。
思い浮かべてうっとり溜め息をついている間に、私の前にもお茶がサーブされました。
楽しい歓談の始まりですわね。
「君との言葉遊びも僕の癒しの一時ではあるのだけれど、生憎と今は時間が許してくれなくてね。また今度遊んでくれるかな?」
「ふふっ、私に殿下を少しでも癒せるのでしたら、これ以上名誉なことはございませんわ。慎んでお請けいたします」
「で、何か困ったことは?」
お訊ねの件は確実に、ここ最近トリニータ様と自称ヒロインの美少女に絡まれ続けている事に関してでしょうね。
神々しい程に優美な笑顔の殿下に正面きって対抗できる顔面力は私にはありませんので、ふんわりと受け流すような微笑を湛えるに留めさせていただきます。
「殿下、女同士のいさかいに殿方が口出しするものではありませんわ。拗れてしまいますわよ」
何故かは存じませんが、悪役令嬢の役割を求められてはトリニータ様が私の元に助けを求められ、それを追ってヒロインが登場する、という一連の流れが出来上がりつつあるのです。
1週間の内に3回も出くわすだなんて、偶然の訳がありませんわ。
ぼっちの筈のトリニータ様がどうやって私の行動予定を把握しておられるのか、情報源の特定をしている所ですの。
そんなわけですので、対処はこちらでするのですから殿下には是非引っ込んでいていただきたいですわ。
下手に借りを作っては早く正式に婚約させてほしい、などと迫られかねませんもの。
現時点では、正式に婚約する気などアルデリテ侯爵家にはないのですから。借りを作るわけにはまいりません。
「愛しの婚約者殿の力になることも僕には許されないのかな?」
ほら、そういうことをすぐ仰るのですから。
すかさず私は「まだ候補の一人ですわ」と、やんわり釘を刺さなくてはいけなくなるのです。
「早く君の肩書きから、その無粋な単語を取り除きたいものだね」
「私もそう思いますわ」
お互いに微笑の応酬をしながら腹の探りあいをするのはいつものことです。
私達、内密には婚約が確定しているとはいえ、実は甘ったるい愛し愛されの一般的な恋愛関係を経ての婚約ではないのです。
殿下にとって私との婚約は政略でしかなく、私との婚約を成立させることは彼にとって保身を得るためであり、ご自身の有用性の証明をするために最も有効な手段なのです。
だから殿下はこの婚約を、早く確定的な物にしたいだけなのです。
私としても殿下との婚約には異存ありませんので、それで構わないのではありますが。
「君のことだから、何か考えでもあるのだろうね」
話の筋を戻しつつ、殿下の瞳は微笑を絶やさず同時に探るような色合いを見せます。
学園に殆ど顔を出せていないとはいえ、事態の把握を充分に出来ていないようではいけないとお思いなのでしょう。
ただでさえご政務がお忙しく身動きが取りづらいでしょうに、よそ事にまで気を掛けて下さるとは、さすがは殿下です。
喩え殿下が、将来王太子殿下が王として建った際に、最も王位を脅かすだろう危険人物と想定されているとしても、殿下に対する尊敬と敬愛の念は揺るぎませんわ。
ですから、差し出がましいことではありますが、少しだけヒントを出させていただきたく思います。
「殿下は、アマリア・デフォルト男爵令嬢のことをご存知でして?」
「いや、面識はないね。デフォルト男爵に以前紹介したい娘がいると持ちかけられたことはあるけど、聞き流したから」
「まぁ、せっかくの『生長の神子』との繋ぎを作る機会でしたのに。損をしましたわね」
「僕には必要ないよ。そんなことで君に誤解をされたら困る」
「ご冗談を。私、そんなことで殿下のお気持ちを疑ったりは致しませんわよ?」
ええ、殿下は色恋などより実益を取るお方。私との婚約を確定させる為に払った労力と、婚約後に得られる王太子殿下からの確かな信頼というものは、何にも替えがたいはずです。
自分の見立ての確かさに溢れる自信を笑顔に乗せれば、殿下は笑みを深めて「可愛いことを言うね」と艶っぽく囁かれました。
まともに反応してはいけません。
喩えその流し目だけで、確実に何人か令嬢を処女妊娠させられそうだという色気が含まれていたとしても、これは聞き流して気づきませんでしたという体でいた方が良いのです。
殿下は存在しているだけで他者を惹き付ける魔性を纏ったような方なのです。
日頃は毒気のないキラキラしただけの笑顔を浮かべておられますが、ご自身の魅力を十二分に理解した上で、故意にそれを振り撒いていらっしゃるのです。
その笑顔と優しげな言葉遣いに騙され──いえ、心酔させられた人々は、自らの意思で、或いは意図せずに、殿下の思惑通りの行動をとってしまうのです。
殿下はご自身を中心にして周りを動かすことに長けた方なので、場面ごとにどんな言葉、どのような表情、どういった仕草をすれば相手が釣れるのかご存知であらせられるので。
それにしても、ディアゼル殿下は余裕でいらっしゃいますのね。
本当に興味が無いのでしょう。『生長の神子』の名を聞いても目の色も変えずに、サラリと流してしまわれるなんて。
神の加護を生まれながらに宿し、神に愛された存在である神子。
生長の神であるアルファファーファ様の愛し子、それがアマリア・デフォルト男爵令嬢らしいのです。ゲームの設定によると。
他にも神は存在し、神の数だけ神子が居るのですが、神は一国に一柱と決まっておりますし、それらの神々全てを説明すると日を跨いでしまいますので割愛させてくださいませ。
因みに、お察しの通り『逆奏無印』のヒロインも神子なのです。
「理解のある婚約者で嬉しいよ」
「まだ候補、ですわ。滅多なことは仰らない方がよろしいかと」
ニッコリ微笑んで見せると、殿下は軽く肩を竦められただけでした。
「まさかとは思うけど、『生長の神子』としてあの令嬢を保護でもしようというのかな?」
「状況にもよりますが、それも一つの手ではないでしょうか。第2王子殿下は確かまだ婚約者不在でしたわね?オススメですわよ」
アルデリテ侯爵家では、アマリア様が神子である可能性があるという情報が入っていた時点で、彼女の人柄や教養の有無、素行の調査等が行われておりました。
デフォルト男爵領の作物の成長が著しいこと。
男爵が娘のアマリア様が神子である可能性を感じ、王に直接進言するよりはと、王族の誰かと繋ぎを作りたがっていたこと、が理由になります。
まぁ、神子を騙る人間は一定数居るので、アルデリテ侯爵家ではその可能性を示唆される都度素行調査を行い、明らかに神子には該当しない者を裏から手を回して社会的に制裁してきたわけですが。それはまた別のお話です。
学院入学以前の彼女なら、神子の可能性は充分にあり、王子妃に迎えても問題無いようである、とお父様は判断されていたようです。
別に神子であるからといって必ずしも王家に取り込まなければならない、ということはないので、双方にそういった意志がなければ無理にとは言わないのですが。
今回は事情が事情なので、強制でそういった対応が必要になってくるかもしれませんね。
王族の婚約者ともなれば、状況によって護衛という名目で堂々と監視を置くことも可能になってきますし。
「筋肉愛好家に奇人の管理を任せるのかい?」
察するまでもなく、私の意図は殿下にはお見通しなのでしょう。
表情からは何の感情も読み取れませんが、片眉を軽く上げ、両目をすがめておいでなので何か思案しておられるご様子です。
「最終的に手綱を握るのは王太子殿下ですわ」
第2王子殿下は体のガッシリとされた厳めしい雰囲気の方で、軍に所属されています。1つ歳上の兄である王太子殿下を崇拝することと、体を鍛える事がご趣味であらせられます。
因みにディアゼル様は、密かにお相手に対する印象をあだ名として心の中で呼んでおられるようなのです。
おかしなことにそのあだ名を時々、私の前でボロボロこぼしてしまわれるのです。腹黒の筈ですのに、色々隠せていないのは何故でしょうか。
あだ名から察するに、あげられた調査報告の内容はあまり常識的ではなかったのでしょう。
「殿下は違和感を感じられませんか。以前のアマリア・デフォルト男爵令嬢と、学院入学後の彼女の違いについて」
「そうだね、同一人物とは思えないほどの差異があるようだけど」
穏やかな笑顔ながら口調は冷ややかなので、アマリア様に対する殿下の好感度はどう見積もっても高くはなさそうです。
面識がないはずなのに何故でしょう。
逆に会った瞬間に印象が変わったりするのでしょうか?
乙女ゲームの強制力で?
……あまり考えたくありませんわね。
できるうることなら私は、ゲームとは関わらず穏やかに過ごしたいのですから。
何故ヒロイン(仮)は、最難関のディアゼル様なんか攻略したいのでしょう。
別に顔とスペックくらいしか良いところはありませんわよ?
