表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/130

目立ち過ぎる集団

 あと一ヶ月程で再びセレモニーの季節がやって来る。最近お兄様から毎晩通話がきて、今年のセレモニーは絶対に単独行動をしないように、イザーク様、デポラ、クリスと会っている時以外は必ず護衛と一緒にいるように言ってくる。


 心配してくれているのはわかるけれど、毎晩は流石にしつこい。防護魔法のブレスレットがあるので大丈夫だとは思うのだけれど、いつの間にクリスまで…?しょっちゅう通話しているとは聞いていたけれど、どんどん巻き込まれているぞ、クリス。お人好し過ぎるぞ、クリス。


 私はそれで良いとしても、問題はお母様だ。ノルン侯爵家として、父と一緒にいなければならない時がある。常に危険と一緒にいる状態だ。お兄様が後継者として出来るだけ同行し、無理な日はゲルン侯爵夫人に頼む形で予定を組み立てているそうだ。それなら安心できるかな。


 晩御飯を終えてゆったり過ごしていると、通話機が鳴り出したので、またかと思ったら曲が違った。イザーク様だった。

「久し振り」

「久し振りー。セレモニー中はまたお世話になることになったから、よろしくね」

「ああ。多分社交シーズンもだろ。今日はセレモニー中に頼みたいことがあって連絡したんだ」

「いいよー」

「せめて内容を聞いてから返事しような」

「はーい」


 イザーク様の知り合いが主催する劇団が、セレモニー中に王都で初公演をするから、宣伝に協力して欲しいと言われた。勿論協力する。

 公演初日にお兄様とイザベラは確保済で、デポラとダーリン、クリス、スーリヤ、何故かディートリヒを誘って欲しいと言われた。いいけど、かなり目立つ顔ぶれで参加することになるな。

 イザーク様によると新進気鋭の劇団なので、演目内容が年配の人には受けが悪いらしい。


 デポラとスーリヤには直ぐに通話をして、翌日他の皆も誘ったら、全員から了解を貰えたのでそれをイザーク様に伝えた。


「ありがとう。助かるよ。若者向けへの宣伝だから、目一杯着飾って来て欲しいな。イザベラ嬢には王道美人でって、ヴェルに頼んである」

「イザベラは存在そのものが王道だもんね」

「デポラ嬢には健康美とそこはかとなく危険な香り、スーリヤ嬢には上品な大人の色気を担当して欲しいな」

「わかった、言ってみる」


「エルちゃんは儚げな」

「えっ!?無理でしょ、それ」

「ヴェルが病んでいるだけだから、大丈夫だ。誰かまともな人に相談したらいい」

「えーーー」


 押しきられた。何だそれ。スーリヤに報告がてら相談したら、いけるでしょと軽く言われたが、逆に相談もされ、同じ様に軽くいけるでしょと言っておいた。スーリヤは本当にいけると思う。

 デポラに相談したら、そこにイザベラも参戦して、他の人も参戦してきたので、休みの日にカフェを貸し切りにして、皆でドレスの相談をすることになった。


 仲良くしていた令嬢ほぼ全員が、卒業式ぶりに集まった。イザベラは満場一致で深紅。絶対に似合うと思う。イザベラの友人には思い当たるドレスがあるらしく、あの時の深紅のドレスを!と盛り上がっていた。

 デポラは深緑から新緑のふわふわしたグラデーションのドレス。危険な香りは放っておいても滲み出るからと、単純に似合っていたドレスが選ばれて、妙に納得した。

 スーリヤは淡い金のサテン生地に金糸と銀糸で上品な刺繍が入っているドレスが良かったと騒がれていた。


 順調だったのに、私のドレスで大いに揉めた。紫派と青派、同じ色の中でも淡い色か濃い色かでも揉めだし、本人そっちのけで議論が始まってしまった。どれを着ても無理だよ~と言っても、誰も議論を止めない。どうしてこうなった。

 私のドレス姿を沢山見ているデポラなら発言力がありそうなのに、ニヤニヤするだけで参戦してこなかった。終わる気配がないので、ついお母様に通話した。


「私が儚い美人に見えるようなドレスなんてあったっけ?」

「まぁ、急にどうしたの?エルちゃんは毎日美人よ」

 相談相手を間違えたかなと思いつつ事情を説明すると、お母様イチオシのドレスがあった。

 夜明けをイメージした濃紺に青、紫、赤紫も入っているドレスで、所々に星があしらわれている物を勧められた。儚く見えるのかどうかは、お母様の眼を信用することにした。

 それを提案すると、全員の意見が取り入れられていることもあって、納得して貰えた。終わって良かった。何を着ても儚いとか無理。


 その後、ノーラとマーサに当日のお願いをしたら、かなりの気合いで今から準備が必要だと言い出した。夕方の部に行くので、かなり気合いを入れても浮かないとは思うが、二人もどうした。日々の日課に、二人による念入りなお手入れが追加されてしまった。

 ただ、そのお陰で毎晩同じ事を繰り返すお兄様の通話は、ノーラによって撃退された。万歳!


