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ディートリヒのひとりごと

 ノルン侯爵領を後にして、馬車の中には王妃陛下と王妃陛下が最も信頼している侍女と護衛が一人ずつになった。そうなると王妃陛下は内密の話もするようになる。


「エルちゃんとは随分仲が良いのね?」

「?ええ」

 何で今?

「一緒にいて、どうなの?」

「気を使わなくていいですね」

 エルの側は、はっきり言って居心地がいい。


「居心地がいいのね?」

「・・・まぁ、そうですね」

 うっ・・・。考えていることを正しく読むのは止めて欲しい。子どもの頃からの知り合いだと、これがあるから困る。


「エルちゃんと婚約するのもありだと思うわよ」

「エルヴィーラ嬢と、ですか?」

 考えたことがなかった。自分に年齢が近い王子がいたので、必然的に優秀な令嬢はほぼ王子の婚約者候補になる。

 エルはその中でもイザベラと並ぶ最有力候補だったので、自分の相手としては真っ先に外していた。後々面倒事に巻き込まれそうな可能性を排除しておきたかったからだ。


「エルちゃんは魔力量が多いし、語学も堪能、ちょっと素直過ぎて心配だけれど、令嬢としての立ち振舞いもばっちりよ」

 確かに王子の婚約者候補に選ばれるくらいだから、侯爵家としても申し分ない。


「今いるディーの婚約者候補は、相手に利はあるけれどガロン侯爵としての利はほぼないわ」

 それは僕も考えていた。なので、ベルンの婚約者候補から辞退した人との交流を図ったが・・・。以前から周囲にいる令嬢との違いがあまりわからなかった。

 ただ、エルと仲良くなりだしてからは、令嬢たちの雰囲気が変わったとも思う。


 視線を感じて顔を上げると、王妃陛下がニヤニヤしていた。

「いいと思うわよ、エルちゃん。何より二人の相性が良さそう」


 二人の相性か・・・。

 ぐいぐい来られるのは、相手の要望に程々に応えればいいだけだから、楽だと思っていた。けれど、今思うと楽でもなかったし、不平不満が出ないように接待していただけだった。それでは仕事のようだ。

 エルと一緒に出かけて、普通に楽しかった。接待される側だったから?いや、今までの接待の中でも一番楽しかった。


「それに、ベルンの側近にならずに領地へ引きこもることも、喜んで受け入れてくれると思うわ」

 そう、僕はベルンの側近になるつもりはない。一部にしか言っていないが、なりたい人がなればいいと思っている。

 ベルンがじっくり人材を見極められるよう、あえて言わないで欲しいと頼まれた。なので、側近にならないことを条件に、周囲にその気がないことを自分からは伝えていないだけだ。


 側近になれば分刻みのスケジュールに、身内で足の引っ張りあいになるのはわかっている。相手の本心を探り合う毎日に、何の魅力も感じない。

 専門学院を卒業したら、シーズン以外は領地で過ごすつもりでいる。煩わしいことは、シーズン中だけで充分だ。


 領主としてだけで、仕事と収入は充分過ぎるほどあるから問題はないし、婚約相手には条件としてつけるつもりでいた。

 ただ、不満を持ちながら受け入れるのと、喜んで受け入れるのとでは大違いだ。これで、今まで放置していた婚約者選びが進みそうだ。絞り込む具体的な条件ができた。


 王妃陛下に呆れ顔でお説教をされた。また心を読まれてしまったらしい。

「ガロン侯爵家は安定しているのだから、条件をどうのこうの考えるんじゃなくて、自分の気持ちを考えなさい」

「一緒にいたいと思う人を選ぶのよ」

「条件じゃなくて、好きかどうかよ!」

「人を好きになったことがないの!?」

 最後のこの言葉は、かなり刺さった。なのに誰も助けてくれなかった。



 わざと早めに学院へ戻り、女性陣にどんな結婚生活を望むのかを聞くことにした。ちゃんと真剣に考えている。ちょうどデポラ嬢、スーリヤ嬢、エルがお茶をしていた所に潜り込めた。