私のことだって、自分の保身を得る為だけに口説いてくる合理的な性格なのですから。
でも個人的に、王族としての姿勢は好きです。
更に言うなら、困った顔や戸惑った顔はもっと好きです。日頃完璧であらせられるので、対処に困って表情を取り繕えなくなる瞬間をお見せいただけると、とても胸がキュンと致しますわ。
あら、いけません。お話しの途中でしたわね。
慌てて思考を軌道修正致します。
「本当に彼女は、アマリア様なのでしょうか?」
「それは、デフォルト男爵令嬢が何者かと入れ替わっている、という可能性を示唆しているのかな?」
いっそ無邪気に見えるように微笑めば、殿下は両目をすがめて私の懸念を具体的に言葉として表出させました。
「或いは、何らかの要因で人格が変わってしまったのかもしれませんわ」
例えば、学院の門をくぐった途端前世の記憶が蘇り、前世の性格に引っ張られてしまったとか。
「面白い話だね。もしそれが本当なら、我が国の本来の神子はどうなってしまったのか。調べる必要がありそうだ」
「殿下はダメですわ。まだお仕事が立て込んでいらっしゃるのでしょう。僭越ながら私が、それとなく調べせさていただきますわ。殿下は引き続き公務に邁進なさって下さいませ」
「僕の出席日数、そろそろまずいのだけれど。歴代王族の中で一番勉学に対して不真面目だと思われてしまうよ」
眉尻を下げて困ったように微笑まれる殿下。
感心するほど麗しいですが、そのように余裕を保った隙のない表情は私の好みではありませんわ。
心底困らせて、本当の意味で歪ませて差し上げたくなるだけですもの。
「それもこれも全て、私の我が儘を叶えてくださる為のご決断だと思うと心が痛みますわ」
時々顔を出す私の内なる欲望が頭をもたげそうになりますが、抑え込む為にぐっと胸に手を当て申し訳なさそうな表情を浮かべます。
なにせこの婚約は私が了承さえすれば成立できる、と殿下には説明されているのです。
しかし私は、まだ成立させてはならないとお父様から言いつかっております。殿下からそろそろ婚約したいと匂わされる度に、まだ婚約する時期ではないと理由を挙げ連ね有耶無耶にしているのです。
ここ最近では、雨季が近付いているのに治水の整っていないノルデアン地方のことを然り気無く話題に挙げ、もし例年のように河が氾濫したら婚約披露どころではなくなるし、王族の婚約という慶事にもケチがついてしまい、そんな時期に暢気に婚約をした王族として国民からも悪印象を抱かれてしまうかもしれない、等とネガティブなイメージばかりを口にして時期早尚とやんわり訴えたのです。
あの時の殿下のお顔。少し顔を引きつらせて、取り繕い損ねておられたご様子、見ていてとっても癒されましたわ。
思い出すだけでも惚れ惚れ致します。
決して、私は婚約したくないわけではないのです。
私との婚約1つで殿下に利が生まれて、少しでもお役に立てるというのでしたら喜んで婚約をしたいと思っておりますの。
もし近い未来、殿下に他にお慕いする方が現れたとしても、婚姻後に殿下が愛人を囲ったとしても、決して責めたり怒ったりは致しませんわ。
だって私と殿下は政略で結婚するのですから。殿下のお心が得られないのは、仕方のないことなのです。
でも殿下は真っ当な王族なので、しっかりと義務を果たして私に1人くらいは子を授けて下さると思うのです。
殿下のお子はきっとお可愛らしいでしょうね。
仮に愛人の子を引き取るにしても、私は愛せる自信がありますわ。
私、喩え殿下に見向きもされなくとも、きっと立派にお子を育て上げてみせます。それが私の矜持であり、愛情の示し方なのですわ。
「ツェリ」
「はい?」
脳内で殿下のお子を成人まで育て上げ、盛大な結婚式を挙げる所まで夢想していたところ、不意に名前を呼ばれてついつい気の緩んだ返事をしてしまいました。
意識を現実に引き寄せて殿下と改めて視線をあわせると、憂いを含んだ目元と悩ましげに歪められた眉間が色香を放ち、秀麗なお顔を一層引き立てておいででした。
ああ、語彙力の乏しさが悔しくてなりません。
私の表現力では殿下の麗しさがイマイチお伝えしきれないのが無念ですわ。
ですがその余裕を少し失ったような憂い顔、とっても素敵です。もっと心痛や疲労で歪んでいる時も好きではありますが、これはこれで胸がキュウッと締め付けられる感覚がいたします。
高まる鼓動を自覚して、思わず少し視線を下にずらしてしまいましたわ。
「今日も名前で呼んでくれないのかな?」
おまけに、追い討ちのように切なげな声でそんなことを仰るのです。
解ってはいるのです、殿下の狙いは。
互いに名前や愛称で呼びあうことで親和性を高め、私がほだされて婚約に応じやすくなるように計算しているのでしょう。
「そんな、恥ずかしいですわ」
「恥じらう姿を見るのも目の保養にはなるのだけれど、僕としては君との間に確かな絆があると感じたいのだよね」
「およしになって」
以前に、まだ出会ってから日の浅い頃のことですが。
殿下から「早く堕ちておいで」などと色気たっぷりに耳元で囁かれたことがありました。
あれは恐ろしい出来事として、私の中で教訓となっております。
流石呼吸をするように言葉巧みに他人を操るお方。色んなパターンの人心掌握術をお持ちなのです。
あの時は私の本能がエマージェンシーを訴える程に殿下は危険な香りを纏い、私から早々に婚約の了承を得ようとグイグイ迫ってこられました(物理)。
不覚にもこの私が、恐怖を覚えてしまったのですわ。
屈辱です。
あの時やんわりとかわしてからというもの、殿下は攻め方を変えて私との信頼関係を築こうとしていらっしゃるようなのです。
愛称呼びしてくるのも、名前を呼ばせたがるのも、きっとその一環です。
「口に出さなければご納得いただけないのなら、いくらでも私は言葉を尽くしますわ。お慕いしております、殿下」
だから私は、あまりご尊名を口にしないようにしているのです。
殿下の策には嵌まらないように。
父の言い付けを守れるように。
なにより殿下の焦れた顔が好きなので。
その分好意だけは惜しげもなく、真実と真心を乗せて口にしています。
思いを伝えたところで報われないのは解っておりますが、殿下を煩わせているわけですから。それくらいの誠意は見せなければ。
「君の慕う“殿下”とは、僕だけで合ってるよね?」
それなのに殿下は、笑顔に不安を滲ませながら念押しで確認してきます。
殿下は並の王族ではありません。
普段から表情を自在に操り、状況に応じて浮かべることが可能なのです。
なので今の表情が、意図して造られたものではないとは言い切れません。
なのに何故、私の胸がキュンキュンしてしまうのでしょう。
ちゃんと笑顔なのに。
困り顔でも苦痛顔でもないのに。
思わず身を乗り出して、殿下のご尊顔に右手を伸ばしてしまいました。
こんな不敬働くべきではないのに、体が勝手に動いてしまったのです。
「もちろんですわ」
私の笑顔に殿下を力付ける程の威力はないのですが、少しでも心穏やかになっていただきたくて、自然と浮かんできます。
「……君を信じるよ」
淑女とは言いがたい体勢で殿下の頬に指先を触れさせたというのに、何故か殿下は呆れた様子も見せず、嬉しそうに微笑まれました。
蕩けそうな笑顔、というのはこういうものなのかもしれません。
直視した為に呆けてしまった私の手を掬い取ると、殿下は指先に一瞬の口付けをされました。
やられてしまいました……!
殿下の策だったのですね。不覚ですわ。
慌てて手を引っ込めては負けた気が致しますので、「ご理解頂けて嬉しいですわ」と悠然と笑み、ゆっくりとした動作で右手を取り戻しました。
殿下、こんなことで私が簡単にほだされるとお思いでしたら、大間違いですからね!
─────────────────
基本的にお茶会はサロンや薔薇園等の景観の良い所で開催されるもので、学園の奥庭では滅多に開かれないものです。
しかし稀に、敢えてこの場所を指定して行われることもありまして、共通項としては小規模且つ短時間で済む用向きということなのです。
つまりは拓けた場所ではあるけれど人目にもつかず、密談向き、なのですわ。
呼び出して来られた方のそういった意図は正確に把握した上で、私はなに食わぬ顔で招待に応じつつ、お声掛け頂いたことに対する礼を述べて手土産の菓子を差し出しました。
正直、なるべく当たり障りなくやり過ごそうと思っていたお方相手なのですが。
わざわざ私のようなモブに今更声をかけてこられるなんて、一体どういうおつもりなのでしょう。
企みの気配しか感じませんわ。
お茶の準備が済むと互いの侍女は、私達の会話の聞き取りが難しい距離まで下がりました。彼女達が直立不動の姿勢で控えたところで、たった二人きりのお茶会は始まります。
「ココナ地方のお茶は後味がすっきりとして、飲みやすいですわね。マドラスタでは出回っておりませんもの、これを飲めただけでも留学してきた甲斐があったというものですわ」
テーブルの差し向かいで先にティーカップを傾けるのは、蒼い髪と銀の瞳の女神のごとき容姿のご令嬢です。
迫力系美女とでも言いましょうか。目力といいますか、笑顔1つ浮かべられても圧を感じます。
溢れる自信と気品、指先まで洗練された所作はそれだけで対峙する者を気圧しそうです。
「公爵令嬢であらせられるナタリーナ様のお眼鏡に適うものができたとあれば、ココナの領民も自慢となりましょう。お互いの国の為にも、マドラスタにお帰りの際には是非ソルトリオーの品々をお持ち頂き、ご愛用いただければ喜ばしいのですが」
隣国マドラスタのクインツ公爵家の令嬢であらせられる、ナタリーナ・ル・エヴ・クインツ様。
1年だけの予定で留学中の彼女は私より学年が1つ上で、ディアゼル殿下とは同組でいらっしゃいます。
しかし殿下はほぼ授業に出席しておりませんし、常に側近の方々が両脇を固めておられるので親交を深めるのは難しいようです。
「あら。わたくし、まだまだ帰る予定はなくってよ?」
「意外ですわ。休暇を利用してお戻りにはならないのですね。それなら尚のこと、皆さまナタリーナ様のお帰りを首を長くしてお待ちなのではないでしょうか?」
「隣国とはいえ、わたくし留学してきたのですわよ?喩え休暇とはいえ、勉学の半ばで帰るなんてあり得ませんわ」
「さようでございますか、失礼致しましたわ。ですがあちらでは王太子妃殿下がお立ちになって間もないですから。右も左も解らない宮中で、親友であらせられるナタリーナ様のご帰還を心待ちにしておられる、と噂を耳にしたものですから」
マドラスタの現王太子妃は『無印』のヒロインでした。
平民の出ではありましたが、なんとライバル令嬢と友情を育み、彼女の後押しを得て滞りなく王太子妃となり、ゲームで言うなら全攻略対象の攻略に至ったのです。
そしてそのライバル令嬢という立場であったのが、今目の前で完全無欠の令嬢姿を見せつけてマウントを取ってこようとされているナタリーナ様なのです。
我が国への1年間の交換留学に志願され、ゲーム終了後すぐさまこの学園に留学を果たされました。
そしてこの半年の間にある程度の派閥を形成され、その頂点に立たれているのです。まぁ、私の擁する派閥に規模は及びません。ですが、間違いなく私に喧嘩を売っているのではないでしょうか?
