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令嬢と小姑(男)のあれこれ  作者: 藍澤


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フラウ来訪

 学院へ戻ると、すぐにまったりモードになってしまった。今回の冬休みが濃厚過ぎたせいか、授業が始まる前にお土産を配ったりしただけで疲れた。


 お兄様やイザーク様、ダーリンは卒業試験に向けて、勉強や鍛錬で忙しくしている。専門学院を卒業した時の成績は、今後に関わるので全員必死になる。

 成績は座学、剣術、魔法、総合の四種類全てが公表される。王城で文官を目指すなら座学で、騎士や魔法師を目指すなら剣術か魔法で、将来の領主は総合で二十位以内が望ましい。


 王城の任用試験に失敗しても、成績上位者には各貴族から護衛や上級使用人としてお声がかかる。領主になる場合は、箔をつけるために必要になる。

 平民にも噂で優秀と広まれば領民が増えたりするし、同じ爵位なら成績優秀者の方が発言権が強くなることもある。そういう理由があるので、誰もが何としてでも上位で卒業したいのだ。


 魔法学院で始まった授業は相変わらず緩い。だらだら過ごしていたら、疲れた顔のフラウが訪ねて来た。

 たまたまデポラとお茶をしていたのだが、できれば一緒に話を聞いて欲しいと言われたので、とりあえずお茶とお菓子を勧めたら、悲壮な顔をされた。何で?やんわり断られた。


「ビアンカ様がクリストフル様と婚約内定を解消して、今年から王都西側にある魔法学院へ入学することになったんです」

 えーーーー。授業で会うクリスはいつも通りな感じだったので、気が付かなかった。


「良かったんじゃない?」

 デポラの発言に躊躇いがない。元々クリスにビアンカは勿体無いって言ってたもんな。

「でも、仲は良かったんじゃないの?急にどうして?」

 まさかディートリヒに一目惚れして、追い掛けて来たとかじゃないよね?


「辺境は上下関係は厳しいのですが、あまり爵位による身分差はありません。王都では爵位による身分差が厳しいと知識で知っていたのですが、爵位を気にしない皆さんを実際に見てしまった」

「私やダーリング様は家の状況的に、辺境と同じような考えがあるだけよ」

「イザーク様は特別だよ。ゲルン侯爵家全体とも言うけど」

 思わず二人で全否定してしまった。


「はい。実際は甘くないと現実を知っている人達で説明したのですが、実際に見た以上納得できないようでした」

「クリスさんの友人が素晴らしい人格者ばかりだとは思わなかったのね」

 デポラ様から怒りを感じる。気のせい、じゃないなこれ?


「それに、あの辺りではクリスさんが一番人気の令息だったんじゃないの?今は国境も安定しているし、普段王都に出てくることはないけれど、辺境伯は侯爵家と同等の地位で、他家より裕福。上昇志向の強いビアンカさんなら、当然クリスさんを狙ったと思うわ」

「えっ、そんな理由で?」

 無言でフラウが頷いた。うわぁ。


「ところが私たちは平民とさえ親しくしていた。だったら子爵令嬢でも知り合えさえすれば、もっと条件がいい人を狙えると考えたのでしょうね。自分に自信もあるみたいだったし」

 えー何かいやー。しかも親しくしていることと結婚は、別問題だと思います。


「子爵から辺境伯なら大出世じゃない。条件は充分じゃないの?」

「もっと華やかな生活に憧れているように見えたわ。辺境ではあまり開かれない、パーティーとかに行きたいんじゃないかな」

 再び無言でフラウが頷いた。えー。


 普通、侯爵家レベルが子爵家と縁を結ぶのはあり得ない。実力主義の辺境伯とはいえ、子爵家で縁を結べたことを相当な幸運と考えるべきだと思う。

 辺境の子爵家では王都での旨味が少なすぎるから、ちょっと残念な子爵家か男爵家くらいが婚活相手として無難だ。そうなると、裕福とは言い難くなる。


「ところでビアンカさんは、どのランクのパーティーに出たいのかしらね?」

 デポラ様がやはりお怒りです。デポラはダーリンが平民になろうが、怪我をして騎士でいられなくなろうが、ついていくといつも言っている。

 クリスのことも気に入っているし、地位だけが目当てのビアンカが許せないのだろう。


 フラウが良くわからないという顔をしているので説明していると、デポラが悪い顔でニヤニヤしている。

 パーティーは大きく上級、中級、下級の三種類に分類される。上級は王家、侯爵、辺境伯、王家に許された一部伯爵が参加できるもの。中級は伯爵が中心で、稀に子爵や男爵でも招待してもらえる。下級は子爵、男爵のみのものになる。