 デポラ嬢は、一緒にいられればそれでいいらしい。もしもの時は、正しい方向に自分が導くと言っていた。相手がいるだけに具体的な気がする。

 そこまで思われているダーリングさんは幸せだと思った。


 スーリヤ嬢は弟や領地の今後が気にはなるものの、身の丈に合った穏やかで暖かい家庭がいいそうだ。僕と同じでふんわりしている。

 デポラ嬢に、穏やかと言うより間違いなくかかあ天下だと訂正されていたのが気になる。


 エルはどうなんだろう?まだ発言していない。聞きたいけど聞きにくいと思っていたら、代わりにスーリヤ嬢が聞いてくれた。

「笑っているエルはどうなのよ」

「理想は領地に引きこもり!」

 仲間がいた。王妃陛下が言っていた相性が良いというのはこういうこと?


「のんびり過ごしたいのよね」

 デポラ嬢は知っていたようだ。

「そう!お付き合いは基本親しい人とだけでいいし、シーズン以外は煩わしいことは却下!!」

 エルが僕と全く同じ考えをしていて驚いた。思わず握手を求めてしまった。


「そうなると、領地収入がしっかりしていて、旦那さんが王城で働かなくていい人じゃないと無理よね?」

 まぁ、そうなるよね。王城で働くとなかなか領地には戻れないから、領地にいたいなら別居になる。更に元侯爵令嬢を養える財力が領地に必要だから、そうなるな。

「一緒に楽しく領地へ引きこもるためなら、収入は重要じゃないかな」


 収入は重要だと思うけど・・・。碌な収入もない相手に嫁げば、単純な自慢だけでなく、人脈作りのためにエルを連れ回すだろう。現実的に考えるなら、やはり領地収入は重要だ。

 そうなると、結婚するならイザーク様か伯爵家だと・・・。あまりノルン侯爵家に利がないと、あの父親は選ばない。そうなると・・・。


 頭の中にエルの簡易お相手リストが出来上がった。伯爵家に条件に叶うところが少なすぎる。まずいな・・・。

 そして、僕は何をしているんだ・・・?人のことより、まず自分のことを考えないと。


 南の辺境伯は遠いが親戚でもあるし、現領主と父が同級生で親交があったことから、支援をしている。支援の分だけ娘が散財しているという噂も入ってきているが、嫁に行けば関係なくなるからか放置されている。

 弟がハルトと同級生になる予定なので、次代になっても支援するかは彼次第。お金の使い道を変えないようなら支援は打ち切りでいいと思う。


 辺境の経済をまわすために多少の散財は義務だと思うが、娘のドレスや宝飾品は明らかに王都で購入しているのがわかる。それでは意味がない。改めて考えると、その辺りのことも考えられない人と結婚するのは面倒そうだ。


 隣接する領地の令嬢何人かは、王都へ行く際の通行料などの引き下げを希望していると考えられる。能力は平凡で、押しの強い辺境伯令嬢を快く思っていないことは知っている。だけど、やっていることは似ている。興味が持てないな・・・。


 ガロン侯爵領は安定している。東から王都へ行く交通の要で、近くに学院があることも大きい。入学式や卒業式では保護者も動くし、入寮と退寮で荷物も動く。生徒自身もセレモニーや長期休暇に合わせて移動する。

 学院がある限り、かなりの高収入が保証されている。主だった産業のなかった侯爵領を引き受けるにあたり、当時の当主が出した条件は確かだった。


 エルと結婚した場合・・・。仕事の合間に町を散策したり、長期の休暇が取れる時は旅行にも行けそうだ。いいな。常識はあるし、領地で積極的にお金を使っているのも、町を案内してもらってわかった。

 もらう物はいつも領地の名産品だし、王都で作ったドレスだけを着ているわけでもない。うちの領地にある織物や染め物を広めるのにも、さりげなく協力してくれそうだ。

 町を案内してくれた時も、こちらの好みにさりげなく合わせつつ、自分も楽しんでいた。接待されていたという意識は薄い。さすが王子の婚約者候補だと言える。


 ・・・エルの希望を普通に叶えると考えれば、イザーク様か僕が無難・・・。イザーク様に勝てる気がしない…。

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