今まで私には興味を1つも示されなかったというのに、このタイミングで声を掛けてこられるのにも、必ず何か思惑があるはずなのです。
「うふふ、リリアンヌ様には頼りになる夫がいましてよ?わたくしの出る幕はありませんことよ」
「羨ましいことですわ。王太子殿下のお心を射止められたのですわよね、ナタリーナ様のご助力を得て。ナタリーナ様の広いお心と友情の深さには感服致しますわ。にもかかわらず、王太子妃殿下は他にも並み居る貴公子の方々からも求婚をされたとか。よほど魅力的な方なのでしょうね」
やんわりと、こちらも事情を察していますよ、と匂わせます。
もともと王太子妃になるのはナタリーナ様だったはずなのです。しかし彼女自身が周りに働きかけ円満に婚約解消をし、滞りなくリリアンヌと王太子の婚約を成立させたようなのです。
そして他の攻略対象達との関係も、公然の秘密として認めさせてしまったようで。恐ろしいことに現在マドラスタでは、華々しい経歴や家柄の貴公子達が数人、王太子妃の愛人という状態になっているわけです。
そして表向きにナタリーナ様は、王太子妃の座に座り損ねたことと、友人に出し抜かれたことによる周囲からの侮りの目から逃れる為、下世話な噂話が下火になるまで一時的に国外へ脱出している、と見られています。
ところで皆さま、違和感にお気づきでしょうか?
そうです、現実に逆ハーエンドなどあり得ないのです。
しかし王太子妃は神子ですから、策略や謀略とは無縁の筈です。
まず神子とは何か、を説明しなければならないのですが。
神子とは、生まれながらに神の愛を受け神の力を祈りにより発動させることが出来る人間のことを言います。
例えば我が国の神、アルファファーファ様は生長の神なので、『生長の神子』は作物を急激に成長させますとか、祈りを捧げることにより任意の人物の能力的な成長を促したり出来ます。
対して王族にはあるのは加護と言い(個人によって強弱はありますが)、本人や周りに居る人間や環境にそれとなく影響が出る程度で、本人の意思や祈りによってどこにどう作用させる、ということは出来ないものなのです。
我が国で言えば、王族の方が多く居られる王都ほど作物の成長が早い、ということが特に解りやすい事例でしょうか。
この世界には魔法がないので、この奇蹟と加護だけが特別な力であり、神子や王族が特別視される所以なのです。
話を戻しましょう。
神子は総じて純真で無垢であらせられるのですが、その性質を無くすと途端に神からの愛も失ってしまうようなのです。
しかしヒロインが王太子妃になれたのは、『誘引の神子』だからというのが大きな要因なので、力を失ってしまったとすれば王太子妃の座は維持出来ない。
彼女が王太子妃の地位を保持出来ているということは、未だに神の愛が失われず、奇蹟も行使出来ているということなのだと思います。
つまり彼女自身は本当に悪感情や個人的な欲望もなく、純粋に全ての攻略対象を愛し、無垢さを失わずにその地位に就いているということなのです。
この歪な状態を生み出すには、十中八九何者かの作為が作用しなければムリな話なのです。
そしてその作為には、きっと目の前のご令嬢が関わりがあるのだろう、と私は思うのです。
「まぁ、ツェフィーラ様でも興味がおありですの?」
私の軽い探りには全く様相を崩さず、ナタリーナ様は華やかでありながら貴族特有の内面を全く読み取らせない微笑みで応じられます。
話を軽く流して自分のペースに持っていく自信がおありなのでしょう。
そうなさるでしょうことは解っておりましたので、逆に私は情けなく眉尻を下げ、心持ち潜めた声を震わせました。
「お恥ずかしながら。私も王子殿下のお心を得たい、しがないその他大勢の一人なものですから」
私の反応が予想外だったのでしょう。
一瞬だけ目をすがめ、ナタリーナ様はすぐに扇子を広げ口元を隠してしまわれました。
「……てっきりツェフィーラ様は婚約者になるおつもりがないのかと思っていましたわ」
「まぁ、どうしてそう思われたのですか?」
おかしなことですね。
モブでしかない私にナタリーナ様のような高貴な方が声を掛けて下さる要因といったら、私がディアゼル様の婚約者候補筆頭であり、学園内の最大派閥を有しているからだと思うのですが。
私が婚約者になるつもりがないとお思いでしたら、わざわざ声を掛けてこられる必要も、この場を設ける理由もそちらには無いと思うのですけれど?
それとも、そう判断されていたから今まで私には目もくれなかったのでしょうか。
今更私とお話しをしたがる理由は、私が婚約者になる意志があるのか、そこにどれほどの熱量があるのか、確認するためということでしょうか。
もしかしなくても、ナタリーナ様も転生者だったり致しますか?
やはりディアゼル様攻略の為に早々に無印の舞台を終結に導き、ご自分は本命に会いに来られたクチですか?
確かにディアゼル様の人気は凄まじかったですけれど。
動画を視聴していた時も、ディアゼル様関連の弾幕が凄かったように記憶しておりますけれども。
でも私、何がそんなに人気の要因だったのか覚えていないのですよね。
残念ですわ。
転生知識チートとか、全く出来る気が致しません。
「お気を悪くなさらないで。ただ、ツェフィーラ様は他の令嬢の方々に比べて、必死さがないように思えたものだから」
「必死さ、でございますか?」
これはいけません。
私としたことが、他の候補者の方々のように積極的に殿下に粉をかけに行っておりませんでしたから、あまり殿下に興味がないと思われてしまったのでしょうか。
それとも無意識に、実はほぼ内定している婚約話に胡座をかき、殿下に対してアピールを怠っていたということでしょうか。あんなに愛情表現をしているつもりですのに。
「聞くところによると、アルデリテ侯爵家には王家と繋ぎを作っても何ら旨味はないと伺っているわ。野心や政治とも程遠く、家柄の確かさだけで第3王子殿下の婚約者候補に選ばれたのでしょう?」
あら、もしかして古い血筋なだけで何の実績もなく、これから先の功績も期待できない、と貶されておりますか?
ですが私、気付きませんでしたよ、という体でただおっとりと微笑み返しておきますわね。
「どこでそのようなことをお聞きになったのでしょう?情報通でいらっしゃいますのね」
確かに我が侯爵家は、表立っては王家とは距離を取らせて頂いています。
何故ならそうしなければ、政治がちゃんと機能しているかという監査役を担うのが難しくなるからです。
アルデリテ侯爵家は古くからそうして、王家が正当に機能しているか、政治は腐敗していないか、を定期的に監視・確認・軌道修正してきた一族なのです。
なぜ我が一族がそのような真似をさせられているかというと、当主の持つとある性質のせいなのですが。今は関係のないことなので割愛致します。
謂わばアルデリテ侯爵家は影の存在のようなもので、公然と政治に参画するわけには参りませんの。
ただし並外れた愛国心はありますので、何を犠牲にしたとしても、喩え自分たちが泥を被ることになったとしても、国益と王家の威信は守る事にしているのですわ。
それが我が一族の誇りなのです。
わざわざ他国の貴族令嬢に、それを教えて差し上げる気はありませんが。
「うふふっ、秘密ですわ。それよりツェフィーラ様のことですわ」
私の察しの悪さに気が大きくなったのか、それとも会話の主導権が握れている実感に充足感があるのか、ナタリーナ様はほんの少しですが喜色を浮かべて艶然と微笑まれました。
「婚約者候補筆頭の“完璧令嬢”と祭り上げられ、最近ではやたらとお可愛らしい嫉妬の的になられているとか。まだ正式に婚約を結んだわけでもないのに、ご苦労が絶えませんのね」
これは自称ヒロインを名乗る少女に、よく話しかけられるようになったことに関して仰っているのでしょう。
彼女の話(愚痴)の内容は主に、イベントが発生しないことや、ディアゼル殿下がなかなか登校されないことについての不満でした。
但し彼女は毎回情緒不安定なようでして、初日のように勢いがある日もあれば、捨てられた子犬のように不安そうに「もう、どうしたら良いのよ」と弱音のような物を吐いたりされることもあり、どうにも行動にムラがあると言いますか。一貫性がないのです。
そしてアマリアの勢いが無い日は、トリニータ様が私の陰に隠れながらそっと「もうこんなこと辞めたら良いと思うよ」と悪気なく助言し、「絶対嫌よ!」と彼女の攻略熱を再燃させる手助けをしてしまうのです。
状況の見えない方から見れば確かに、ヒステリー持ちの非常識な令嬢が婚約者候補筆頭の令嬢に嫉妬を向けている、と捉えられなくもないのですが。
因みに私は悪役令嬢になって差し上げる親切心はないものですから。
ただお話を聞きながら「あらあら、困りましたわね」「殿下もお忙しい方ですから」「ご尊顔を拝見したい気持ちは、皆様もおありかと思いますわ」「まぁ、明日はお会い出来ると良いですね」「とても殿下のことをお慕いしていらっしゃるのですね、解りますわ」と、全く助言にもならない内容のない返答を繰り返し、彼女の興が醒めて去っていくように仕向けております。
アマリア様の問題行動や失言を咎めないというのは、王族の正式な婚約者であれば資質に難ありと捉えられかねませんが、私はまだ候補の段階ですから。
逆に学院内は皆平等という建前の中では、私もただの一生徒。表立って彼女を嗜めたり糾弾する義務等ないのです。
ただやんわりと、教師に彼女の振る舞いについて注進するくらいで充分なのですわ。
ナタリーナ様、他人事のようにわざわざその話題を持ち出されましたが、やっと本題に入って下さるのでしょうか?
