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イケメェェェェンン!!

 交代で壁周辺を警戒しながらも、意外とのんびりした日が続いた。人数が増えたし、何よりモンスターが周囲にほぼいなくなった。

 お兄様は念の為、威力を低くした防護魔法を張り続けているが、夜から明け方にかけては全員の体力回復を優先して、元の威力に戻している。


 私が集めた魔石が有効活用されていても、やっぱりちょっと負担があり過ぎるようなので、代わりを五人がかりで用意しようとしたが、上手くいかなかった。私も役立たずだった。

なので、お兄様の防護魔法を交代で補助し、昼の数時間は見回り人数を増やしてお兄様の防護魔法が無い状態にすることになった。


 それでもいつもより疲れるみたいで、ユキちゃんやコタローと一緒に静かに過ごしていることが多い。睡眠時間が長くなっていて、防護魔法を他の人に任せるお昼は、もふもふに囲まれてお昼寝している。

 モフモフと一緒にお昼寝するお兄様も素敵です。お兄様、無理はせずに頑張れ。相変わらず寝相良いな。


 私はデポラ、ダーリン、イザーク様と一緒に見回りに参加しながら、時々防護魔法の維持に参加している。全て私が寝落ちしている間に決まっていた。

 この組み合わせだけ破壊力がありすぎる気がするのだが、私の運動神経が壊滅的だからですか。

 ねぇ、誰か。苦笑いじゃなくて本当のことを教えて。本当は参加しない方が皆に迷惑をかけないとかじゃないよね?


  こういう時にちゃんと教えてくれるのはクリスしかいない。

「クリスさん、見回りのこの組み合わせはどうしてこうなったの?」

「ああ、それはですね…。まず、連携が取りやすいということで、知り合い同士が組むことになりました。エルはギルドの人とも知り合いだから、そちらに入っても問題ないですよね?」


 クリスが遠い目をしている。薄々わかってしまった…。

「もちろん。連携がとれるかはわからないけれど、仲良しだよ」

「ですよね。人数的にギルド員側に組み込もうとしたら、ヴェルが反対しました」

「やはりか」

 お兄様の拗らせは、残念ながらまだ治っていない。


「そうなんでス。そもそも見回りに参加させないと言い出して」

「相変わらずか」

「人数的に無理だとわかると、デポラさんと組む以外は許さないと。デポラさんとエルが一緒になることに決まりました。そうするとですね、ダーリング様が出てくるわけですよ」

「まぁ、二人は基本一緒だからね」


「四人一組にしようとしていたので、あと一人ですよね。ギルドの人たちが面白がって、デポラさんと一緒が良いとか言い出して、カオスでした」

「そっか。大変だったね」

 労るようにクリスの背中をぽんぽんしておいた。


 きっと最終的には面倒になったイザーク様が問答無用でおさめたんだろうな。これ以上の詳細は聞くまい。

 皆の苦笑いの意味がわかっただけで充分だ。多分、デポラは私の反応を面白がっていただけだろうけど。


 すっかり周囲に馴染んだイザーク様は雪の結晶でアクセサリーのデザインを考えていたので、私もそこに一緒に参加した。

 領館に避難していた熟練お爺さんの手によって、素敵なアクセサリーがいくつかできたし、私の希望も取り入れてくれたデザインがいくつか考えられた。

 その後も手持ちぶさただったので、まだ終わっていなかった拾った魔石の仕分けを手伝ったりして過ごした。


 正直ちょっと暇。食事は作ったのを空間収納から出すだけだし、やることが見回りくらいしかない。防護魔法維持のお手伝いは、何かをしながらでもできてしまう。


 皆もそうだったようで、全員の気力体力が回復したら訓練が始まってしまった。領館なのにとても立派な訓練施設があるせいだとも思う。私も参加することにした。


 見回りの後にデポラたちと一緒に訓練場へ行くと、一斉にデポラに視線が集まった。皆がデポラと対戦をしてみたくて話しかけようとうずうずしている感じ。おじさん達の視線が熱い!

