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令嬢と小姑(男)のあれこれ  作者: 藍澤


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馬車での寝方が怖いらしい

 ディートリヒの質問攻めが始まった。エーリヒは論文を書いた本人ではないのに、そこのところをうっかり忘れてしまっているのではないかと疑うくらい詳細に聞いている。

 じりじりと一番聞きたいところに迫っていっている気もするが、本題をさくっと聞いてしまえばいいのにと思う。ポンコツなことを隠したいのかな。


「・・・そうですね。魔法は魔力も必要ですが、想像力が一番大切だと僕は思っています。火魔法を扱うのが得意な人が情熱的だと書かれていた理由は、身近なものだからだと考えています」

「身近、ですか?」


「ええ。気持ちを火に例える言葉が少なからずありますよね。情熱が燃え尽きたと表現したり、この身を焼かれるような辛さであると表現したり。つまり、感情表現が豊かな人は火を想像しやすい状態にあると考えられます」


 エーリヒ、もっといい例えがあるんじゃないの?せめて情熱は燃やす方で。何か辛いことあった?いつものディートリヒなら突っ込んでくれそうなのに、頷いてスルーしないで。

 気になる。二人とも真剣な表情だから割り込めない。


「重力魔法は運動が得意でない人や、日々重圧を感じるような責務を背負っている人に得意な人が多く見られたようです。要は、想像しやすい状態はどんな性格の人に多いかや、どのような状況にある人かをまとめた論文ですね」


 私もこれを読んで、重力魔法いけるって思ったもんな。重力から解放されれば機敏に動けると思ったのに、実際は違っていてとてもがっかりした。

 単に他の人より機敏に動けない分、体が重く感じるからだったと気が付いた時のショック。思い出しても涙が出そうだ。


「水魔法は・・・冷静で、情熱には欠けるのですよね?」

 おっ、やっと本題に切り込んだな。時間をかけた割には、ちょっと強引な気もするけど。


「状況に応じて臨機応変に対応できるのが、水の流れに通じるところがあるからじゃないでしょうか。基本は穏やかですが、怒ったら恐い人が多いようです。情熱とは違いますが、激情がないとは思いませんね」


「穏やか・・・」

 いやいやいや。怒ったら恐いし、悪い顔をよくしているじゃないか。解釈前向きだな!


「感情的になった人を落ち着かせたり、仲裁役になる人に多かったりします。暑苦しくて思い込みの激しい殿下にはぴったりですね」

 うわぁ。エーリヒ、さらりと凄いことを言ってるな。


 ディートリヒは黙り込んでしまった。一番聞きたかった火魔法と水魔法について聞けて満足なのだろうけど、最後の一言は聞かなかったことにしてあげて欲しい。


 誰が書いた論文でどうやったら手に入れられるかまで聞いていたから、後で取り寄せるんだろうなぁ。読んだからってポンコツから脱却できるとは思わないけどね。


 お兄様は論文の内容も知っているし、退屈だったのか寝てしまった。起きた時に全身が痛くなるような寝方をしている。特に首がもげそう。


「エーリヒ?」

「あぁ、そうだね。天井にくっつける?」


 視線だけで私が言いたいことを理解してくれたエーリヒは、空間収納から布団一式を取り出して、敷き布団、枕、お兄様、掛け布団の順番で、座っていたお兄様を伸ばして天井に張り付けた。