「私が不勉強なばかりに、私の理解が及ばない方がおられるということが、とても心苦しいですわ」
何故彼女があのようになってしまったのか。
私の今の知識と情報だけでは、原因を予測は出来ても断定は出来ないのです。
何か手掛かりを下さいますの?
ウェルカムですわ。
そんな気持ちを押し隠して、右頬に手を宛て、そっと溜め息を溢します。
「聖母のように素晴らしい、模範的な回答ですのね?」
私の返答をご自分にとって都合の良いように解釈されたのでしょう。
扇子を閉じたナタリーナ様は表情はこれ以上ない程に優しく、いっそ慈愛すら感じられるものに造り替えて、一見真摯に、こちらと視線を合わせてこられます。
その空気の切り替えには、目を見張るものがありました。
「でも、いつも気を張っていてお疲れになられませんか?こんな言い方をするのもなんですが、わたくしも同じような立場に一時期ありましたの。王族の婚約者候補筆頭、大変な重圧だと存じますわ。まして対応の難しい方にも感情を波立たせることなく、いつも冷静に対処なさっている姿は尊敬に値します。わたくしでも1人でそういった方と相対した際は、とても困惑したものですわ。正直に申しますと、最初の頃はとても疲弊致しました。少しでもお気持ちを吐露されれば、きっとお心が軽くなると思いますわ」
成る程、今頃私は精神が疲弊している時期だと判断されて声を掛けてこられたわけですね。
謎が1つ解消されましたわ。
そうとなれば、私は気弱な微笑で応じるのが適切でしょう。
「ナタリーナ様でも、そのようなことがおありでしたか?」
「ええ、勿論ですわ。わたくしも公爵令嬢である前に1人の無力な少女ですもの」
「意外です。いつも自信に満ち溢れていらっしゃるように、見えましたので」
言って良いのかどうか判断がつかない。そういう風に見えるように、後半の言葉はしりすぼみになるように弱々しく返します。
正直、公爵令嬢ほど無力な少女とかけ離れている存在はないのでツッコミ所なのではありますが、敢えて触れないで置いておきましょう。
「それはわたくしの、高位貴族令嬢としての矜持と、日々の努力の賜物なのですわ。そしてそれは、ツェフィーラ様、貴女からも感じられましてよ」
「ナタリーナ様……勿体ないお言葉です」
少し声を震わせながら、か弱気に目を潤ませ、恥じ入るようにすかさず俯いて見せます。
今彼女はどんな表情をしていらっしゃるのでしょう。
まるで予定調和のように進んでいく展開に違和感を覚えているようであれば、大層な曲者です。
もし悦に入っているようなら、根が素直なご気性な方なのかもしれません。
そっと上目遣いで様子を伺ってみると、彼女は真摯な表情を崩さないままでした。
テーブルがなければ手を掴まれ、彼女の両手の中に握り込まれたかもしれません。
それほどの熱意が伝わりました。
それほど真剣に見えました。
それほど心配気に感じられました。
「宜しければわたくしがお力になりますわ……必要なら、対処を替わって差し上げることも可能ですわよ。1人で抱え込まずに、ね?わたくしの言葉を心に留め置いてくださらない?」
しかし語りかけてくる声音は、人を堕落させるがごとく甘い甘いものでした。
なるほど、そういうことですか。
「お気遣い頂きありがとうございます。では、せっかくなので1つだけ」
私は邪気なく見えるよう、しかし弱々しさは保ったままで微笑みます。
「ナタリーナ様はいずれマドラスタへお帰り頂く大事なお客様です。故に、ある程度の行動の自由の保障と同時に、危険が及ばないように僅かではありますが陰ながら護衛を配備させていただいているのですが」
一旦言葉を区切り、何の含みも持たせることなく淡々と。
しかし困ったような微笑だけは絶やさぬように、ご厚意に対する相応の返答をさせていただきました。
「これ以上我が国の政治に立ち入ってこられようとされるのでしたら、祖国の方にご報告申し上げなければならないことになってしまうそうですの」
話の要点は理解致しました。
ナタリーナ様は私と立場を替わりたいのですね。
対処を替わりたいとは、つまりそういうことなのでしょう?
そして、上手く対処出来る自信がある。
だからこその申し出。
では、その自信はどこから来るのでしょう?
普通の貴族なら理解の難しい言動をとる自称神子の令嬢に、わざわざ対処を替わると申し出てまで関わりたがる理由は何なのか。
考えられる最もシンプルな答えは、ナタリーナ様が最初から意図的にこの状況を作り出した、ということでしょうね。
「……何のことをおっしゃっているのかしら?」
ニッコリと笑顔を保ったまま。
けれども少し警戒色を滲ませて、ナタリーナ様は扇子で口元を隠されました。
今話題に上がっていたのはアマリア・デフォルト男爵令嬢のことでしたよね?
何かしらの心当たりはあると思うのですが、しらばっくれるのは貴族としては全うな反応と存じます。
ナタリーナ様は私に対する警戒心はないのでしょうね。
だからこそ、ただの婚約者候補筆頭でしかない私に、甘い言葉をかければ簡単に思い通り動くと思われたのでしょう。
彼女から見れば私はモブ。
ディアゼル様の正式な婚約者ともなっていないのですから、重要な役処にあるわけでもない。
顔のない、その他大勢なのでしょう。
心配している体で近づき、少しずつ距離を縮め、相談を受けて徐々に自分に依存させるようにしていく。
短期間で派閥を作り上げた手口、一応存じ上げております。
これでも私、学院内の最大派閥を率いる筆頭なのですよ?
対抗派閥の情報はこまめに収集しなくては。
ですが敢えて、付け入り易そうな印象を与えるリアクションは取らせていただきました。
そんな私に、自称ヒロインをぶつけて精神的に疲弊させ、自分が問題を解決することで、私がナタリーナ様を頼り、好意を抱くようになるように仕向ける。
(仮)悪役令嬢と友情エンドでも狙っているのでしょう。
確かにその方が、穏便に婚約者候補筆頭と交代できそうですわね。
仮に私が婚約者候補を辞退するとして、頼りになるナタリーナ様が殿下への好意でも吐露しようものなら、お世話になったお礼にと自分の代わりとして婚約者候補に推しそうですもの。
ですが生憎、私は現状がそれほど堪えていませんの。
前世の知識のお陰で、アマリア様の発言は狂人の物とは思いませんし、意味不明な話を聞かされて混乱するということもございません。
得体の知れない者相手ならそれなりにストレスを感じたでしょうが、私一切ストレスはありませんわ。
ヒロインも大変なのですね、という印象ですけれど。
私は以前のアマリア・デフォルト男爵令嬢と面識はありません。
しかし事前に侯爵家で得ていた情報と、学院入学後のアマリア様に大きく差異があるということには気づけました。
そしてアマリア様が、何度か友人と連れだってナタリーナ様の派閥のお茶会に参加していたことも、それ以降から少しずつおかしな言動が増え始めているということも調査済みです。
最初に出会った時、アマリア様が「どうせライバルが変わるなら無印のライバル令嬢の方が良い」といった主旨の発言をされたことに、違和感がありました。
でもそれは、既にアマリア様がナタリーナ様に面識があり、ナタリーナ様に対して良い印象を持たれていたから、ということなら納得がいきます。
現在のアマリア様が以前のアマリア様とは違うということは、彼女を知る誰もが困惑しながら訴える共通の話題です。
以前は気にかけていた領地の話題も全くせず、領地では彼女がいるだけで成長著しかった植物達も、学院では特に元気になる素振りがないようなのです。
しかし誰もその原因が思い当たらないのです。
私としましても考えられる可能性がいくつかあったのですが、絞り込むには信頼度の高い情報がいささか足りません。
1つは学院入学前後に何らかの刺激で前世の記憶が蘇り、前世の人格に引きずられて言動がおかしくなった場合。
ですがそれなら、男爵令嬢として生きた記憶もあるでしょうから、もっと上手く擬態出来るはずなのです。
しかし彼女は貴族の常識が通じない。
知識と記憶があるのなら普通は利用するはずです。
利用しないというのなら、失礼ながら余程残念な頭の造りになられているとしか……。
いえ、何も言いますまい。
もう1つは、憑依という可能性です。
何かの拍子に全くの別人格──魂が、アマリア様の中に入り込んでしまい、本来のアマリア様が休眠状態か……あまり考えたくはありませんが、亡くなられてしまったか。
その要因として考えられるのが、超常的な偶然の産物である可能性と、何者かによって人為的に引き起こされたものである可能性──例えば、目に見えないもの、魂や人の感情といったものを引き寄せることのできる『誘引の神子の性質』、のようなものを利用すれば可能なのです。
ナタリーナ様がいくら『誘引の神子』の親しい友であらせられるからといって、そんな真似が出来るとも、出来たとしてもそんなことをされるとも限らないのですが。
あくまでこれらは可能性の1つに過ぎず、現段階では何1つ断定できるものではないのです。
ですから私が指摘した政治への介入の下りは、暫定的に生長の神子と目されていたアマリア様がナタリーナ様のお茶会を機に変わってしまわれたことではなく。
変わってしまわれたアマリア様への対処をナタリーナ様が替わる、という申し出に対してなのです。
暫定的ではあるものの自国の神子の問題解決を、他国から留学中の貴族令嬢に頼むなどということは、決してありえてはならないのです。
対処にあたらせるというのは、自国の問題、情報を積極的に他国に売り渡すようなものです。
それにもし万が一解決されれば、外交的にどんな無理難題を吹っ掛けられるネタにされてしまうか。
考えるだけで頭の痛い大問題に発展する未来しか見えません。
学院内のことだからといって、学生同士の口約束や軽い相談事と思われては困ります。
これも1つの外交なのですわ。
ナタリーナ様から見て、私はその程度の判断も下せないだろう、と侮られていたのでしょうけれど。
ですから私は、彼女の認識に乗っかることに致します。
「さぁ、存じあげませんわ。殿下からの伝言ですの」
あくまで私はメッセンジャーで自発的に発言しているわけではく、王族の命を受けご忠告だけ申し上げている、というように見せかけます。
その為にはただ、何の感情もない微笑だけを浮かべて小首を傾げるのみ。
余分なリアクションをとって、何らかの情報を読み取らせては差し上げませんわ。
「勘違いなさらないで。わたくしはただ、ツェフィーラ様がお辛い立場にいらっしゃるんじゃないかと思って、わたくしがお力になれることの1つをご提案しただけですわ。わたくしなら、いろいろと経験も踏まえて対応できるもの」
「なんという深いお心遣いでしょう、いたみいりますわ。しかしそれは、私でもナタリーナ様でもなく、国の領分ですの。過分なお気遣いは無用でしてよ。せっかくの勉学のための留学なのですもの、些事に囚われることなく初志に専念なさっていただいて構いませんわ」
私の細やかな嫌味に気づかれたのでしょう。
僅かに両目を見開き、ナタリーナ様は一瞬で笑みを深め、どこか満足気に頷かれました。
「うふふふっ。やっぱり『完全無欠令嬢』のライバルは“完璧令嬢”ということなのね。攻略難易度超超鬼畜設定に更新されるなんて、これはいよいよわたくしがヒロインに成り代わった、ということかしら?いいわ、相手にとって不足はなくってよ」
いえ、違うと思いますが。
というか、声を潜められてはいるようですが聞こえておりますが。
それともわざと聞かせて、私の反応を見ていらっしゃいますか?