 その様子にすぐに気が付いたダーリンが、俺に勝った者しか認めん!!と立ちはだかった。


 ダーリンにとって、いつでもデポラは守るべきお姫様なのだ。うっかり怪我なんかをさせるような相手とは組ませたくない。だからこその選別が入るのだ。

 お姫様が異常に強いんだけど、それはまた別の話らしい。ただ、そうやって守ろうとしてくれるダーリンが、デポラは大好きなのだ。はい、ご馳走様~。


 ベテランSランクに食らいつくダーリンも本当に強いな。いい勉強になる。デポラがきゃあきゃあ応援していたのだが、そっとイザーク様に連れて行かれた。


 あっさりイザーク様とデポラの対戦が始まった。すぐに周囲に人が集まった。ダーリンもギルド員との対戦を止めて、二人を見ている。


 身近な所にダーリンにとって一番の敵がいたわけだけれど、イザーク様なら絶対にデポラを傷つけたりしないという信頼関係は築かれているようだ。ダーリンが情けない顔で二人を見ているが、強引に止めに入ったりはしなかった。


 デポラの動きが早い。体格も力でもイザーク様に負けているのに、それを感じさせない戦いだ。イザーク様も凄く楽しそうでにやにやしている。

 ただ、ここに来るまでにも思ったが、デポラに違和感がある。


 じっくり観察すると、何かデポラの反応速度に体がついていけていない感じ。この違和感を解消できればもっと凄いんだろうなぁ。どうにかできないのかな。


 二人の対戦は一応デポラが勝ったが、もう少し続いていたらどうだったかわからないような状態だった。

 あのデポラが肩で息をしているのを初めて見た。体格差と、性差は大変なことなんだなと改めて思い知った。呼吸を整えながらデポラが戻ってきた。熊のSSよりイザーク様の方が厄介だったんだろうな。駆け引きが凄かったと思う。


「デポラに違和感を感じる」

「違和感?」

 デポラに駆け寄ろうとしたダーリンは、ジョンに確保されている。助けて欲しそうに見られたが、スルーした。私だってデポラと二人で話したいもん。選別を頑張ってくれ。


 皆は二人の対戦を見て、完全にテンションが上がっていて、そこら中で対戦が始まった。ギルドの人や私兵にとっても、かなり刺激的な対戦だったようだ。


「そう。何て言うか、デポラに体が追いついてない感じ?」

「…そうね。いくら鍛えても、ね。確かに最近限界を感じ始めてる。一応身体強化も特訓してるんだけどね」


「うーん。身体強化って、元の能力を引き上げるんだよね?私、元がダメすぎるからかあまり体感無いんだけど」

「そうよ。だから魔法の能力が同じとして、元が十なら二十になるけど、元が五なら十にしかならないわ」

 だから私は体感できないのか。きっと一を二とか三にするくらい、しょぼいんだろうな。


「ねぇ、他の魔法も駆使したらどうなるかな?」

「私はエルみたいに細かい魔法操作はできないわ」


「でもさぁ、身体強化魔法はデポラの方がずっと上手だよね。外に出す魔法は苦手でも、自分にかける魔法はそうでもないんじゃないかな」

「…考えたことなかったわ。そうか。可能性はあるわね?」


「時間はあるし、私と実験しよう!デポラは本当はどう動きたいのか教えて!」

 色々デポラに聞いた。デポラがしたい動きと、実際にできる動きの差を魔法で埋めてみたい。


 ダーリンも混ざりたそうに時々視線をこちらに向けていたが、ギルド員に離してもらえなかった。今、姫を守る騎士様がやってくると、過保護が発動して話し合いが進まなさそうだから、ギルド員に捕まり続けていて欲しい。

 ダーリンが参加できなかったおかげか、なかなか面白い話し合いができた。


 それから、ダーリンの選別した精鋭とデポラが対戦する時は、食い入るように観察した。

 デポラの動きについていけないので、目を身体強化で最大限に強化して見るようにした。動体視力は、運動音痴でもそこまで悪くなくて良かった。ギリギリだけど、動きを追える。


