怖い情報ばかり
翌日、認識阻害をしてから続きの間へ向かったが、既に出入り口で待ち伏せをされていたそうだ。ディートリヒはしばらく続きの間へ行くことを止めると決めて、部屋に夕食を持ってきてもらうようにした。
毎日部屋で一人食べるのは寂しいかと、時々クリスが部屋に招いて一緒に夕食を食べるようになったらしい。ついでに私もデポラとイザベラを部屋に招待した時に、ディートリヒとクリスも呼んだ。デポラが面白半分で提案して、彼女がまだ待ち伏せしているかを見に行った。あれから一週間、さすがにもういないだろうと思っていた。
いた。しかも一人で何かぶつぶつ言っている。急遽代表して私とクリスに認識阻害をかけまくって彼女に接近することにした。
「おかしいなぁ。毎日続きの間で夕食を食べているって聞いたのに」
「初日は確かにいたような気がしたのに、どうしたんだろう?やっぱり得意の認識阻害かな?」
独り言の内容が怖すぎて、クリスと顔を見合わせて震えた。組んでいた腕にお互いに力が入ってしまったのは仕方がない。怖い、怖すぎる。事前にディートリヒの行動パターンを調べて、待ち伏せを続けていたのだ。
認識阻害は認識を阻害されていると思って見ると、効果が薄くなる欠点があるとディートリヒから聞いていた。何故かは分からないが、彼女はディートリヒが認識阻害が得意だと知っていた。だから、初日に気配を感知できた可能性がある。得意魔法まで調べている。怖い。どうやって。
クラスメイトでも知っているのはベルンハルト、クリス、デポラ、私しかいない。イザベラは今日初めて知った。どういう情報網なのか気になるが、それ以上に怖い。
「相変わらず談話室には顔を出さないみたいだし、部屋で食事をし出した?何で急に?」
怖すぎて、ほぼ私とクリスは抱き合っている。これ以上ここにはいられない気持ちになった。クリスと視線を合わせたら、クリスも同じ気持ちだったようだ。よし、撤退だ!
「もう一度情報収集が必要だわ!」
呟いた彼女が私たちより先に走り出して、ディートリヒたちの方に向かっていった。まずい!!彼女は何も気が付かなかったようで、そのまま男子寮に向かっていった。ひとまずほっとしたが、男子寮で情報収集??誰から情報が漏れているんだ?まさかのベルンハルト??
認識阻害を解除して皆がいたはずの場所を探していると、デポラが出てきた。いや、上から降ってきた。
「とっさに全員で物陰に隠れたのよ。やり過ごせて良かったわ。それで、彼女はどんな独り言を言っていたの?」
物陰に隠れたって気軽に言うけれど、デポラは明らかに校舎の屋上から飛び降りてきた。見上げると、屋上にはまだディートリヒがいてイザベラは座り込んでいるように見える。
ついでだからと私とクリスも屋上へ移動した。あの一瞬に何をしたのか聞くと、ディートリヒは全員に認識阻害をかけただけだった。デポラが重力魔法で全員を軽くして、ディートリヒを問答無用で屋上に向かって放り投げ、自分は身体強化もしてイザベラを抱えて屋上へ飛んだそうな。凄いけど…。隠していたのに、いいのかデポラ。
正しい貴族令嬢であるイザベラは、何が起こったのかわからないうちに屋上にいたことで、驚きのあまり腰を抜かしているそうだ。地味にイザベラが一番怖い思いをしたのでは。デポラ~。
イザベラが落ち着いてから、二人で聞いた独り言の内容を伝えた。これに怯えたのはディートリヒで、とにかくこれから絶対に一人にしないで欲しいと頼まれた。
これは新たなストーカーが発生したなと思った。ディートリヒが決して一人にならないよう、翌朝には令嬢たちによる完璧な布陣が完成した。
男なのだし、はっきり迷惑だと言ってしまえばいいのでは?という話も出たのだが、ディートリヒの性格からして無理だろうと皆が納得した。話をしてしまえば、ストーカーが激しくなるのではないかと想像もできる。本当にこの学院にはストーカー気質が多すぎる。彼女も火魔法が得意なのか?