そんな簡単に転生者かどうか見極められるとでもお思いですか?
生憎ですが私、そんなに素直な反応はして差し上げられませんわよ。困ったような曖昧な微笑だけを浮かべ、聞き流させていただきます。
関わりたくありませんの、という意思表示のつもりですわ。
暫く言葉を交わさずに微笑だけの応酬をしていたのですが、ナタリーナ様の侍女がそっと彼女に耳打ちをしたことで沈黙は破られました。
「残念だけれど時間のようですわね。またお茶にお付き合いいただけるかしら、ツェフィーラ様」
「ええ、私でよければ喜んで」
その時は貴方がディアゼル様の攻略を諦めて、この国に居座ることも出来なくなるような材料が揃えられていると良いのですが。
屈辱に歪むナタリーナ様のお顔も、きっと元が麗しいだけに見応えがあるのでしょうね。
そのような余所事を考えながらも、私は溜め息を堪えるのに労を要しました。
ナタリーナ様のおおよその狙いに見当はついていましたが、まさか純粋に乙女ゲーム的な理由だけではありませんわよね?
わざわざ『逆奏無印のライバル令嬢』が『逆奏2のメイン攻略対象』を攻略に来るだなんて。
そうだとしたら本当に、ディアゼル様は罪な御方ですわ。
──────────────────
ディアゼル様の執務室には重要な書類や、取り掛かっている案件に関係する資料が山積──しっかり整理整頓されてはおりますが──しているので本来なら関係者以外立ち入り禁止となります。
婚約者候補とはいえ中まで入らせて頂くのは本当は良くないことですし、他の婚約者候補には許されていないことなのですから、明らかに私は特別扱いを受けております。
しかし今回はディアゼル様の身辺にも関わりのある大事な話だから、という理由と、殿下が書類の処理途中で手が放せないからという理由を挙げられ、なし崩し的にお邪魔するハメになってしまいました。
別に今日無理にお会いすることもないので、日を改めることも提案したのですが、即却下されてしまいました。
側近の皆様も私が居ることに関して特に咎めるでもなく当たり前の顔をされている辺り、何かと理由をつけて私との婚約を早く確定的なものにできるよう、周りを固められているような気がしなくもありません。
「それで、ツェリ?僕に言わなければならないこと、あるよね?」
椅子に深く座り直した殿下は書き終えた書類を脇にどけつつ、執務机から顔を上げます。
その書類はすかさず側近であらせられるライエンバッハ伯爵子息、コナーリンズ様が受け取られ、私の視界には入らない場所へ移動させられました。
「ふふっ、殿下のお名前を勝手に出したと思っておられるのですか?私別に、ディアゼル様からの伝言とは1つも申し上げておりませんわ。この国に殿下と呼ばれる方は6人おられるのですもの。間違いなく、その内のお1人からのお言葉をお伝え致しましたわ」
「王太子殿下か」
殿下は笑顔のまま若干眉をひそめるという、器用な顔をなさいました。
私は別に王太子派ではないのですが、父を通じて何かと雑用を言いつかることがあるものですから。
それに私はディアゼル様と学院内の監視役を兼ねているので、ご報告のついでにお言葉を頂いたり致します。直接ではありませんが。
ディアゼル様は早く王太子殿下に認められ、信用を得たいとお思いですから。王太子殿下のお世話になってしまっては、借りを作ってしまうようで嫌なのかもしれませんわね。
あまり王太子殿下の存在を匂わせると、ディアゼル様のご機嫌が芳しくなくなってしまうことが多いので話題転換するに限ります。
1人で納得して、私はわざと拗ねたような表情を致します。
「それより殿下、私が報告するまでもなく全てご存知なんて、淋しいですわ」
学院内に殿下の置いた監視役が居ることは存じ上げておりますし、当然毎日報告が上がっているだろうことは理解しております。
それでもわざわざ殿下は私の口から話を聞こうと時間を設けて下さっているわけですから、これは必要なやり取りであると判断しておられるのでしょう。
婚約者候補の割には私のアピールが足りないと思われている方もいるようですし、もう少しあざとく振る舞っても許されるのではないでしょうか。
「何故?」
「お話する楽しみが減るではありませんか。どんな風にお伝えしようか、とっても考えてきましたのに」
「君が以前ヒントを置いていったのに、何もせずただ結果を待っていろっていうの?そんな無能を晒してしまっては、君にも侯爵にも愛想をつかされそうで心配になってしまうよ」
「そんなことはあり得ませんわ。殿下の勤勉さも、対応力も、政治手腕も、私は全て尊敬しているのですから。殿下はただでさえお忙しい身ですもの。私としては、あまり煩わせたくはないのですわ。ある程度片付く目処がついてから、なるべく良いご報告をしたいと思うのです」
お互いに微笑みを崩さずに、初見の第三者では全く理解出来ないような言葉の応酬を致します。
私達の会話には、ほとんど主語と述語が抜けています。
圧倒的に情報の不足した、中身の無さそうなやりとり。
これは殿下が、ナタリーナ様から私が呼びつけられたことと、交わされた会話の内容をある程度把握されていると確信できるから、このような仕様の会話になっているのです。
仮にも他国の貴族令嬢のことに関して、その処遇に対する決定権を現時点では有していない私達が、まだ起きてもいない問題や未来を予測して今後の方針の確認をしあおうというのです。
ナタリーナ様がアマリア様に何か働きかけをして人格を変えてしまったかもしれない、というのはあくまで仮定であり証拠はまだありません。
殿下はおそらく、お茶会の中で何らかの洗脳のようなものをアマリア様がされたのではないか、と考えていることでしょう。
仮にそれが事実だとして、我が国の神子だったかもしれない令嬢が神子としての力を振るえなくなっていると思われる現状を、国の損失としてどう証明するかも問題です。
アマリア様が神子であると、事前に公に承認されていたならいざ知らず。彼女は本来なら、学院で攻略対象との交流の中で神子としての素質を垣間見せ、卒業と同時に国から神子として認められる予定だったのです。
現時点では一令嬢の人格が変わってしまったというだけであり、何かしらの被害が出ているわけでもありません。
このような状況で、どのような形で隣国の公爵令嬢に罰則を課すことができるのか。
とてもデリケートな問題です。
それ故に具体的な言葉は避けるべきであり、誰かに何かの拍子に聞き咎められたとしても、如何様にも言い逃れが出来る仕様でお話をするのです。
「ふむ。ツェリが気にしているのは、強制帰国を促すにはまだ弱いってことだね?」
「殿下は私のことを何でもご存知なのですね。今回のことが警告にはなりましたので、これから何かされるようでしたら、それを理由には出来るかもしれませんが……確証もない内は、難しいでしょうね」
おそらく殿下は、ナタリーナ様の近辺に情報源となる者を潜り込ませているのでしょう。
ナタリーナ様は限られた期間で急激に派閥を成長させましたから、その分間諜は入り込みやすかったのかもしれません。
なにせ隣国の筆頭公爵家であるクインツ公爵家の令嬢にして、隣国の王太子の元婚約者ですから。
彼女の存在自体が、何かしらの厄介事が起きる要素しかありません。
だからこそ殿下は同組になり、近くで監視しやすくしながらも、交流を深めたりせず当たり障りない距離感を保っておいでなのでしょう。
そんな経緯もあり、私がデフォルト男爵令嬢の名を告げた時点で、ナタリーナ様の存在にすぐに行き着いたはずです。
もちろんデフォルト男爵令嬢の交友関係に含まれる1人として名前が挙がっただけで、疑ってかかったとは思えません。
他の令嬢や令息のことも調査した上で、ナタリーナ様を最重要警戒対象として判断されたのでしょうが。
「なら早速理由を作ろうか?」
こともなげに笑顔で仰っておりますが、そんなことを私が許すとお思いですか?
