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クリスのやけ食いと鍛錬

「それで?私たちに何をして欲しいの?クリスさんと合いそうな子を紹介するとか?」

 デポラやスーリヤが情報を流しておけば、すぐにクリスと合うタイプの人が見つかると思う。辺境伯なので少しハードルは上がるけど、クリスの性格を知れば充分補えると思う。

 クリスが前向きにさえなれば、それこそ卒業までには見つかるんじゃなかろうか。


「いえ、いえいえ違うんです。その前段階で協力して頂きたいのです」

 フラウが慌てて否定をした。単純にクリスは落ち込んだ後はやけ食いをして復活するタイプらしく、それに付き合うフラウの胃腸が限界になったそうだ。

 やけ食いに付き合うのをやめたらいいと思うのだけれど、それは許されないらしい。既にクリスと親しくしていた令息たちも犠牲になっているそうだ。


「というわけで、クリストフル様のやけ食いを見守って頂けないでしょうか?」

「見守るだけでいいのね?」

 悪い笑顔でデポラが言ったら、フラウがしゅんとしてしまった。

「できれば違う方法を、提案、して頂きたいのです…」

 まぁ、そうだよね。やけ食いは体に良くないに決まっている。


 スーリヤも巻き込んでクリスの部屋へ行くと、クリスはいつもと変わらない笑顔で出迎えてくれた。本当に雰囲気は変わらないと思ったのだが、デポラに確かに元気がないわねと言われたので頷いておいた。私にはよくわからん。


 まずはユキちゃんとコタローのもふもふで癒やされよう作戦をしてみたが、駄目だった。

 クリスはモフりながらも、見ている方が気持ち悪いくらい食べた。明らかにいつもと食べる量が違う。


 デポラとスーリヤが目配せをして、クリスを質問攻めにした。ようやくクリスが咀嚼することでストレスを発散すると突き止めた。なるほど。

 それならばと、体に良くないとのお説教の合間にお姉様二人とあれこれ相談して、クリスに魔法をかけまくった。今度は食べた気分になってもらうおう作戦。根本的な解決にはなっていないけれど、緊急措置だ。絶対に体に悪いもん。


「エルの魔法はやっぱり鬼畜の域よね」

「失礼な。ちょっと認識阻害したり、色々しただけだよ」

 スーリヤが盛大にため息をついている横で、フラウには泣いて喜ばれた。いつもはやけ食いの後に吐いたりして、体調を崩してしまい大変なことになるらしい。


 それからクリスのやけ食いがおさまるまではと呼ばれて、魔法をかけまくった。埒があかないので違う方法も覚えさせようと、激しい鍛錬をして食べる気力もないくらいクリスをぼこぼこにすることにした。


「エルに冬休みの成果を見て欲しいわ!」

「ぬぉあああああああ!」

 容赦なくデポラがクリスを文字通りぼっこぼこにした。手も足も出ないとはこのことか。やけ食いでベスト体重ではなくなっているクリスでは、相手にならなかった。


「どうだった!?」

「ちょっと効率が悪い気がしたかな。こんな感じに魔力の流れを変えれば、もっと剣を重くできる気がする」

 試しにデポラに魔法をかけた。

「なるほど。クリスさん、立って?」

 にっこり微笑むデポラに応えて、よろよろと立ち上がったクリスが構えた。

「ぐぅおおおおおおお!!」

 瞬殺…。三回ほど繰り返された。クリスもちゃんとした顔になってきた。


「足の流れも変えてみたら~?」

 スーリヤが横で盛大なため息をついていた。スーリヤは卒業試験に向けて、自分のペースで頑張っている。こちらも冬休み前とは見違えるくらいに上達している。

「やっぱり、皆おかしいわ・・・」

「デポラがおかしいんだよ」

 あれと比べちゃ駄目だ。

「皆よ。デポラはもちろん、エルもおかしいし、あの攻撃を受けて立ち上がれるクリストフルさんも充分おかしいわ…」

「クリスは辺境伯だからね!」

 スーリヤの表情が無になってしまった。何で?