 セレモニー初日、お母様は父と王家主催の親世代が参加する昼の懇親会に行くので、ゲルン侯爵夫妻にお願いをした。敢えて言わなくても、王妃陛下やその関係者も目を光らせてくれるはずだ。

 行きの馬車にはお兄様が用事があると嘘をついて便乗させてもらい、帰りはお母様だけゲルン侯爵家の馬車に乗って、そのまま泊まりだ。


 私達は夕方に、劇場から少し離れた馬車停めで集合をして、劇場まで練り歩くことになっている。私はお邪魔虫だけれど、お兄様と一緒の馬車でイザベラを迎えに行ってから向かうことになった。イザベラごめんと思っていたら、お兄様を見たイザベラが動揺しまくっていたので、そんなに邪魔でもなかったみたい。馬車停めに近付くと、ディートリヒとスーちゃんが馬車の外で待っているのが見えて、既に目立っていた。

 合流するとやはりイザベラが断トツに目立っているが、正装に近い服を着て前髪を上げたお兄様が隣にいくと、更に目立つ。何だこの完成具合は。それなのに未だにお兄様に見惚れてあたふたしているイザベラが可愛い。


 あ、さりげなくスーちゃんの後ろにクリスもいた。相変わらず気配を消すのが上手い。そっとクリスに近寄った。私もそっちに入れて。

「こんなメンバーで待ち合わせなんて、目立ちスぎて死にそうス」

「そうですね。激しく同意しますが、動揺しすぎて訛ってますよ」

「あぅ…。エルは完成された令嬢モード…」

「これだけ目立っていると、どこで話を聞かれているかわかりませんからね」


 間もなくデポラとダーリンも合流して、劇場へ向かって歩き出す。クリスの隣をスーちゃんに取られたので、ディートリヒと並んで歩くことになってしまった。イザーク様は劇場の前で客寄せしながら待っているので、現地合流だ。

 それにしても、まぁ、この組み合わせは目立ち過ぎる。周囲の注目を一身に浴びていると言っても過言ではない。先頭を歩くお兄様とイザベラが直視できないレベルで眩しい。


「エル、そわそわしてどうしたの?」

「お兄様とイザベラが眩しすぎる!」

「エルも綺麗だよ」

「はいはい」

 今日は微笑みの貴公子なんですね。社交用のキャラですね。

「いや、本当にエルは綺麗でス」

「クリス、訛ったままになっているわ」

 言い慣れないお世辞に動揺しすぎでしょ。無理しなくていいのに。


 道すがら、さりげなくディートリヒが髪飾りが似合っていると褒めてきた。わかっていて誉めているのだろうけれど、ハルトくんに貰った物なので、当然ですね!あれ、選んだのはディートリヒだったっけ?どちらにしろ、髪飾りを活かしたノーラ渾身の髪型です。ノーラありがとう!


 劇場の前に到着すると、イザーク様の周囲にも人だかりができていた。合流すると更に注目の的だった。イザーク様の狙い通りだ。これ以上は邪魔になるといけないので、合流後は直ぐに個室へ入った。

 劇は、中々過激だった。歴史で勉強する事件を題材にしているが、あえてそれを選ぶのかというものだった。


 一本目は男爵令嬢でありながら王子と上流貴族を上手に籠絡したが、破滅した令嬢の話。恋愛部分だけを切り取ってハッピーエンドにしている劇はよく見るが、今回のは破滅した後の令嬢令息に焦点を当てていた。皆悲惨すぎる。この事件がきっかけで、完全実力主義だった中央学院に爵位制限が出来た。


 二本目は幼女趣味で破滅した、公爵の話。当時の国王の弟でありながら、公爵家を取り潰しになるほどやらかした。こちらは破滅していく公爵に焦点を当てていて、公爵役の人が本気で気持ち悪くて怖かった。この事件がきっかけで、幼い令嬢との婚約は特別な事情を除き、慣例として禁止になった。


 ちゃんと脚本も練られているし俳優の技量もいいのだと思う。微妙な内容を劇として昇華させているのは見事としか言い様がないが、何てチョイスだ。一応最後には笑いもあったけれど、それまでの内容が重過ぎるわ。


「三大喜劇を目指しているらしいけれど、三つ目のいい喜劇がまだ見つからないんだって」

 イザーク様は笑顔で言うけれど、あれって喜劇だったの!?あれらを流行らせるのは難しい気がする。破滅の物語ばかりでは、なかなか人が集まらないと思う。行きにくいし、誰と行けばいいのだ。噂を聞いてもきっと行かなかったな。戒め用とか?


 この後はイザーク様がお礼も兼ねて夕食に招待してくれている。今王都で話題のレストランで、知り合いのシェフがいるらしい。さすが。劇場を出ようとしていたら、先頭を歩いていたイザーク様が突然止まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「利害の一致と未来図の一致により密かに本人同士で結婚を考えてます!」 …って言ったらこの友人3人どんな顔するのやら。(なお恋愛的には(ry 遅ればせながら、連載再開嬉しいです。 また楽しま…
[一言] エルもディーも引きこもりになりたいからなぁー(笑) イザベラとこは固まりましたかー。 確かにノルン卿は不気味ですねー。 若干頭はお花畑っぽいトコもありますが… そこはヴェルナーが何とかするで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