ただでさえディアゼル様の攻略を目指している彼女に、殿下との接触の機会を積極的に与えるなんて冗談ではありません。
確かに、殿下ならその気になれば思わせ振りな振る舞いをして相手に一方的に勘違いさせたり、殿下への好意を原動力にさせて自滅をさせる力がおありだと思いますが。
ですが、そんなことのためにお忙しい殿下の手を煩わせる気もございませんし、うっかり関係を深められたりしても困ります。
私、人並みに嫉妬くらいはするのですわよ。
「殿下、以前申し上げましたわ。女同士のいさかいに、殿方が口出しされようとすると拗れる、と」
殿下が真実愛した方相手なら身を引くこともやぶさかではありませんが、ナタリーナ様だけはいただけません。
面倒事の臭いがプンプン致しますし、彼女と懇意にされるようではディアゼル様がお望みの『悠々自適辺境まったり隠居生活』が過ごせませんもの。
きっと王位簒奪(ヒロインに攻略されると、エンディングで何故かディアゼル殿下が玉座に座っておられるのです)とか、クインツ公爵家を優遇した貿易の推進とか、惚れた弱味に付け込んでろくでもない要求をされるのです。
お慕いしている方に、わざわざ茨の道など薦めたくはございませんわ。
「一体僕の出番はいつになるのだろうね」
「あら、殿下の出番は常に私の前だけと決まっているのですわ。予約でいっぱいでしてよ?」
満面の笑みを浮かべてありったけのお茶目を発動させた私ですが、殿下が笑顔のまま固まってしまいました。
あら、不発でしたか?
やはり政略婚約(予定)の相手からあまりグイグイこられるとリアクションに困ってしまうのでしょうか?
せっかくアピールを頑張ってみたのに、ちょっとムッとしてしまいます。
「……それは光栄なことだ。じゃあ、今から時間が取れるということだね?座ってくれないか、お茶にしよう」
実は執務室内のソファを勧められてはいたのですが、お忙しいのでしたらあまりお時間を取らせてはいけないと思いまして。
「すぐ帰りますので」と手荷物を預けることもせず、やんわりお断りし、まっすぐ殿下の執務机の前に向かったのです。(因みに侍女は控えの間でお留守番です。)
婚約者候補でしかないのに執務室にお邪魔しただけでなく、長居してしまっては外聞が良くないでしょうから。
それだというのにお忙しいはずの殿下が、わざわざ私をお茶に誘ってくるだなんて。
一体何をお考えなのでしょう。
「素晴らしいお考えですわ」
とりあえず何度もお誘いをお断りするのは淑女の振る舞いではありません。
その提案、お受け致しましょう。
先程感じた僅かなイラッと感を隠してニッコリ微笑み、執務机を回り込んで殿下の真横に立ちました。
椅子を回して体ごと私の方へ向き直った殿下は、怪訝そうなお顔で見上げてこられます。
「ツェリ……?」
視界の端では、殿下の言葉を受けた側近の方々が、応接テーブルに仮置きしていたであろう書類の移動作業をしておられました。
作業も終盤のように見えますが、まだ片付いていない場所へ淑女を案内しようとするのはどうかと思いますの。
「私に、他の殿方との相席をお勧めになるおつもりですか?酷いお方」
躊躇いなく殿下の膝の上に横座りし、麗しいお顔を見下ろしました。
意表を突かれたように見開いていた両目は、間もなく剣呑な光を宿して細められ、表情は笑顔の筈なのですが何故か獰猛な肉食獣のごとく危険味を増していきます。
あぁ、なんて悔しそうなのでしょう。
側近達の前で、威厳もなく椅子に成り下がるお気持ちは、どんなものなのでしょうか?
でも仮にも私は婚約者候補筆頭の侯爵令嬢。
物理的に腕で振り払って追い落とすこともできず、側近達の手前どんなに腸が煮えくり返っていても丁寧に扱うしかないなんて。
ディアゼル様の精神的疲労を考えると、とてもとても楽しくてたまりませんわ!
これだけで、せっかく頑張ってしたアピールがちっとも殿下には響かなかったことによる腹立ちも癒されるというもの。
ええ、良いのです。
どうせ私は政略婚約の相手なのですから、殿下にちょっとでも好かれようなんて思ってしまったのが間違いなのです。
これだけ殿下の攻略阻止の為に働いているのだから、少しでも好意的に見てもらいたいなんて期待を持ってしまったから腹が立ってしまったのですわ。
最初から殿下からの愛は期待していなかったのですから、どんなに特別扱いされたとしても初心を忘れないようにしなければいけません。
ちゃんと弁えなくては。
殿下は私にそういう方面のことは求めておられないのですから。
ちょっと扱いの面倒な女だと思われているくらいでしょう。せいぜい私も時々嫌がらせをして、対応に困っている殿下のお顔を見て楽しませて頂ければよいのですわ。
そう思えば、ムッとしていた気持ちも波が引いていくようにスウッと落ち着いていきます。
自然と湧き出る高揚感で溶ける顔と笑いを抑えきれず、うっとりと間近でお顔を見下ろしていると、ディアゼル様の笑顔の凄みが増しました。
「僕の配慮が足りなかったね、ツェリ。席を先に用意してから促せば良かった。とりあえず、降りようか?」
「殿下、私に気を遣われることはございませんわ。素直におっしゃって下さい。私……重いのですね?」
「え、いや、そんなことはないよ。むしろ軽いくらいで、もっと肉をつけてもいいくらいだと……」
「では、あまり抱き心地が良くありませんのね?もっと腰がふくよかな方が殿下のお好みなのですね」
「いや、そんなことはない。ツェリは凄く良い香りがするし、とても触り心地も良い、できるならこのまま手放したくないくらいだ。しかしそんな真似をしたら間違いなく侯爵に殺される、だけでなく婚約の話も無かったことにされかねない。それだけは避けなければならないし……ともかく、充分魅力的だと思う!」
おかしいですわ。
賛辞を贈られているはずですのに、目が全然笑っていませんわ。
やはり怒っていらっしゃるのですね。
腹黒らしく、表面上は私を煽てて穏便に退席してもらおうと計画していらっしゃるのでしょう。
そんな解りやすい手段を取られるしかないなんて、殿下もこの事態は想定外だったのでしょうね。
現在の位置関係的にも、少し優越感を感じてしまいますわ。
「ふふふ、お上手ですのね殿下。少し落ち着かれてはいかが?」
「これで落ち着いていられるほど、僕は枯れていないんだけど」
実にキラキラしい笑顔ではあるものの、声は何かを堪えるように震えておいででした。
あぁ、楽しい。
「ノルデアン地方の治水、ありがとうございました。父はとても、殿下のことを気に入っているように思いますわ。今更私に婚約者候補から降りるよう、指示を出すことはないでしょう」
精神的疲労を与えてしまった分、ちゃんと殿下のお望みの情報もお伝えしておきます。
学院をお休みされてまで、殿下が取り掛かっていたこと。
その結果に対する、アルデリテ侯爵からの信頼度。
現時点ではディアゼル殿下が王族として在るに相応しいと、アルデリテ侯爵家が認識しているということをお伝えしているのです。
「どうかな?まだまだ油断は出来ないよ。婚約は最初の目標地点に過ぎない。僕の最大の目標は、君との婚姻を無事執り行うことだよ、ツェリ」
殿下はノルデアン地方の治水工事を行う為に、その土地の領主が自発的にそう取り組むように。間接的に、或いは遠回しに働きかけ、王族からの命令や強制ではなく、国庫も然程痛ませず、あたかもその領主の功績であるように見せかけるように事を運びました。
何故そんな回りくどいことをする必要があるかというと、国王からの命令という形をとれば国家事業となり、まずいつから取り組むであるとか予算はどうするとか、会議を開かなければならなくなります。
それらの話し合いから承認の間までに時間がかかり、工事に取り掛かる頃には雨季が来てしまいます。
その点領主からの申し出となれば、計画書に国王陛下からの承認印さえあればすぐに取り組めるのです。
ならば領主が早い内から取り組めば良かっただろうと思われるかもしれませんが、ノルデアン地方は度重なる雨季による災害の対応で工事費が捻出できず、いつもその場しのぎでやりくりしているようだったのです。
失礼ながら、領主であらせられるポートルイーダ侯爵閣下は善良ではありますが、やり手というわけではありませんでしたので。
ディアゼル殿下はその金銭面の問題や、工事に必要な材料と人員の工面、といったことを自分の存在を匂わせない程度に干渉し、解決に導かれたのです。
並の手腕ではありません。
このように優秀な殿下が、もしその働き全てが功績として認められることがあれば、間違いなくディアゼル様を次期国王にと担ぎ上げたがる者達が増えることでしょう。
王太子殿下も大変秀でた方なので、御二方が玉座を望んで争うようなことになれば、国を二分する大事となります。
そうならないためにアルデリテ侯爵家は、王太子殿下の次に王位に相応しいディアゼル様の動向を監視すべく、私に殿下の婚約者になるよう、ひいては婚姻をするよう定めたのです。
そして殿下も王太子殿下の地位を脅かすことのないように、下手な令嬢と婚約させられて王太子殿下の対抗馬として担ぎ上げられることのないように、私との婚約を受け入れているのです。
「ふふっ、嬉しゅうございますわ。私も、その日を迎えることを心待ちにしております」
私が殿下の潔白証明と、国の安泰をお守りいたしますからね。
決意を込めて微笑めば、いつの間にか私の腰に回っていた殿下の手が力強く締め付けられました。
「ツェリ!」
すかさず開いたお口に、手に提げていた籠から取り出したクッキーを放り込み、人差し指で押し込みました。
「お味はいかがですか?」
毒味も無かったそれを吐き出すこともなく、素直に咀嚼して殿下は飲み下されました。
「……君が作ってくれたのかな?」
「よくお分かりになられましたわね」
「いつもながら、絶妙な味加減だ」
当然です。
滋養強壮に良い数種類の薬草を練り込んだ生地は、素材の味を互いに打ち消し合わせた結果全くの無味に仕上がっているのですから。
甘いものが苦手な殿下の為に、そしてちょっとした嫌がらせの為に、わざわざ手間隙掛けて考案しているのです。
殿下のこの、絶妙に戸惑ったお顔。眉間に皺を寄せて反応に困っているお姿、とっても素敵ですわ。
殿下が余裕を失われて表情を取り繕えない瞬間が、私は特に好きなのです。
「沢山ありますから、是非皆様で召し上がって下さいませ」
自分史上最大にご機嫌な笑顔を浮かべ、何故か呆けた顔で力の抜けた殿下の腕に籠を押し付けながら、するりと立ち上がります。
顔色が赤いようですが、もしやそんなに怒らせてしまいましたか?