 デポラの癖、動き方、メモをとりながらじっくり観察する。クリスが私にタオルを掛けに来た。また呪いをかけ始めていたようだ。仕方がない。凄い真剣に見てるもん。


「デポラさんの動きを真似するのは、難しいと思いまス」

「真似するつもりはないの。デポラを進化させようと思って」

「進化スか?」

「そう。クリスさんも横で解説して、私に協力してよ。あっ、今何であんな動きをしたの?」

「えぇ?」

 

 どういう時に魔法での補助が必要で、どういう魔法なら補えるかを考えた。

 早速デポラに伝えて試してもらったけど、身体強化とはまた感覚が違いすぎて、訓練が必要と言われた。

 まずは手段として有効かを、手っ取り早く私がデポラに魔法をかけることで確かめることになった。


 絶対にダーリンが反対すると私もデポラも考えたので、ギルド員にタルトという名の賄賂を渡して、次々に引き留めてもらった。


 色々試した結果、魔法は私が、タイミングはクリスの合図にすると、驚くほど上手くいった。


 次は実戦。相手はイザーク様が希望してくれたので、二人が怪我しないようにお兄様に防護魔法をかけてもらう。その間は観戦に来た人に不足分を補ってもらい、少し弱めになるけれど維持してもらえるように頼んだ。

 最近はモンスターの姿も見かけなくなっていたので、見張り当番の人にも快く了承してもらえた。むしろ、対戦が見られないことを残念がっていた。

 皆が興味津々だったので、見回り以外はほぼ全員が訓練施設に集まった。さすが辺境伯。避難していた領民も集まっている。


「お兄ちゃん、反射はなしでデポラとイザーク様にがちがちの防護魔法をかけて」

「…また、面白いことを始めるの?」

「うん!凄いことになると思うよ」


 お兄様が寝ている間にデポラと色々やっていたので、ちょっと拗ねている。間違いなく拗ねている。拗ねているけど、この数日で何回かイザベラから通話があったの、知っているんだからな!

 イザベラ、私には一回しか通話くれなかったのに!私も拗ねているのだ!


「じゃあ、デポラ!私に身を委ねるのです!!」

 安心感を意識して、両腕を広げて自信満々風にデポラに言った。

「不安しかないわ…」

「ひどーい!」

 

 デポラは反応速度が異常に速い。但し、それを全て叶える筋力が無い。そして、一般的な男の人に比べると、背も低いけれど何より体重が軽すぎるという結論だ。


 それを身体強化だけで補おうとするのではなく、あらゆる魔法を駆使して補おう作戦だ。実際に練習してみて、上手くいく気しかしない。わくわくする。


 二人の対戦が静かに始まった。皆が興奮しているのがわかる。

 イザーク様がデポラへ踏み込むタイミングに合わせて、デポラを魔法で補助する。筋力だけでなく、物理的に力を増すためにも魔法を使う。


 不足する筋力は追い風と向かい風で補助して、イザーク様に斬りかかる時は、剣が重く、速くなるように重力魔法と追い風の重ねがけだ!イザーク様とデポラの剣が合わさる。


 さて、どうなるか。


 …イザーク様が吹っ飛んだ。

「デポラぁぁぁぁぁぁぁぁ!やり過ぎ!!」

 お兄様に防護魔法がちがちにしてもらっておいて良かった。


「ちがっ、エルの魔法が強力すぎたのよ!!」

「嘘だぁぁぁぁぁ。イザーク様、ご無事ですかぁぁぁぁぁ」

 二人で慌てて駆け寄ると、イザーク様は面白そうに笑っていた。


「いいな、これ。久し振りにゾクゾクしたよ」

「イケメェェェェェェェン!!」

 何か凄い格好良かったので、思わず叫んでしまったら同じように駆け寄っていたお兄様にはたかれた。


 髪をかき上げながらの台詞が、凄い格好良かったです。色気も感じました。はい、ごめんなさい。興奮しすぎました。落ち着きます。私の叫びに静まりかえっていた訓練場は、笑いに包まれた。


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