ゲルン侯爵家で会議
翌日、朝食後にゲルン侯爵家の一室での作戦会議になったが、既に集まっている情報から王弟と父が王妃陛下狙いなのはほぼ確実だったので、夫人にお母様を連れ出して貰った。
テーブルにはゲルン卿、イザーク様、お兄様、私に、ゲルン卿の腹黒腹心クロムがいる。いつも作った笑顔で感情が分かりにくい人だが、そんな事が気にならなくなるくらい、ずけずけ何でも言ってくる人だ。
ちなみにそんなクロムはお母様が天敵だと言っている。言葉にしていない些細な感情も読まれるから本気で怖いらしい。お母様素敵。
まずはゲルン卿の報告から始まった。
「結論から言うと、今の王弟から何か探るのは無理だな。周囲に何も悟らせていないし、件の隊長についても任命責任を取りはしたが、最終的には上手く逃げられた。今は警戒しているのか、王城内での動きはない状態だ。週二日の外出については何か掴めたか?」
「あぁ。王弟は魔法で自分の姿を色々と変えて、女を買っていることがわかった。同じ女は二度買わない徹底ぶりだ。少し前は機嫌が悪かったらしいが、最近は機嫌が良いらしい。ある女にはそろそろ欲しかったものが手に入ると嬉しそうにしていたらしいし、別の女には愚かな男が踊る様は滑稽だと溢していたそうだ」
イザーク様の情報網が…妖しい。
「王弟は女には口が軽いんだな。もっと情報が集められるんじゃないか?」
「頼んである。既にかなり集まっているし、まだまだ集まるはずだが、ご丁寧に実在の人物に似せて姿を変えていることもあって、内容に精査が必要だ。性癖で特定ができたんだが、同じ変態趣味の奴がいて…」
変態趣味の性癖で個人特定??
「エルちゃん、考えちゃメッ!イザークぅ?エルちゃんの前でそれ以上は言うな!!耳が汚れるだろ!!」
動揺し過ぎたゲルン卿が、幼い頃と同じ注意の仕方をしてきた。厳ついおじさんのメッ!には破壊力があるなぁ。うん、忘れよう。そうしよう。変態に興味なんてないよ~。落ち着いて、ゲルン卿。
「エルちゃん、ディートリヒくんから情報は?」
「王弟がベルンハルト殿下に接触しましたが、学院での話をしたと殿下は言っているそうです。ディーの意見としては、利用される可能性はあっても、殿下が自らこの件に関わっているとは考えにくいそうです」
「んー。ノルン卿は?」
「ノルン卿の動きは活発ですね。二人の関係に気付かれていない自信があるのでしょう。以前騎士団に捕縛された、金持ち狙いの窃盗や誘拐、殺人をしていた一味の残党と接触を始めました」
クロムは父を探ってくれていたようだ。薬の手配も人の手配も引き受けたら、切り捨てを推奨しているみたいだ。馬鹿すぎる。
「一味の残党を現在率いているのは、不正で騎士団を追われた元騎士団員です。頭を失った組織をそのまま引き継いだようですね。その元騎士団員と専門学院在学期間が重なっています」
「処罰を与える側になれば、どうとでも情報操作できるな。薬は?」
「組み合わせて使うと、時間をかけて呼吸困難を引き起こします。健康体であれば一ヶ月程連続服用が必要ですが、自然死に見えなくもないでしょうね」
「王妃陛下狙いなら、殺したい人間に陛下は入っているだろうな。毒見の魔法師がいる限りその方法は使えない。何らかの方法で魔法師を排除する必要があるな」
「ディーから陛下と王妃陛下には警告済みです。現状、毒見の魔法師が裏切っている可能性は低いとのことでした」
「睡眠薬、意識が朦朧とする薬、媚薬などもありましたから、陛下だけでなく、王妃陛下にも薬を盛りたいのだと思いますよ」
「王弟は、裏から人を操ったり扇動したりするのが好きらしい、が。ノルン卿に餌として王妃陛下をぶら下げているとしても、さすがにのせられ過ぎじゃないか?何か画策して?」
「父は私たちが自分の思った通りに動くと信じ込んでいる節がありますから、何とも」
私も父は単に浅はかな気がする。
「薬に関しては、解毒剤や効果を弱める作用があるものも一緒に購入してもらうよう手配をしました。父が手に入れる前にそれらの一部をこちらへ届けます」
「あぁ。こちらで確認するし、王妃陛下にも宰相経由で渡して貰う予定だ。無理そうなら連絡するから、エルちゃんからディートリヒくんに多めに渡してくれ」
「わかりました」
「単純にヴェルナーかエルちゃんに、薬を盛るように言ってきたら楽なんだけどな」
本当に言われたら吃驚だけどな!即刻捕縛できるから、楽っちゃ楽だけど!