殿下が何を企んでおられたのか結局解らず終いでしたが、このご様子では穏やかなお話しあいは無理でしょうから、退室を希望しても断られることありませんわね。
「殿下、お顔の色が少し赤いようですわ。少し長居し過ぎたのでしょう。皆様のお仕事をこれ以上お邪魔するのも心苦しいので、やはりそろそろおいとまさせていただきますわ。ごきげんよう」
本来なら不敬にあたるのですが、返事も待たずに颯爽と立ち去らせていただきます。
勝ち逃げというやつは高揚感が半端ではなく、なんだか足元がフワフワした心地が致しますわ。
例えご自分の保身の為とはいえ、私との結婚を心待ちにしてくださっているようなお言葉をいただけたこと。とても嬉しかったですわ。
だから私、敢えて指摘はしないことにしておりますの。
殿下が私を本当は好きではないのに、好きな振りをしてくださっていること。
さっさとこの婚姻を成立させて、下らない王位継承争いの渦から離脱したがっているだけだということ。
それら全て、私が知っているということを。
余計なことは申しませんわ。そんなことをしたら、この幸せが壊れてしまうのですから。
どうかディアゼル様、これからも私のことを好きな振りをお続けくださいね。
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「ツェリが可愛すぎてツラい……」
扉が閉まってからやっと絞り出せた言葉は何の捻りもなくて、思わず自嘲してしまった。
ツェリ(僕の嫁)に関わることとなると途端に自分が馬鹿になってしまう自覚があるから、尚更だ。
「殿下、尊敬致します」
「俺感動したよ、一生殿下についてくよ!同じ男として涙が止まんないよ」
側近であり、応接テーブルを片付けながら僕たちのやり取りを見守っていたコナー(生真面目眼鏡)と、護衛騎士であるヤナ(単純純粋犬)が涙を拭うフリをしながら惜しみ無く褒め称えてくる。
以前の僕だったらそんな気安い態度を取られたら内心イラッとしながら笑顔でかわし、後から何かしらの仕返しをしていただろうけど、今の僕には素直にその賛辞を受け入れられる度量がある。
本当に、ツェリ(僕の天使)と出会う前だったら、表面上は友好的に振る舞っても、内心高貴なこの僕と直接口をきけるだけ感謝してほしいものだと本気で思っていた。
僕の側近に選んでやったのだから、馬車馬の如く身命をとして働くのは当然だと。口には出さないし、日頃穏やかな態度と感謝の言葉で温厚を気取って上手く関係を築いていたけど、本気でそう信じていた。
しかし今、片想いの辛さを理解して励ましてくれる彼らは、僕のかけがえのない友だった。
「悪い子だね、ツェリ。毎回毎回、僕の理性を試しにかかってくるのだから……!なんなのかな、あの笑顔!しかも手作りクッキーを手ずから……!あろうことか、僕の、膝の、上で!!」
「お察し致します」
「殿下、全部食べちゃっていいからね!俺らはいいから!」
痛ましそうな視線を寄越してくるコナーと、全くの無意識だろうけど、僕の別の欲望を刺激してこようとする発言を溌剌とするヤナ。
「当然だ。ツェリに関わるものは一片たりとも分与える気はないよ」
笑みを深めながら一枚クッキーを齧ると、本能で何かを感じ取ったのかヤナが固まり、コナーはそっと目を逸らした。
ツェリ、正式に婚約を結んだ暁には、覚えていてほしい。婚約者という大義名分を存分に活用して、僕なしでは生きられないようにしっかりと教え込む予定だからね。
「殿下がんばれー!超がんばれー!!」
太股から離れてしまった感触と温もりを惜しむ気持ちと、これ以上理性を試されずに済んだ安堵感でどっと脱力しながら深く椅子に凭れると、すかさず能天気な友人のエールが投げかけられた。
気の抜ける声援はツェリに会えた興奮をいい感じに冷ましてくれるので、毎回重宝している。
単純で面白いくらいに扱いやすいから息抜き要員で側近にしたのだが、幼少期の僕は良い判断をしたと思う。ヤナみたいにすごく純粋で思い通りに動く人間は、今のような僕に時々癒しを与えてくれる。やっぱり僕は特別なんだと思い出させてくれるのだ。
僕ともあろう者がこんなに思い通りにならない日々を送ることになるなんて、当時は全く想像していなかったけれど。
でも、悪くない。
あの頃は苦労も何もなくて、何でも思い通りになったけど、ただただ毎日が退屈だった。
王位に興味なんか無いのに、自分に近付いてくる大人達の思惑も手に取るように解って滑稽だった。
歳の離れた腹違いの兄が王太子であることは揺るぎない。
それを見極める目を持つアルデリテ侯爵が、そう支持しているのだ。
にも関わらず、波風を立てたがる貴族が後をたたない。僕が穏やかな態度で優しげな言葉を紡ぐほど、僕を担ぎ上げたがるバカどもが増えた。
きっと御しやすそうだと思ったのだろうけど。
生憎僕は、程度の低い連中と徒党を組む趣味はないんだよね。
そんな面倒な真似しなくても、欲しい物は何でも得られるし。僕に旨味が1つもないじゃない?
タンデムロフ公爵が自分の娘を僕の婚約者にしようとした時、煩わしい囀ずりが減るなら了承しようかと思っていた。
つまり僕を利用して権力を強めたいという思惑の持ち主が、大方タンデムロフ公爵勢に絞られるわけでしょう?
対処しやすくなっていいよね。ある程度婚約を継続した後で、何かしらの問題を挙げつらって婚約破棄し、公爵家を没落にでも追い込めば良い見せしめにもなるし。僕にすり寄ってきて、面倒なことを薦めてくる奴らも減るでしょ?
婚約期間中は婚約者の存在が良い虫除けになってくれるし、一石二鳥だ。
それなのに公爵令嬢は顔合わせの日、開口一番僕に面と向かって「好みじゃないのでお断りします!」と宣言すると走って逃げ出した。
ねぇ、不敬って言葉理解できる?
そして公爵家の教育の成果にも呆れた。
あんな令嬢がいるならタンデムロフ公爵家が自滅する日は近いだろう。
放っておくに限る。
僕が顔合わせの顛末を陛下に伝えたところ、僕が王太子の臣に下るつもりならアルデリテ侯爵に令嬢との婚約を打診してみることを提案された。
アルデリテ侯爵家。
その当時思い浮かんだ情報は、王家と距離を取り領地に籠ってはいるが、堅実な領地運営をする古い血筋の家、ということだった。
僕としては煩わしいことが減るなら何でも良いかと、軽い気持ちで受けた話だったけど、まさか正式な婚約を簡単にさせてもらえないどころか、侯爵やツェリがこんなに一筋縄ではいかない人物だったとは思いもしなかった。
実際に会って話したアルデリテ侯爵は大層な切れ者で、当時まだ子供だった僕にも容赦のない、慇懃無礼な態度で接してきた。数言言葉を交わした後、侯爵はうっすらと微笑みながらそれを告げてきた。
『殿下がアルデリテの者を必要としている理由は理解致しました。しかしながら、本当にうちの娘が必要でしょうか?殿下なら上手く貴族達の思惑から自身を守り、かわすことが容易なのではないですか?』
それはたった数分の内に僕の性質を理解したような、僕が能力的に自己を過信し、誰の助けも必要としていないことを知っているかのような、言葉だった。
あの底冷えするような、全てを見透かしているような目が、未だに忘れられない。
その時僕は、本能で理解した。
アルデリテ侯爵家の存在意義と、役割を。
それは後日行った調査の結果からも、確信となった。
はっきりとした記録は残されていない。
しかし断片的な情報や伝聞を繋ぎあわせることで、王族監査機関の実在が明らかとなった。
その存在を把握している者はごく一部のみ。
恐らく陛下と兄上の近辺の者だけは、それを知っているのだ。
その王族監査機関の長は慈しみのような表情を、その場にはいない誰かに向けて浮かべながら。
静かに、迂遠な言い回しで、陛下からの婚約の申し出に対する了承をしたのだった。
『本来我が一族は領内でのみ婚姻を行います。末娘のツェフィーラもその予定でした。しかし殿下の誠意が我が娘に通じたのでしたら、わたしもこの婚約を歓迎致しましょう。わたしは娘が可愛いのでね。彼女の意志を尊重します』
後日紹介された少女は、完璧な作法と品位を兼ね備えている以外は、おっとりとしてどこにでもいる箱入り娘という印象なだけだった。
「まずはツェリを通してアルデリテ侯爵から出された課題を、全て片付けないとね」
嘆息して現実に目を向ける。
初対面の頃の思い出に浸れるような良い記憶は、1つもない。
なぜなら初めの頃、ツェリはしっかりと擬態していたのだ。
まるでどこにでもいる、何の変哲も面白みもない令嬢として。
お茶会の度に無難な会話を繰り広げ、控えめな相槌を打つ姿にすっかり騙されてしまった僕は、初動を間違えてしまった。
当時の僕の態度は酷いものだったと思う。
今でも悔やまれてならない。
甘い言葉と思わせ振りな態度だけで、他の令嬢のようにあっさりと僕に堕ちると思っていたのだ。
そんなのは大間違いで、彼女は僕の誠意を見ていたというのに。
「殿下、笑顔が怖いよ、凄く怖いよ」
僕の笑った顔を見て顔色を悪くするなんて、ヤナは有り難みという言葉を知らないと思う。
大抵の連中は僕の微笑み1つで一喜一憂するというのに。それだけ価値があるものなんだよ?それが解らないなんて、絞首刑ものだよ。
でも友人だからね、大目に見てあげよう。