 デポラが鍛練に満足するまで、クリスはぼこぼこにされた。デポラは指摘すると、数回で修正をしてくる。流石天才。

 クリスがくたびれきった所を、スーリヤの練習台になってもらった。スーリヤもいい感じ。


「スーちゃんいい感じ!もうちょっと頭辺りの魔力も意識して!」

「…こうかな?」

「そうそう!」

 なかなかの魔法だ。何だかんだ言っていたが、スーリヤも容赦なくクリスに魔法を放っている。ちなみにスーリヤの得意魔法は水魔法だと判明した。他も結構いい感じだし、最終的にはバランス型になる気がする。

 クリスは防護魔法で防いでいるが、デポラとの鍛練で体力を消耗し過ぎたのか、一歩も動かない。それがスーリヤに火をつけてしまったらしく、正しい方法で魔法を乱発されていた。


 クリスは体力に続き、魔力まで極限まで削られてしまった。


 最後に私が対戦してもらい、クリスが立てないくらいに微調整してみた。面白いからという理由だけで、私が軽くしたクリスを背負って寮まで連れ帰った。クリスの足が長くて地面に擦れてしまう。無性に腹立たしい。


 それ以降は、タイミング良く現れるディーが、クリスを背負ってくれるようになった。たぶんクリスの為だと思う。私に背負われるのは、男の沽券に関わるらしい。

 最初に背負って行った時に、寮の前でディーに会って良かった。他は誰にも見られていないはず。


 二週間くらいしてから、ようやくクリスが落ち着いた。最初の食事に付き合っていたコタローだけが、ふっくらした。

 クリスにお礼を言われたので、これからは違う方法を探すようにとお説教大会になった。デポラにぼこぼこにすると言われて、真剣に違う方法を考えているみたい。あれはツラいよね。


 間もなく卒業試験が始まる。スーちゃんは間違いなく合格できると思う。心配なのはお兄様だ。上位なのは間違いないと思うけれど、十位以内とかでないと父の鞭打ちが待っていそう。

 自分は王妃陛下に夢中で?五十位ギリギリだったくせに、理不尽過ぎる。良く文官試験に通ったなと思う。コネとか賄賂だろうか。


 結果、イザーク様がぶっちぎりの総合一位だった。お兄様は無事に五位以内に入り、スーちゃんも専門学院への進学が決まった。

 興奮したスーちゃんに、たわわな胸に抱きしめられたのはただただご褒美だった。特に何もしていないというのに、ありがとう。二人の仲もすっかり深まりました。クリスのおかげかも。

 他にも仲良くなった令嬢が、スキップ制度を利用して卒業することになったので皆でお祝いをした。


 ベルンハルトに合わせるために入学時期を遅らせていた、他の令息令嬢にも卒業試験を受けている人が案外いるらしい。

 卒業するメンバーとは後一ヶ月しか同級生でいられない。専門学院の寮へ順次引っ越しをしてしまうので、今までのように気軽に談話室や部屋でお茶をしたりはできなくなってしまうのだ。寂しい。


 理由はそれぞれではあるが、ベルンハルトとの交流に見切りをつけた人が多い。態度が軟化したおかげで、必要最低限の交流を持つこともできたし、自分が抜擢される可能性があるかどうかも、二年もあれば充分に見極められる。

 令息には専門学院でもチャンスがあるし、令嬢はいつまでも雲の上の人を追いかけている場合ではない。


 令嬢は社交界デビューの年齢を考えれば当然だし、魔法学院で出会いがなかった人は、専門学院で出会いを求める人もいる。

 周りの優良物件の品定めも終了しているし、いつまでも同級生でいる利益は少ない。

 令息は王城への仕官を考えると、ライバルが少ない年に専門学院を卒業して、試験を受けた方が有利になる。


 皆それなりのリスクを背負って入学時期を合わせていたのだ。私は当然同級生のままでいる。デポラもダーリンと早く結婚したいと言いながら、スキップはしないで残ってくれた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 連載再開ありがとうございます。 [一言] うーん、嵐の前の静けさと言った感じでしょうか?
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