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侯爵令嬢の別館が要塞化する

 入学式の会場にデポラと一緒に入ると、既にお兄様は保護者席に座っていて、手を振ってくれた。笑顔が眩しいです、お兄様。

 席は通常爵位順に座るのが暗黙の了解なので、お兄様は保護者席の最前列に座っていたが、私とデポラはお兄様の前辺りにある最後列に座った。前にはベルンハルトやディートリヒが来るはずだし、そこに婚約者候補が集まるだろうから面倒くさい。


 入学式で注目されていたのは、当然だけれどベルンハルトだった。王子だしね。小姑ディートリヒも注目を集めていた。ガロン侯爵家の嫡男だしね。二人は私にとって二人一組で恐怖の対象だけれど、周囲からの評価はそうじゃない。

 保護者席で地味にお兄様も注目されていた気がする。お兄様は今年専門学院三年生で成績優秀、ノルン侯爵家の嫡男だし、格好いいし、性格良いし、注目されて当然!


 女性ではやはりルイーゼ、イザベラ、スーリヤの三人だろうか。入学式はドレスでの参列なので、三人とも着飾っていた。何時から準備を始めたんだろう。

 ルイーゼは十二歳。王家の血を引いているので、ベルンハルトと同じ金髪碧眼。金髪の色はベルンハルトより少し濃い。歳のだいぶ離れた兄と両親に溺愛されていて、財力を惜しみなく注ぎ込まれている感じがする。見た目も可愛い。まぁ、金髪碧眼が並ぶだけで絵になるとは思う。性格は好きじゃないけれど。


 イザベラは十三歳。派手な見た目の美人だが、性格は凄く真面目で気配り上手と噂を聞く。幼い頃からお互いが、ベルンハルトの婚約者候補になるのは間違いないと言われていたので、家同士の張り合いもあって、あまり深く関わってこなかった。

 今日も控えめなドレスにしているのに、派手で目立つ。地味な私に少し分けて欲しい。


 スーリヤは十七歳。五年前に領地で金の鉱脈が見つかり、婚約者候補にくい込んだ。その為に入学を遅らせたと聞いた。あと一年で社交界デビューの歳になるのに、随分冒険したなと思う。

 胸元を強調したドレスが、若干やり過ぎな気がする。専属使用人の趣味が悪いのかな。普通変なのを仕立てようとしたら周囲が止めてくれるはずだし、デザイナーもやんわり方向性を変えようとするはず。

 隣にいるデポラも同じくらい胸があると思うのだが、もっと上品で健康的な美しさを感じる。この差はどこからくるのだろう。胸だけが原因じゃない気がする。


 偉い人の話が始まって、途中からうとうとしてしまった。正直何も覚えていないが、入学式がようやく終了したようだ。タイミングよくデポラが起こしてくれたので、お兄様とすぐに合流した。


「久しぶりだね、デポラ嬢」

「お久しぶりです、ヴェルナー様」

「迷惑をかけると思うけれど、これから三年間エルをよろしく頼むよ」

「頑張りますね」

「いやいや、迷惑って何?頑張るってどういうことよ」


 私をスルーして二人とも微笑み合っている。美男美女で絵になるけれど、私も仲間に入れてくれよ!

 出入り口に向かってではなく、保護者も生徒もベルンハルトに向かって移動している人が多い。挨拶をして、自分の子どもたちを売り込むためだ。その流れにのって、デポラのご両親が到着した。


「お久しぶりです、ヴェルナー様、エルヴィーラ様」

 デポラのお父様はとにかくごつくて、幼い時によく遊んでもらった。お母様はふくよかな方で、デポラはああはなりたくないの!っていつも言うけど、穏やかでとても素敵な人だと思う。二人とも、デポラと同じくらい大好きだ。


「今年は殿下が入学されるから、本当に人が多いわねぇ」

「そうですね。魔法学院には二年生も三年生もいませんし、専門学院にも今年は一年生がいないんですよ」

「らしいねぇ。デポラをそのまま十三歳で入学させようとしたら、生徒が一人になるから遠慮して欲しいって言われたよ」

 そんなことになっていたのか。デポラが断られて良かった。寂しくなっちゃう。ベルンハルトへ向かっていた流れが落ち着くのを待ってから会場を出て、デポラたちと別れた。


 昼からは自由時間になっているので、生徒は入学式に参列した保護者と思い思いに過ごす。お兄様には早速私の部屋に来てもらうことにした。

 ほとんどの人は食堂で昼食を食べた後、保護者と一緒に敷地外の町へ散策に行くらしい。デポラもそうするって言っていたし、食堂はかなり混むはずだ。

 三年間通っていた食堂にわざわざ行く必要も無いし、直接部屋へ来た方がゆっくりできてちょうどいいだろう。


 お兄様のリクエストで、私はノーラに手伝ってもらいながら昼食を用意した。お兄様は美味しいね、ともりもり食べてくれた。非常に満足です。

 最後はマーサお得意のタルトでしめて、後はゆったりとした時間を過ごすつもりだったのだが…。


 お兄様は防護魔法を得意としている。別館では警備に問題があると言いだして、徹底的に別館に防護魔法をかけまくった。お兄様、どこの要塞ですか、これ。虫一匹入れないほどの完全要塞が出来上がってしまった。

 しかも、不法侵入者を感知して、私、お兄様、ノーラとマーサ、挙げ句は巻き込まれたフランツにまで知らせが入るようにしてしまった。お兄様が過保護なのを忘れていました。

 フランツは素直にお兄様の防護魔法に感嘆の声を上げていた。本当に、魔法かけすぎだろ。ここは警備が厳重な学院の敷地内だよ、お兄様。


 お兄様が迷惑をかけたお詫びとして、フランツに空間収納にストックしていたマーサの手作りお菓子をお裾分けした。

 本当にごめんなさい。駆けつけなくていいから。自分の仕事をしてくれていたらいいから。私、魔法には自信があるので、たぶん何とかなります。お兄様だって条件によっては何とかできるし、風魔法が得意なので誰よりも早く逃げられるはず。

 敢えて言わないけれど。主に婚約者候補から外れるためですけど。


 お兄様が満足するのに夕方までかかった。ようやくお兄様が自分の寮へ帰ってくれた後、デポラが町でお土産を買って持ってきてくれたので、お茶をしながらその話をしたら爆笑していた。

 デポラなら、いたずらで窓から入ったりしそうだったので、皆が駆けつけるから止めてねと伝えたかっただけなのに。


 デポラは専門学院に通っているダーリンとも合流して、楽しいひとときを過ごしたそうだ。いつもは穏やかで控えめなダーリンが、在学中にデポラを町へ連れ出す許可を両親に取ってくれたんだって。

 凄く格好良かった、これから何時でも自由にデートできるってそれはもう喜んでいた。でもデポラなら、許可なんかなくてもデートしに行っていた気がする。


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