寛大な僕に感謝してほしい。
「多分ですけど、1つ片付けたらまた1つ追加されるだけだと思いますよ?学園を卒業するまで、ツェフィーラ様との婚約は成立させてもらえないかと」
ヤナに対してコナーは表情を変えることなく、淡々と目に見える未来を突き付けてきた。
あまり嬉しくない現実に嫌気が差しそうになる。
口元に薄笑いを貼り付けて、顔には出さないけど。
「そうだろうね。今の学園は厄介事が多すぎる。この時期に僕が正式な婚約を結んでも、僕にとっても相手にとっても面倒ごとを呼び込むだけだろう。なにより、僕はエサみたいなものだ。卒業まで“正式な婚約者の居ない身軽な王族”として居続けなければならない」
表面上は王太子殿下の臣下に下ることを表明していない僕は、王太子に対抗したい派閥の貴族には食い付きやすい肉に見えていることだろう。
自分の娘と縁付かせて担ぎ上げる輿にすることもできるし、ただ利己的な者なら自身を良い役職に引き上げてもらうための伝としたいことだろう。
更にはどういう意図か、クインツ公爵家の令嬢が僕の婚約者候補になりたがっているらしい。隣国に何らかの企みがあるのか、それも探らなくてはならない。
どうやら神子とおぼしき令嬢にも興味を示されているようだけど、肝心のその令嬢は神子としての資質を失っている可能性が高い。気は進まないが、その辺りも更に詳しく調べなければいけない。
僕に食い付いてくる人間を片っ端から調査するとなると、それなりに手間もかかるというもの。正直、始めはこんなに頑張る予定じゃなかった。
ツェリの為じゃなかったらこんなに無理はしない。
何せ今は彼女に僕の誠意を見せている期間なのだから、抜きたくても手を抜けない。
「殿下御自ら囮のような役目をなさるなんて……」
そう、兄上の敵になりうる人間を炙り出したり、国の災いの種を事前に摘んでおくのが僕の役割だ。
その為にコナーは尽力することを惜しまないが、本気で僕のことを心配しているようだった。気遣わしげな視線をよく感じる。
昔は相手を利用しやすくなるとしか思わなかった他者からの思い遣りも、今では純粋に有難い。
「いざとなったら、俺が全身全霊で盾になるからな!」
ただヤナ、お前は何と闘っているのかな?どんな状況なんだと思わなくもないが、真剣な気持ちは嬉しいのでとりあえず貰っておく。
「二人ともすまないね、僕が微妙な立場に生まれたばっかりに」
いずれ僕は王位継承権を放棄して、臣下に下る。
そんなことは百も承知のはずの2人は、僕のことをハズレクジとは思わないようで、よく仕えてくれている。
主人である以前に、友人として力になりたいというのだ。
打算も駆け引きもいらない関係性を保持できている相手のことは、信頼してるって言えるのだったかな?
「でも今の内に王太子殿下の信を得ておけば、間違いなく老後は安泰だからね。命大事に、あくせく働こうじゃないか」
「殿下、やけに沈んでんな」
「触れないであげてください。ツェフィーラ様が王太子殿下との繋がりを匂わせられたので、落ち込んでいるだけです」
こんな時だけ察しの良いヤナと、的確に僕の憂鬱を刺激して抉ってくるコナー。
解ってるなら流してほしい。
「別に、アルデリテ侯爵が次の王は兄上だと推してるからね。ツェリと面識が多少あったとしても不思議ではないと思えるし、理屈では納得しているよ。兄上には婚約者もいるから、心配もしてない。ただ……」
「「ただ?」」
僕が会いたくても忙しくてなかなか会えない間、兄上はツェリに会えていたのだろうか。
いつでも呼びつけられる関係なのか。
どんな話をしているの?
僕の知らない、彼女の別の表情を見られているのだろうか。
考え出したらキリがない。
別に嫉妬なんかではない、と思う。
兄上は分別もあるし、大人だ。ツェリのことはまだ子供にしか感じられないだろう。
ましてやアルデリテ侯爵家の人間に、興味本位で手出しするような軽薄な人間でもない。
理性ではそう思うのに、気持ちは先走ってしまいそうになる。
───僕のツェリなのに、何で兄上がお使いをさせようとするのさ。
これは醜い独占欲だ。
まだ完全には手に入っていないものにまでその欲求を向けようなんて、なんて浅ましい。
まるで僕じゃないみたいで、愉快で、笑えてくる。
「いや、なんでもないよ。頑張って早く、ツェリに認められたいと思ってね」
得意の穏やかな笑顔で欲望を覆い隠して、当たり障りのない部分だけの本心を吐露した。
「ツェフィーラ様は殿下のことあんなに大好きだから、もう認めてくれてんじゃないの?」
「そうですよ殿下。ツェフィーラ様のお相手が務まるような方、ディアゼル様以外おられません」
「そう見える?なら、いいのだけれど」
でも結局は、まだ婚約の申し込みに応じてもらえないのだ。
国益を守る為に、侯爵は使えるものは何でも使うだろう。
僕の能力を正確に把握しているからこそ、王家からの婚約の打診を了承し、ツェリを僕の生涯の監視役としてつけることにしたのだ。
しかし僕を警戒してもいるから、いろいろな試験をふっかけてくる。
僕が人に使われることにどこまで耐えられるのか、今は見極められている時期なのだ。
僕のやる気を保つ為に、ツェリには僕に好意を寄せている振りをするよう指示を出していることだろう。
彼女にそんな真似をされると、もしかしたら明日にでも婚約が了承されて、結婚も許されてしまうのではないかと期待を持ってしまう。
こんなにツェリが僕を好いてくれているのなら、例えちょっと僕の意に反した扱いをされていると解っていても、耐えてみようかな、なんて思ってしまう。
そうしたら、彼女が生涯僕のものになるのだから。
それが僕にしたら、最高のご褒美なのだ。
「早く僕の所に堕ちてきて、ツェリ」
誰にも聞きとれないだろう囁きを漏らした僕の耳奥で、初めてツェリという存在を認識できた時の、おっとりとした声が再生された。
───堕ちるなんてとんでもありませんわ。私は殿下の隣に並び立つ為に、常に上を目指し続けなければならないのですから───
あぁ、君はいつだって、僕の思い通りにはならない。
愛しているよ、ツェフィーラ。
─了─
趣味に走りました。後悔はしていません。
自身の技量不足による書き込みの足りなさと、ツッコミ所の多さは自覚しておりますが、どなたかの暇潰しの一助になれましたら幸いです。
+登場人物紹介+
ツェフィーラ・アルデリテ
アルデリテ侯爵家の次女。本作のヒロイン。精神的サディスト且つ転生者。
ディアゼル(第三王子)の婚約者候補筆頭。
乙女ゲームの知識は囓る程度。故にゲーム由来でディアゼルのことが好きになったわけでもなく、純粋に婚約者候補になってからの付き合いで人柄と努力家な所に惚れた。
ディアゼルが自分と婚約したがっているのは、アルデリテ侯爵家の次女であるからという理由(=保身)のためと判断しており、好意からではないと思っている。
ディアゼル・サド・ソルトリオー
ソルトリオー国第三王子。
乙女ゲーム『逆奏2』におけるメインヒーロー。しかし攻略難易度超鬼畜設定且つ、ニッコリ腹黒俺様ドSという面倒な設定持ち。
現実でもニッコリ腹黒俺様ドSは健在。しかしツェフィーラに対してだけは、惚れた弱味により上手くそれが発動出来ない。
ツェフィーラが自分に愛を囁いてくれるのはアルデリテ侯爵の意向に彼女が従っているだけで、自分は国益を上げる為にツェフィーラを餌にアルデリテ侯爵に働かされているのだと思っている。
早く正式に婚約がしたい。
トリニータ・タンデムロフ
タンデムロフ公爵家長女。
人見知り且つ転生者。
乙女ゲームではテンプレートへっぽこ悪役令嬢。バッドエンド回避の為にディアゼルとの婚約を全力拒否した。なのにヒロインに絡まれていい迷惑。行動や仕草が小動物的。
アマリア・デフォルト
デフォルト男爵家令嬢(養子)。
転生者……?
ゲームではヒロイン。初めはゲームに倣ってイベント発生等を狙い地道に攻略していこうと思っていたが、ディアゼルがほぼ登校拒否(公務を理由に)の為に全くイベントが発生せず。とても焦っている。
ナタリーナ・ル・エヴ・クインツ
マドラスタ国のクインツ公爵家の長女。
策略家且つ転生者。
乙女ゲーム『逆奏無印』における完全無欠のライバル令嬢。しかし現実では無印の攻略対象は好みではなかったため、ヒロインを支援して最速で逆ハーエンドを迎えさせた。
見返りに『逆奏2』の舞台である隣国のソルトリオー国に留学させてもらい、ディアゼル攻略を目指している最中。
コナーリンズ・ライエンバッハ
ライエンバッハ伯爵家次男。
頭脳明晰な生真面目苦労性。
代々王族の補佐を務める家系に生まれ、歳が近い王族でいったら第4王子より第3王子に仕えた方が断然良いと判断してディアゼルの元へ。
ディアゼルとツェフィーラのジリジリした関係を生暖かい目で眺めている。
個人的に、ディアゼルが自分達にどんなあだ名をつけているのか気になっている。
ヤナヴァスキー・ベロフィロア
ベロフィロア侯爵家三男。
脳筋ではないが直感を大事にする天才肌な騎士。
ディアゼルのことは同じ三男同士親近感あるわーと思いながらも、時々怖いけどこの人についていけば間違いない!という直感で仕えている。
直感でいうならツェフィーラはディアゼルにオススメしないが、本人が良いなら良しと思っている。