「シーズン中に動く可能性が今のところ高いですから、とりあえず襲撃と薬への警戒ですね。」
「それしかないな。エルちゃんは何か魔法でも相談したいって?」
「ん?あっ、えーと、空間収納と転移魔法をくっつけて、自分の影に転移魔法を固定することが出来たから、後はその状態で王家主催とかの警備が厳重な場所にも入れるかを確認したい段階です」
「影に固定って?」
「影は本人の魔力を少し帯びていることがわかっているでしょう?だから、転移魔法を最初から仕込んでいれば、警備もくぐり抜けられるかと思ったの」
「方法は?」
「空間収納のイメージで、影の中に転移魔法をつくるの。時間の流れも止まるから、ずっと自分に転移魔法がついてくる感じかな?」
「クロム、できそうか?」
「何とも…。相変わらず発想がぶっ飛んでますね」
「空間収納もくっついちゃったから、こんな感じで物が取り出せるよ」
試しに勢いをつけて剣を取り出したが、キャッチ出来なかった…。空しく床に転がっている。
「練習が必要だな」
ぐふぅ。これでも練習したんです。
「次は、昨日泊まった部屋に対を用意しておいたから、コタローを呼ぶね」
転移魔法に魔力を流すと、用意しておいた対の転移魔法が光る。事前にコタローに伝えてあるので、直ぐに来てくれるはず。
『じゃーん!!』
しっぽフリフリで私の影からコタローが飛び出して、背中にくっついた。
セリフ付きとか…。コタローが可愛い過ぎた。ご褒美?にもふり倒そうとしたら、もふもふ好きのクロムがあっという間に私からコタローを剥がしてもふりたおしている。
もふもふもふもふもふもふ……。
「クロム」
ゲルン卿の一言でクロムが本当にしぶしぶコタローを放して、準備を始めてくれた。魔石を置いて、仕込んだ魔法が関知される魔法と、中で悪意ある魔法が使えない結界みたいなのが組まれた。
これは大きな集まりや、王家主催のものには必ず組まれている。防護魔法が付与されている物はお守り感覚で許されているが、参加者に害が及びそうな付与物は持ち込めなくなるという代物だ。
非常に特殊な魔法で、使える人は王家直属の魔法師になっていることが多いが、クロムはゲルン卿に忠誠を誓っているので、王家には協力要請がある時にしか協力しない。
まず、影に転移魔法を仕込んだ状態で結界をくぐる。魔法があることは感知されなかったので、問題ないことがわかった。
次は無事に起動できるか。残念ながら、どちらも出来なかった。クロムに解析してもらったら、折角影に固定して誤魔化しているのに、発動時に流す魔力量が多すぎるらしい。うーん。
「今のままでは、結界を破壊して襲撃された場合にしか使えないな」
「改善の余地はありますよ。エルヴィーラ嬢ならシーズンまでに何とかするでしょう」
「えっ、クロム、協力してよ」
「ちっ」
舌打ちとか酷い、クロム…。クロムがさりげなく再び抱いていたコタローを奪い取った。しょぼんとするな。
「そもそも防護魔法は発動するので、問題ないのでは?」
「いや。……王家の人間は、あらゆる魔法に干渉されない武器を持っている可能性がある」
「そんな物があるんですか!?」
お兄様も驚いているから、あまり知られていることではないのだろう。
「あぁ。俺はこの国の王家も持っていると思っている。三十年程前に、商業都市クレメンツが当時の王政を倒しただろう?その時に王族が使ったらしい。この情報は確かだと思う。この大陸で最も歴史の古い王家だぞ?持っていないとは思えない」
「古代魔法ですか…。厄介ですね」
「俺は結界も、形を変えた古代魔法の一種だと思っている」
「確かに。他のとは種類が違う気がするな」
「エルちゃん、とりあえず剣を出せるように練習な。取れないというのも無しだ」
「うー、はい」
他にも細かい情報交換をして、解散になった。
お昼からはイザーク様と一緒にバルナバスさんと会いに行く約束をしているし、お兄様はイザベラとデートだ。お母様はゲルン侯爵夫人とそのままお茶会へ突入する。