 子爵と男爵は元々下流貴族と言われ、上流とはマナーも違うし、そもそも伯爵以上の爵位を持つ貴族とは接点がない。接点を持てるのは家に勢いがあるか、優秀な人材がいる場合に限られる。

 噂になればやっと中級に招待される可能性が出てくる程度だ。上級に参加している人が、中級に参加することは可能だけれど滅多にないし、下級に他の爵位の人が参加することはもっとない。


 つまり、ビアンカが王都で参加できるパーティーは、下級になる。クリスと結婚していたら、上級に参加できた。領主様が引退するまでは、クリスと一緒に人脈作りの為に参加は必須。ん?

「だったらどうして?」

「知らないんじゃない?」

 デポラの悪い顔が炸裂している。


「うーん。我々は王都に疎いので、ビアンカ様がその辺りのことをご存知かどうかはわかりかねます」

「辺境の子爵家が、王都の下級パーティーにわざわざ呼ばれることはないわ。辺境は辺境で結束して、周囲と縁を結ぶのは辺境伯の役目だもの。知らないと思うわね」

 デポラ様が完全に魔王です。怖いぃぃ。


「もしご存知なかったとしても、学院で出会いを求める計画のようなので、問題はないかと思いますが?婚約者になれば参加できますよね?」

 デポラが鼻で笑った。

「西って言えば、国で二番目の学院でしょう?難しいと思うわ」

 確かに。激しく同意します!

 フラウがまた、良くわからないという顔をしている。今度はデポラが説明してくれた。


 二番目の学校はこの学院に入れなかった、伯爵家の令息令嬢で構成されている。一応子爵家、男爵家も入学できるが、特に優秀な家か人しか入学できない。

 伯爵家は出世の為に上を目指しているか現状維持を望むので、縁を結ぶのは伯爵家同士がほとんどになる。


 わざわざ子爵や男爵と縁を結ぶのは、お金に困っているとかで普通の伯爵家に相手にされない所になるが、それでも裕福か優秀であることが条件になる。

 ビアンカは上昇志向だから気が合う人もいるかもしれないが、ライバルもそれだけ多くなる。


「つまり、伯爵家側にしてみれば、辺境の子爵家では王都での旨味が少なすぎるのよ。ビアンカさんが特に優秀なら、少しは機会があるけど」

「…入学はダンジョンの件でごり押ししたそうです」

「やっぱりね。マイナス状態から、女性としての魅力だけで勝負しないといけないわね」


「クリストフル様には、争い事が多い辺境から遠ざかりたいと仰ったそうです」

「今更?」

 どこにでも危険はあると思うし、国境は今安定している。ダンジョンの件はイレギュラーでしかない。それに、そういうことはそもそもクリスとの婚約が内定する前に考えるべきことだと思う。ただの耳障りの良い言い訳のような。

 しかもこっちにはこっちで別の熾烈な争いがある。こっちに関してはビアンカもかなり強そうだけど。


「言い訳ね。もっと裕福で華やかな家に乗りかえたくなったって言えばいいのに」

 デポラ、辛辣すぎ。

「周囲は最初からビアンカ様は地位目当てだと気が付いていたので、かなり反対していました。ですが、クリストフル様自身がそれでも構わないと周囲を説得したのです。ビアンカ様は辺境伯の義務も理解していて責任感もある方でしたから、特に問題はなかったことも大きいですね」


「領館に残っていたものね?」

「ええ。次期領主の婚約者が逃げる訳にはいかないと。ただ、本人の予想を越える命の危機だったようで、それも原因だったのかなと思います」


 クリス本人も薄々気が付いていたし、何か切っ掛けがあれば駄目になるとも思っていたそうだ。だから覚悟はしていたけれど、それなりに落ち込んでもいるそうだ。確実にクリスはビアンカのことを好きそうだったもんなぁ。


 ビアンカはせめて二番目の学校ではなくもうワンランク下にして、そこで一番の優良物件を捕まえれば良かったと思う。

 同等の子爵家か男爵家になると思うけど、そうなると辺境伯の方が地位も高いし断然裕福。早まったんじゃないかな?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 続きをお待ちしています:-) よい年になりますように
[一言] ディートリヒとエルのやりとりにほのぼの〜〜 エルは貴族を続けるのか逃げるのか 気になります!
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