 ディートリヒがぎょっとしている。私たちはいつもこうやって寝ていたので、慣れている。だからお兄様も起きない。


「重力魔法だよ」

「全員分あるからね。異国の品だけど、この布団は本当に素晴らしいよ。どんな場所でも快適な寝床にしてくれる。僕も寝ようかな」

 エーリヒがうっとりした顔をしている。昔から、寝るの幸せってずっと言ってたもんなぁ。


「エーリヒはどこで寝る?」

「僕は側面で寝ようかな。この座席は平らにできるからエルちゃんは座席で寝てね。ディートリヒ様はどこで寝ますか?」

 エーリヒは丸まって寝る派なので、広い場所は必要ない。さっさと側面に布団と一緒に貼り付いた。


「・・・えっと、すみません。状況についていけないのですが」

「あはは。僕は丸まって寝たい派だからいいけれど、ディートリヒ様も背が高いからヴェルくんみたいに対角線じゃないと足が伸ばせないよね」

 エーリヒ、たぶんそこじゃないと思う。


「私たちはよく馬車で移動していたから、いつもこうやって寝てたの。ベッドで寝るみたいに寝られたら、疲れないでしょ?」

「ああ、まぁ、そうですね・・・」

 駄目だ。ディートリヒはついてこれていない。さっさと座席を平らにして、お布団敷いちゃおう。


「おぉう」

 予告なしに重力魔法でディートリヒを側面に貼り付けたら、変な声が出ていた。珍しい。その隙に座席のお布団完成。

 やっぱりディートリヒは対角線じゃないと足が伸ばせないようなので、座席はディートリヒに譲るしかなさそうだ。


「じゃあ、私はこっちの側面で」

「エルちゃん、側面で大丈夫?」

「大丈夫~」


 左右に扉があるタイプの馬車だったので、ディートリヒが座席、進行方向側面に私、向かい側にエーリヒ、天井にお兄様で完成。ユキちゃんとコタローはディートリヒの左右におさまった。


「じゃあ、おやすみ~」

「おやすみ」

「・・・何だこれ・・・」

 一人まだ納得していない人がいたけれど、放置で。夜更かししたから眠いのです。


 結局ディートリヒはこの状況についてこれず、ほとんど眠れなかったらしい。

 左右でユキちゃんたちがすやすや寝ているので、起き上がって座席に戻すわけにもいかず、もやもやしていたらしい。


「視線と気配が・・・」

「じゃあ今度はお兄様と目が合わないように、逆向きにするといいよ」

「そういう問題なのかな」

「細かいことは気にしちゃ駄目だよ」


 宿に泊まりながら進んでいったので、初日みたいに全員で眠ることはなくなったけれど、夕飯で毎回ギルド員と一緒にいるので、酒盛りが始まったりして微妙に皆寝不足を抱えている。


 眠くなった人や座る体勢が辛くなった人から順次壁に貼り付いてリラックスする。慣れないディートリヒの顔にハンカチをかけてみたりもしたけれど、息苦しいらしく却下された。

 最終的にはディートリヒも慣れてしまったようだ。何でも慣れが重要だよね!


 お兄様は体調を万全に戻すためと、習慣になってしまったのか寝ていることが多かったので、エーリヒやディートリヒと話しながら、ゆっくり馬車の旅を楽しんだ。


 二週間程かかって、やっとガロン侯爵領に戻ってきた。エーリヒが距離を短縮してくれたお陰で、これでも随分早く着いたそうだ。


 ディートリヒはエーリヒと一緒に領館へ戻った。ギルド員はガロン侯爵領にしばらく滞在した後、それぞれの場所へ帰るそうだ。帰りは転移魔法が使えなくてごめん。


 お世話になったギルド員に家族へのお土産として、希望のケーキをワンホールずつ配った。独身にはご飯を。

 その後お別れをして、私とお兄様は久し振りにノーラ達と合流した。

 体をいつでも伸ばせる状態で馬車に乗っていたので、長旅の疲れはほぼ皆無。お兄様はマーサの魔法で元気もりもり、翌日にはノルン侯爵領に向けて出発することにした。

 やっぱり令嬢の嗜みより、合理的が一番だわ。


 領地に帰ったらお母様と相談もしなきゃいけないし、王妃陛下を迎える準備とかで忙しそうだ。

 父は王妃陛下と一緒に領地にくるそうなので、少しはのんびりできるといいな。

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