徹底的にディートリヒが彼女に行方を掴ませないようにしていると、彼女がベルンハルトと一緒にいる目撃情報が増えた。ベルンハルトは最近ぼっちだったので、徘徊する彼女に捕まったもよう。王子がぼっちってどんな状況だ。
ベルンハルトは嫌がっている様子もなく、普通に話をしているらしい。未来の王子妃には色々足りないし、選ばれることはあり得ない。友人としてならまぁいいかとなった。ベルンハルト、友達少なそうだし…。
デポラ、イザベラ、ディートリヒと昼の食堂で声を潜めて情報交換だ。最近は続きの間での待ち伏せも頻度が減っているらしい。
「そろそろ狙いを変えるのかしら?案外気が合うかもよ?」
「ストーカー気質同士なら、さもありなんだね」
「魔力があるだけでは、婚約者にはなれませんわ」
「いや、どうだろう。彼女、ベルンにさりげなく僕のことも聞いているみたいなんだよね。ベルンも具体的なことは言わないでいてくれているけれど、情報収集されているみたいで嫌だよ」
「王子を情報収集に使うってどうなの?」
「殿下は単純に話が弾んでいると勘違いされているかもしれませんよ」
イザベラも私たちに影響されて、言うようになったな。
「うーん」
考えながらつい彼女の方を見ると、がっつりこっちを見ていた。不自然にならないように目線を戻した。怖い。怖すぎる。
「めっちゃこっち見てるよ。殿下からディーにお近付きになるつもりじゃない?」
「「うわぁ」」
そのうち彼女は頻繁にベルンハルトと過ごすようになっていた。ディートリヒがベルンハルトに聞いたところによると、いつの間にか側にいるらしい。何それ、怖すぎる。気にしないベルンハルトも怖いわ。
ルイーゼ派閥の令嬢たちに、彼女の話が上がるようになってきたらしい。食事会を設定する際に決めた取り決めを、彼女だけが堂々と破っている。
食事会に参加したことがある以上、その取り決めも知っているはずだ。しかも学院の先輩であり、家格が上の人を出し抜いている状態になる。
「そのうちいじめられるんじゃない?」
デポラが気軽に言い、イザベラもそれに同意した。もしそうなっても自業自得だと思う。ルールを守っていないのは彼女だけだ。
ある日、ルイーゼ派閥の令嬢でも、ベルンハルト狙いの令嬢が彼女を教室に連れてきた。何故に??咄嗟にディートリヒを認識阻害しておいた。彼女たちはキョロキョロと教室内を探している。
「あれ…?先ほどまでいらっしゃったと思ったのだけれど」
ですよねー。今もここにいます。自分でも重ねがけして更に認識阻害を強化したようです。どこかに移動していても、私にももうわからない。ディートリヒがとても嫌がっていることだけは、凄くわかった。
後からルイーゼの取り巻きでも、唯一こちらと交流があるアメリーちゃんをこっそり確保した。彼女は微妙な立場にいて、ルイーゼ派閥から抜けたくても抜けられない人なのだ。私たちと親しくしているのが見つかると、アメリーちゃんがますますややこしいことになるので、こっそり確保したのだ。
「数日前に殿下狙いの方たちが、ヒロインさんを呼び出してルールを守るように注意をされたんです。そうしたら彼女、私の目当てはディートリヒ様なんです!他の人に興味はありません!!と断言したそうなんです」
えー。えー。えー。
「それで?どうして彼女たちが、そのヒロインを教室まで連れてきたのか知ってる?」
デポラがついヒロインと呼び捨てにしている。何か小説の話をしているみたい。
「えぇ。ヒロインさんが殿下と話して入手した情報と引き替えに、ディートリヒ様との接点を作って欲しいと交渉したそうです。それに殿下狙いの方たちが乗ったんでしょうね…。情報は既に受け取ったようなので、しばらく続くかもしれません」
ディートリヒにとってはショックな情報が追加されただけだった…。




